物理好きの高校生・大学生のための読み物シリーズ

わかる温度

温度とは、エネルギーとビットの両替レート ── そもそも k_B は物理定数ではなく単位換算係数で、温度をエネルギーで測れば消えてしまう。効くのは無次元の比 E/k_BT ひとつ。室温の 25 meV という数字だけで、化学も半導体も生命も見通せる。姉妹編「物理の立方体」の c・ℏ・G に、4本目の軸 k_B を足すシリーズ。

本編7・完結 + 番外1 各話:日常語 → 一つの比 → 種明かし → 練習問題 動く図つき/印刷・PDF化対応
背骨は一文 ── 温度とは、エネルギーを配るときの「傾き」である
k_B は 2019 年に定義値になったただの換算係数で、効くのは E/k_BT だけ(第1回)。玉をでたらめに配るだけで指数分布が立ち上がり、その傾きが温度(第2回)。熱とは追跡をやめた運動で、量子性が効くと等分配が破れて比熱が階段になる(第3回)。小さい系では第二法則が破れる回数が数えられる── ゆらぎの定理(第4回)。上限のある系では負の温度があり、それは無限大より熱い(第5回)。そして正体 ── 温度とは、虚時間方向の周期の逆数(第6回)。仕上げに、加速するだけで真空が熱く見える(第7回)。温度は物質の性質でも、まして「熱さ」でもない。
公開済みファイルを一括ダウンロード 下のボタンで、公開済みの回を1つの ZIP にまとめて保存できます。
本編
第 1 回動く図つき
温度は、物質の性質ではない ── k_B は換算係数

2019年、人類は k_B を測るのをやめて値を確定した。温度をエネルギーで測れば k_B=1 にできる ── ケルビンは歴史の遺産で、効くのは無次元の比 E/k_BT だけ。室温の 25 meV ひとつで、何が壊れて何が凍るかが読める。k_BT(300K) ≈ 1/40 eV

第 2 回動く図つき
温度とは、エネルギーの配り方

なぜ e^(−E/k_BT) なのか。箱に玉をでたらめに配るだけで、指数分布がひとりでに立ち上がる ── その傾きが温度。本体は T ではなく β=1/k_BT のほうで、だから負の温度も無限大の温度も無理なく扱える。β = 1/k_BT

第 3 回動く図つき
熱とは、追跡をやめた運動

仕事と熱の違いは、追跡しているかどうかだけ(姉妹編「わかる繰り込み」第1回と握手)。自由度あたり ½ k_BT の等分配則は、ℏω > k_BT になると破れる ── だから二原子分子の比熱は階段状に上がる。量子性が温度計に映る回。C が階段になる ⟸ ℏω/k_BT

第 4 回動く図つき
第二法則は、「ほぼ」しか成り立たない

小さい系・短い時間では、エントロピーが減る事象が実際に起きる。しかも起きる確率が厳密に計算できて P(+σ)/P(−σ) = e^(σ/k_B)。コロイド粒子や RNA の実験で確認済み。第二法則が「法則」に見えるのは、ただ N が大きいから。P(+σ)/P(−σ) = e^(σ/k_B)

第 5 回動く図つき
負の温度は、無限大より熱い

エネルギーに上限のある系では T<0 が実現する ── しかもそれは「冷たい」のではなく、無限大の温度より熱い。本体が 1/T だと分かれば当たり前で、1/T は + から − へなめらかに通り抜ける。スピン系(1951)と冷却原子(2013)で実現済み。本体は T でなく 1/T

第 6 回動く図つき
虚時間の周期が、温度

時間を虚軸に 90 度回す(ウィック回転)と、量子の分配関数が現れる ── そして虚時間を一周するとボルツマン因子がかかる。周期は ℏ/k_BT。温度とは、虚時間方向の周期の逆数だった。姉妹編「わかる宇宙論」第9回の回収。τ の周期 = ℏ/k_BT

第 7 回動く図つき本編最終回
加速すると、熱くなる

等速で飛べば真空、加速すると同じ真空が温度 T=ℏa/2πck_B の熱浴に見える(ウンルー効果)。第1回の「温度は物質の性質ではない」の最終形 ── 温度は観測者の運動状態にも依る。地平面があれば温度がある、という一行でホーキング温度へ受け渡す。T = ℏa / 2πck_B

番外編
番外編 ①動く図つき読者の問いから
地平面までの光の飛行時間が、温度

このシリーズで光速 c が本当に効いているのは第7回だけ ── 第6回の虚時間の周期にすら c は入りません。では c が出てくる場所には何があるのか。地平面です。そこで距離を光の飛行時間に直すと、ウンルー・ホーキング・宇宙の地平面が一行にまとまります。地上のあなたの地平面は、約1光年先。k_BT = ℏ / (2π t_hor)、t_hor = L_hor/c