第1回の「正直な線」の回収 ── 遅れているのに news を運ばない場が、いつ news を運びはじめるのか
第1回で、力は源の「さっき」を指す ── 遅れて届くと言いました。でも末尾の「正直な線」で、一つ宿題を残しています ── 等速直線運動している源の場は、遅れているのに、なぜか「現在位置」をぴたりと指し、news を運ばない。ここが場のいちばん面白いところです。静かに(等速で)動いているかぎり、場は情報を運ばない。場が本当に報せ=news を光速で飛ばすのは、源が加速した瞬間だけ。その飛んでいく報せこそ、電波・光・重力波 ── すなわち放射です。この番外編は、第1回の宿題を回収しながら、「静かな場」と「揺れる場」を一本の比 \(r/\lambda\) で仕分けます。
一定の速さでまっすぐ動く電荷を考えます。その電場を測ると、驚くことに、光の遅れがあるはずなのに電荷の「今いる位置」を正確に指す。相対論の効果が、遅れをちょうど先読み補正してしまうためです(等速なら未来位置は完全に予測できるので、自然が"外挿"してつじつまを合わせる)。
結果として、静かに動く源の場からは「源が動いた」という情報が取り出せない。ずっと同じパターンが源と一緒に平行移動するだけ。遅れてはいるが、news は乗っていない。第1回で図を「模式」と断ったのは、このためでした。
だから「太陽が消えたら8分20秒後に地球が知る」の知るは、太陽が消える=急激な変化=加速があって初めて成り立つ。静かに存在しているだけの源は、news を発しません。
では源が加速したら? 有名な思考実験があります。まっすぐ等速で動いていた電荷が、ある瞬間急に止まったとする。止まったという news は、光速 \(c\) でしか広がれない。だから半径 \(r=ct\) の球より内側の場は「もう止まった」新事実を知って新しい位置を指し、外側の場はまだ「知らず」に、止まらなかった場合の未来位置を指し続ける。内と外で場の向きが食い違う ── その境目の薄い殻に、場の線の横向きの折れ目(キンク)ができる。
ここで第5回の 1/r² が効いてきます。源にまとわりつく束縛の場(クーロン場)は、第5回どおり \(1/r^2\) で薄まる。ところが加速で生まれた放射の場は、\(1/r\) でしか薄まらない ── 距離とともにずっとゆっくり減る。
遠くへ行くほど、\(1/r\) の放射が \(1/r^2\) の束縛を必ず追い越す。だから遠方は放射の天下。星の光が何億光年も届くのも、放射が \(1/r\) だから。エネルギーで見ると強さは2乗で \(1/r^2\) ── 球面に広がるぶん(第5回)だけ薄まり、それ以上は減らない。news は、ほとんど減らずに宇宙を渡る。
どこで束縛から放射へ主役が交代するか。境目を決めるのは、やはり比です。源が振動数 \(f\) で揺れるなら、放射の波長は \(\lambda=c/f\)。距離 \(r\) をこの \(\lambda\) と比べた比 \(r/\lambda\) が ──
\(r\ll\lambda\) では源のそばの静かな力、\(r\gg\lambda\) では飛び去る放射。同じ場の二つの顔を、\(r/\lambda\) 一本が仕分ける。
下の図。中央の電荷(緑)を、加速オンにすると上下に揺れ、放射の波面(news)が光速で外へ広がります。破線の円は \(r=\lambda\) の境目 ── 内側が近接域(静かな束縛の場 \(1/r^2\))、外側が波動域(放射 \(1/r\))。振動数スライダーで \(\lambda=c/f\) が変わり、境目の円が伸縮します。
加速オフにすると、電荷は静止(等速の代表)。波面はいっさい出ません ── 場は源のまわりに静かにまとわりつくだけで、news を運ばない。オンとオフを切り替えて、「加速だけが放射する」を体で確かめてください。
放射がどれだけ出るか(放射のパワー)は、加速度 \(a\) の2乗に比例します(ラーモアの公式)。
加速を2倍にすれば放射は4倍。強く揺さぶるほど、激しく news を撒く。アンテナが電波を出すのは電子を高速で振動=加速させるから。太陽や電球が光るのも、熱で荷電粒子が乱暴に加速されているから。虹も、レントゲンも、シンクロトロンの青white光も ── すべて「加速する電荷」から出る放射。等速では、決して光らない。
第1回の宿題が、これで閉じます。力の変化(news)は必ず光速 \(c\) で伝わる ── ただし、それを飛ばすのは加速。静かな(等速の)場は遅れていても news を運ばず、\(1/r^2\) で源にまとわりつくだけ。加速が場に折れ目を刻み、\(1/r\) の放射として \(c\) で解き放つ。「なぜか光速で伝わる」の主語は、静かな力ではなく、揺れる場だったのです。
等速運動する点電荷の場が実効的に現在位置(外挿位置)を指し情報を運ばないこと、加速が放射(横波の輻射場)を生み放射場が \(1/r\)(強度 \(1/r^2\))で束縛場 \(1/r^2\) より遠方で卓越すること、近接場/放射場の境が \(r\sim\lambda\)(\(\lambda=c/f\))で分かれること、放射パワーがラーモア \(P=q^2a^2/6\pi\varepsilon_0c^3\propto a^2\) であること、重力でも同様に加速する質量が重力波を出すことは、いずれも確立した標準物理です。
「急に止まった電荷のキンク」は放射の由来を掴む定番の図(J.J. トムソン以来)ですが、厳密には無限の加速度を含む理想化で、実際は有限時間の加速でなめらかな波束になります。「場の線」は可視化の便法(本体は場のベクトル)で、図の波面は放射の news の広がりの模式です(実際の双極子放射は振動軸方向に弱く横方向に強い角度依存を持ちますが、図では簡単のため等方の円で表示)。また「等速なら情報を運ばない」は無限に続く等速運動の理想の話で、加速して等速に入る現実の過程では、その加速時に一度だけ放射が出ます。
第1回の宿題の回収。等速で動く源の場は、遅れていても相対論的な先読み補正で「現在位置」を指し、news(情報)を運ばない ── \(1/r^2\) で源にまとわりつく束縛の場。ところが源が加速すると、内側(新事実を知った領域)と外側(まだ知らない領域)で場の向きが食い違い、境目に横向きの折れ目(キンク)ができる。この折れ目が光速 \(c\) で逃げていくもの ── それが放射(電磁波・光・重力波)。
放射の場は \(1/r\)(束縛は \(1/r^2\))でしか薄まらず、遠方は放射の天下。主役の交代は比 \(r/\lambda\)(\(\lambda=c/f\))が仕分ける ── \(r\ll\lambda\) 近接域(静かな力)、\(r\gg\lambda\) 波動域(news)。放射の強さは加速度の2乗 \(P\propto a^2\)(ラーモア)。アンテナも星も虹も、すべて加速する電荷の放射で、等速は決して光らない。「なぜか光速で伝わる」の主語は、静かな力ではなく揺れる場だった ── 第1回の "正直な線" が、ここで閉じます。
印刷 / PDF 化:⌘+P(Windows は Ctrl+P)。画面では「加速:オン/オフ」で放射の有無が切り替わり、振動数スライダーで境目 r=λ が動きます。「答えを見る」で解答が開きます。