波 ψ の運動方程式 ── そして「とびとびのエネルギー」は、連続な波を箱に閉じ込めた当然の帰結
第2・3回で、波動関数 \(\psi\) と、その位相 \(S/\hbar\) の足し合わせを見ました。では実際に、\(\psi\) は時々刻々どう形を変えるのか ── それを直接与える"波の運動方程式"が、シュレディンガー方程式 \(i\hbar\,\partial\psi/\partial t=\hat H\psi\) です。そして、この波を箱に閉じ込めると、量子論のいちばん有名な顔 ── エネルギーが「とびとび」になる(量子化)── が現れます。でも、ここで強調したいことがあります。とびとびになるのは、世界が離散的だからではありません。ギターの弦が特定の高さの音(倍音)しか出さないのと、まったく同じ ── 連続な波を、両端を固定して閉じ込めると、"はまる"波だけが選ばれ、その結果としてとびとびになる。量子化は、波であることの、しごく当たり前の帰結なのです。
\(\psi\) が波なら、波の広がり方を決める方程式があるはず。それを、エネルギーの関係「運動エネルギー+位置エネルギー=全エネルギー」を波の言葉に翻訳して書いたのが、シュレディンガー方程式です。
左辺の \(i\hbar\,\partial_t\) が「エネルギー」を、右辺の \(\hat H\)(ハミルトニアン)が運動+位置のエネルギーを表す。\(i\) と \(\hbar\) がいるのが肝 ── \(i\) のおかげで解が振動する波になり、位相が \(E/\hbar\) の速さで回る(第1回 \(E=\hbar\omega\) そのもの)。「わかる宇宙論」第3回で残った \(i\) は、この \(i\) です。
特別な解として、形が変わらず位相だけが回る波があります。エネルギーが確定した状態(\(\hat H\psi=E\psi\))で、時間変化は \(\psi(t)=\psi\,e^{-iEt/\hbar}\) ── 大きさ \(|\psi|^2\) は時間によらず一定なので定常状態と呼びます。位相の回る速さが \(E/\hbar=\omega\)。エネルギーが高い状態ほど、速く位相が回る。原子の中の電子の"軌道"は、この定常状態です。では、そのエネルギー \(E\) は、どんな値でも取れるのか? ── 閉じ込めると、取れない。
いちばん簡単な閉じ込め ── 幅 \(L\) の箱(両側が壁)に電子を入れる。壁の外に出られないので、\(\psi\) は両端でゼロでなければならない。これは、両端を固定した弦とまったく同じ条件。だから許されるのは、両端が節になる定常波だけ ── 半波長がちょうど整数個ぴったり収まる波です。
半波長が n 個ぴったり:波長は
$$\lambda_n=\frac{2L}{n}\quad(n=1,2,3,\dots)$$ド・ブロイ p=h/λ(第1回)と E=p²/2m を使うと
$$E_n=\frac{p_n^2}{2m}=\frac{n^2 h^2}{8mL^2}$$エネルギーは、\(n=1,2,3\dots\) のとびとびの値(\(E_n\propto n^2\))しか取れない。連続な波なのに、閉じ込めの境界条件が、許される波を整数 \(n\) で選び出す ── それが量子化。ギターの弦が基音・2倍音・3倍音…しか鳴らないのと、寸分違わず同じ理屈です。
とびとびを数える \(n\)(量子数)は、単位のない整数。第5回の逆二乗のべき \(d-1\)(わかる場)や、質量の湯川結合のように、物理の"個数"はいつも無次元の整数・比で現れる。\(n\) は「箱に半波長が何個はまるか」そのものです。
下の図。幅 \(L\) の箱に、波 \(\psi=\sin(n\pi x/L)\) を描きます。スライダーで \(n\) を連続的に動かしてみてください。\(n\) が整数のときだけ、波の右端がちょうど壁で節(ゼロ)になり、"はまる"(緑=許される)。整数からずれると、右端が壁からはみ出してはまらない(赤=許されない)。右のはしごは、許されるエネルギー \(E_n\propto n^2\)。
連続に \(n\) を回しても、物理的に許されるのは、はしごの段(整数 \(n\))だけ。連続な波の世界の上に、境界条件が"とびとびのふるい"をかけている ── これが量子化の正体です。箱を小さく(\(L\) 小)すると段の間隔(\(\propto1/L^2\))が広がり、量子化がはっきりする。原子ほど小さく閉じ込めると、エネルギー準位のとびとびが際立ち、原子ごとの決まった色の光(スペクトル線)になる。
ここが、この回でいちばん伝えたいことです。「量子=世界がとびとび(デジタル)」という印象は、正確ではありません。シュレディンガー方程式は、なめらかで連続な波の方程式。空間も時間も連続で、\(\psi\) は連続に変化する。とびとびになるのは、波を閉じ込めたとき、はまるモードだけが選ばれるからで ── 連続な基盤の上に、境界条件がとびとびを生む。閉じ込めのない自由な電子は、エネルギーを連続にとれる(とびとびにならない)。とびとびは、世界の離散性ではなく、波+閉じ込めの帰結です。
シュレディンガー方程式 \(i\hbar\partial_t\psi=\hat H\psi\)、定常状態 \(\psi e^{-iEt/\hbar}\)、箱の中の粒子の量子化 \(E_n=n^2h^2/8mL^2\)・\(\lambda_n=2L/n\)、自由粒子の連続スペクトル、原子のエネルギー準位と輝線スペクトル、量子化が定常波の境界条件(弦の倍音との同型)から出ることは、いずれも確立した物理です。
ただし。 ① シュレディンガー方程式は非相対論的(\(\beta\ll1\)、第1回の"c の物語"を含まない)。相対論と量子を両立させるには場の量子論(ディラック方程式など、SR+QM=「わかる場」)が要ります ── 相対論と量子は"対立"ではなく、ここで合流します。 ② 実際の原子は箱でなく、原子核のクーロン引力(3次元)で閉じ込められ、量子数は \(n\) だけでなく角運動量なども加わる。「箱」はいちばん簡単な模型です。 ③ 「量子化=波+閉じ込め」は束縛状態の話で、スピンのような"空間の波"に還元しにくい離散性もあります。 ④ プランクスケールで時空自体が離散的か連続かは、未解決(量子重力)── それはこの回の話ではありません。
波動関数 \(\psi\) の運動方程式がシュレディンガー方程式 \(i\hbar\partial_t\psi=\hat H\psi\)。\(i\) のおかげで解は振動する波で、定常状態は位相が \(E/\hbar=\omega\) で回る(第1回 \(E=\hbar\omega\))。この波を幅 \(L\) の箱に閉じ込めると、両端が節の定常波しか許されず、半波長が整数 \(n\) 個はまる波だけが選ばれて、エネルギーがとびとび \(E_n=n^2h^2/8mL^2\) になる ── ギターの倍音と同じ。量子数 \(n\) は、単位のない整数。
肝心なのは、とびとび(量子化)は"世界が離散的"だからではないこと。シュレディンガー方程式は連続な波の方程式で、離散性は波を閉じ込めたときに、はまるモードが選ばれるemergent な帰結(自由粒子は連続)。連続な波形と、そのとびとびのモードは、レコードとCDのように同じものの二つの見方で、両者を結ぶのがフーリエ変換 ── 次回の不確定性の舞台です。「連続か離散か」は基盤でなく記述の問題、効くのはやはり \(\hbar\)。
印刷 / PDF 化:⌘+P(Windows は Ctrl+P)。画面では n を動かすと、整数のときだけ波が箱に"はまり"ます(緑)。「答えを見る」で解答が開きます。