第1回で news は「歩く」と言った。では ── その歩く速さは、何が決めているのか
第1回で、力は場を介して伝わり、場は隣としか話さないから news は光速 \(c\) で「歩く」と言いました。では素朴な問い ── その歩く速さは、何が決めているのか。なぜ秒速 30 万 km で、それより速くも遅くもないのか。この回の答えは、拍子抜けするほど普遍的です。弦の音も、地震の波も、光も、伝わる速さはすべて同じ一つの式で書ける ── \(v=\sqrt{\text{硬さ}/\text{重さ}}\)。硬いほど速く、重いほど遅い。ただそれだけ。そして電磁場でこの「硬さ」と「重さ」を作ると、\(c=1/\sqrt{\varepsilon_0\mu_0}\) がぽろりと出てくる。「なぜか光速で伝わる」の なぜか は、この回で 必然 に変わります。
ぴんと張った弦の左端を、ぱっと弾く。へこみが右へ走っていく。この「へこみが走る速さ」を、伝言ゲームとして分解します。ある一点がへこむと、それは隣を引っぱり上げようとする。この引き戻す強さが硬さ \(k\)(弦なら張力)。でも隣には動きにくさがある。これが重さ \(m\)(弦なら密度)。硬さは「早く隣に伝えろ」と急かし、重さは「そう急ぐな」とブレーキをかける。せめぎ合いの結果が、伝わる速さ ──
硬さ \(k\) が分子(大きいほど速い)、重さ \(m\) が分母(大きいほど遅い)。そして両者は平方根の中にいる ── 硬さを4倍にしても、速さは2倍にしかならない。
なぜ平方根なのか、一言で。硬さ \(k\) は「引き戻す力」を、重さ \(m\) は「加速のしにくさ」を決める。振動の速さ(角振動数)は \(\omega=\sqrt{k/m}\) ── ばね振り子でおなじみのあれ。波の速さも、この振動が隣へ乗り移る速さだから、同じ \(\sqrt{k/m}\) の顔をしている。ばね振り子の \(\sqrt{k/m}\) と、波の速さの \(\sqrt{k/m}\) は、同じものです。
この一本の式で、身のまわりの「速さの違い」がぜんぶ読めます。
弦を伝わる波(張力 T、線密度 μ)
$$v=\sqrt{\dfrac{T}{\mu}}\quad(\text{硬さ}=T,\ \text{重さ}=\mu)$$空気や固体を伝わる音(体積弾性率 K、密度 ρ)
$$v=\sqrt{\dfrac{K}{\rho}}\quad(\text{硬さ}=K,\ \text{重さ}=\rho)$$ギターの弦を強く張る(\(T\uparrow\))と音が高くなるのは \(v\uparrow\) だから。太い弦(\(\mu\uparrow\))の音が低いのは \(v\downarrow\) だから。鉄の中を音が空気の約15倍速く走るのは、鉄が「硬くて(\(K\) 大)、比のうえで軽い」から。名前は違っても、骨格は全部 \(v=\sqrt{\text{硬さ}/\text{重さ}}\)。
ここまでは、目に見える物質の波。ではいよいよ ── 何も無いはずの真空を走る、光の速さへ。
電磁場にも「硬さ」と「重さ」があります。電場には、電気を蓄えようとするときのため込みにくさがあり、これが電気的な硬さ(真空の誘電率 \(\varepsilon_0\) の逆数 \(1/\varepsilon_0\))。磁場には、電流の変化に逆らう粘り=慣性があり、これが磁気的な重さ(真空の透磁率 \(\mu_0\))。同じ骨格に入れると ──
硬さ \(=1/\varepsilon_0\)、重さ \(=\mu_0\)。弦の \(\sqrt{T/\mu}\) と、字面まで同じ。
数を入れてみましょう。実験室の卓上で、光とは無関係に測れる二つの定数 ── \(\varepsilon_0=8.85\times10^{-12}\)、\(\mu_0=1.26\times10^{-6}\) ──
光を一切使わず、電気の実験と磁気の実験だけから計算した速さが、測っておいた光速そのものだった。これが1862年、マクスウェルの震えるような一行です ── 「この速さは光の速さと厳密に一致する。光とは電磁波であると結論せざるをえない」。光の正体は、電磁場の伝言ゲームだったのです。
下の図は競走です。上のレーンは、硬さ \(k\)・重さ \(m\) を自由に変えられる「ばね鎖」。下のレーンは基準として、真空を進む光(速さ \(c\)、変えられない)。同時にスタートして、どちらが先に決勝線へ着くか。
スライダーで硬さ \(k\) を上げると、ばね鎖のパルスは速くなる。重さ \(m\) を上げると遅くなる。表示される速さの比は、ちょうど \(v/c=\sqrt{k/m}\)。\(k=m\)(デフォルト)のとき、比は 1 ── 光とぴったり並走します。硬さと重さが釣り合うと、その場の波は光と同じ速さになる。「なぜ \(c\) か」は、「\(c\) とは、電磁場の硬さと重さが決める、その場に固有の \(\sqrt{k/m}\) だから」なのです。
速さそのもの(m/s)には単位がある。単位を消して比にすると、この回の主役が見えます ── 光と比べて、その波はどれだけ遅いか。
真空(何も足さない電磁場)では \(n=1\) ── これが上限。ガラスや水では、電子が場に揺すられていっしょに動くぶん、余分な「重さ」が加わって \(v
ここが「上限」の核心です。媒質は、余分な重さ(動く電荷の慣性)を足すことしかできない。重さを足せば \(v\) は下がり \(n\) は上がる ── だから真空、つまり余分な重さがゼロのとき、速さは最大値 \(c\) に張りつく。何も足さないときが、いちばん速い。第6回のヒッグス場も、次回の質量も、じつは「場に重さを足す」話 ── 重さを足された場は \(c\) より遅くなり、届く距離まで縮む。逆に重さゼロの場(光子)は、比が上限に達して \(c\) ちょうどで走り、無限の彼方まで届く。「なぜか光速」の なぜか は、「場の重さがゼロだから、\(\sqrt{k/m}\) が上限に達する」という 必然 だったのです。
\(v=\sqrt{\text{硬さ}/\text{重さ}}\) は、弦・音・電磁波・水面波などあらゆる波に本当に共通する厳密な骨格です(波動方程式から出ます)。\(c=1/\sqrt{\varepsilon_0\mu_0}\)、屈折率 \(n=c/v\geq1\)、媒質が \(v\) を下げること、光子が質量ゼロで \(c\) を出すこと ── すべて確立した物理です。
ただし二点、正直に。 ① 電磁場は、エーテルという物質がプルプル震えているわけではありません。19世紀はそう想像しましたが、実験(マイケルソン・モーリー)が否定した。\(\varepsilon_0,\mu_0\) は真空=場そのものの性質で、「硬さ・重さ」は場に対する厳密なたとえ(電気回路の \(v=1/\sqrt{LC}\) と数学的に同型)と受け取ってください。 ② この回は「その波がなぜ \(c\) を出すか」を説明しましたが、「なぜ \(c\) が、この宇宙の絶対の速度上限なのか(何も情報は \(c\) を超えられない)」は、もう一段深い相対論=時空の構造の話で、別の機会に。ここでは「重さゼロの場は \(\sqrt{k/m}\) が最大値に達する」までを、しっかり掴んでください。
第1回で「歩く」と言った news の速さは、何が決めるのか。答えは普遍的で、あらゆる波の速さ \(=\sqrt{\text{硬さ}/\text{重さ}}=\sqrt{k/m}\)。硬さが分子(速く)、重さが分母(遅く)、両者は平方根の中。弦 \(\sqrt{T/\mu}\)、音 \(\sqrt{K/\rho}\)、電磁場 \(\sqrt{(1/\varepsilon_0)/\mu_0}=1/\sqrt{\varepsilon_0\mu_0}=c\) ── 名前は違っても骨格は一つ。マクスウェルは電気と磁気の定数だけから \(c\) を出し、光が電磁波だと見抜いた。
単位を消して比にすると屈折率 \(n=c/v\geq1\)。媒質は場に余分な重さを足すことしかできないから \(v\) は下がり \(n>1\)。ゆえに重さゼロの真空で速さは最大値 \(c\) に張りつく。「なぜか光速で伝わる」の なぜか は、「担い手(光子)の質量がゼロで、\(\sqrt{k/m}\) が上限に達するから」という 必然 だった。単位のある \(T,\varepsilon_0,\mu_0\) は舞台装置、物理を決めるのは比 \(\sqrt{k/m}\) と \(n\) ── 場を比で読む、第二歩です。
印刷 / PDF 化:⌘+P(Windows は Ctrl+P)。画面では硬さ k・重さ m のスライダーで、ばね鎖の波の速さ(=光との速さ比 √(k/m))が変わります。「答えを見る」で解答が開きます。