相対論でいちばん直感に反する核心 ── そして「ct=const が今」という見方の、まさに続き
これまで、時間の遅れも \(E=mc^2\) も、比較的すなおに受け入れてきました。ここで、相対論でいちばん直感に反する核心に触れます ── 「同時」という概念が、観測者ごとに違う。ある人には同時に起きた二つの出来事が、別の人には「片方が先」に見える。これは錯覚でも測定ミスでもなく、時空の本当の姿です。じつはこれ、「相対論は \(ct=\) 一定 で見ている世界」という見方の、そのままの続き ── 「今」とは \(ct\) が一定の面(同時の面)で、その切り方が観測者ごとに傾くから、同時がズレる。でも安心してください。ズレるのは"同時"までで、原因と結果の順序は誰から見ても決してひっくり返らない。その見張り役こそ、第1回から言い続けている「何ものも \(c\) を超えない」。同時(舞台装置)と因果(不変量)を、光円錐できっぱり仕分けます。
ニュートンの世界では、時間は宇宙共通の一本の流れでした。「今この瞬間」は宇宙のどこでも同じで、二つの出来事が"同時"かどうかは、誰にとっても一つの答えを持つ。あまりに当然に思えます。でも相対論は、この「絶対の今」を否定します。きっかけは、やはり光速がみんな同じという一点。動く人が「自分にとっての同時」を光で定義すると、止まっている人の「同時」とズレてしまうのです。
時空図(縦 \(ct\)、横 \(x\))で、「今」とは何か。ある観測者にとって同時刻に存在するすべての場所=\(ct\) が一定の水平な面です。これが「今の空間」。時間が進むとは、この \(ct=\) 一定 の面が上へスライドしていくこと。ここまではニュートンと同じ。決定的な違いは ──
速さ \(\beta\) で動く観測者にとっての「同時の面」は、時空図で傾き \(\beta\) だけ傾いた線になる(自分の世界線が \(ct\) 軸から傾くのと、鏡写しに同時面も傾く ── ハサミのように開く)。だから「どの出来事が今か」=ct=const 面の切り方が、観測者ごとに違う。
なぜ傾くのか、直感だけ。動く観測者が「左右に同時に光を放ち、両端に同時に届いた=同時」と決める。でも止まった人から見ると、観測者は動いているので、後ろの端は光に近づき先に当たり、前の端は逃げて遅れて当たる ── 動く人が"同時"と呼ぶ2点は、止まった人には同時でない。光速が両者で同じだから、こうならざるをえない。同時は、光で時計を合わせる手続きに依存する約束(ゲージ)だったのです。
同時面が傾くと、二つの出来事の"どちらが先か"が、観測者によって変わりえます。でも ── どんな出来事でも変わるわけではない。傾けられる同時面の傾きは \(\beta\)、つまり必ず 45°(光線)より寝ている。だから ──
・二つの出来事が空間的(\(s^2<0\)、光円錐の外)── 同時面を傾ければ前後が入れ替わる。「同時」も観測者しだい。
・二つの出来事が時間的/光的(\(s^2\ge0\)、光円錐の内・上)── どんな \(\beta\) でも順序は不変。先は必ず先。
第3回の \(s^2\) の符号が、ここで効きます。光円錐の外(空間的)の出来事どうしは、光でも結べない=互いに影響し合えないので、順序が入れ替わっても誰も困らない。いっぽう光円錐の内(時間的)の出来事は、光以下の速さで結べる=原因と結果になりうるので、順序が保たれなければ困る ── そして、ちゃんと保たれる。
下の時空図。原点に出来事 A、もう一つ出来事 B を置きます。ボタンで B を「空間的(光円錐の外)」「時間的(内)」に切り替えられます。スライダーは観測者の速さ \(\beta\) ── これがあなたの「今」の線(同時面 \(ct=\beta x\))を傾けます。
B が空間的のとき:\(\beta\) を動かすと「今」の線が B をまたぎ、A より後だった B が前に入れ替わる ── 同時も順序も観測者しだい。B が時間的(光円錐の内)のとき:線をどれだけ傾けても(\(\beta<1\) では 45°を超えられない)B は決してまたげない ── A→B の順序は誰から見ても不変。因果になりうる出来事の順序は、守られる。
まとめると、時空は二層構造です。「今」(同時面 \(ct=\) 一定 の切り方)は観測者ごとの約束=舞台装置で、傾く。でも光円錐(\(s^2\) の符号)は不変で、原因と結果の順序を守る。原因から結果へは、必ず光円錐の内側(時間的)を通る ── だから、どの観測者から見ても原因が先。この見張りを可能にしているのが、何ものも \(c\) を超えて信号を送れないこと。もし \(c\) を超える信号(タキオン)があれば、光円錐の外の出来事を因果で結べてしまい、ある観測者には結果が原因より先に見える ── タイムパラドックスが起きる。\(c\) の上限は、単なる速度制限ではなく、宇宙の因果を守る要石だったのです。
同時の相対性(同時面が \(\beta\) だけ傾く)、空間的分離(\(s^2<0\))の出来事は観測者により前後が入れ替わりうること、時間的・光的分離(\(s^2\ge0\))では因果順序が全観測者で不変であること、超光速信号があれば因果律が破れること、これらは確立した物理です。第2回の「どちらの時計も相手が遅れて見える」相互性も、この同時面の傾きの違いで完全に説明されます。
「同時はゲージ(約束)」は、異なる場所の時計合わせに関する話です。同じ場所・同じ時計が読む固有時間 \(\tau\)(第3回)は不変で、そこは約束ではありません。 また「\(ct=\)一定 が今」という水平面は、平坦な時空で慣性観測者が選ぶ自然な切り方で、加速する観測者や重力(曲がった時空、第6回)では「今」の面はもっと複雑に曲がります ── 同時面の自由度は、第7回で扱う座標(ゲージ)の自由の一部です。タキオンは理論上の可能性で、実験的には見つかっていません。
「今」とは \(ct=\) 一定 の同時面。ニュートンでは水平(絶対)だが、相対論では観測者ごとに傾き \(\beta\) だけ傾く(光速不変の帰結)── だから「同時」は観測者しだいの約束(ゲージ)。ただし傾けられる面は 45°より寝ているので、順序が入れ替わるのは空間的分離(\(s^2<0\)、光円錐の外)の出来事だけ。時間的・光的(\(s^2\ge0\)、内・上)では、順序は全観測者で不変。
原因から結果へは必ず光円錐の内を通るので、因果の順序は守られる ── その見張りが「何ものも \(c\) を超えない」。\(c\) の上限は速度制限でなく、因果律を守る要石。同時面の傾きの違いは、第2回の「どちらも相手が遅れて見える」相互性の正体でもある。同時(切り方)は舞台装置、光円錐(因果構造)は不変量 ── そしてこの「\(ct=\)一定 の切り方=ゲージ」という視点は、あなたの「わかる宇宙論」\(c\cdot t=\)一定 と同じ骨格です。
印刷 / PDF 化:⌘+P(Windows は Ctrl+P)。画面では β で「今」の線を傾け、B(空間的/時間的)の順序が入れ替わるか確かめられます。「答えを見る」で解答が開きます。