計算道具としての格子は完璧に動く ── でも「時空そのものが格子」と言った瞬間、18桁が発生する
プログラムを書く人にとって、宇宙を離散化するのはごく自然な発想です。空間をセルに切り、各セルの状態を持ち、局所的な規則で更新する。セルオートマトンそのもの。実際、素粒子物理の最前線である格子QCD は、まさにそれをやって成功しています。
だから「時空も本当は格子なんじゃないか」と思いたくなる。プランク長という自然な刻み幅まで用意されている。
この回は、その道がどこまで正しくて、どこで壊れるかを追いかけます。結論を先に言うと ── 計算道具としては完璧に正しく、時空の基本構造としては致命的に壊れます。しかも壊れ方が面白い。壊しているのは離散性そのものではありません。
この話題は、混ぜると必ず空回りします。結論が正反対の3つの問題が同じ言葉で語られているからです。
| 格子の役割 | 格子間隔 \(a\) は | ローレンツ不変性は |
|---|---|---|
| (a) 計算道具 格子QCD | 人工的な正則化。\(a\to0\) を取る | 戻る(証明つき) |
| (b) 時空の基本構造 | 物理的。プランク長 | 壊れる(致命的) ただし対称性を足せば救えます ── 08 節① |
| (c) カイラル対称性 | ―(ローレンツとは別問題) | ← ここに no-go 定理がある |
(a) と (b) は答えが逆です。区別せずに議論すると矛盾して見える。そして (c) は、実は格子屋が本当に苦労してきた場所で、ローレンツ不変性ではありません。順に見ていきます。
用語から正確にしておきます。標準的な格子QCD はユークリッド署名です。ウィック回転して計算し、あとで解析接続して戻す。ですから格子の上で壊れているのは、ブーストを含むローレンツ群ではなく ──
4次元ユークリッド空間の連続回転群 \(SO(4)\) が、超立方群 \(H(4)\)(384元の有限群)に落ちる。
連続群が有限群になる。これは近似ではなく、明白な(explicit)破れです。格子の軸方向と対角方向は、はっきり別物になる。
ここが (a) の核心で、しかも「たぶん大丈夫だろう」という期待ではなく構成的に示せます。
Symanzik の有効作用の考え方です。格子間隔 \(a\) の理論を、長距離で連続理論として書き直す:
$$\mathcal{L}_{\rm Sym}=\frac{1}{a}\mathcal{L}^{(3)}+\mathcal{L}^{(4)}+a\,\mathcal{L}^{(5)}+a^2\mathcal{L}^{(6)}+\cdots$$\(\mathcal{L}^{(n)}\) は次元 \(n\) の演算子。回転対称性を破る項は、すべて正のべきの \(a\) を伴います。だから \(a\to0\) で死ぬ。
効いているのは、次の群論的な事実です。
\(H(4)\) 不変だが \(O(4)\) 非不変な演算子の、最低次元は 6。
理由
\(H(4)\) 不変な2階テンソルは、自動的に \(\delta_{\mu\nu}\) に比例してしまいます。つまり破れを書きようがない。破れを書くには4階の不変テンソル \(\sum_\mu \delta_{\mu\alpha}\delta_{\mu\beta}\delta_{\mu\gamma}\delta_{\mu\delta}\) が要り、それが次元6に対応する。
結論
破れは \(a^2\mathcal{L}^{(6)}\) から始まる ── \(O(a^2)\) 抑制。しかも微調整は不要。
言い換えると、\(H(4)\) は「十分に大きい」有限群なので、次元5以下では回転対称性を破りようがない。連続対称性を捨てたのに、低次元では違いが表現できない。
対比として、これは知っておく価値があります。格子上で本当に人を苦しめてきたのは、ローレンツ不変性ではありません。
格子フェルミオン作用について、次の4つを同時に満たすことはできない。
① 局所性 ② カイラル対称性 ③ ダブラーが無い ④ 並進不変性
これは本物の no-go 定理です。回避策(Ginsparg–Wilson 関係式、overlap/domain-wall フェルミオン)はありますが、それは「格子上の変形されたカイラル対称性を厳密に持たせる」という、かなり深い構成になります。
ここに決定的な非対称性があります。
| 対称性 | 格子上での扱い |
|---|---|
| カイラル対称性 | no-go 定理がある。深い構成が必要 |
| ローレンツ(回転)不変性 | no-go 定理は無い。明白に破れるが、勝手に戻る |
だから「格子はローレンツ不変性を保てない」という言い方は、道具としての格子については正しくありません。保てないのはカイラル対称性のほうです。
ここからが (b)、そしてこの回の本題です。
素朴に考えるとこう思えます ── 基本スケールが \(a\sim\ell_P\) なら、破れは次元6以上でしか入らず、低エネルギーでは \((E/M_P)^2\) で抑制される。\(E\) が TeV でも \(10^{-32}\)。絶対に見えない。
これが間違っています。 壊すのはループ積分のカットオフです。
次元6の破れ演算子(係数 \(1/M_P^2\))を自己エネルギーに挿入する。ループ運動量は \(\Lambda\sim M_P\) まで走る:
$$\delta c\;\sim\;\frac{g^2}{16\pi^2}\cdot\frac{\Lambda^2}{M_P^2}\;\sim\;\frac{g^2}{16\pi^2}\;\sim\;10^{-2}\text{–}10^{-3}$$プランク質量が消えた
残ったのは結合定数のループ因子だけ。抑制がまるごと失われます。
つまり、出発点で次元5・6の破れしか入れなくても、繰り込みが次元3・4の破れを生成して低エネルギーに降ろしてくる。次元4の破れとは、たとえば「電子の最高速度と光子の最高速度が違う」(\(c_e\ne c_\gamma\))という、いちばん直接的な形です。
では実験はどこまで締め付けているか。かに星雲のシンクロトロン放射です。ローレンツ因子 \(\gamma\sim3\times10^9\) の電子が出す放射のスペクトルから ──
輻射補正が予言する破れ ~ 10^-2 (α/π 程度) かに星雲が許す上限 ~ 6 × 10^-20 (SME の c 係数) ────────────── 食い違い 18 桁
これを消すには、裸のパラメータを18桁 fine-tune するしかない。これが「量子重力の、もう一つのファインチューニング問題」です。ヒッグス質量の階層問題と同じ種類の病気で、深刻さは同程度かそれ以上。
なぜこんなことが起きるのか。物理には「小さいまま安定でいられる量」と「そうでない量」があります。
| 小さい量 | 守っている対称性 | 安定か |
|---|---|---|
| 電子の質量 | カイラル対称性 | 安定 |
| 光子の質量 | ゲージ対称性 | 厳密にゼロ |
| ヒッグス質量 | なし | 不安定(階層問題) |
| ローレンツ破れ | なし | 不安定(18桁) |
\(m_e\) が小さいままでいられるのは、ゼロにするとカイラル対称性が回復するからです。対称性が「戻ってくるな」と押さえている。ローレンツ破れには、これに相当する押さえがありません。
だから問いは、こう言い換わります。
問うべきは「時空は格子か」ではない。
「低エネルギーのローレンツ不変性を、何が守っているのか」である。
厳密な超対称性は、次元3・4のローレンツ破れ演算子を禁止します(Groot Nibbelink–Pospelov 2005)。超対称標準模型で許される最低次元は 5。必ず少なくとも1つの UV スケールで抑制される。
さらに、次元5が次元3に降りてくる混合を制御しているのは \(M_P\) ではなくソフト SUSY 破れのスケール \(m_{\rm soft}\)。抑制が桁違いに強くなります。結果として、プランクスケールで抑制された次元6の破れは、観測データと矛盾しません。
代償:SUSY が要る。まだ見つかっていない。
「矛盾しません」だけでは弱いので、いまの観測でどこまで許されているかを置きます。分散関係の破れを \(\delta v\sim(E/E_{\rm LV})^n\) と書くと、\(n\) で運命が分かれます。次元5が \(n=1\)、次元6が \(n=2\) です。
| 次数 | 最強の下限 \(E_{\rm LV}\) | \(M_{\rm Pl}\) との比 | プランク格子は |
|---|---|---|---|
| \(n=1\)(次元5) | \(>10^{5}\,M_{\rm Pl}\) LHAASO の PeV 光子 | 5桁 上 | 不可 |
| \(n=2\)(次元6) | \(>10^{-3}\,M_{\rm Pl}\) 同上(光子崩壊・シャワー形成) | 3桁 下 | 通る(余裕 \(10^3\)) |
| 飛行時間法(LHAASO, GRB 221009A, 0.2–18 TeV, 95% CL)は \(n=1\) で \(E>1.47\times10^{20}\) GeV \(=12\,M_{\rm Pl}\)、\(n=2\) で \(E>1.2\times10^{12}\) GeV \(\simeq10^{-7}M_{\rm Pl}\)。飛行時間は \(n=2\) に弱いので、上段の光子崩壊系のほうが効きます | |||
\(n=1\) は5桁の余裕で殺されていて、\(n=2\) は3桁の余裕で生き残っています。両者の間に8桁の差がある ── だから「次元6が主役かどうか」は、あいまいな趣味の問題ではなく観測が答えを出している問いです。
第14回で、カットオフ依存の発散がニュートン定数のくりこみに丸ごと吸われることを見ます(エンタングルメント側 \(A/48\pi\epsilon^2\) と、熱核から独立に出した \(\delta(1/G)=1/12\pi\epsilon^2\) が \(A/4\) の因子ごと一致)。
つまりカットオフの値そのものは観測に出ません。この回で見たローレンツ破れは「カットオフが優先系を作るとき」の病気であって、カットオフの存在そのものの病気ではない ── 上の表の \(n=2\) が通るのは、そういうことです。
逆に、物理的な刻み幅 \(a\) が本当にあるなら、第12回の \(N=A/a^2\) は近似ではなく本当の数え上げになります。
「破れは高エネルギーにあるが、繰り込み群の流れが低エネルギーでゼロに引っ張る」という筋。1970年代からある古い発想です。
弱結合では足りません。ゲージ理論での流れは対数的なので、\(1/\log\) 程度の抑制しか出ない ── 20桁走らせても \(1/\log(10^{20})=1/46=0.022\) 倍。18桁には遠い。
Bednik–Pujolàs–Sibiryakov(JHEP 11 (2013) 064)が、ホログラフィックな強結合の例でこれを示しました。ローレンツ破れの補正が
$$\delta\sim\left(\frac{\Lambda_{\rm IR}}{\Lambda_*}\right)^{\epsilon},\qquad \epsilon=2(1-\nu),\qquad \nu=\sqrt{\frac{d^2}{4}+(\mu L)^2}$$と冪で抑えられる。周辺的な場合(\(\nu=1\))だと \(\epsilon=0\) で対数に戻りますが、相関的な場合 \(0\le\nu<1\) では \(\epsilon\) が 0 から 2 まで取れます。
冪なら 18 桁は覆えます。必要な \(\epsilon\) を計算すると、意外に小さい。
| \(\Lambda_{\rm IR}\) | \(\log_{10}(\Lambda_{\rm IR}/M_P)\) | 必要な \(\epsilon\) | 対応する \(\nu\) |
|---|---|---|---|
| 1 TeV | \(-16.1\) | 1.12 | 0.44 |
| 1 GeV | \(-19.1\) | 0.94 | 0.53 |
| 0.2 GeV | \(-19.8\) | 0.91 | 0.55 |
| 18桁を覆う条件。\(\epsilon\simeq1\)、すなわち \(\nu\lesssim0.5\) ── 許容窓 \(0\le\nu<1\) の、ちょうど半分が使えます | |||
アノマラス次元が \(O(1)\) あればいい、という話です。強結合なら普通に出る大きさ。だからこの逃げ道は、弱結合で見たときの絶望とはまったく違う場所にいます。
まとめると、逃げ道②の評価は「足りない」から「物質には効く。重力が残る」に上がります。代償は SUSY ではなく、低エネルギーで強結合の何かと、重力セクターの未解決。
この逃げ道を最後まで掘った回:第16回「物質は守れた。重力が漏れる」 ── 使える窓が \(10\) TeV \(\le\Lambda_{\rm conf}\le3\times10^9\) GeV と測れます。そして重力の破れが輻射補正で物質に漏れることも。
規則格子がダメなのは、離散だからではありません。優先系を作るからです。
格子をブーストすると、別の(縮んだ)格子になる。だから「格子が静止している座標系」が特別になってしまう。
ポアソン散布は違います。ローレンツ変換の行列式は 1 なので体積測度を保ちます。したがってポアソン過程はブーストの下で統計的に不変。散布から優先方向を取り出す不変な方法が存在しない(Bombelli–Henson–Sorkin)。離散でありながら、優先系が無い。
だから 05〜07 の問題が、そもそも発生しません。破れる元が無いので。代償は非局所性です。
面積演算子のスペクトルが離散なので、素朴には「プランク面積の格子」に見えて、ローレンツ収縮でおかしくなりそうに思えます。
Rovelli–Speziale の反論:面積は観測者に依存する量であって、離散なのは演算子のスペクトル。ブーストした観測者は別の面を測っているのだから、「最小面積が収縮する」という描像自体が成立しない。論争はありますが、「離散性 ≠ 優先系」という点でコーゼットと同じ方向を向いています。
逃げ道③ が示しているものを、一般的な形にします。理由は幾何学的で、しかも単純です。
ミンコフスキー時空で、原点から固有距離が一定の点の集合は何か。ユークリッドなら球面ですが、ミンコフスキーでは 双曲面です。
そして双曲面の体積は
無限。 コンパクトではありません。だから「最近接点」はローレンツ不変な概念になりえない ── ローレンツ不変な離散構造を作ると、任意の固有距離に無限個の点があることになります。
離散性 / 局所性 / ローレンツ不変性
── この3つは同時に成り立たない。
構造が Nielsen–Ninomiya とそっくりなのが面白いところです。そして各アプローチは、どれを捨てたかで分類できます。
| アプローチ | 離散 | 局所 | ローレンツ不変 |
|---|---|---|---|
| 規則格子・セルオートマトン | ○ | ○ | ×(優先系) |
| コーゼット(ポアソン散布) | ○ | × | ○ |
| 通常の場の理論 | × | ○ | ○ |
下の図で、なぜ規則格子だけが優先系を作るのかを、直接見てください。
左の格子は、ブーストすると目に見えて歪みます。斜めに潰れ、軸の向きが変わる。つまり「格子が真っ直ぐに見える速度」が存在する ── それが優先系です。
右の散布は、ブーストしても見た目が変わりません。個々の点は動いていますが、統計的な性質は同一。ローレンツ変換が面積を保つ(行列式 1)ので、点の密度が変わらないからです。「散布が真っ直ぐに見える速度」というものが無い。
この三択は、「宇宙は計算できる」という立場に正面から刃を向けます。セルオートマトンは定義上、離散かつ局所だからです。表の一行目そのもの。't Hooft が本気で追求しているセルオートマトン解釈も、最大の攻撃点はここです。
でも、ここで一段だけ丁寧に考える価値があります。「宇宙は計算できる」に本当に必要なのは何か。
必要なのは 有限の情報量 です。
必要でないのは 空間の刻み です。
この2つは、まったく別の主張です。
そして有限性なら、格子を使わずに手に入ります。ホログラフィック境界です。
$$S\le\frac{A}{4G}$$有限の領域に入る情報は有限。でもこれは空間を格子に切っていません。 有限性が住んでいるのは共変エントロピー境界であって、空間の刻みではない。共変に定式化されているので、優先系を作りません。
つまり ── 有限の情報量を、格子なしで、優先系なしで実現する方法が存在します。 有限状態機械であることと、その状態が格子の上に並んでいることは、別の主張だった。前者だけを取れば、\(6\times10^{-20}\) の制限にも18桁の問題にも、まったく触れずに済みます。
道具としての格子は、完璧に正しい。 \(SO(4)\to H(4)\) の破れは本物だが、群論的な理由で \(O(a^2)\) に抑えられ、微調整も不要。しかも実測されている。格子上で本当に難しいのはカイラル対称性のほうで、そちらには no-go 定理がある。
「時空が格子」と言った瞬間、致命的になる。 輻射補正がループのカットオフを通じて \(M_P\) を約分し、\(10^{-2}\) のローレンツ破れを低エネルギーに降ろす。観測上限は \(6\times10^{-20}\)。18桁のファインチューニング。
本質は「守る対称性が無い」こと。 電子質量はカイラル対称性が、光子質量はゲージ対称性が守っている。ローレンツ破れには押さえが無い。だから問いは「時空は格子か」ではなく「低エネルギーのローレンツ不変性を何が守っているのか」になる。
そして三択。 離散性・局所性・ローレンツ不変性は同時に成り立たない。犯人は離散性ではなく規則性である ── ポアソン散布は離散なのにローレンツ不変で、代わりに局所性を失う。
計算可能性に、格子は要らない。 必要なのは有限の情報量であって、空間の刻みではない。ホログラフィック境界は、格子なしで・優先系なしで、それを供給します。
ただし「格子+対称性」なら、数字の上では通る。 08 節①に数値を入れました ── 破れが \(n=1\)(次元5)なら最強の下限が \(10^{5}M_{\rm Pl}\) で5桁の余裕で殺されている。ところが \(n=2\)(次元6)なら下限は \(10^{-3}M_{\rm Pl}\) で、プランク格子は3桁の余裕で通ります。次元3・4を禁じるのが超対称性、次元5を禁じるのが CPT。この二つを足した規則格子は、いまの観測と矛盾しません。
そして第14回で見るように、カットオフの値そのものは \(1/G\) のくりこみに吸われて観測に出ません。この回の病気は「カットオフがあること」ではなく「カットオフが優先系を作ること」でした。
この文書は「つくる格子」シリーズ第2回、物理好きの高校生・大学生向け読み物です。姉妹編「わかる」が既知の物理を解説するのに対し、本シリーズは作業そのものを見せます。
本文の主張のうち、Symanzik 有効作用による \(O(a^2)\) 抑制、Nielsen–Ninomiya の定理、Collins らの輻射補正によるファインチューニング問題(PRL 93, 191301, 2004)、かに星雲シンクロトロンによる \(6\times10^{-20}\) の制限、超対称性による次元3・4の破れの禁止(PRL 94, 081601, 2005)は、いずれも査読済みの確立した結果です。いっぽうループ量子重力における面積スペクトルとローレンツ不変性の両立(Rovelli–Speziale)には論争があり、決着していません。また「三択」は上記の各結果と双曲面の非コンパクト性から従う構造的な言明であり、この形で名前のついた単一の定理があるわけではありません。数値はいずれも桁の議論であり、係数や符号の詳細は文献にあたってください。
08 節の逃げ道①に付した観測の数値は後から追記したものです。\(n=1\) が \(>10^{5}M_{\rm Pl}\)、\(n=2\) が \(>10^{-3}M_{\rm Pl}\) という最強の下限は LHAASO の PeV 光子を用いた解析(arXiv:2105.07967, PRD 104, 063012)による報告、飛行時間法の \(n=1>1.47\times10^{20}\) GeV・\(n=2>1.2\times10^{12}\) GeV は LHAASO の GRB 221009A 観測(arXiv:2312.09079、95% CL、最尤法、亜光速の場合)です。同じバーストを別の手法で解析した文献では異なる値も報告されているので、桁の目安として読んでください。\(M_{\rm Pl}\) との比は \(M_{\rm Pl}=1.22\times10^{19}\) GeV で換算しました。次元5が CPT を破ることは確立した事実です。
逃げ道②に付した強結合の結果も後からの追記です。ローレンツ破れが \((\Lambda_{\rm IR}/\Lambda_*)^{2(1-\nu)}\) で冪抑制されること、周辺的な場合 \(\nu=1\) では対数に戻ること、および重力が固定背景として扱われており動的な重力への拡張には優先系を定義する追加自由度が要ると著者が述べていることは、Bednik–Pujolàs–Sibiryakov, JHEP 11 (2013) 064(arXiv:1305.0011)によります。カイラルフェルミオンへの拡張は Kharuk–Sibiryakov, TMP 189 (2016) 1755(arXiv:1505.04130)。必要な \(\epsilon\) の表は、この抑制形と本文06節の18桁から著者が計算したものです。
いっぽう「局所性を保ちたいなら逃げ道①しか選べず、したがって超対称性が要る」という言い方は、本シリーズの著者による整理です(次元3・4を禁じる機構が SUSY 以外にありえないことは示されていません)。
姉妹編:わかる宇宙論/わかる相対論 | 本編第1回:まだ誰も取っていない比を、機械に探させる | 番外編:①物理は、もっと簡単に書けないのか/②「ct = 一定」は、どこまで通用するか ── 印刷する場合はブラウザの「印刷」から「PDF に保存」を。
印刷 / PDF 化:⌘+P(Windows は Ctrl+P)。図のスライダーで、格子だけが歪むことを確かめられます。