物理好きの高校生・大学生のための読み物シリーズ
姉妹編「わかる」は、既知の物理を無次元の比で読み解くシリーズでした。こちらは立場が逆になります ── 空白に対して道具を作り、走らせ、出た結果をそのまま読む。作る道具は格子です ── 時空を格子にすると何が壊れるのか、そして平坦な格子のままなら何がそっくり回るのか。うまくいかなかった回も、うまくいかなかったまま載せます。主役は結論ではなく、作業のほうです。
「効くのは無次元の比」を機械にやらせると、次元行列の整数核を求める線形代数の問題になります。基本定数から作れる無次元量を 162,931 本すべて列挙し、値が 1 に落ちるものを拾い、それをでたらめな宇宙と比べました。結果は偶然と区別がつかず。ただし空振りしたおかげで、次元解析が届かない O(1) 係数の壁の位置が測れました。p = 0.67
計算道具としての格子は完璧に動きます ── 回転対称性の破れは群論的な理由で O(a²) に抑えられ、実測もされている。ところが「時空そのものが格子」と主張した途端、輻射補正がループのカットオフで MP を約分し、実験より18桁大きいローレンツ破れを降ろしてきます。犯人は離散性ではなく規則性でした。予言 10⁻² / 観測 6×10⁻²⁰
刻みが要らないなら、歪みは要るのか。「平坦時空+スカラーの可変光速」はワイルテンソルに阻まれて詰みますが、足りなかったのは「方向依存」の一語だけでした。平坦な舞台にテンソル場を置くと一般相対論がまるごと建ち、等価原理が結論として出てきます。そして格子が歪まないから差分で解ける ── 数値相対論はまさにこれをやっています。g = η + h
重力波が通り過ぎたあと、LIGO の鏡は元の位置に帰りません。平坦時空の対称性は実はポアンカレではなく BMS = 無限次元で、通常の並進は球面調和関数の \(\ell=0,1\) という最初の4段でしかなかった。そして1962年の幾何学・1965年の散乱振幅・1974年の重力波が、同じ一つの構造の三つの顔だった。最後に平坦時空のホログラフィーまで。永久変位 ≒ 陽子半径の 1/3600
前回の番外編で見つけた「4点関数が壊れる」問題。真犯人は余次元でした ── メリン変換がエネルギーを積分して消すので、境界が2次元になっていた。\(\omega\) を \(u\) として残せば境界は \(\mathscr{I}\cong\mathbb{R}_u\times S^2\) の3次元になり、余次元が 1 に戻る。そしてその境界には光速ゼロの幾何が乗っています ── どこにも行けない Carroll の国。BMS = 3次元の共形 Carroll 群
負の結果ばかり載せてきたシリーズの、逆の回。ソフト定理には無限の塔があり、それが閉じた代数をなす ── \(w_{1+\infty}\)。しかもこの代数は面積保存の幾何・自己双対重力・ツイスター理論に先に現れていました。第1回の総当たりと違い、的を後から選んでいない ── フィットではなく発見です。構造定数は ad − bc だけ
前回の「光速ゼロの幾何」は \(\mathscr{I}\) だけのものではありません ── ヌル超曲面なら必ず Carroll 多様体になるから。宇宙にはそんな面が2枚あります。地平面に近づくことは文字どおり \(c\to0\) を取ることで(\(dr/dt=c(1-r_s/r)\))、40年間「たとえ話」だった膜パラダイムに幾何学的な出自がつきます ── Damour 方程式は Carrollian 流体の保存則だった。フィットが、導出になった
「独立な定義がない」と6回書いてきました。それはラベルであって診断ではない ── この回は仕様書を作ります。理論を定義する4つの道(作用・構成的定義・ブートストラップ・同定)で、いま何が起きているか。作用は書けすぎて選べず、ブートストラップは道具の前提が崩れている。それでも一角は既に閉じていて、閉じ方はまたしても「二値の的」でした。本当の空白は、二つだけ
前回残った本質的な未解決は2つ ── 地平面の状態数と de Sitter。ところが de Sitter の地平面もヌル面なので、第7回の道具がそのまま効きます。同じなら答えは一文:面積 A のヌル面に乗る Carrollian 理論は \(e^{A/4G}\) 個の状態を持つ。我々の宇宙なら \(S=2.25\times10^{122}\)。そして第1回が「\(1/4\) を埋めるには数える対象が要る」と書いて止まった、その対象の候補になっています。dim H = 10^(9.76×10¹²¹)
前回の予想は、どうやったら証明できるのか。調べると型は既にあり、3次元では終わっていました ── 漸近対称性 → 中心電荷 → Cardy。決定的なのは、この型が微視状態を一つも同定しないこと。だから第8回で行き止まりだった「理論の定義がない」は、この問題では障害にならないかもしれません。Cardy が本当に効くことは、分割数を数え上げて確かめます。比 0.99991
前回の3つの筆頭、中心電荷を調べにいくと悪い知らせが二つ ── \(c=0\) と報告され、そもそも中心拡大が定数ですらない。ところが3次元でも \(c_L=0\) でした。BMS は半直積なので中心電荷が二つあり、エントロピーを運んでいたのは超並進側の \(c_M=3/G\) のほう。問いはこう書き換わります ── 「BMS₄ の超並進セクターに \(c_M\) 類似物はあるか」。結論は出ません。問いの形が変わります
超局所なら分配関数が点ごとの積になり、Carrollian 理論はヌル面に住む ── だから \(S\propto A\) が構造から自動的に出ます。微視状態を数える必要も Cardy も要らない。残るのは係数だけで、それは1ビットあたり 2.773 プランク面積という一つの数。そして第1回の「\(S\propto A\) までは出るのに \(1/4\) だけが出ない」に、三度目に戻ります。1.381×10⁶⁹ bit/m²
第11回の手順表を実際に走らせました。陽性対照は一度落ちて、こちらの公式のバグを吐き出します。訂正して通したうえで本番へ ── 中心項を未知数に置き Jacobi 恒等式を有理数で厳密に解くと、BMS₄ では \(\dim H^2=0\)。まだ見つかっていないのではなく、入りようがない。そして理由まで出ました:中心電荷が立つ重みは整数だけで、4次元はきっちり \(1/2\) だけ外している。dim H² = 0
残ったルートBを進めます。4次元では効きません ── 先頭項が普遍量でない(\(\mathcal{N}=4\) SYM は結合を変えると \(3/4\) 倍)。ところが効かない理由を詰めると、第12回の問いの立て方が違ったと分かります。物質を足せばもつれは増えるが、同じ物質が \(1/G\) も同じだけ増やす ── 熱核から独立に出した \(\delta(1/G)\) と \(S_{EE}\) が \(A/4\) の因子ごと一致。A/48πε²
残った「\(G\) はどこから来るのか」を掘りにいったら、掘る前に止まりました ── その問いは well-posed ではない。次元を持つ量は予言できない、と第1回で自分で確かめていたのに。直すと \(\alpha_G=Gm_p^2/\hbar c=5.9\times10^{-39}\)、そしてこちらには機構があります。測定値ひとつから、20桁の階層が \(1/56.6\) という平凡な数に落ちます。e⁻⁴⁶·³⁹
第2回の逃げ道②を最後まで。強結合ならローレンツ破れが冪で消え、しかもカイラルフェルミオンが SO(3) スピノルから出てきます(成分数がどちらも2)。使える窓を測ると \(10\) TeV \(\le\Lambda_{\rm conf}\le3\times10^9\) GeV。ただし著者たちは全員、重力を固定背景に置いています ── そして重力の破れは輻射補正で物質に漏れる。1.27 ≤ ε ≤ 2
第3回は「足りなかったのは方向依存の一語だけ」と書いて、計算していませんでした。今回やります ── 座標を一度も歪ませず、ユークリッド格子に関数を2つ置いて測地線を積分すると 42.9807 秒角/世紀、GR 比 1.0000。一語を抜くとちょうど 1/3。そして差分には、省略できない条件がひとつありました。42.9807″/世紀
刻みは本物か、ゼロに持っていけるのか ── これは観測が答える問いです。エントロピーは盲目(発散が \(1/G\) に吸われる)、干渉計は空振り済み、飛行時間法は 183 EeV が必要で GZK 打ち切りを超えるため不可能。残ったのは光子崩壊で、そこには係数のない式が。約 112 PeV の光子1個で決まります。112 PeV
18回ぶんの棚卸し。新しい物理は出ませんでした ── 出たのは閉まった扉4枚、通った計算1つ、反証可能な数字1つ、そして間違え方の台帳。並べると偏りが出ます:自力で気づけなかったバグは形式論が重い回に集中していて、常微分方程式4本の回では物理のバグが1件も出ていない。効いた道具は3つで、全部作法でした。|H+½| = 2×10⁻¹⁶
結論から言うと、もう簡単に書けています ── 既知の物理はぜんぶ6項、というより4行の手続きから生成されます。その6項をボタンで1つずつ開いて中身を確かめられるようにしました。そして複雑なのは法則ではなく、①25個の定数(config)②解く手間(ランタイム)③階層の翻訳(ビルドパイプライン)の3箇所。次元を持つ項は、たった2つ
光速×時間を一定に固定すれば、空間は歪まなくて済むのでは ── 素朴でいい問いですが、3通りに読めます。「c が変わる」と読むと死に、「座標の取り方」と読むと本当に簡単になり(共形時間では光が厳密に 45°を走り、膨張が電磁場の方程式から消える)、「対称性」と読むと理論の芯に届く。そして壁には名前があります ── ワイルテンソル。FRW は書ける。星は書けない
第4回で紹介した2つの発展の、正直な現在地。平面波のメリン変換は一行で共形プライマリになる ── ところが4点関数を作ろうとすると壊れます。交差比を計算すると機械精度で実数になり、しかも −s/t に一致する。原因は初等的でした ── 2→2 散乱が平面的だから。あわせて、ソフトヘアがなぜ「かつら」と呼ばれるのかも。交差比 = −s/t、しかも実数
番外編②は「関数1本(共形平坦)では星は書けない、壁はワイルテンソル」で終わり、こう念を押していました ── 「光の曲がりが合うのは当然で情報ゼロ。区別がつくのは時計・物質の軌道・潮汐力の側」。今回はそこを全部通します ── 関数を1本から2本にするだけで通りました(②の結論は間違っていません。要求が違うだけ)。
近日点 42.9806″/世紀(比 1.000000)、赤方偏移 0.999996、GPS 38.610 μs/日、そして影が \(\min_\rho \rho/c(\rho)=\sqrt{27}\,m\) を12桁 ── 幾何も曲率も使わず、クリストッフェル記号は1個も出てきません。光子リングからは教えていない \(e^{2\pi}=535.49\) が出ました。慣性系の引きずりも出ます(空間はねじらず、格子を流す)。
そして地平面 ── \(c\to0\) の先は内側ではなくもう一つの外側で、内側を覆うには格子を流すしかない。これは ADM の 3+1、つまりスプレッドシートでした。数値相対論は座標光速 \(\alpha\) を CFL 条件に入れ、穴の近くでわざと 0 に潰しています。
それでも物理の光速は一度も動いていません ── 証拠は2枚の格子が同じ影を10桁一致で出したこと。残っている自由度は5桁で決め打ち、そして壁の名前は回転(Kerr)。min ρ/c = √27 m、12桁