わかる相対論第 5 回 / 同時は、観測者しだい ── でも因果は不変

相対論でいちばん直感に反する核心 ── そして「ct=const が今」という見方の、まさに続き

同時は、観測者しだい ── でも因果は不変 「今」=ct が一定の面。でもその切り方は観測者ごとに傾く。だから「同時」はズレる。
それでも原因と結果の順序だけは、誰から見ても不変 ── 見張り役は「何ものも c を超えない」。

必要な道具:第3回の時空間隔 s² と光円錐、第1回の「ct が今の面」 この回の芯:同時=ゲージ、因果=不変

これまで、時間の遅れも \(E=mc^2\) も、比較的すなおに受け入れてきました。ここで、相対論でいちばん直感に反する核心に触れます ── 「同時」という概念が、観測者ごとに違う。ある人には同時に起きた二つの出来事が、別の人には「片方が先」に見える。これは錯覚でも測定ミスでもなく、時空の本当の姿です。じつはこれ、「相対論は \(ct=\) 一定 で見ている世界」という見方の、そのままの続き ── 「今」とは \(ct\) が一定の面(同時の面)で、その切り方が観測者ごとに傾くから、同時がズレる。でも安心してください。ズレるのは"同時"までで、原因と結果の順序は誰から見ても決してひっくり返らない。その見張り役こそ、第1回から言い続けている「何ものも \(c\) を超えない」。同時(舞台装置)と因果(不変量)を、光円錐できっぱり仕分けます。

01「同時」は、あたりまえか?

ニュートンの世界では、時間は宇宙共通の一本の流れでした。「今この瞬間」は宇宙のどこでも同じで、二つの出来事が"同時"かどうかは、誰にとっても一つの答えを持つ。あまりに当然に思えます。でも相対論は、この「絶対の今」を否定します。きっかけは、やはり光速がみんな同じという一点。動く人が「自分にとっての同時」を光で定義すると、止まっている人の「同時」とズレてしまうのです。

02ct=const が「今」── その切り方が、観測者で傾く

時空図(縦 \(ct\)、横 \(x\))で、「今」とは何か。ある観測者にとって同時刻に存在するすべての場所\(ct\) が一定の水平な面です。これが「今の空間」。時間が進むとは、この \(ct=\) 一定 の面が上へスライドしていくこと。ここまではニュートンと同じ。決定的な違いは ──

「今」の面(同時面)は、観測者ごとに傾く
$$\text{止まった人の今:}\ ct=\text{一定(水平)}\qquad\text{動く人の今:}\ ct=\beta x+\text{一定(傾く)}$$

速さ \(\beta\) で動く観測者にとっての「同時の面」は、時空図で傾き \(\beta\) だけ傾いた線になる(自分の世界線が \(ct\) 軸から傾くのと、鏡写しに同時面も傾く ── ハサミのように開く)。だから「どの出来事が今か」=ct=const 面の切り方が、観測者ごとに違う。

なぜ傾くのか、直感だけ。動く観測者が「左右に同時に光を放ち、両端に同時に届いた=同時」と決める。でも止まった人から見ると、観測者は動いているので、後ろの端は光に近づき先に当たり、前の端は逃げて遅れて当たる ── 動く人が"同時"と呼ぶ2点は、止まった人には同時でない。光速が両者で同じだから、こうならざるをえない。同時は、光で時計を合わせる手続きに依存する約束(ゲージ)だったのです。

03だから同時はズレる ── でも順序が変わるのは"空間的"だけ

同時面が傾くと、二つの出来事の"どちらが先か"が、観測者によって変わりえます。でも ── どんな出来事でも変わるわけではない。傾けられる同時面の傾きは \(\beta\)、つまり必ず 45°(光線)より寝ている。だから ──

順序が変わる出来事・変わらない出来事

・二つの出来事が空間的(\(s^2<0\)、光円錐の)── 同時面を傾ければ前後が入れ替わる。「同時」も観測者しだい。
・二つの出来事が時間的/光的(\(s^2\ge0\)、光円錐の内・上)── どんな \(\beta\) でも順序は不変。先は必ず先。

第3回の \(s^2\) の符号が、ここで効きます。光円錐の外(空間的)の出来事どうしは、光でも結べない=互いに影響し合えないので、順序が入れ替わっても誰も困らない。いっぽう光円錐の内(時間的)の出来事は、光以下の速さで結べる=原因と結果になりうるので、順序が保たれなければ困る ── そして、ちゃんと保たれる。

04動かしてみる ── 「今」の線を傾けると、順序が入れ替わる

下の時空図。原点に出来事 A、もう一つ出来事 B を置きます。ボタンで B を「空間的(光円錐の外)」「時間的(内)」に切り替えられます。スライダーは観測者の速さ \(\beta\) ── これがあなたの「今」の線(同時面 \(ct=\beta x\))を傾けます。

B が空間的のとき:\(\beta\) を動かすと「今」の線が B をまたぎ、A よりだった B がに入れ替わる ── 同時も順序も観測者しだい。B が時間的(光円錐の内)のとき:線をどれだけ傾けても(\(\beta<1\) では 45°を超えられない)B は決してまたげない ── A→B の順序は誰から見ても不変。因果になりうる出来事の順序は、守られる。

図:時空図。原点 A と出来事 B、光円錐(45°)。スライダーで観測者の「今」の線(同時面 ct=βx)が傾く。B が空間的(円錐外)なら順序が入れ替わり、時間的(円錐内)なら決して変わらない
「今」の線(同時面 ct=βx) 光円錐(45°) 出来事 A・B

05因果は不変 ── 見張りは「c を超えない」

まとめると、時空は二層構造です。「今」(同時面 \(ct=\) 一定 の切り方)は観測者ごとの約束=舞台装置で、傾く。でも光円錐(\(s^2\) の符号)は不変で、原因と結果の順序を守る。原因から結果へは、必ず光円錐の内側(時間的)を通る ── だから、どの観測者から見ても原因が先。この見張りを可能にしているのが、何ものも \(c\) を超えて信号を送れないこと。もし \(c\) を超える信号(タキオン)があれば、光円錐の外の出来事を因果で結べてしまい、ある観測者には結果が原因より先に見える ── タイムパラドックスが起きる。\(c\) の上限は、単なる速度制限ではなく、宇宙の因果を守る要石だったのです。

「わかる場」「わかる宇宙論」との握手 「わかる場」第1回で「news(力の変化)は c で伝わる」と言ったのは、まさにこの因果の要請の裏返し ── 影響は光円錐の内しか伝わらない。そして「\(ct=\)一定 が今、その切り方はゲージ」という見方は、あなたの「わかる宇宙論」の背骨 \(c\cdot t=\text{一定}\) と同じ骨格です。あちらは宇宙の時間発展を \(c\cdot t\) の面の取り方(=時間座標のゲージ)として読み、「無次元の \(\alpha\) が不変なら物理は同じ」とした ── 同時面の選び方は舞台装置、不変なのは因果構造と無次元量。相対論と宇宙論が、同じ一つの原理でつながります。

◇ ◇ ◇
正直な線 ── 「同時はゲージ」の射程

同時の相対性(同時面が \(\beta\) だけ傾く)、空間的分離(\(s^2<0\))の出来事は観測者により前後が入れ替わりうること、時間的・光的分離(\(s^2\ge0\))では因果順序が全観測者で不変であること、超光速信号があれば因果律が破れること、これらは確立した物理です。第2回の「どちらの時計も相手が遅れて見える」相互性も、この同時面の傾きの違いで完全に説明されます。

「同時はゲージ(約束)」は、異なる場所の時計合わせに関する話です。同じ場所・同じ時計が読む固有時間 \(\tau\)(第3回)は不変で、そこは約束ではありません。 また「\(ct=\)一定 が今」という水平面は、平坦な時空で慣性観測者が選ぶ自然な切り方で、加速する観測者や重力(曲がった時空、第6回)では「今」の面はもっと複雑に曲がります ── 同時面の自由度は、第7回で扱う座標(ゲージ)の自由の一部です。タキオンは理論上の可能性で、実験的には見つかっていません。

練習問題(この回の考え方で解けます)
  1. 止まった観測者の「今」の面は時空図でどんな線か。β で動く観測者では?
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    止まった人:水平(ct=一定)。動く人:傾き β の線(ct=βx+一定)。自分の世界線が傾くのと鏡写しに、同時面も傾く。
  2. 二つの出来事の順序が観測者によって入れ替わるのは、どんな場合か。s² で答えよ。
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    空間的分離(\(s^2<0\)、光円錐の外)のときだけ。時間的・光的(\(s^2\ge0\)、内・上)では、どの観測者でも順序は不変。
  3. なぜ空間的分離の出来事は順序が変わっても困らないのか。
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    光でも結べない(互いに信号を送れない)ので、因果関係を持てない。原因・結果でない以上、どちらが先でも矛盾しない。
  4. もし c を超える信号が使えたら、何が起きるか。c の上限の本当の役割は?
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    光円錐の外の出来事を因果で結べてしまい、ある観測者には結果が原因より先に見える=因果律(タイムパラドックス)が破れる。c の上限は速度制限でなく、宇宙の因果を守る要石。

第5回まとめ同時はゲージ、因果は不変 ── 光円錐が仕分ける

「今」とは \(ct=\) 一定 の同時面。ニュートンでは水平(絶対)だが、相対論では観測者ごとに傾き \(\beta\) だけ傾く(光速不変の帰結)── だから「同時」は観測者しだいの約束(ゲージ)。ただし傾けられる面は 45°より寝ているので、順序が入れ替わるのは空間的分離(\(s^2<0\)、光円錐の外)の出来事だけ。時間的・光的(\(s^2\ge0\)、内・上)では、順序は全観測者で不変。

原因から結果へは必ず光円錐の内を通るので、因果の順序は守られる ── その見張りが「何ものも \(c\) を超えない」。\(c\) の上限は速度制限でなく、因果律を守る要石。同時面の傾きの違いは、第2回の「どちらも相手が遅れて見える」相互性の正体でもある。同時(切り方)は舞台装置、光円錐(因果構造)は不変量 ── そしてこの「\(ct=\)一定 の切り方=ゲージ」という視点は、あなたの「わかる宇宙論」\(c\cdot t=\)一定 と同じ骨格です。

この文書は「わかる相対論」シリーズ第5回、物理好きの高校生・大学生向け読み物です。同時の相対性(慣性系ごとに同時面 \(ct=\beta x+\text{const}\) が傾く)、空間的分離(\(s^2<0\))の事象対で時間順序が観測者依存になり時間的・光的分離(\(s^2\ge0\))で因果順序が不変であること、超光速信号が存在すれば因果律が破れること、時間の遅れの相互性が同時面の相違で説明されることは、いずれも確立した標準物理です。「同時はゲージ(約束)」は離れた場所の時計同期に関する言明であり、局所の固有時間 \(\tau\) は不変であること、水平な同時面は平坦時空の慣性観測者の自然な選択で加速系や曲がった時空(第6・7回)では同時面が曲がること、タキオンは理論的可能性で未検出であることは本文「正直な線」に明記しました。図は 1+1 次元時空での同時面の傾きと光円錐による事象分類の模式です。 ── 印刷する場合はブラウザの「印刷」から「PDF に保存」を(印刷版ではスライダーと解答は静止・非表示になります)。前後の回:第4回 E=mc²目次/姉妹編 わかる宇宙論

印刷 / PDF 化:⌘+P(Windows は Ctrl+P)。画面では β で「今」の線を傾け、B(空間的/時間的)の順序が入れ替わるか確かめられます。「答えを見る」で解答が開きます。