わかる量子第 4 回 / シュレディンガー方程式と量子化

波 ψ の運動方程式 ── そして「とびとびのエネルギー」は、連続な波を箱に閉じ込めた当然の帰結

シュレディンガー方程式と量子化 ψ が時々刻々どう変わるかを与える波の規則が、シュレディンガー方程式。
波を箱に閉じ込めると、両端が節の定常波しか許されず ── 弦の倍音のように、エネルギーがとびとびになる。

必要な道具:第1回 p=h/λ、第2回 ψ と位相、弦の定常波 この回:iℏ ∂ψ/∂t = Ĥψ、E_n ∝ n²

第2・3回で、波動関数 \(\psi\) と、その位相 \(S/\hbar\) の足し合わせを見ました。では実際に、\(\psi\) は時々刻々どう形を変えるのか ── それを直接与える"波の運動方程式"が、シュレディンガー方程式 \(i\hbar\,\partial\psi/\partial t=\hat H\psi\) です。そして、この波を箱に閉じ込めると、量子論のいちばん有名な顔 ── エネルギーが「とびとび」になる(量子化)── が現れます。でも、ここで強調したいことがあります。とびとびになるのは、世界が離散的だからではありません。ギターの弦が特定の高さの音(倍音)しか出さないのと、まったく同じ ── 連続な波を、両端を固定して閉じ込めると、"はまる"波だけが選ばれ、その結果としてとびとびになる。量子化は、波であることの、しごく当たり前の帰結なのです。

01波の運動方程式が要る ── シュレディンガー

\(\psi\) が波なら、波の広がり方を決める方程式があるはず。それを、エネルギーの関係「運動エネルギー+位置エネルギー=全エネルギー」を波の言葉に翻訳して書いたのが、シュレディンガー方程式です。

シュレディンガー方程式 ── ψ の時間発展
$$i\hbar\,\frac{\partial\psi}{\partial t}=\hat H\psi$$

左辺の \(i\hbar\,\partial_t\) が「エネルギー」を、右辺の \(\hat H\)(ハミルトニアン)が運動+位置のエネルギーを表す。\(i\) と \(\hbar\) がいるのが肝 ── \(i\) のおかげで解が振動する波になり、位相が \(E/\hbar\) の速さで回る(第1回 \(E=\hbar\omega\) そのもの)。「わかる宇宙論」第3回で残った \(i\) は、この \(i\) です。

02定常状態 ── 位相だけ回る波

特別な解として、形が変わらず位相だけが回る波があります。エネルギーが確定した状態(\(\hat H\psi=E\psi\))で、時間変化は \(\psi(t)=\psi\,e^{-iEt/\hbar}\) ── 大きさ \(|\psi|^2\) は時間によらず一定なので定常状態と呼びます。位相の回る速さが \(E/\hbar=\omega\)。エネルギーが高い状態ほど、速く位相が回る。原子の中の電子の"軌道"は、この定常状態です。では、そのエネルギー \(E\) は、どんな値でも取れるのか? ── 閉じ込めると、取れない。

03箱に閉じ込めると、とびとびになる

いちばん簡単な閉じ込め ── 幅 \(L\) の箱(両側が壁)に電子を入れる。壁の外に出られないので、\(\psi\) は両端でゼロでなければならない。これは、両端を固定した弦とまったく同じ条件。だから許されるのは、両端が節になる定常波だけ ── 半波長がちょうど整数個ぴったり収まる波です。

やってみよう ── はまる波長 → とびとびのエネルギー

半波長が n 個ぴったり:波長は

$$\lambda_n=\frac{2L}{n}\quad(n=1,2,3,\dots)$$

ド・ブロイ p=h/λ(第1回)と E=p²/2m を使うと

$$E_n=\frac{p_n^2}{2m}=\frac{n^2 h^2}{8mL^2}$$

エネルギーは、\(n=1,2,3\dots\) のとびとびの値(\(E_n\propto n^2\))しか取れない。連続な波なのに、閉じ込めの境界条件が、許される波を整数 \(n\) で選び出す ── それが量子化。ギターの弦が基音・2倍音・3倍音…しか鳴らないのと、寸分違わず同じ理屈です。

この回の量子数 ── 整数 n

とびとびを数える \(n\)(量子数)は、単位のない整数。第5回の逆二乗のべき \(d-1\)(わかる場)や、質量の湯川結合のように、物理の"個数"はいつも無次元の整数・比で現れる。\(n\) は「箱に半波長が何個はまるか」そのものです。

04動かしてみる ── 箱の中の波

下の図。幅 \(L\) の箱に、波 \(\psi=\sin(n\pi x/L)\) を描きます。スライダーで \(n\) を連続的に動かしてみてください。\(n\) が整数のときだけ、波の右端がちょうど壁で節(ゼロ)になり、"はまる"(緑=許される)。整数からずれると、右端が壁からはみ出してはまらない(赤=許されない)。右のはしごは、許されるエネルギー \(E_n\propto n^2\)。

連続に \(n\) を回しても、物理的に許されるのは、はしごの段(整数 \(n\))だけ。連続な波の世界の上に、境界条件が"とびとびのふるい"をかけている ── これが量子化の正体です。箱を小さく(\(L\) 小)すると段の間隔(\(\propto1/L^2\))が広がり、量子化がはっきりする。原子ほど小さく閉じ込めると、エネルギー準位のとびとびが際立ち、原子ごとの決まった色の光(スペクトル線)になる。

図:幅 L の箱の中の波 sin(nπx/L)。n を連続で動かすと、整数のときだけ右端が壁で節になり"はまる"(緑=許される/赤=許されない)。右のはしご=許されるエネルギー E_n∝n²
はまる波(許される・整数 n) はまらない波(許されない)

05量子化は「離散な世界」ではない ── 連続な波が、境界で選ばれる

ここが、この回でいちばん伝えたいことです。「量子=世界がとびとび(デジタル)」という印象は、正確ではありません。シュレディンガー方程式は、なめらかで連続な波の方程式。空間も時間も連続で、\(\psi\) は連続に変化する。とびとびになるのは、波を閉じ込めたとき、はまるモードだけが選ばれるからで ── 連続な基盤の上に、境界条件がとびとびを生む。閉じ込めのない自由な電子は、エネルギーを連続にとれる(とびとびにならない)。とびとびは、世界の離散性ではなく、波+閉じ込めの帰結です。

連続か離散か ── レコードとCDは、同じ曲 「量子は離散、相対論は連続」と対比されがちですが、この回が示すのはもっと機微な話です。量子の基盤(波 \(\psi\))は連続で、とびとびは閉じ込めからemergent(現れ出る)もの。連続な波と、そのとびとびのモード(倍音)は、同じ一つの弦の、二つの見方 ── レコード(連続波形)とCD(とびとびの数値)が同じ曲を運ぶのと同じで、どちらが"本当"でもない。じつは、なめらかな波形とそのとびとびの成分(スペクトル)を行き来する数学がフーリエ変換で、量子論はその上に立っています(位置と運動量、時間とエネルギーが、\(\hbar\) を介したフーリエの表・裏)。第5回の不確定性は、まさにこの「連続 ↔ とびとび/広がり ↔ 波長」の裏表から出ます。「わかる宇宙論」第5回のサンプリングとも地続きの主題です。

◇ ◇ ◇
正直な線 ── シュレディンガー方程式の射程

シュレディンガー方程式 \(i\hbar\partial_t\psi=\hat H\psi\)、定常状態 \(\psi e^{-iEt/\hbar}\)、箱の中の粒子の量子化 \(E_n=n^2h^2/8mL^2\)・\(\lambda_n=2L/n\)、自由粒子の連続スペクトル、原子のエネルギー準位と輝線スペクトル、量子化が定常波の境界条件(弦の倍音との同型)から出ることは、いずれも確立した物理です。

ただし。 ① シュレディンガー方程式は非相対論的(\(\beta\ll1\)、第1回の"c の物語"を含まない)。相対論と量子を両立させるには場の量子論(ディラック方程式など、SR+QM=「わかる場」)が要ります ── 相対論と量子は"対立"ではなく、ここで合流します。 ② 実際の原子は箱でなく、原子核のクーロン引力(3次元)で閉じ込められ、量子数は \(n\) だけでなく角運動量なども加わる。「箱」はいちばん簡単な模型です。 ③ 「量子化=波+閉じ込め」は束縛状態の話で、スピンのような"空間の波"に還元しにくい離散性もあります。 ④ プランクスケールで時空自体が離散的か連続かは、未解決(量子重力)── それはこの回の話ではありません。

練習問題(この回の式だけで解けます)
  1. 箱の中の粒子で、n=1 と n=2 のエネルギーの比は? (E_n∝n²)
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    \(E_2/E_1=2^2/1^2=4\)。基底状態(n=1)の4倍。とびとびの間隔は n² で広がる。
  2. 箱の幅 L を半分にすると、エネルギー準位 E_n∝1/L² はどうなるか。閉じ込めが強いほど?
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    \(1/(1/2)^2=4\) 倍。強く閉じ込める(L 小)ほどエネルギーもとびとびの間隔も大きく、量子化がはっきりする。原子サイズで顕著になる理由。
  3. なぜ整数 n のときだけ波が許されるのか。弦の倍音との共通点で。
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    両端が壁(節)なので、半波長が整数個ぴったり収まる波(両端が節)しか許されない。両端を固定した弦が基音・倍音しか鳴らないのと同じ。境界条件が整数 n を選ぶ。
  4. 「量子=世界は離散的」は、なぜ正確でないのか。
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    シュレディンガー方程式は連続な波の方程式で、空間・時間・ψ は連続。とびとびは波を閉じ込めたとき、はまるモードだけが選ばれる emergent な結果。自由粒子は連続スペクトル。離散は"波+閉じ込め"の帰結で、世界の離散性ではない。

第4回まとめ量子化は、連続な波を箱に閉じ込めた影

波動関数 \(\psi\) の運動方程式がシュレディンガー方程式 \(i\hbar\partial_t\psi=\hat H\psi\)。\(i\) のおかげで解は振動する波で、定常状態は位相が \(E/\hbar=\omega\) で回る(第1回 \(E=\hbar\omega\))。この波を幅 \(L\) の箱に閉じ込めると、両端が節の定常波しか許されず、半波長が整数 \(n\) 個はまる波だけが選ばれて、エネルギーがとびとび \(E_n=n^2h^2/8mL^2\) になる ── ギターの倍音と同じ。量子数 \(n\) は、単位のない整数。

肝心なのは、とびとび(量子化)は"世界が離散的"だからではないこと。シュレディンガー方程式は連続な波の方程式で、離散性は波を閉じ込めたときに、はまるモードが選ばれるemergent な帰結(自由粒子は連続)。連続な波形と、そのとびとびのモードは、レコードとCDのように同じものの二つの見方で、両者を結ぶのがフーリエ変換 ── 次回の不確定性の舞台です。「連続か離散か」は基盤でなく記述の問題、効くのはやはり \(\hbar\)

この文書は「わかる量子」シリーズ第4回、物理好きの高校生・大学生向け読み物です。シュレディンガー方程式 \(i\hbar\partial_t\psi=\hat H\psi\)、定常状態 \(\psi(t)=\psi\,e^{-iEt/\hbar}\)(\(\hat H\psi=E\psi\))、無限井戸(箱)の固有エネルギー \(E_n=n^2h^2/8mL^2\)・波長 \(\lambda_n=2L/n\)、自由粒子の連続スペクトル、境界条件(定常波)による量子化と弦の倍音との同型、原子の離散準位と輝線は、いずれも標準物理です。シュレディンガー方程式が非相対論的でありSRとの両立には場の量子論(ディラック方程式等)が必要なこと(相対論と量子は対立でなく QFT で合流)、現実の原子はクーロン束縛の3次元問題で量子数が複数あること、スピン等の還元しにくい離散性があること、プランクスケールの時空の離散性/連続性は未解決(量子重力)であることは本文「正直な線」に明記しました。図は無限井戸の定常波と離散準位の模式です。 ── 印刷する場合はブラウザの「印刷」から「PDF に保存」を(印刷版ではスライダーと解答は静止・非表示になります)。前後の回:第3回 全経路を足す目次/姉妹編 わかる宇宙論(サンプリング)。

印刷 / PDF 化:⌘+P(Windows は Ctrl+P)。画面では n を動かすと、整数のときだけ波が箱に"はまり"ます(緑)。「答えを見る」で解答が開きます。