わかる相対論第 3 回 / 時空間隔 ── 観測者で割れない、たった一つの不変量

時間は γ 倍に伸び、長さは 1/γ 倍に縮む ── では、誰が測っても同じものは、何もないのか?

時空間隔 ── 観測者で割れない、たった一つの不変量 時間も距離も、観測者ごとにバラバラ(舞台装置)。でも両者を「−」で結んだ s²=(ct)²−x² だけは、
誰が測っても同じ。この引き算こそ、時空の本当の幾何 ── 相対論の背骨です。

必要な道具:ピタゴラス、第2回の γ、引き算ひとつ この回の不変量:s² = (ct)² − x²

第2回で、動くと時間は \(\gamma\) 倍に伸び、長さは \(1/\gamma\) 倍に縮むと見ました。時間も距離も、観測者ごとにバラバラ ── まさに「単位のある量は舞台装置」。だとすると不安になります。誰が測っても同じ、という確かなものは、もう何もないのか? あります。たった一つ。時間と空間を、ピタゴラスの「+」ではなく「−」で結んだ量 ── 時空間隔 \(s^2=(ct)^2-x^2\) ── だけは、どの観測者から見ても寸分違わず同じ。バラバラに見えた時間の伸びと長さの縮みは、じつはこの一つの不変量を保つように、たがいに帳尻を合わせていたのです。この回で、相対論の幾何的な背骨が見えます。

01ユークリッドの「距離」を思い出す

ふつうの平面幾何。棒を回転させると、その端点の座標 \((x,y)\) は変わります。横に寝かせれば \(x\) が伸び \(y\) が減る。でも棒の長さは変わらない ── 長さ² \(=x^2+y^2\) は、回転しても不変。座標 \(x,y\) は「どう置いたか」で変わる舞台装置、長さこそが物理。回転で保たれる \(x^2+y^2\)、これがユークリッド幾何の不変量です。

相対論も、これとそっくりの構造を持ちます。ただ一箇所 ── 符号が違う。

02時空の「距離」は、「−」で結ぶ

時空図(第1回)では、縦が時間 \(ct\)、横が空間 \(x\)。観測者を変える(別の速さで動く人に乗り換える)と、同じ出来事の \(ct\) と \(x\) は、第2回の \(\gamma\) にしたがってバラバラに変わる。ところが ──

この回の不変量 ── 時空間隔
$$s^2=(ct)^2-x^2\qquad(\text{どの観測者でも同じ})$$

ユークリッドの \(x^2+y^2\) と、符号がひとつ違うだけ ── 時間の項が「+」、空間の項が「−」。このマイナス一つが、相対論のすべての奇妙さの源です。ユークリッドの「回転」にあたるのが、観測者の乗り換え(ローレンツ変換)で、それはこの \(s^2\) を保つ時空の"回転"です。

確かめてみましょう。第2回の光時計は、時計自身にとっては同じ場所で時間 \(\Delta t_0\) 経つだけ(\(x=0\))だから \(s^2=(c\Delta t_0)^2\)。地上から見ると時間は \(\gamma\Delta t_0\) に伸び、場所も \(v\gamma\Delta t_0\) 動く。地上での \(s^2\) は ──

やってみよう ── 伸びと縮みが、s² を保つ $$s^2=(c\gamma\Delta t_0)^2-(v\gamma\Delta t_0)^2=\gamma^2(c^2-v^2)\Delta t_0^2$$

\(\gamma^2=1/(1-\beta^2)=c^2/(c^2-v^2)\) を入れる

$$s^2=\frac{c^2}{c^2-v^2}\,(c^2-v^2)\Delta t_0^2=(c\Delta t_0)^2$$

時計自身で測った \(s^2=(c\Delta t_0)^2\) と、ぴったり一致した。時間が \(\gamma\) 倍に伸びた効果と、場所が動いた効果が、「−」の引き算でちょうど打ち消し合う。バラバラの \(ct\) と \(x\) の裏で、\(s^2\) は不動 ── これが不変量です。

03動かしてみる ── 観測者を変えると、点は双曲線を滑る

下の時空図に、一つの出来事(緑の点)を置きます。スライダーは、あなたが乗る観測者の速さ \(\beta\)。観測者を変えると、その出来事の座標 \((ct,\,x)\) は動きます ── でも、でたらめには動かない。不変双曲線 \((ct)^2-x^2=s^2\) の上を、滑るだけ。時間 \(ct\) が増えれば空間 \(x\) も増え、\(s^2\) はきっちり一定。45°の光線(第1回の壁)は、この双曲線が近づいていく漸近線です。

ユークリッドなら、点は原点中心の(\(x^2+y^2\) 一定)の上を回ります。時空では「−」のせいで、円が双曲線に化ける。観測者の乗り換えは、円の回転ではなく双曲線に沿ったすべり(双曲回転)。これがローレンツ変換の正体です。点がどこへ滑っても、原点からの"時空の隔たり" \(s\) は変わりません。

図:時空図(縦 ct・横 x)。一つの出来事(緑点)を、観測者の速さ β を変えて見る。点は不変双曲線 (ct)²−x²=s² の上を滑るだけ ── ct も x も変わるのに s² は一定。45°線(光)は漸近線
出来事の点(観測者ごとの ct, x) 不変双曲線 s²一定 光(45°・漸近線)

04固有時間 τ ── 不変量が、時計になる

この \(s^2\) には、うれしい意味があります。出来事が原点から時間的に離れている(\(s^2>0\)、光線より内側)とき、\(s/c\) は ── その出来事まで実際に旅する時計が刻む時間。これを固有時間 \(\tau\) といいます。

固有時間 ── その人自身の時計が読む、不変な時間
$$\tau=\frac{s}{c}=\sqrt{t^2-\frac{x^2}{c^2}}$$

第2回で「本当に不変なのは各自の固有時間 τ」と予告した、あれです。座標時間 \(t\) は観測者ごとにバラバラでも、実際にその道を旅した時計が読む \(\tau\) は、みんなの計算が一致する ── 経路に沿った \(s\) だから。

これで双子のパラドックスもほどけます。地球に残る双子と、宇宙を旅して戻る双子。二人の世界線は、時空図の同じ2点(出発と再会)を結ぶ別々の道。ユークリッドなら「まっすぐが最短」ですが、時空は「−」の幾何なので逆 ── まっすぐ(慣性)=固有時間が最長、遠回り(加速して旅する)=固有時間が短い。だから旅した双子のほうが若い。これは相対的な錯覚ではなく、二本の道に沿った \(s\)(不変量)の差そのもの。加速して道を曲げた側が、確定的に若く戻る。

三種類の隔たり ── 次回への橋 \(s^2\) の符号で、二つの出来事の関係が3種類に分かれます。 時間的(\(s^2>0\)、光線の内側)=原因と結果になれる。 光的(\(s^2=0\)、光線の上)=光でちょうど結べる。 空間的(\(s^2<0\)、光線の外側)=どんな信号でも結べず、因果関係なし。この仕分けが、第5回「同時は観測者しだい、でも因果は不変」の下敷きになります。不変量 \(s^2\) が、時空の因果の骨組みを決めているのです。

◇ ◇ ◇
正直な線 ── 「−」と不変量の射程

時空間隔 \(s^2=(ct)^2-x^2\) がローレンツ変換で不変なこと、ローレンツ変換が \(s^2\) を保つ双曲回転で出来事が不変双曲線上を動くこと、時間的間隔で \(\tau=s/c\) が固有時間(その時計が読む不変な経過時間)であること、慣性運動が固有時間を最大化し双子問題で加速側が若返ることは、いずれも確立した物理です。

符号の約束は流儀が二つあり、本稿は時間を+にする \((+,-,-,-)\) を採りました(空間を+にして \(s^2=x^2-(ct)^2\) と書く本もある。物理は同じ)。 3次元では \(s^2=(ct)^2-x^2-y^2-z^2\)。 また \(s^2=(ct)^2-x^2\) は平坦な時空(ミンコフスキー)の間隔で、重力があると各点で微小な間隔 \(ds^2\) を計量が場所ごとに与える曲がった幾何になります(第6・7回)。「双曲回転」の図は 1+1 次元の模式で、実際の速度合成や3次元の回転はこの上に乗ります。

練習問題(この回の式だけで解けます)
  1. ユークリッド幾何で回転が保つ量は? 時空で観測者の乗り換え(ローレンツ変換)が保つ量は? 違いは何か。
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    ユークリッド:\(x^2+y^2\)(長さ²)。時空:\(s^2=(ct)^2-x^2\)(時空間隔)。違いは空間項の符号が「−」であること。この一つのマイナスで、円が双曲線に化ける。
  2. ある観測者が、出来事を \(ct=5,\ x=3\)(同じ単位)と測った。\(s^2\) は? 別の観測者が \(x'=0\) と測ったら、その \(ct'\) は?
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    \(s^2=5^2-3^2=25-9=16\)。不変なので別観測者でも \(s^2=16\)。\(x'=0\) なら \((ct')^2-0=16\Rightarrow ct'=4\)。この観測者にとっては「4」だけ時間が経った出来事(=固有時間 τ=4/c×c=4 に対応)。
  3. 双子のパラドックスで、なぜ旅した側が若いのか。「まっすぐが最長」を使って説明せよ。
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    時空は「−」の幾何なので、2点を結ぶ道のうちまっすぐ(慣性)=固有時間が最長。旅する双子は加速して道を曲げるので固有時間が短く、若く戻る。相対的錯覚でなく、二本の道の s の差。
  4. \(s^2>0,\ =0,\ <0\) は、それぞれ二つの出来事のどんな関係か。
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    \(s^2>0\):時間的(因果になれる)。\(s^2=0\):光的(光でちょうど結べる)。\(s^2<0\):空間的(どんな信号でも結べず、因果関係なし)。符号が因果の骨組みを決める。

第3回まとめ不変量は s²=(ct)²−x² ── マイナス一つの幾何

時間も距離も観測者ごとにバラバラ(第2回)。でも、時間と空間を「−」で結んだ時空間隔 \(s^2=(ct)^2-x^2\) だけは、誰が測っても同じ。ユークリッドの不変量 \(x^2+y^2\)(回転で不変)と符号が一つ違うだけで、そのマイナス一つが相対論の奇妙さの源。観測者の乗り換え(ローレンツ変換)は、円の回転でなく双曲線に沿ったすべり ── 出来事は不変双曲線 \(s^2=\)一定 の上を滑り、\(ct\) と \(x\) は変わっても \(s\) は不動。

時間的な間隔なら \(\tau=s/c\) が固有時間 ── その時計自身が読む、不変な経過時間(第2回の宿題の回収)。時空は「−」の幾何ゆえ「まっすぐ=固有時間最長」で、双子問題は加速して道を曲げた側が確定的に若返る。符号 \(s^2\gtrless0\) は時間的・光的・空間的を分け、因果の骨組みを決める(第5回へ)。単位のある \(t,x\) は舞台装置、残るのは不変量 \(s\) だけ ── 相対論の背骨です。

この文書は「わかる相対論」シリーズ第3回、物理好きの高校生・大学生向け読み物です。時空間隔 \(s^2=(ct)^2-x^2\)(3次元では \((ct)^2-x^2-y^2-z^2\))のローレンツ不変性、ローレンツ変換が \(s^2\) を保つ双曲回転であること、時間的間隔での固有時間 \(\tau=s/c\)、慣性運動による固有時間の最大化と双子のパラドックスの帰結、\(s^2\) の符号による時間的・光的・空間的の分類は、いずれも確立した標準物理です。計量符号は \((+,-,-,-)\) を採用(\((-,+,+,+)\) 規約でも物理は同一)。\(s^2=(ct)^2-x^2\) は平坦時空(ミンコフスキー計量)の間隔であり、重力下では線素 \(ds^2\) が計量テンソルで場所ごとに与えられる曲がった時空になること(第6・7回)、図は 1+1 次元の模式で速度合成・3次元回転はこの上に乗ることは本文「正直な線」に明記しました。図の双曲線は \((ct)^2-x^2=\) 一定 の不変双曲線です。 ── 印刷する場合はブラウザの「印刷」から「PDF に保存」を(印刷版ではスライダーと解答は静止・非表示になります)。前後の回:第2回 γ目次

印刷 / PDF 化:⌘+P(Windows は Ctrl+P)。画面では観測者の β を変えると、出来事の点が不変双曲線の上を滑ります(s² は一定)。「答えを見る」で解答が開きます。