重力を「空間の曲がり」で描いた。まったく同じ現象を「光速が場所で変わる」でも描ける ── どちらも同じ不変量の、別の記述
第6回で、重力を「時空そのものの曲がり」と描きました。この最終回で、その描像を揺さぶります ── まったく同じ重力の現象を、「空間は平らなまま、場所ごとに光速が変わる」と言い換えても、光の曲がりも、重力による時間の遅れも、光の遅延(シャピロ遅延)も、寸分たがわず同じに出るのです。重力が強い所ほど"光が遅くなる"=空間に屈折率 \(n(x)\) がある、と見なすだけ。すると「重力とは、時空が曲がっているのか、それとも光速が場所で変わっているのか?」という問いが立つ ── 答えは、このシリーズが一貫して言ってきたこと。どちらも同じ一つの不変量(時空の幾何)の、別の記述にすぎない。曲率か可変 \(c\) かは、座標の取り方=舞台装置の選択で、本体ではない。あなたの「わかる宇宙論」の \(c\cdot t=\)一定 と、まっすぐつながる回です。
第6回の予言 ── 光は重力で曲がり、時間は重力の強い所ほど遅れる ── を、別の言葉で言い直してみます。「時間が遅れる」を、光の側から見ると「その場所では光の振動がゆっくり=光が遅く進む」。つまり重力の強い場所ほど、光速が(座標のうえで)遅い。これは、光が遅くなる物質=屈折率の大きい媒質と同じ状況です。重力を、透明な"媒質"として描けるのではないか?
重力ポテンシャル \(\Phi\)(引力側で負)が深いほど \(n\) は大きく、そこでの光速 \(c(x)=c/n\) は遅い。ガラスや水と同じ ── 重力が強い所は、光にとって"濃い"媒質。第6回の無次元比 \(\Phi/c^2\) が、そのまま屈折率のずれになっています。
ガラスに斜めに入った光は、遅い側へ曲がる(屈折)。砂漠の逃げ水(蜃気楼)も、地面近くの空気の密度差=屈折率差で光が曲がる現象です。重力を \(n(x)\) の媒質と見れば、まったく同じ理屈で ── 光は、重力の強い(\(n\) の大きい)側へ曲がる。質量のそばを通る光が引き寄せられるのは、"重力に引かれる"のではなく、"屈折率の勾配で曲がる"と描ける。
ホイヘンスの原理(波面は各点から広がる素元波の重ね合わせ)で見ると鮮やかです。質量のそばを進む光の波面は、質量に近い側ほど \(n\) が大きく遅いので、遅れる。波面が"片減り"して傾く ── その結果、進む向きが質量側へ曲がる。曲率で描いても、屈折率で描いても、出てくる曲がり角は同じ。
・光の曲がり:\(n\) の勾配で光が質量側へ屈折(重力レンズ)。
・時間の遅れ:\(n\) の大きい所は光の振動がゆっくり=時計が遅れる(重力赤方偏移)。
・シャピロ遅延:太陽のそばを通る電波は、\(n>1\) の領域で"遠回り"して到着が遅れる ── 実測で確認済み。
同じ \(n(x)\) 一つから、第6回の予言がぜんぶ出る。「曲率」と言おうが「可変 c」と言おうが、観測にかかる量は完全に一致します。
下の図。中央の質量のまわりに、屈折率 \(n(x)\)(濃いほど大きい=光が遅い)が広がっています。左から来た光が、質量のそばを通って ── 質量側へ曲がる。点線はまっすぐ進んだ場合。ずれ(曲がり角)が重力レンズです。質量スライダーで \(n\) の勾配を強めると、曲がりも大きくなる。
ボタンで説明の言葉を切り替えられます ── 「空間の曲がりで説明」「屈折率 n(x) で説明」。でも描かれる光の経路は、まったく同じ。これがこの回の核心です。同じ一本の曲がりを、「空間が曲がっている」とも「光速が場所で変わっている」とも読める ── どちらが正しいか、ではなく、同じ不変量の二つの記述。
では、重力の"本当の姿"は、曲がった時空なのか、可変光速の媒質なのか。このシリーズの答えははっきりしています ── その問いは、間違った問いです。両者は同じ幾何を別の座標・別の言葉で書いただけ。観測にかかるもの(曲がり角、時間の遅れ、遅延)は、どちらの記述でも同じ値。違うのは記述、同じなのは不変量。第4回で「単位のある \(c\) の数字は舞台装置」と言い、第5回で「同時面の切り方はゲージ」と言った ── その最終形が、これです。"空間の曲率"や"光速の値"という、いかにも物理的に見えるものすら、記述の選び方(座標・ゲージ)に依存する。本当に不変なのは、単位のない観測量だけ。
「なぜ c が上限か」を第6回で"時空の骨格"と答えましたが、その \(c\) の値すら座標次第。不変なのは、光円錐の因果構造と、\(\alpha\) のような無次元量です。
静的な重力場で光の伝播(ヌル測地線)を屈折率 \(n(x)\approx1-2\Phi/c^2\) の媒質として記述でき、光の曲がり・重力赤方偏移・シャピロ遅延を正しく再現できること(重力の光学的アナロジー/エディントン以来)、これらが「時空の曲率」と同一の観測結果を与えること、そして局所的に測る光速はつねに \(c\)(変わるのは遠方座標での"座標光速")で無次元の \(\alpha\) は不変であることは、いずれも確立した物理です。
ただし「重力=スカラーの屈折率 \(n\)」ですべてが書けるわけではありません。 ① 光だけでなく物質の運動、強い重力場、時間の遅れまで完全に含めるには、\(n\) 一つでなく計量テンソル(時間成分と空間成分)全体が要ります ── 屈折率描像は主に静的な弱い場での光にきれいに効く近似・言い換えです。 ② フレームドラッグ(回転する質量が時空を引きずる)など、単純な媒質では書けない現象もあります。 だからここでの主張は「重力=ただの可変光速」ではなく、曲率と可変 c は(適切に定式化すれば)同じ幾何の二つの座標記述であり、どちらも本体でなく、不変なのは無次元の観測量だけ、というものです。可変光速宇宙論(VSL)も、無次元量を動かさなければ物理でなく記述の取り替えにとどまります。
重力を「時空の曲がり」(第6回)でなく「場所ごとに光速が変わる=屈折率 \(n(x)\approx1-2\Phi/c^2\)、\(c(x)=c/n\)」と描いても、光の曲がり・重力の時間の遅れ・シャピロ遅延はそっくり同じに出る。光は \(n\) の大きい(重力の強い)側へ屈折する ── 曲率でも屈折率でも、経路も観測量も一致。だから「重力は曲率か可変 c か」は間違った問いで、両者は同じ不変量(時空の幾何)の二つの記述。
これが「わかる相対論」全体の到達点です。速さは β(第1回)、遅れは γ(第2回)、不変量は s²(第3回)、質量は静止エネルギー(第4回)、同時はゲージで因果は不変(第5回)、重力は曲率(第6回)── そしてその曲率や c の値すら、記述の選び方(座標・ゲージ)に依存する(第7回)。単位のある時間・距離・速さ・"曲率"は、すべて舞台装置。本当に不変なのは、光円錐の因果構造と、\(\alpha\) のような無次元の観測量だけ。そこから考えれば、相対論は複雑にならない ── これが、六つの比と一つの但し書きで言いたかったことのすべてです。「わかる宇宙論」\(c\cdot t=\)一定 と、ここで完全に握手します。
印刷 / PDF 化:⌘+P(Windows は Ctrl+P)。画面では質量スライダーで光の曲がりが変わり、「曲率で説明/屈折率で説明」を切り替えても経路は同じです。「答えを見る」で解答が開きます。