わかる相対論第 6 回 / 重力は、時空の曲がり ── なぜ c が上限か

平らな時空(特殊相対論)から重力へ ── そして第1回から預けた宿題〈なぜ c が上限か〉の回収

重力は、時空の曲がり エレベーターの中では、重力と加速は見分けられない(等価原理)。ここから、重力は"力"ではなく
時空そのものの曲がりで、物は曲がった時空を"まっすぐ"進んでいるだけ ── そして c が上限な理由も、ここに。

必要な道具:第3回の s²、第5回の光円錐、第2回の時間の遅れ この回の芯:重力=曲率、c=光円錐の骨格

第5回までは、重力のない平らな時空の話(特殊相対論)でした。この回で重力へ踏み込みます。出発点はアインシュタインが「人生で最も幸福な考え」と呼んだ、たった一つの気づき ── 自由落下していると、重力は消える(宇宙飛行士がふわふわ浮くあれ)。逆に、宇宙で加速するロケットの中では、床に押しつけられて"重力"を感じる。つまり重力と加速は、中にいると区別できない(等価原理)。ここから驚くべき結論が転がり出ます ── 重力は物を引っぱる"力"ではなく、時空そのものの曲がり。物は、曲がった時空を"まっすぐ"進んでいるだけで、それが"落下"に見える。そして第1回から預けてきた宿題 ──〈なぜ \(c\) が絶対の上限か〉── の答えも、この時空の幾何そのものにあります。

01いちばん幸福な考え ── 落ちていると、重力は消える

エレベーターのケーブルが切れて自由落下すると、中の人も床も同じ加速度で落ちるので、床は足を押さなくなり ── 体重が消える(無重力)。国際宇宙ステーションが"無重力"なのも、実はステーションごと地球へ自由落下し続けているから(周回とはそういうこと)。落下する箱の中では、重力はきれいに消せる。「消せる」なら、それは第4回で「わかる力」がやった慣性力(座標で消せる見かけの力)の仲間 ── 重力は、絶対的な力ではない

02箱の中では、重力と加速は見分けられない

等価原理 ── 重力 = 加速

窓のない箱の中の実験だけでは、「地上で重力 \(g\) で静止」「無重力の宇宙で加速度 \(g\) で上昇」を、いっさい区別できない。ボールを離せば、どちらでも同じように床へ落ちる。重力と加速は、局所的には同じもの。

あたりまえに見えて、これは深い。ニュートンでは謎だった一致 ── 物の「動かしにくさ(慣性質量)」と「重力の受けやすさ(重力質量)」がなぜぴったり同じか(だから真空ではすべての物が同じ速さで落ちる。羽と鉄球も)── が、等価原理では当然になる。重力と加速が同じものなら、落ち方が物によらないのは当たり前だからです。

03だから、光は曲がり、時間は場所で進み方が違う

等価原理は、すぐに検証可能な予言を吐きます。加速するロケットの中を、横向きに光を通す。光が箱を横切る間にロケットは加速で上へ動くので、光は床側へ曲がって見える ── これは当然。ところが等価原理により、同じことが重力でも起きねばならない

等価原理の予言

重力は光を曲げる(加速で光が曲がる=重力で光が曲がる)。1919年の日食で太陽のそばの星の位置がずれ、実証された。
時間は、重力の強い場所ほどゆっくり進む(重力による時間の遅れ)。低い階の時計は、高い階よりわずかに遅れる。

時間の遅れの大きさは、無次元の比で書けます ── 重力ポテンシャル \(\Phi\) を \(c^2\) で割った \(\Phi/c^2\)。

やってみよう ── 重力の時間の遅れ(無次元) $$\frac{\Delta(\text{時間の進み})}{\text{時間}}\approx\frac{\Delta\Phi}{c^2}=\frac{g\,h}{c^2}$$

地上と高さ \(h\) での時計の進みの差は \(gh/c^2\)。この無次元比は地上ではごく小さい(\(c^2\) が巨大だから)── だから日常では気づかない。でも GPS 衛星(高度2万km)では \(\Phi/c^2\approx5\times10^{-10}\)、1日で約 45 μs も時計が進み、補正しないと位置が数kmずれる。第2回の速度による遅れ(特殊相対論)と合わせて、GPS は相対論なしには成立しません。ここでも効くのは単位のない比 \(\Phi/c^2\)です。

04動かしてみる ── 等価原理の箱

下は、窓のない箱の中。ボールを離すと床へ落ち、横切る光はわずかに下へ曲がります。ボタンで、この箱が「地上で重力 \(g\) で静止」なのか「無重力の宇宙で加速度 \(g\) で上昇中」なのかを切り替えられます ── でも中で見えるものは、まったく同じ。区別できないことを、目で確かめてください。\(g\) を強めると、落下も光の曲がりも大きくなります。

図:窓のない箱。ボールは床へ落ち、横切る光は下へ曲がる。ボタンで「重力で静止」/「無重力で加速」を切替 ── 中の見え方は同一(等価原理)。だから重力でも光は曲がる(1919年 日食で実証)
ボール(床へ落ちる) 光(下へ曲がる)

05重力は時空の曲がり ── そして「まっすぐ」が落下

光が曲がり、時間が場所で違う進み方をする ── これは、時空が曲がっていることのあらわれです。一般相対論の一文はこうです ── 物質は時空にどう曲がるかを教え、曲がった時空は物質にどう動くかを教える。物は、曲がった時空の中でいちばんまっすぐな道(測地線)を進む。それが、私たちには"重力で落ちている"ように見える。

なぜ「まっすぐ」が落下なのか ── 曲がるのは主に"時間" ふしぎに聞こえますが、鍵は第1回です。物は時空の中を、ほとんど時間方向に進んでいる(日常は \(\beta\approx0\) =世界線はほぼ真上)。だから、空間のわずかな曲がりより、時間方向のわずかな曲がりが効く。地球程度の弱い重力でも、時計の進みが高さでほんの少し違う(\(\Phi/c^2\))=時間軸がかすかに曲がっている。ほぼ時間方向へ猛烈に進んでいる(\(c\) で!)物にとって、その微小な時間の曲がりが、世界線を大きく曲げる ── それが"落ちる"。りんごが落ちるのは、空間でなく時間の曲がりのせい。ゴム膜に重りで空間だけをへこませる有名な絵は、この「時間の曲がり」を描けていない不完全な比喩です。

そして、第1回から預けてきた宿題 ──〈なぜ \(c\) が絶対の上限なのか〉── の答えも、ここにあります。\(c\) は「速い乗り物の最高速度」ではありません。時空には各点で光円錐(第5回)という因果の骨組みがあり、\(c\) はその円錐の開き具合を定める時空の構造そのもの。等価原理により、どんなに曲がった時空でも、各点のごく近くを見れば、いつもあの平らな時空(\(s^2\) の光円錐)に戻る。だから \(c\) は宇宙のどこでも、局所的に必ず同じ ── 物に課された速度制限ではなく、時空の因果の骨組みを定義する両替レート(第1回)だから、絶対で、越えられない。重力で時空が曲がっても、光円錐は各点で保たれ、因果は守られる。\(c\) が上限なのは、それが時空の幾何に織り込まれた不変量だからです。

◇ ◇ ◇
正直な線 ── 等価原理は「局所」だけ

等価原理(局所的に重力と加速は区別不能)、慣性質量と重力質量の一致、重力による光の曲がり(1919年日食・その後の高精度検証)、重力赤方偏移/重力時間の遅れ \(\approx\Phi/c^2\)(ポンド–レブカ実験・GPS の約45μs/日)、重力波(LIGO/Virgo 2015〜)、ブラックホール、そして「重力=時空の曲率」という一般相対論は、いずれも確立した物理で、精密に検証されています。

ただし等価原理は局所的── 十分小さな箱の中だけの話です。大きな箱では、地球中心へ向かう重力の"すぼまり"で、左右のボールがわずかに近づき、上下は離れる(潮汐力)。この潮汐こそ本物の時空の曲率で、加速では消せない ── 一様加速と重力が完全に同じなのは局所まで。 また光の曲がりは、等価原理だけでは半分で、時空の"空間"部分の曲がりを足した一般相対論で正しい値(太陽で約1.75秒角)になります。「時間の曲がりが主」なのは弱い重力での話で、ブラックホール近傍など強い場では空間の曲がりも大きく効きます。数式の全体(アインシュタイン方程式)は、この直感の上に載る本格的な幾何学です。

練習問題(この回の考え方で解けます)
  1. 自由落下するエレベーターの中で、重力はどうなるか。国際宇宙ステーションが無重力なのはなぜか。
    答えを見る
    自由落下では床が足を押さず、重力が消える(無重力)。ISS も地球へ自由落下し続けている(周回=自由落下)から中は無重力。重力は自由落下で局所的に消せる。
  2. なぜ真空ではすべての物が同じ速さで落ちるのか。等価原理で説明せよ。
    答えを見る
    重力と加速が同じものなら、箱の加速は中の全物体に等しく効く=落ち方は物によらない。慣性質量と重力質量の一致も、これで当然になる。
  3. GPS 衛星(Φ/c²≈5×10⁻¹⁰)で、重力による時計のずれは1日でどれくらいか(1日≈8.6×10⁴ s)。
    答えを見る
    \(5\times10^{-10}\times8.6\times10^4\ \text{s}\approx4.3\times10^{-5}\) s = 約 43 μs(概算。実際の GR 寄与は約45μs/日)。補正しないと位置が数km狂う。
  4. 「c が上限」なのはなぜか。速度制限とどう違うか、時空の幾何の言葉で。
    答えを見る
    c は各点の光円錐(因果の骨組み)を定義する時空の構造そのもの。等価原理で局所は必ず平らな時空に戻るので、c はどこでも同じ不変量。物に課した速度制限でなく、時空の幾何に織り込まれた両替レートだから絶対で越えられない。

第6回まとめ重力は曲率、まっすぐが落下、c は幾何の骨格

自由落下すると重力は消える ── だから重力は絶対的な"力"ではない。窓のない箱では重力と加速が区別できない(等価原理)。ここから、慣性質量=重力質量の謎が解け、重力は光を曲げ(1919年日食)、時間は重力の強い所ほど遅れる(\(\approx\Phi/c^2\)、GPS で約45μs/日)。これらはすべて、時空が曲がっているあらわれ ── 物質が時空を曲げ、曲がった時空が物の動きを決める。物は曲がった時空の"いちばんまっすぐな道(測地線)"を進み、それが落下に見える。しかも曲がるのは主に時間(ほぼ時間方向に c で進むから微小な時間の曲がりが効く)。

そして第1回の宿題の回収 ── \(c\) が上限なのは、それが各点の光円錐(因果の骨組み)を定義する時空の構造だから。等価原理で局所は必ず平らな時空(\(s^2\))に戻るので、\(c\) はどこでも同じ不変量。物への速度制限ではなく、時空の幾何に織り込まれた両替レート(第1回)だから、絶対で越えられない。重力さえも、単位のある"力"ではなく、時空という舞台そのものの幾何だった ── 「わかる力」第5回「重力は幾何」と、ここで握手します。

この文書は「わかる相対論」シリーズ第6回、物理好きの高校生・大学生向け読み物です。等価原理、慣性質量と重力質量の等価性、重力による光の偏向(1919年エディントンの日食観測、太陽で約1.75秒角)、重力赤方偏移・重力時間の遅れ(\(\Delta\nu/\nu\approx\Delta\Phi/c^2\)、ポンド–レブカ実験、GPS の一般相対論寄与 約+45μs/日で特殊相対論と合わせ正味 約+38μs/日)、重力波の直接検出、時空の曲率としての重力(一般相対論)は、いずれも確立した標準物理です。等価原理は局所的であり大域的には潮汐力(真の曲率)が残ること、光の偏向は等価原理のみでは半分で空間曲率を含む一般相対論が正しい値を与えること、「重力は主に時間の曲率」は弱場での特徴づけで強場では空間曲率も重要なこと、ゴム膜モデルが空間曲率のみの不完全な比喩であることは本文「正直な線」に明記しました。図は等価原理(一様重力と一様加速の局所的等価)と光の偏向の模式で、光路の曲がりは視認用に誇張しています。 ── 印刷する場合はブラウザの「印刷」から「PDF に保存」を(印刷版ではアニメと解答は静止・非表示になります)。前後の回:第5回 同時と因果目次/姉妹編 わかる力

印刷 / PDF 化:⌘+P(Windows は Ctrl+P)。画面では「重力で静止/無重力で加速」を切り替えても、箱の中(落ちるボール・曲がる光)は同じです。「答えを見る」で解答が開きます。