量子重力自由研究第 1 回 / まず、数えるところから

「わかる共形変換」第9回が行き止まりになった、まさにその場所から始めます

作用しか、
見ていなかった 重力の経路積分は、作用が下に非有界なので定義できない ── 40年以上そう言われてきました。
いちばん簡単な宇宙で数え直すと、足りなかったのは作用ではありませんでした。

必要な道具:二項係数、スターリングの公式、そして「数える」という発想 自由研究 / 手を動かした記録

このシリーズは解説ではありません。自由研究です。
仮説を選んで、自分で計算して、合っているか確かめて、間違えたら間違えたと書く。 今回はその第1回として、量子重力のいちばん古い泣きどころに、いちばん素朴な方法で殴りかかります ── 数える、という方法で。

01行き止まりの確認

「わかる共形変換」の第9回で、こういう場所に着きました。時空の形を全部足し上げる ── それが 経路積分による量子重力です。

$$Z=\int\!\mathcal{D}g\;e^{-S_E[g]}$$

この和が意味を持つには \(S_E\) が下に有界でなければいけません。ところが重力の作用には、 共形因子(=物差しの倍率、宇宙の大きさ)の運動項が逆符号で入っています。だから 共形因子を細かく振動させるだけで、作用はいくらでも負にできる。

$$\phi(x)=1+\varepsilon\sin(2\pi k x)\quad\Longrightarrow\quad S_E\;\propto\;-k^2\;\xrightarrow{\;k\to\infty\;}\;-\infty$$

重み \(e^{-S_E}\) が爆発して、和が定義できない。ギボンズ・ホーキング・ペリー(1978)が指摘した 共形因子問題です。積分路を虚軸に回す応急処置はありますが、40年以上たっても 決定打はありません。

この回の出発点 第9回はここで「正直な線」を引いて終わりました ── これは経路積分で量子化しようとしたときに 現れる問題であって、量子重力が存在しないことの証明ではない、と。 今回はその先へ一歩だけ進みます。

02連続だと、なぜ式がややこしくなるのか

上の式をもう一度見てください。\(k\to\infty\) で発散する。つまりいくらでも細かい波を許している ことが効いています。連続の記述は、細かさに上限を置きません。

ここで素朴な疑問が出ます。離散にして、差分式で書いたらどうなるのか。 格子ゲージ理論は、まさにそれで場の理論を非摂動的に扱えるようにしました。 格子 QCD は「時空は格子である」と主張しているのではありません。格子は正則化であって、 最後に格子間隔をゼロに持っていく。それでも途中の計算は有限で、計算機で回せる。

重力で同じことをやると何が起きるか。それが今回の自由研究です。

03いちばん簡単な宇宙を、紙の上に作る

4次元でいきなりやると手に負えないので、2次元(空間1次元+時間1次元)でやります。 ずるいようですが、これには積極的な理由があります。

2次元を選ぶ理由

2次元では、計量の3成分から微分同相の2つを引いて、重力の自由度は共形因子ひとつだけ
つまりこの計算は、暴れている当人だけを取り出した実験になります。しかも厳密に解けるので、 あとで答え合わせができる。

作り方はこうです。時刻 \(t\) の「空間」を、長さ \(l_t\) の輪(円周を \(l_t\) 本のリンクでできた多角形にしたもの) とします。時刻 \(t\) と \(t+1\) のあいだを、三角形で隙間なく埋める。

合わせて \(l_t+l_{t+1}\) 個。これが「1ティックぶんの時空」です。この作り方には 時間の向きが最初から入っています ── 三角形は必ず下から上へつながり、 途中で時間が枝分かれしたりちぎれたりしない。因果的、という言葉はそういう意味です。

用語 この模型には名前があります。CDT(因果的動的三角形分割 / Causal Dynamical Triangulations)。 アンビョルンとロルが1998年に作りました。この回でやることは全部、自分で数え直して確かめたものです (数値の一致は本文中に書きます)。

04帯を数える ── 力ずくで確かめた

さて、埋め方は何通りあるでしょうか。ここが今回の全部です。

下の各リンクについて「その三角形のてっぺんが、上の輪のどの頂点か」を決めれば、埋め方が決まります。 輪を一周するあいだ、てっぺんは後戻りできません(後戻りしたら三角形が重なる)。 つまり、進む量 \(d_i\ge 0\) を \(l_t\) 個並べて合計が \(l_{t+1}\) になればいい ── そして 「どこから始めるか」の自由度が \(l_{t+1}\) 通り。

計算 ── 帯の埋め方の数
① 数え上げ
$$N(l,l')\;=\;l'\binom{l+l'-1}{l-1}\;=\;\frac{(l+l'-1)!}{(l-1)!\,(l'-1)!}\;=\;\frac{\Gamma(l+l')}{\Gamma(l)\Gamma(l')}$$
② じつは、ベータ関数の逆数
$$N(l,l')=\frac{1}{B(l,l')}$$
③ 時間反転で対称(当たり前だが、式の形だとひと目では分からない)
$$N(l,l')=N(l',l)$$

式を信じないで確かめました。三角形を1個ずつ実際に並べて全部列挙し、重複を消して数える プログラムを書いて、上の式と突き合わせます。

\(l\)\(l'\)力ずくの列挙式 \(\Gamma(l+l')/\Gamma(l)\Gamma(l')\)一致
1111
2266
346060
44140140
5612601260
列挙できる範囲(35 通りの組すべて)で完全一致

05出てきた数 ── \(\ln 2\)

重みを付けます。三角形1個につき \(e^{-\lambda}\) ── これが宇宙定数項です。2次元では 曲率項 \(\int\!\sqrt{g}R\) がオイラー標数(ただの定数)になるので、 力学に効く作用は体積項だけ

$$S_{\rm bare}=\lambda N,\qquad N=\text{三角形の総数}$$

全部の形を足し上げると、\(N\) 個の三角形でできる形は高々 \(\mathcal{N}(N)\) 通りしかないので、

$$Z=\sum_{\text{形}}e^{-\lambda N}=\sum_N \mathcal{N}(N)\,e^{-\lambda N}$$

が収束するかどうかは、\(\mathcal{N}(N)\) の増え方と \(e^{-\lambda N}\) の減り方の勝負です。 母関数を作ると、この勝負の分かれ目がぴたりと出ます。

計算 ── 臨界点
① 転送行列を合成する形(中間スライスの印を1つ割る)
$$K(l,l')=\binom{l+l'-1}{l-1},\qquad \sum_{l,l'\ge1}K(l,l')\,(gx)^l(gy)^{l'}=\frac{g^2xy}{(1-gx)(1-gx-gy)}$$
② 特異点 \(1-gx-gy=0\) を \(x=y=1\) で見ると
$$g_c=\tfrac12\qquad\Longrightarrow\qquad \lambda_c=-\ln g_c=\ln 2$$
今回のいちばん大事な数
$$\boxed{\;\lambda_c=\ln 2=0.6931471805\ldots\;}$$

これは三角形1個あたりのエントロピーです。1個増やすごとに、形の選択肢が2倍に増える。
経路積分が存在する条件は、無次元の比ひとつで書けます:

$$\frac{\lambda}{\ln 2}>1$$

数値でも確かめました。\(g=0.45\) で部分和は \(20.25\)、閉じた形 \(g^2/(1-2g)^2=0.2025/0.01=20.25\) と 小数点以下まで一致。\(g\) を \(0.5\) より大きくすると、部分和は跳ね上がります。

◇ ◇ ◇

06素の作用には、運動項が一行も無い

ここからが本題です。もう一度確認してください ── いま書き下した作用は \(S_{\rm bare}=\lambda N\) だけ。宇宙の大きさが時間とともにどう変わるかを罰する項、 つまり運動項は、一行も入れていません

ところが、配位の重みは作用だけでは決まりません。

$$W[\{l\}]=\underbrace{\prod_t N(l_t,l_{t+1})}_{\text{形の数(エントロピー)}}\times\underbrace{e^{-\lambda N}}_{\text{作用}}$$

「宇宙の大きさの列 \(\{l_t\}\)」から見た有効作用は、対数を取って

$$S_{\rm eff}[\{l\}]=\lambda\sum_t(l_t+l_{t+1})\;-\;\sum_t\ln N(l_t,l_{t+1})$$

第2項が、数え上げから来る項です。これを大きい \(l\) で開いてみます。

07それでも、運動項が生える

計算 ── スターリングで開く
① \(u=l-1,\;v=l'-1,\;n=u+v\) と置くと
$$\ln N=\ln(n+1)!-\ln u!-\ln v!=\ln(n+1)+\ln\binom{n}{u}$$
② 二項係数を中央のまわりで展開(\(\Delta=(u-v)/2\))
$$\ln\binom{n}{\tfrac n2+\Delta}\simeq n\ln 2-\frac{2\Delta^2}{n}-\tfrac12\ln\frac{\pi n}{2}$$
③ もとの変数に戻す
$$\ln N(l,l')\simeq (l{+}l'{-}2)\ln 2\;-\;\frac{(l-l')^2}{2(l{+}l'{-}2)}\;+\;\ln(l{+}l'{-}1)\;-\;\tfrac12\ln\frac{\pi(l{+}l'{-}2)}{2}$$

厳密値と突き合わせると、\(l=l'=10^4\) で相対誤差 \(9\times10^{-10}\)。合っています。 これを有効作用に入れると:

数え上げから生えてきたもの
$$S_{\rm eff}=\sum_t\Big[\;\underbrace{(\lambda-\ln 2)(l_t+l_{t+1})}_{\text{体積項}} \;+\;\underbrace{\frac{(l_{t+1}-l_t)^2}{4\,l_t}}_{\textbf{運動項}}\;+\;(\text{対数項})\;\Big]$$

運動項が出ました。しかも符号は【正】。
これは作用から来たものではありません。作用には運動項が無かったのですから。 100 パーセント、二項係数から来ています。

係数も確かめました。厳密値から \(\Delta l\) の2次の係数を取り出すと、\(l=6400\) で 予想 \(1/(4l)\) との比が 1.00012

第9回とちょうど逆を向いている

第9回(連続)ここ(離散)
動かす場共形因子 \(\phi\)空間の大きさ \(l_t\)(2次元では同じもの)
さざ波を細かくすると\(S_E\propto-k^2\)、いくらでも負運動項 \((\Delta l)^2/4l\) が増える
重み \(e^{-S}\)爆発する減る
違いはエントロピーを数えたか、数えなかったか。それだけ

数字で見ます。\(T=64\)、\(L=200\) の宇宙に、\(l_t=L+A(-1)^t\) というさざ波を立てて 有効作用を測ると:

さざ波の高さ \(A\)05102040
経路積分の重み\(10^{-517}\)\(10^{-521}\)\(10^{-531}\)\(10^{-573}\)\(10^{-742}\)

振動させるほど損をする。 第9回では、まったく同じ操作で重みが爆発していました。

08ツマミひとつで、病気を出したり消したりする

ここまでは紙の上の話です。実際に回してみましょう。下の図は、あなたのブラウザの中で 本物のモンテカルロが走っています。宇宙の大きさの列 \(\{l_t\}\) を、上の重みに従って メトロポリス法で更新しています(帯の自由度は厳密に積分済みなので、近似はありません)。

ツマミは \(\beta\) ── 数え上げをどれだけ真面目に数えるかです。 \(\beta=1\) が本物。\(\beta=0\) は「形の数はどれも同じ」とみなした場合。 \(\beta<0\) は、数え上げを逆符号で入れた場合。

ただし素朴に重みを \(N^\beta\) にすると、\(\beta\) が体積項まで動かしてしまいます (実効的な体積項の係数は \(\lambda-\beta\ln2\) なので)。それだと 「宇宙定数が負になったから膨らんだ」のか「運動項の符号が変わったから壊れた」のかが 区別できません。そこで数え上げから \(\ln2\) の分を先に引いてから \(\beta\) を掛けます

$$\ln W_{\text{帯}}=\beta\Big[\ln N(l,l')-\ln2\,(l+l')\Big]\;-\;\lambda\,(l+l')$$

こうすると体積項の係数は \(\beta\) によらず \(\lambda\) で一定になり、 \(\beta\) が動かすのは運動項だけになります。見えているものが1つに絞れました。

図:2次元 CDT のモンテカルロ。横が空間、縦が時間(下=ビッグバン)。左のツマミを負に倒すと、経路積分が壊れます
健全(有限) 暴走(上限に張り付いた) 表示の上限
計算中…

\(\beta=1\) では、なめらかに広がる宇宙が立ちます。\(\beta\) を 0 に近づけると、 隣り合う時刻がお互いを気にしなくなり、形がばらばらになる。そして \(\beta\) を負にした瞬間、破裂します。

手元で測った数字を置いておきます(\(T=40\)、\(\lambda=0.004\) 固定、15万掃引)。

\(\beta\)1.00.60.30.10.020.0−0.02−0.1−0.3
\(\langle N\rangle\)7442,1243,5965,1056,9729,9202.2×10⁶7.4×10⁶1.0×10⁷
\(\langle(\Delta l)^2/l\rangle\)2.264.3310.037.72401,7811.1×10⁹2.3×10¹⁰4.3×10¹⁰

\(\beta<0\) の列は、上限(\(2^{20}\))に張り付いた数字です。つまり 止めなければどこまでも大きくなる。第9回の「激しく振動するほど得をする」が、 そのまま目の前で起きています。

境目はどこか

表を左から右へ見ていくと、\(\beta\) が小さくなるほど宇宙は大きく荒くなり、 \(\beta=0\) をまたいだところで3桁跳ねます。体積項は動かしていないので、 これは運動項だけのせいです。境目は \(\beta=0\) ── つまり

微視状態を「正の符号で数えたか」だけが、 経路積分が有限か発散かを分けている。

09種明かし ── 何が起きていたのか

経路積分は、作用と測度の二人三脚です。

$$Z=\int\!\underbrace{\mathcal{D}g}_{\text{測度=状態の数}}\;\underbrace{e^{-S_E[g]}}_{\text{作用}}$$

連続の議論は、\(S_E\) が下に非有界だと言っていました。それは正しい。でも それだけでは発散するとは言えません。作用がどれだけ負でも、そういう形が 十分に少なければ和は収束するからです。

離散にすると、その「どれだけあるか」が数えられるようになります。答えは 三角形1個につき2通り、つまりエントロピーは \(\ln 2\) で有限。 一方、作用は三角形1個につき \(\lambda\)。だから勝負は

$$\frac{\lambda}{\ln 2}\;\gtrless\;1$$

という無次元の比ひとつに落ちます。連続の記述では、細かさに上限が無いぶん 状態数も無限になっていて、この比が作れなかった。 作用が病気だったのではなく、状態数を数えていなかったのです。

正直な線

ここは慎重に。2次元は4次元の共形因子問題そのものではありません。 4次元ではアインシュタイン・ヒルベルト作用が最初から逆符号の運動項を持っていますが、 2次元では曲率項が位相不変量なので、素の作用に運動項自体がありません。 2次元で見えたのは「測度が運動項とその符号を決める」という機構のほうです。

その機構が4次元でも効いて、実際に逆符号を直していることは、 アンビョルン・ゲルリッヒ・ユルキェヴィッチ・ロルが4次元 CDT の数値実験で示しています ── 測った有効作用はミニ超空間作用と同じ形で、運動項の符号だけが逆になっており、 その差は微視的配位の数から来ている、と。今回の2次元の計算は、その機構を厳密にやったものです。

それから、これで量子重力が解けたわけではまったくありません。 CDT は「選ばれた葉層(時間の刻み)」を最初から入れています。その代償として ローレンツ対称性は創発として出てくるべきものになる ── そこが次の宿題です。

練習問題
  1. 三角形1個あたりのエントロピーが \(\ln 2\) であることを、「1個増やすと選択肢が何倍になるか」という 言葉で説明せよ。
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    \(N\) 個の三角形でできる形が \(\mathcal{N}(N)\sim 2^N\) 通りなので、三角形を1個増やすたびに 選択肢が2倍になる。対数を取ると1個あたり \(\ln 2\)。 作用は1個あたり \(\lambda\) だけ重みを減らすので、\(\lambda>\ln 2\) なら減るほうが勝って和が収束する。
  2. 2次元では素の作用に運動項が無い。それなのに有効作用に運動項が現れるのはなぜか。
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    重みが「作用 × 形の数」だから。同じ \(\{l_t\}\) を与えても、埋め方の数 \(N(l_t,l_{t+1})\) は \(l_t\) と \(l_{t+1}\) の差が大きいほど少ない(二項係数は中央で最大)。 その \(-\ln N\) が \((\Delta l)^2/(4l)\) という罰則として効く。 運動項の正体は、形の数の減り方
  3. \(\beta\) を負にすると経路積分が壊れるのはなぜか。運動項の符号で説明せよ。
    答えを見る
    運動項は \(\beta\,(\Delta l)^2/(4l)\) なので、係数の符号は \(\beta\) の符号そのもの。 \(\beta<0\) だと「隣り合う時刻の差が大きいほど得をする」ことになり、 いくらでも激しく振動する配位が重みを稼ぐ。これは第9回の \(S_E\propto -k^2\) と同じ症状。
  4. (やや難)格子にすれば発散が消えるのは「ただ細かさに上限を置いたから」ではないか。 この批判にどう答えるか。
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    半分正しい。上限を置けば当然どんな発散も止まる。ただし今回言えているのはもう一段先で、 単位体積あたりのエントロピーが有限(\(\ln 2\))であり、 しかも格子間隔をゼロにする極限で、その比 \(\lambda/\ln2\to1\) として 連続極限が取れるという点。つまり上限を外していく道筋が付いている。 「上限を置いたから有限」ではなく「上限を外しても有限であるような臨界点がある」が主張。 ただし2次元での話であり、4次元でこれが本当に成り立つかは数値的な問題として未決着です。

まとめ ── 足りなかったのは作用ではなかった

量子重力の経路積分は、共形因子(宇宙の大きさ)の運動項が逆符号なので作用が下に非有界になり、 定義できない ── 第9回はそこで止まりました。今回は同じ問題を、いちばん簡単な宇宙で 数え直しました。

2次元の因果的な格子で、時刻 \(t\) と \(t+1\) のあいだの埋め方を数えると \(N(l,l')=\Gamma(l+l')/\Gamma(l)\Gamma(l')\)。これは力ずくの列挙と完全に一致します。 三角形1個あたりのエントロピーは \(\ln 2\)、経路積分が存在する条件は 無次元比 \(\lambda/\ln2>1\) ひとつ。

そして素の作用に運動項が一行も無いのに、数え上げから運動項が生えます ── \((\Delta l)^2/(4l)\)、符号は。さざ波を立てると重みは \(10^{-517}\to10^{-742}\) と減る。第9回では同じ操作で爆発していました。 違いは、エントロピーを数えたかどうかだけです。

数え上げの重み \(\beta\) を負にすれば、病気はいつでも呼び戻せます。つまり 健康と病気のあいだに壁は無く、数え方の符号ひとつで連続につながっている。 これが今回いちばん腑に落ちたところでした。

この文書は「量子重力自由研究」シリーズ第1回です。共形因子問題は Gibbons, Hawking & Perry (1978, Nucl. Phys. B138, 141) 以来知られた標準的な問題です。2次元の因果的動的三角形分割(CDT)は Ambjørn & Loll (1998, hep-th/9805108) が導入し、離散のレベルで厳密に解かれています ── 帯の数え上げ、母関数 \(g^2xy/((1-gx)(1-gx-gy))\)、臨界結合 \(g_c=1/2\)(\(\lambda_c=\ln2\))は 同論文以来の標準的な結果で、本文の数値はすべて筆者が独立に計算し、力ずくの列挙・厳密な転送行列・ モンテカルロの3通りで相互に検証したものです。エントロピー(測度)がミニ超空間作用の逆符号を 動的に直すという4次元での主張は Ambjørn, Görlich, Jurkiewicz & Loll の数値実験によります。 本文の2次元の計算は、4次元の共形因子問題そのものの解決ではなく、その機構を厳密に示したものです。 図はブラウザ内で実際にメトロポリス法を走らせており、\(\beta<0\) での発散は表示上限で打ち切っています。 ── 印刷する場合はブラウザの「印刷」から「PDF に保存」を(印刷版では図とスライダーは静止します)。

印刷 / PDF 化:⌘+P(Windows は Ctrl+P)。画面では β のツマミを負に倒すと、経路積分が壊れる様子が見えます。