第3回で「どこまで届くか」を見た。今回は ── 「どれだけ強いか」。姉妹編「わかる宇宙論」の主役 1/137 が、場の言葉で戻ってくる
第3回で、力がどこまで届くか(射程)を読みました。残るは、力がどれだけ強いか。ところが「強さ」を素直に測ろうとすると、すぐ壁にぶつかります。クーロン力は電荷と距離で何ニュートンにでもなる ── 距離を半分にすれば4倍、単位をダインに変えれば数字も変わる。「強さ」を、電荷にも距離にも単位にもよらない形で言えないか? 20 世紀物理の最も美しい答えの一つがこれです。電磁気力の強さは、\(e,\ \varepsilon_0,\ \hbar,\ c\) を絶妙に組み合わせて単位を完全に消した、たった一つの数 ── 微細構造定数 \(\alpha\approx1/137\) に凝縮される。この回は、力の強さがなぜ「単位のない一つの数」に化けるのか、そしてその数で四つの力を並べると何が見えるかを、比だけで読み切ります。
二つの電子の間に働くクーロン力は \(F=\dfrac{1}{4\pi\varepsilon_0}\dfrac{e^2}{r^2}\)。この \(F\) を「電磁気力の強さ」と呼べるでしょうか。ダメです。距離 \(r\) しだいで何ニュートンにでもなるし、単位系を変えれば数字も変わる。\(F\) は状況の数字であって、力そのものの強さではない。物理の"強さ"を語るには、状況にも単位にもよらない純粋な数が要る。単位を持つ量は、私たちが選んだメートルや秒に依存する ── 第1回・第2回で繰り返した「単位のある量は舞台装置」が、ここで正面から効いてきます。
電磁気に登場する基本の量を並べます。電荷 \(e\)、真空の性質 \(\varepsilon_0\)、量子の \(\hbar\)(第3回)、光速 \(c\)(第2回)。これらを、単位がちょうど打ち消し合うように組むと ──
分子も分母も、組み上げると単位が完全に消える。残るのは純粋な数 \(1/137\)。メートルで測ろうがインチで測ろうが、火星人が測ろうが、同じ 1/137。これこそ「電磁気力の強さ」の、状況にも単位にもよらない本体です。
単位が無い、という一点が決定的です。\(3\) メートルの「\(3\)」は物差しの取り決めしだいですが、\(\alpha\) の \(1/137\) は誰の取り決めにもよらない。宇宙が選んだ、剥き出しの数。だから物理学者は「なぜ 137 なのか」を 100 年問い続けている ── \(c\) や \(e\) の値は単位の産物ですが、\(\alpha\) は問う意味のある本物の謎なのです。
\(\alpha\) の物理的な意味は、場の言葉でこうです ── 荷電粒子が、電磁場(光子)を1個やりとりするときの効きめ。電子が光子を1個吸ったり吐いたりする「一回の握手」の起こりやすさが、\(\sqrt{\alpha}=e\)(自然単位)で、確率にすると \(\alpha\approx1/137\)。
電子が光子を1個やりとりするたび、確率の"目減り"が \(\alpha\approx1/137\)。だから電磁気の計算は、握手の回数が増えるほど \(\alpha,\ \alpha^2,\ \alpha^3\dots\) と小さくなり、数回の握手でほぼ答えが出る(摂動が効く)。\(\alpha\) が 1 よりずっと小さい ── この「小ささ」が、電磁気を精密に計算できる理由です。もし \(\alpha\) が 1 に近ければ、握手が無限に効いて手がつけられない(それが強い力:後述)。
つまり \(\alpha\) は、場と電荷がどれだけ強く手を握るかの指標。大きいほど強く結合し、小さいほど弱く結合する。力の"強さ"とは、この結合の強さのことだったのです。
単位を消した"強さ"は、力どうしを同じ土俵で比べられる。四つの力それぞれに、対応する無次元の結合があります。下の図は、その強さを対数の物差し(1目盛りで10倍)に並べたもの。右へ行くほど強い。
強い力は \(\alpha_s\sim1\)(右端)、電磁気は \(\alpha\approx1/137\)、弱い力の素の結合はその中間。そして重力だけが、はるか左方 ── けた違いに弱い。重力の無次元結合は粒子の質量で決まり \(\alpha_G=(mc^2/E_{\text{Planck}})^2\)。スライダーで粒子の質量を電子から陽子へ動かすと、重力マーカーが右へ動きますが、それでも他の力から数十けた離れたまま。電子どうしなら、重力は電磁気の約 \(10^{-43}\)。この途方もない隔たりを、目で確かめてください。
ここで謎が立ちます。重力は電磁気の \(10^{-43}\) しかない最弱の力。なのに、惑星も星も銀河も、宇宙の大構造を支配しているのは重力。なぜ最弱が勝つのか。答えは、\(\alpha\) が単位のない数だったことと、もう一つ ── 足し算のされ方にあります。
両方とも \(1/r^2\) で薄まる(第5回)から、\(r\) がきれいに消える ── この比は距離によらない純粋な数。近くでも銀河の彼方でも、電子2個なら重力は電気の \(10^{-43}\)。
では、なぜ勝てるのか。電気の力には正負があり、物質はふつう中性(+と−が同数)。だから大きな塊になると電気力はほとんど打ち消し合ってゼロ。いっぽう重力の"電荷"は質量だけで、符号がひとつ。打ち消しが起きず、質量はただ足し上がる一方。地球 \(10^{50}\) 個の原子の重力は、素直に全部足さって私たちを地面に縛る。\(10^{-43}\) の弱さも、\(10^{50}\) 個ぶん積もれば桁で圧勝する。弱いが必ず足し算される力が、強いが打ち消し合う力に、スケールで逆転勝ちする。これが「最弱の重力が宇宙を支配する」からくりです。強さ(\(\alpha\))と、符号の有無 ── 二つの性質の掛け算で、宇宙の見え方が決まっている。
\(\alpha=e^2/4\pi\varepsilon_0\hbar c\approx1/137.036\) が無次元で、電磁相互作用の結合の強さを表すこと、\(\alpha_G=Gm^2/\hbar c=(m/M_{\text{Planck}})^2\) が二質量の無次元重力結合であること、電子どうしで \(F_{\text{重力}}/F_{\text{電気}}\approx2.4\times10^{-43}\) が距離によらないこと、中性物質で電気力が相殺し重力が累積して巨視的に卓越することは、いずれも確立した物理です。
ただし二点。 ① \(\alpha\approx1/137\) は低エネルギーでの値で、実は測る細かさ(エネルギー)とともにゆっくり変わる(走る)── 高エネルギーでは \(1/128\) 程度。四つの結合は固定値ではなく、エネルギーで動き、高エネルギーで一点に近づく気配がある(統一。姉妹編「わかる力」第8回/「わかる宇宙論」第6回)。図の値は低エネルギーのスナップショットです。 ② 弱い力の"強さ"の見せ方は微妙で、素の結合 \(\alpha_w\sim1/30\) は電磁と同程度なのに、担い手 W が重く短射程(第3回)なので日常では弱く見える ── 「強さ(\(\alpha\))」と「効きめ(射程×強さ)」は別物です。図では素の結合を置きました。重力を \(\alpha_G\) で同列に並べるのも便宜的で、重力は他の三つと同じ意味のゲージ結合ではありません。
力の"強さ"はニュートンでは測れない(距離・単位で変わる状況の量)。単位が消えるように \(e,\varepsilon_0,\hbar,c\) を組むと、電磁気力の強さは純粋な数 \(\alpha=e^2/4\pi\varepsilon_0\hbar c\approx1/137\) に凝縮される。単位が無いから、誰が測っても・どの単位でも同じ ── 宇宙が選んだ剥き出しの数で、姉妹編「わかる宇宙論」の主役でもある。物理的には荷電粒子が光子を1個やりとりする効きめで、\(\alpha\ll1\) ゆえ電磁気は精密に計算できる。
単位を消したおかげで四つの力を同じ土俵に並べられる:強い \(\sim1\)、電磁 \(1/137\)、弱い(素の結合)その中間、重力ははるか下(電子で電磁の \(10^{-43}\))。しかも \(F_{\text{重力}}/F_{\text{電気}}\) は両方 \(1/r^2\) で \(r\) が消え、距離によらない純粋な数。それでも最弱の重力が宇宙を支配するのは、質量の符号が一つで打ち消さず足し上がるから。力の強さも、結局は無次元の一つの数 ── 場を比で読む、第四歩です。
印刷 / PDF 化:⌘+P(Windows は Ctrl+P)。画面では粒子質量スライダーで重力の無次元結合が動きます(電子↔陽子)。「答えを見る」で解答が開きます。