わかる学習論第 6 回 / 統一 ── ES=BP、シリーズの心臓部

進化・学習・意識を、ひとつの勾配で読む

進化と学習は、同じ計算だった 微分せずに坂を下る「進化戦略(ES)」と、微分で坂を下る「誤差逆伝播(BP)」。
まったく別物に見える二つが、Stein の補題というたった一本の等式で、厳密に同じ勾配だと分かる。

必要な道具:ガウス積分・部分積分、第5回の超準解析 この回のキー:\(\dfrac{1}{\sigma^2}\,\mathbb{E}\!\left[L(\theta+\varepsilon)\,\varepsilon\right]=\nabla L_\sigma(\theta)\)

ここまでのシリーズで、私たちは二つの「坂の下り方」を手にしました。ひとつは第2回の誤差逆伝播(BP) ── 損失を微分し、勾配 \(\nabla L\) をまっすぐ計算して下る、鋭い局所の道具。もうひとつは第4回の進化戦略(ES) ── 微分を一切使わず、たくさんの摂動をばらまいて「良かった方向」を平均する、鈍いが頑健な集団の道具。微分する学習微分しない進化。両者は哲学からして正反対に見えます。ところが本当は、両者はまったく同じ勾配を計算している。ES は「積分」の顔をした BP であり、BP は「微分」の顔をした ES なのです。この一致を証明するのが、統計学の古典 ── Stein の補題。この回はシリーズの心臓部です。数式の導出をひとつも飛ばさず、最後の恒等式まで自分の足で歩ききりましょう。

01二つの下り方 ── 積分と微分

まず、両者の姿を並べます。第7回で主役になる平滑化損失(ガウス平滑化)を先取りしておきます。損失 \(L\) を、中心 \(\theta\) のまわりに標準偏差 \(\sigma\) のガウスノイズ \(\varepsilon\) でぼかした「ならし」の損失です。

平滑化損失(θ のまわりを σ でぼかす)
$$J(\theta)\;=\;\mathbb{E}_{\varepsilon\sim\mathcal{N}(0,\sigma^2 I)}\!\bigl[\,L(\theta+\varepsilon)\,\bigr]\;=\;L_\sigma(\theta)$$

この \(L_\sigma\) を下げたい、というのが両者の共通の目標です。では、その勾配 \(\nabla L_\sigma(\theta)\) を、二人はどう手に入れるのか。

ES(進化・積分の顔)。中心 \(\theta\) から \(N\) 個の摂動 \(\varepsilon_1,\dots,\varepsilon_N\) をガウスでばらまき、それぞれの評価値だけ \(L(\theta+\varepsilon_i)\) を測る。微分はしない。そして「評価値を重みにした摂動の平均」をとる ── これが ES の勾配推定です。損失のを集めて積分(平均)する、大域的な操作。

二つの推定量を並べる

ES:評価値 × 摂動 の平均(微分なし・大域)

$$\hat{g}_{\mathrm{ES}}\;=\;\frac{1}{\sigma^2}\cdot\frac{1}{N}\sum_{i=1}^{N} L(\theta+\varepsilon_i)\,\varepsilon_i$$

BP:近傍での勾配の平均(微分あり・局所)

$$\hat{g}_{\mathrm{BP}}\;=\;\frac{1}{N}\sum_{i=1}^{N}\nabla L(\theta+\varepsilon_i)\quad\bigl(N\to\infty\ \text{で}\ \mathbb{E}[\nabla L(\theta+\varepsilon)]\bigr)$$

BP(学習・微分の顔)。各点で損失を微分し、勾配 \(\nabla L\) を直接読む。ぼかした損失の勾配なら、近傍の勾配を平均すればよい。損失の傾きを集める、局所的な操作。

一方は値の積分、他方は傾きの微分。使う情報も、計算の哲学も違う。にもかかわらず、この二つは同じ量に収束します。その橋がStein の補題です。

02Stein の補題 ── ガウスの部分積分

鍵になるのは、ガウス分布がもつ一つの美しい等式です。ガウスノイズに「掛け算」された量の平均は、その量を「微分」した平均に化ける ── 積分(平均)と微分を橋渡しする、まさにこの回のための定理です。

Stein の補題(ガウスの部分積分)
$$\varepsilon\sim\mathcal{N}(0,\sigma^2 I),\quad \mathbb{E}\!\left[\,\varepsilon\, f(\varepsilon)\,\right]\;=\;\sigma^2\,\mathbb{E}\!\left[\,\nabla f(\varepsilon)\,\right]$$

(\(f\) は十分によい ── 微分可能で、\(\varepsilon\) が遠方へ行くと爆発しない ── 関数とする)

左辺は「ノイズ \(\varepsilon\) と関数値 \(f\) の積」の平均、右辺は「\(f\) の微分」の平均。左が値の積分、右が傾きの平均。これがそのまま ES と BP の関係の骨格です。なぜこの等式が成り立つのか ── ガウス密度がもつ、たった一つの性質から一行で出ます。次節で1次元の場合を最後まで証明しましょう(多次元は各成分に同じ議論を当てるだけです)。

031次元での証明 ── 部分積分を最後まで

証明の心臓は、ガウス密度 \(p(\varepsilon)\) が満たす微分方程式です。ガウスを微分すると、自分自身に \(-\varepsilon/\sigma^2\) が掛かって戻ってくる ── この一点だけで、あとは部分積分が全部やってくれます。

やってみよう ── ガウスの部分積分

① ガウス密度と、その微分

$$p(\varepsilon)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}\,\sigma}\,e^{-\varepsilon^2/(2\sigma^2)} \qquad\Longrightarrow\qquad p'(\varepsilon)=-\frac{\varepsilon}{\sigma^2}\,p(\varepsilon)$$

② よって「ε × 密度」は「密度の微分」で書き直せる

$$\varepsilon\,p(\varepsilon)\;=\;-\,\sigma^2\,p'(\varepsilon)$$

③ これを平均 \(\mathbb{E}[\varepsilon f(\varepsilon)]\) に代入する

$$\mathbb{E}\!\left[\varepsilon f(\varepsilon)\right] =\int_{-\infty}^{\infty}\!\varepsilon\, f(\varepsilon)\,p(\varepsilon)\,d\varepsilon =-\,\sigma^2\!\int_{-\infty}^{\infty}\! f(\varepsilon)\,p'(\varepsilon)\,d\varepsilon$$

④ 部分積分(境界項は \(p\to 0\) で消える)

$$\int f\,p'\,d\varepsilon =\underbrace{\bigl[\,f(\varepsilon)\,p(\varepsilon)\,\bigr]_{-\infty}^{\infty}}_{=\,0} -\int f'(\varepsilon)\,p(\varepsilon)\,d\varepsilon =-\int f'(\varepsilon)\,p(\varepsilon)\,d\varepsilon$$

⑤ ③に戻すと、負×負で符号がそろう

$$\mathbb{E}\!\left[\varepsilon f(\varepsilon)\right] =-\,\sigma^2\left(-\int f'(\varepsilon)\,p(\varepsilon)\,d\varepsilon\right) =\sigma^2\!\int f'(\varepsilon)\,p(\varepsilon)\,d\varepsilon =\sigma^2\,\mathbb{E}\!\left[f'(\varepsilon)\right]$$

これで \(\mathbb{E}[\varepsilon f(\varepsilon)]=\sigma^2\,\mathbb{E}[f'(\varepsilon)]\) ── Stein の補題(1次元)が厳密に証明できました。近似は一切していません。ガウス密度の \(p'=-(\varepsilon/\sigma^2)p\) という性質と、部分積分だけ。境界項が消えるのは、\(f\) がガウスの裾より穏やかなら \(f(\varepsilon)p(\varepsilon)\to 0\) だからです。

なぜ「部分積分」がここまで効くのか 部分積分は「微分を、掛かっている相手に押しつける」操作です。ここでは、測りたい \(f\) にかかっていた微分を、いったんガウス密度 \(p\) に肩代わりさせ(③)、\(p'=-(\varepsilon/\sigma^2)p\) でそれを「\(\varepsilon\) を掛ける」に翻訳し、部分積分でもう一度 \(f\) 側へ戻す(④⑤)。微分と「\(\varepsilon\) を掛ける」が、ガウスの上では表裏一体 ── これが Stein の補題の正体であり、のちに ES(掛け算)と BP(微分)が一致する理由そのものです。

04中心の恒等式 ── ES = BP = ∇Lσ

準備は整いました。Stein の補題に \(f(\varepsilon)=L(\theta+\varepsilon)\) を代入します。合成関数の微分から、\(\varepsilon\) についての勾配は \(\theta\) についての勾配に等しい ── \(\nabla_\varepsilon L(\theta+\varepsilon)=\nabla_\theta L(\theta+\varepsilon)\) ── ことに注意して。

やってみよう ── 本題への適用

① Stein の補題に \(f(\varepsilon)=L(\theta+\varepsilon)\) を入れる

$$\mathbb{E}\!\left[\varepsilon\,L(\theta+\varepsilon)\right]\;=\;\sigma^2\,\mathbb{E}\!\left[\nabla L(\theta+\varepsilon)\right]$$

② 両辺を \(\sigma^2\) で割る

$$\frac{1}{\sigma^2}\,\mathbb{E}\!\left[L(\theta+\varepsilon)\,\varepsilon\right]\;=\;\mathbb{E}\!\left[\nabla L(\theta+\varepsilon)\right]$$

③ 平均と微分を入れ替える(\(\nabla_\theta\) は \(\varepsilon\) の平均の外へ出せる)

$$\mathbb{E}\!\left[\nabla_\theta L(\theta+\varepsilon)\right]\;=\;\nabla_\theta\,\mathbb{E}\!\left[L(\theta+\varepsilon)\right]\;=\;\nabla L_\sigma(\theta)$$

三つを一本につなぐと、このシリーズの背骨となる恒等式が現れます。

中心の恒等式 ── ES と BP は同じ勾配
$$\underbrace{\frac{1}{\sigma^2}\,\mathbb{E}\!\left[\,L(\theta+\varepsilon)\,\varepsilon\,\right]}_{\text{ES:値の積分・大域}} \;=\; \underbrace{\mathbb{E}\!\left[\,\nabla L(\theta+\varepsilon)\,\right]}_{\text{BP:傾きの平均・局所}} \;=\; \nabla\,\mathbb{E}\!\left[L(\theta+\varepsilon)\right] \;=\; \nabla L_\sigma(\theta)$$

左端は ES ── 微分を使わず、評価値 \(L(\theta+\varepsilon)\) を摂動 \(\varepsilon\) で重みづけて平均した、大域的な「積分」の量。中央は BP ── 無限個の近傍点で微分して得た勾配を平均した、局所的な「微分」の量。この二つが、厳密に等しい。しかもどちらも、平滑化損失 \(L_\sigma\) の勾配 \(\nabla L_\sigma\) にほかならない。

ES は、平滑化した損失の BP である。
進化と学習は、同じ勾配を計算していた。

近似ではありません。有限差分でもありません。Stein の補題という厳密な等式が、二つの世界を一本の線でつないでいる。微分しない進化と、微分する学習は、\(L_\sigma\) という同じ地形の同じ勾配を、ただ違う顔で計算していただけだったのです。

05動かしてみる ── 定理が目の前で握手する

下の図は、恒等式そのものの可視化です。2次元の損失地形(等高線)の上に一点 \(\theta\)(赤)を置き、そこから \(N\) 個のガウス摂動をばらまきます(琥珀の点)。緑の矢印は、ばらまいた点の評価値だけから左辺の式で作った ES 推定 \(\hat{g}\)。黒の矢印は、この地形で解析的に計算できる真の平滑化勾配 \(\nabla L_\sigma\)(右辺)。\(N\) を上げてください ── ES の矢印が、真の勾配へ吸い寄せられるように収束します(推定のばらつきは \(\propto 1/N\))。\(\sigma\) を変えると、ぼかしの強さ=真の勾配自体が変わります。

図:損失地形(負のガウス谷の和)上での中心の恒等式。緑=ES 推定 ĝ =(1/Nσ²)Σ L(θ+εᵢ)εᵢ(評価値のみ・微分なし)/黒=真の平滑化勾配 ∇Lσ(右辺・解析値)。N を上げると緑が黒へ収束する ── これがそのまま定理の証拠
真の平滑化勾配 ∇Lσ(右辺) ES 推定 ĝ(左辺・評価値のみ) 中心 θ 摂動 θ+εᵢ

\(N=2\) ではどうか。緑の矢印は毎回とんでもない方向を指し、長さもでたらめです ── たった2個の評価値から勾配を当てようというのだから当然。ところが \(N\) を数百に上げると、緑は黒にぴたりと重なります。評価値をかき集めて平均するだけで、微分をしていないのに、微分で得られる勾配が復元される。読み取り欄の「角度差」は \(0^\circ\) へ、「大きさ比」は \(1\) へ近づいていく。これが「ES は BP の不偏推定である」ということの、目に見える意味です。

06積分と微分が握手する ── 超準解析の言葉で

前回(第5回)の超準解析の言葉を使うと、この収束はもっと透明になります。集団サイズ \(N\) を有限のまま大きくするのではなく、超有限な \(N\)(無限大の超自然数)にとってみましょう。すると ES の和は超有限和になります。

超準解析の読み ── 標準部分が勾配を復元する
$$\mathrm{st}\!\left(\frac{1}{\sigma^2}\cdot\frac{1}{N}\sum_{i=1}^{N} L(\theta+\varepsilon_i)\,\varepsilon_i\right) \;=\;\frac{1}{\sigma^2}\,\mathbb{E}\!\left[L(\theta+\varepsilon)\,\varepsilon\right] \;=\;\nabla L_\sigma(\theta)$$

無限に多くの個体からなる集団の、評価値で重みづけた平均。その標準部分 \(\mathrm{st}\)(無限小のゆらぎを削ぎ落とした「見える値」)が、ちょうど右辺の期待値=真の勾配に一致します。第5回で見たとおり、集団の一人ひとりは中心 \(\theta\) のモナド(無限小近傍)を埋め尽くす無限小の摂動であり、その無限小たちの合意が、標準の世界の勾配を復元する。有限の \(N\) ではこの合意に \(\propto 1/N\) のゆらぎ(第5回でいう無限小からのズレ)が残りますが、\(N\) が超有限なら、そのズレは無限小として \(\mathrm{st}\) が消し去ります。

積分と微分が、ガウスの上で握手する ふつう積分(値をかき集めて平均する)と微分(一点での傾き)は、逆向きの操作です。それが Stein の補題では等号で結ばれる。左辺は「集団全体を積分した大域の量」、右辺は「一点の勾配という局所の量」。ガウスという分布の対称性が、この大域と局所を折り合わせている。進化が「集団というマクロ」で、学習が「勾配というミクロ」で、それぞれ別々に発見した同じ真実 ── それが \(\nabla L_\sigma\) だったのです。
◇ ◇ ◇

07判決 ── 何が厳密で、何に注意すべきか

この一致は強力ですが、正確に何を主張しているのかは丁寧に裁く必要があります。よくある言い回しを、三つとも法廷にかけます。

主張検討判決
「ES は BP の有限差分近似(差分商で微分を真似ているだけ)」 違う。ES は生の \(L\) を数値微分しているのではなく、平滑化損失 \(L_\sigma\) の勾配の不偏推定。有限差分ではなく、Stein の恒等式による厳密な平均量である ×(棄却)
「ES と BP は、生の損失 \(L\) の上で厳密に一致する」 一致するのは \(\sigma\) でぼかした \(L_\sigma\) の勾配であって、生の \(L\) の勾配ではない。両者が一致するのは \(\sigma\to 0\)(かつ \(L\) が滑らか)の極限のみ 要注意
「Stein の恒等式は厳密(近似ではない)」 そのとおり。可積分性と滑らかさの穏当な仮定のもとで、部分積分から導かれる完全な等式。第3節で近似を一切使わずに証明した 生存
正直な線 ── 「同じ」なのは Lσ の勾配であって、生の L ではない

恒等式 \(\tfrac{1}{\sigma^2}\mathbb{E}[L(\theta+\varepsilon)\,\varepsilon]=\nabla L_\sigma(\theta)\) は、Stein の補題による厳密な等式です(可積分性・滑らかさの穏当な仮定下)。ただし、ここで ES と BP が「同じ」だと言えるのは、あくまで平滑化損失 \(L_\sigma\) の勾配についてです。\(\sigma\) が有限であるかぎり、\(\nabla L_\sigma\) は生の損失の勾配 \(\nabla L\) とはズレます ── このズレの正体と、\(\sigma\) が果たす役割こそ、次回の主題です。

それでも主張は十分に強い。進化(ES)と学習(BP)は、別々の原理ではなく、同一の勾配計算がもつ二つの顔(積分と微分)だった。片方は集団の値をかき集め、片方は一点で微分する ── 道具立てはまるで違うのに、指し示す勾配は同じ。これがこのシリーズの背骨です。次回は、この \(\sigma\) を「解像度/温度」として読み替え、ぼかすことで地形がなめらかになり、局所最小が埋まっていく様子を見ます。

練習問題(今回の恒等式だけで解けます)
  1. Stein の補題で \(f(\varepsilon)=\varepsilon\)(1次元、\(\varepsilon\sim\mathcal N(0,\sigma^2)\))とおくと、何が出るか。左辺・右辺をそれぞれ計算せよ。
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    左辺 \(\mathbb{E}[\varepsilon\cdot\varepsilon]=\mathbb{E}[\varepsilon^2]=\sigma^2\)。右辺 \(\sigma^2\,\mathbb{E}[f'(\varepsilon)]=\sigma^2\,\mathbb{E}[1]=\sigma^2\)。両辺とも \(\sigma^2\) で一致し、Stein の補題が「分散は \(\sigma^2\)」というよく知る事実を含んでいることが分かる。
  2. 損失が二次関数 \(L(\theta)=\tfrac12\|\theta\|^2\) のとき、平滑化損失の勾配 \(\nabla L_\sigma(\theta)\) を求めよ。生の勾配 \(\nabla L=\theta\) とどう違うか。
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    \(L_\sigma(\theta)=\mathbb{E}[\tfrac12\|\theta+\varepsilon\|^2]=\tfrac12\|\theta\|^2+\tfrac12\,\mathbb{E}\|\varepsilon\|^2=\tfrac12\|\theta\|^2+\text{定数}\)。定数は微分で消えるので \(\nabla L_\sigma(\theta)=\theta=\nabla L(\theta)\)。二次関数では平滑化しても勾配が変わらない(だから「生の \(L\) と一致」に見える特別な場合)。一般の非線形な \(L\) ではズレが出る ── そこが判決表の「要注意」。
  3. ES 推定 \(\hat g=\tfrac{1}{\sigma^2}\cdot\tfrac1N\sum_i L(\theta+\varepsilon_i)\varepsilon_i\) について、\(N\) を4倍にすると推定の「ばらつき(標準偏差)」はおよそ何倍になるか。図で確かめられるか。
    答えを見る
    分散は \(\propto 1/N\) なので、\(N\) を4倍にすると分散は \(1/4\)、標準偏差はその平方根で \(1/2\) 倍。図で \(N\) を大きくすると緑の矢印の暴れ幅がちょうど半分ずつ縮み、黒の矢印へ収束していくのが見える。これが「不偏だが分散のある推定」の典型的な振る舞い。

第6回まとめ進化と学習は、同一の勾配の二つの顔

ES は評価値だけを積分する大域の道具、BP は勾配を微分する局所の道具(STEP 01)。両者を橋渡しするのが Stein の補題 \(\mathbb{E}[\varepsilon f(\varepsilon)]=\sigma^2\mathbb{E}[\nabla f]\)(STEP 02)で、これはガウス密度の \(p'=-(\varepsilon/\sigma^2)p\) と部分積分だけから厳密に証明できる(STEP 03)。\(f(\varepsilon)=L(\theta+\varepsilon)\) を入れて整理すると、中心の恒等式 \(\tfrac1{\sigma^2}\mathbb{E}[L(\theta+\varepsilon)\varepsilon]=\mathbb{E}[\nabla L(\theta+\varepsilon)]=\nabla L_\sigma(\theta)\) ── ES=BP=平滑化損失の勾配(STEP 04)。図では \(N\) を上げるほど ES 推定が真の勾配へ収束し(STEP 05)、超準解析では超有限和の標準部分が勾配を復元する(STEP 06)。ただし「同じ」なのは \(L_\sigma\) の勾配で、生の \(L\) ではない(STEP 07)。

微分しない進化と、微分する学習は、別物ではなかった。同じ地形 \(L_\sigma\) の同じ勾配を、積分と微分という二つの顔で計算していただけ ── この一致が、このシリーズの心臓です。残る問いはただ一つ。では \(\sigma\) とは何なのか。

この文書は「わかる学習論」シリーズ第6回、物理・数学・AIに興味のある高校生・大学生向けの読み物です。Stein の補題(\(\varepsilon\sim\mathcal N(0,\sigma^2 I)\) に対し \(\mathbb{E}[\varepsilon f(\varepsilon)]=\sigma^2\mathbb{E}[\nabla f(\varepsilon)]\))は C. Stein に由来する統計学の古典的等式で、本稿の1次元証明(ガウス密度の関係式 \(p'=-(\varepsilon/\sigma^2)p\) と部分積分、境界項の消失)は可積分性・十分な滑らかさ・裾での減衰という穏当な仮定のもとで厳密に成り立ちます。これを \(f(\varepsilon)=L(\theta+\varepsilon)\) に適用し、平均と勾配の交換(優収束など標準的な条件下で正当)を用いて得られる恒等式 \(\tfrac1{\sigma^2}\mathbb{E}[L(\theta+\varepsilon)\varepsilon]=\mathbb{E}[\nabla L(\theta+\varepsilon)]=\nabla L_\sigma(\theta)\) は、進化戦略(ES)の勾配推定が平滑化損失 \(L_\sigma\) の勾配の不偏推定であることを示します(Salimans らの Evolution Strategies の定式化と同じ関係)。強調すべき点として、この一致は生の損失 \(L\) の勾配についてではなく、あくまで \(\sigma\) 平滑化した \(L_\sigma\) の勾配についてのものです。本稿の図の地形は負のガウス関数の和による説明用の模型で、ガウス平滑化が解析的に閉じる(ガウス同士の畳み込みがガウスになる)性質を使って真の \(\nabla L_\sigma\) を厳密に描いています。推定量の分散が \(\propto 1/N\) で減ることは独立標本の標本平均の一般的性質です。超準解析による超有限和の標準部分の解釈は第5回の枠組みに接続した読み替えです。 ── 印刷する場合はブラウザの「印刷」から「PDF に保存」を(印刷版ではスライダーと解答は静止・非表示になります)。

印刷 / PDF 化:⌘+P(Windows は Ctrl+P)。画面では「集団サイズ N」を上げると、緑の ES 推定矢印が黒の真の勾配 ∇Lσ へ収束します。「ぼかし σ」で平滑化の強さを変え、「再抽選」で摂動を引き直せます。「答えを見る」で解答が開きます。