わかる共形変換番外編 ⑤(本編級)/ 位相の行き先を、最後まで追う

番外編④で質量の位相は「重力には見えない」と結論しかけた。ところが量子にすると、一箇所だけ抜け道がある

重力に、位相は見えるか \(G\) は次元付き ── つまり帳簿でした。物理は粒子ごとに違う無次元数 \(\alpha_G\)。
そして質量の位相が映る場所は、宇宙にただ一種類しかありません。回っている時空です。

必要な道具:割り算、複素数の偏角、そして「重力に単一の強さはない」という覚悟 \(\alpha_G=(m/M_{\rm Pl})^2\)

番外編④は「電子の質量に虚部はあるか」を追いかけて、位相には二つのツマミ(Weyl とカイラル)があること、単独の位相は帳簿だが位相差は物理であることを見ました。今回はその位相が重力にどう映るかを最後まで追います。答えは三段構えです ── 古典重力は位相を見ない。量子重力はアノマリーを通して見る。そして見えるのは、時空が回っているときだけ。 ついでに、そもそも「重力の強さ」という単一の数が存在しないことも分かります。

01\(G\) は、帳簿だった

第10回の判定手続きを、いちばん有名な定数にかけます。ニュートン定数 \(G\) の単位は \(\mathrm{m^3\,kg^{-1}\,s^{-2}}\) ── 思いきり次元付きです。よって左の列、帳簿。

では物理は何か。\(G\) と \(\hbar\) と \(c\) と質量から無次元量を作ると、答えは一つしかありません。

重力の、無次元の結合定数
$$\alpha_G=\frac{G m^2}{\hbar c}=\left(\frac{m}{M_{\rm Pl}}\right)^2$$

微細構造定数 \(\alpha=e^2/(4\pi\varepsilon_0\hbar c)\) と、まったく同じ形。ただし質量が入っている

ここが決定的です。\(\alpha\) は電荷が量子化されているので全粒子で同じ値ですが、質量は量子化されていない。だから \(\alpha_G\) は粒子ごとに違う数になります。

\(m/M_{\rm Pl}\)\(\alpha_G=(m/M_{\rm Pl})^2\)
ニュートリノ(\(m_3\))\(4.10\times10^{-30}\)\(1.68\times10^{-59}\)
電子\(4.19\times10^{-23}\)\(1.75\times10^{-45}\)
ミューオン\(8.65\times10^{-21}\)\(7.49\times10^{-41}\)
陽子\(7.69\times10^{-20}\)\(5.91\times10^{-39}\)
タウ\(1.46\times10^{-19}\)\(2.12\times10^{-38}\)
トップクォーク\(1.41\times10^{-17}\)\(2.00\times10^{-34}\)
プランク質量\(1\)\(\mathbf{1}\)

ニュートリノからトップまでで \(1.19\times10^{25}\) 倍の開き。つまり ──

01節の結論

「重力は弱い」は、粒子を指定しないと意味を持たない文です。

重力に単一の強さは存在しない。\(G\) は帳簿で、物理は粒子ごとの \(\alpha_G\)。電磁気と比べれば \(\alpha/\alpha_G(e)=4.17\times10^{42}\) ですが、これも「電子に対しては」という但し書きが要ります。

02\(\alpha_G\) は「どれだけブラックホールに近いか」

この数には、はるかに直観的な意味があります。粒子には長さが二つ付いてきます ── ブラックホールとしての大きさ(シュヴァルツシルト半径)と、量子としての大きさ(コンプトン波長)。

計算 ── 二行

二つの長さ

$$r_s=\frac{2Gm}{c^2},\qquad \lambda_C=\frac{\hbar}{mc}$$

割ると単位が全部消える

$$\frac{r_s}{\lambda_C}=\frac{2Gm}{c^2}\cdot\frac{mc}{\hbar}=\frac{2Gm^2}{\hbar c}=2\alpha_G$$

質量が二乗で出てくるのは、片方が \(m\) に比例し、もう片方が \(1/m\) に比例するから

今回の一行(その1)
$$\alpha_G=\frac12\cdot\frac{r_s}{\lambda_C}=\frac12\cdot\frac{\text{ブラックホールとしての大きさ}}{\text{量子としての大きさ}}$$

\(\alpha_G\) は「その粒子がどれだけブラックホールに近いか」そのものでした。

電子は \(r_s/\lambda_C=3.50\times10^{-45}\)。自分の量子的な広がりに比べて、地平面は \(10^{-45}\) しかない。逆に \(\alpha_G=1\) になる質量を探すと、それがプランク質量です ── 自分のコンプトン波長が自分の地平面になってしまう点。「量子重力のスケール」の定義が、この一行から出てきます。

前シリーズとつながる 番外編③で \(M/m_P=R_H/2\ell_P\) が恒等式だと見ました。あれは宇宙全体を一個の粒子と見たときの \(\alpha_G\) の言い換えです ── 宇宙は \(\alpha_G\simeq(4\times10^{60})^2\)、つまりとっくにブラックホールの条件を満たしている。だからこそ地平面がある。

03電子の重力は、二つの未解決問題の積だった

\(\alpha_G(e)=1.75\times10^{-45}\) という数は、どこから来たのか。第4回の作法で、質量を「無次元の結合 × スカラーの真空期待値」に分解します。\(m_e=y_e v/\sqrt2\) を入れるだけです。

今回の一行(その2)
$$\alpha_G(e)=\underbrace{\frac{y_e^2}{2}}_{4.31\times10^{-12}}\times\underbrace{\left(\frac{v}{M_{\rm Pl}}\right)^2}_{4.07\times10^{-34}}=1.75\times10^{-45}$$

左がフレーバー問題(なぜ \(y_e\) が \(10^{-6}\) か)、右が階層問題(なぜ \(v\ll M_{\rm Pl}\) か)。物理学の二大未解決問題が、掛け算で並んでいる。

桁で言うと 11.4桁と33.4桁。電子に対して重力が弱い理由の 3/4 は階層問題、1/4 はフレーバー問題です。そして番外編④を思い出すと、左の因子には正体がありました ── \(\delta\) が \(135^\circ\) のゼロ点まであと \(2.27^\circ\) のところに立っているから。感度は \(d\ln m_e/d\delta=0.90\)/度でしたから、

$$\frac{d\ln\alpha_G(e)}{d\delta}=1.80\ /\text{度}\qquad\Longrightarrow\qquad \delta\ \text{が}\ 1^\circ\ \text{動けば、電子に対する重力の強さは 6倍変わる}$$
では \(M_{\rm Pl}\) も帳簿では? そのとおりです。第4回で見たように、Weyl 不変な書き方では \(M_{\rm Pl}^2=\xi\phi^2\) ── プランク質量もディラトンの値であって、ゲージで動きます。だから \(M_{\rm Pl}\) 単独は帳簿で、物理は \(m/M_{\rm Pl}\) というだけ。上の式が二つの無次元数の積になっているのは偶然ではなく、そう書くことしかできないからです。
◇ ◇ ◇

04古典の重力は、位相を見ない

ここから本題。番外編④の質量 \(m=m_1+im_2\gamma_5\) を、重力に食わせます。重力が結合する相手はエネルギー運動量テンソル \(T_{\mu\nu}\) ただ一つです。

ところが 04節でやったとおり、カイラル回転 \(\psi\to e^{i\alpha\gamma_5/2}\psi\) は理論を \(|m|=\sqrt{m_1^2+m_2^2}\) の理論に完全に写します。observable は全部同じ ── \(T_{\mu\nu}\) も同じ。したがって

古典重力の判定

重力は \(|m|\) しか見ない。位相は完全に不可視。

これは番外編④の「② カイラル位相単独=帳簿」の、まったく独立な二つ目の確認です。あちらは場の理論の言葉で、こちらは幾何の言葉で、同じ結論に着きました。

02節の \(\alpha_G\) も同じことを言っています。\(\alpha_G=(|m|/M_{\rm Pl})^2\) には位相の入る隙間がない。重力にとって、質量の虚部は存在しないのと同じ。

── で、終わりません。いま「カイラル回転で写せる」と言ったところに、量子が噛みます。

05ツケは、\(R\tilde R\) に回る

第8回でやったことを思い出してください。古典的に自由に回せるツマミが、量子化すると痕跡を残す ── アノマリーです。カイラル回転にもそれがあり、しかも二種類あります。

カイラルアノマリー(全部入り) $$\partial_\mu j_5^\mu=\frac{e^2}{8\pi^2}\,F\tilde F\ +\ \frac{1}{384\pi^2}\,R\tilde R$$

第1項が電磁場、第2項が重力場。\(R\tilde R=\tfrac12\epsilon^{\mu\nu\alpha\beta}R_{\mu\nu\rho\sigma}R_{\alpha\beta}{}^{\rho\sigma}\) はポントリャーギン密度と呼ばれます。

意味はこうです。質量の位相 \(\theta\) をカイラル回転で消したとき、その \(\theta\) は消滅したのではなく作用の \(R\tilde R\) の係数(重力版の \(\theta\) 項)に移動した。帳簿の付け替えであって、消滅ではない。

シリーズを通して三枚目の表になります。

古典で自由なツマミ量子が残す痕跡どこで見えるか
Weyl \(\Omega\)共形アノマリー \(T^\mu_\mu=\tfrac{\beta}{2g}F^2\)\(\beta\) 関数、陽子質量の99%第8回
カイラル \(\alpha\)(電磁)\(F\tilde F\) = \(\theta_{\rm QCD}\)中性子EDM、\(\bar\theta<10^{-10}\)番外編④
カイラル \(\alpha\)(重力)\(R\tilde R\) = \(\theta_{\rm grav}\)今回番外編⑤

では \(R\tilde R\) は、どこで顔を出すのか。ここからが今回いちばん綺麗なところです。

06\(R\tilde R\) は、時空が回っているときにしか存在しない

真空解では、曲率の情報はワイル・スカラー \(\Psi_2\) という複素数ひとつに凝縮します(type D と呼ばれる型の場合)。そして二つの曲率不変量は、その複素数の実部と虚部そのものです。

真空 type-D における二つの不変量

クレッチマン不変量(おなじみの「曲率の大きさ」)

$$R_{\mu\nu\rho\sigma}R^{\mu\nu\rho\sigma}\ \propto\ \mathrm{Re}\!\left(\Psi_2^2\right)$$

ポントリャーギン密度(アノマリーに出てくるほう)

$$R\tilde R\ \propto\ \mathrm{Im}\!\left(\Psi_2^2\right)$$

同じ複素数の、実部と虚部。片方が「曲がり具合」、もう片方が「捩れ具合」。

そしてカー解(回転ブラックホール)では、この複素数が閉じた形で書けます。

$$\Psi_2=-\frac{M}{(r-i\,a\cos\theta)^3}$$

ここで \(a=J/Mc\) が回転パラメータ。虚部は \(a\cos\theta\) からしか来ていません。 だから ──

今回の一行(その3)

重力場に虚部があるのは、時空が回っているときだけ。

\(a=0\)(シュヴァルツシルト)なら \(\Psi_2=-M/r^3\) は実数で、\(R\tilde R=0\)。FRW は共形平坦なのでワイル・テンソルがまるごとゼロ、やはり \(R\tilde R=0\)。宇宙も、静かなブラックホールも、位相を映さない。

時空\(\mathrm{Re}(\Psi_2^2)\)\(\mathrm{Im}(\Psi_2^2)\)位相は見えるか
FRW(膨張宇宙)00見えない(共形平坦)
シュヴァルツシルト\(\ne0\)\(\mathbf{0}\)見えない
カー(回転ブラックホール)\(\ne0\)\(\boldsymbol{\ne0}\)見える

数を入れます。半径依存 \(1/r^6\) を割って規格化し、基準点 \(r=2M\)、\(\cos\theta=0.5\) で測ると:

\(a/M\)実部(規格化)虚部(規格化)\(|\mathrm{Im}/\mathrm{Re}|\)
0(静止)1.00000.00000
0.30.88580.42700.48
0.60.58630.72891.24
0.90.20740.83704.04
0.998(ほぼ極限)0.08640.82989.60

\(a/M\approx0.53\) で虚部が実部を追い越します。 高速回転するブラックホールの近くでは、曲率不変量の「虚のほう」が「実のほう」の10倍あるということ。質量の位相を映す鏡としては、これ以上ないほど明るい場所です。

図:カー時空の子午面(模式図。横が赤道方向、縦が回転軸)。左が実部、右が虚部。ツマミで \(a/M\) を上げていくと、左はほとんど変わらないのに、右が無から生えてくる。黒い領域は地平面の内側
a/M = 0.900
ゼロ 地平面の内側

\(a\gtrsim0.9\) で右の絵に符号の反転が現れます。\(\Psi_2^2\) が \((r-ia\cos\theta)^{-6}\) で、偏角が \(6\) 倍されるからです ── 極方向へ向かうと偏角が \(180^\circ\) を越え、虚部の符号が裏返る。\(a/M=0.998\) では地平面のすぐ外で \(6\varphi=251^\circ\) まで回ります。

◇ ◇ ◇

07それでも、素朴には消える

ここで正直にブレーキを踏みます。上の絵は綺麗ですが、そのままでは観測量になりません。理由が二つ。

理由①:球面平均するとゼロ。 \(\mathrm{Im}(\Psi_2^2)\) は \(\cos\theta\) の奇関数です(北半球と南半球で符号が逆)。だから球面で積分すると消える。数値で確かめると

$$\left\langle \mathrm{Im}(\Psi_2^2)\right\rangle_{r=3M}\ \sim\ 10^{-17}\quad(\text{数値誤差の範囲でゼロ}),\qquad \max\left|\mathrm{Im}\right|=0.837$$

理由②:定数の \(\theta_{\rm grav}\) は全微分。 ポントリャーギン密度の積分は

$$\int R\tilde R\,\sqrt{-g}\,d^4x=32\pi^2\times(\text{ポントリャーギン数})$$

で、閉じた多様体では整数になります。つまり \(\theta_{\rm grav}\) が定数なら、効くのは時空の位相幾何だけ。ふつうの漸近平坦な時空では何も起きません。QED の \(\theta\) 項が(磁気単極子がなければ)観測不能なのと、まったく同じ事情です。

では、どうすれば効くのか。答えは一つしかありません ── \(\theta_{\rm grav}\) を定数ではなく場にすること。

効かせるための唯一の条件
$$S\supset\int \theta(x)\,R\tilde R\qquad\Longrightarrow\qquad \partial_\mu\theta\ne0\ \text{なら部分積分で残る}$$

これには名前があります ── ダイナミカル・チャーン=サイモンズ重力(ジャッキウ=ピ 2003)。そして、そこで起きることが劇的です。

残る
シュヴァルツシルト解は、そのまま解であり続ける\(R\tilde R=0\) なので、新しい項が何も寄与しない
壊れる
カー解は、もはや解ではない\(R\tilde R\ne0\) が源になり、フレーム・ドラッギングに補正が入る

回っていないブラックホールは無傷で、回っているブラックホールだけが壊れる。 06節の \(\mathrm{Im}(\Psi_2)\) の話が、そのまま解の存在/非存在に翻訳されます。

そして、その場は誰か 第4回で、時空のスケール因子は「時空の性質」ではなく「時空の上に乗った場」=ディラトン \(\phi\) だと分かりました。もし \(\theta_{\rm grav}\) がその \(\phi\) と結びついているなら ── 質量の位相のツケは、ディラトンに回り、回転ブラックホールで顔を出すことになります。ただしこれは本稿の語りであって、導出ではありません。\(\phi R\) と \(\theta R\tilde R\) は別の結合であり、両者が同じ場だと言えるのは弦理論のアクシオ・ディラトンのような特定の枠組みの中だけです。

08判定 ── 位相が見える場所は、三つしかない

番外編④と合わせて、質量の位相が観測に顔を出しうる場所を全部並べます。

見える場所仕組み現状
電子EDM質量と湯川の位相差 → 電荷分布の前後非対称\(d_e/(e\lambda_C)<1.1\times10^{-19}\)
強いCP\(\arg\det M_q\) → \(F\tilde F\) → 中性子EDM\(\bar\theta<10^{-10}\)
回転する時空重力アノマリー → \(R\tilde R\propto\mathrm{Im}(\Psi_2^2)\)\(\theta\) が場のときのみ

三つとも、次元付きの量が一つも出てこないのが特徴です。EDM は長さの比、\(\bar\theta\) は角度、ポントリャーギン数は整数。第10回の判定手続きどおり、位相の物理は最初から最後まで無次元でした。

おまけ ── 宇宙でいちばん小さい二つのスケール 重力の話をしているので、ついでに真空エネルギーも無次元にしておきます。\(\rho_\Lambda^{1/4}=2.24\) meV、これを \(M_{\rm Pl}\) で割ると \(1.84\times10^{-31}\)。番外編④のニュートリノは \(m_3/M_{\rm Pl}=4.10\times10^{-30}\)。自然界でいちばん小さい二つのスケールが、たった 22倍しか離れていない(他は \(10^{25}\) 単位で開いているのに)。── ただしこれを説明する理論はありません。偶然かもしれません。
正直な線

07節のダイナミカル・チャーン=サイモンズ重力は修正重力の提案であって、確立した物理ではありません。「カーが解でなくなる」も、その枠組みの中での帰結です。実際に観測で押さえられている上限はまだ緩く、この効果が自然界に存在する証拠はありません。

アノマリーの係数 \(1/384\pi^2\) は規約に依存します(ディラック粒子かワイル粒子か、\(R\tilde R\) の定義に \(1/2\) を含めるか)。文献によって \(768\pi^2\) 等と書かれます。同様に \(R\tilde R\propto\mathrm{Im}(\Psi_2^2)\) の比例係数と符号も規約次第で、本稿が使ったのは「虚部から来る」という定性的な事実だけです。

\(\Psi_2\) の閉じた式は真空の type-D 解に限った話です。物質があるとワイル・スカラーは5つに増え、この単純な言い換えは成り立ちません。図の子午面はボイヤー=リンドクイスト座標をそのまま平面に描いた模式図で、固有距離ではありません。

07節末の「ディラトン=\(\theta_{\rm grav}\)」は本稿の語りです。08節おまけの \(\rho_\Lambda^{1/4}\) と \(m_\nu\) の近さは、説明のない数値的一致にすぎません。そして 03節の \(\delta\) の話は、番外編④の小出の関係式(極質量でだけ成立する経験式)を前提にしています。

練習問題
  1. 「重力は電磁気より \(10^{40}\) 倍弱い」という言い方は、どこが不正確か。
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    粒子を指定していないから。\(\alpha/\alpha_G\) は電子なら \(4.17\times10^{42}\)、陽子なら \(1.2\times10^{36}\)、トップなら \(3.6\times10^{31}\)。「弱さ」は質量比の二乗で決まるので、粒子ごとに \(10^{25}\) 違います。次元付きの \(G\) を比べようとした瞬間に意味を失うのと同じ話です。
  2. \(\alpha_G=1\) の粒子とは何か。
    答えを見る
    \(r_s=2\lambda_C\) の粒子、つまりプランク質量(\(1.22\times10^{19}\) GeV, 約 22 μg)の粒子。自分の量子的な広がりが自分の地平面と同じ大きさになる ── これがプランク質量の定義そのもので、「量子重力のスケール」という言い方の中身です。
  3. なぜ FRW 宇宙では \(R\tilde R=0\) なのか。
    答えを見る
    FRW は共形平坦だから。共形平坦ならワイル・テンソルが恒等的にゼロで、真空でなくても \(R\tilde R\) はワイル部分から作られるので消えます。第6回で「共形変換で FRW を平坦にできる」と言ったことの、直接の帰結です。膨張宇宙は、どれだけ膨張していても捩れていない。
  4. \(\mathrm{Im}(\Psi_2^2)\) は球面平均するとゼロなのに、なぜ「効きうる」と言えるのか。
    答えを見る
    効くのは平均値ではなく、\(\theta(x)\) との積 \(\int\theta(x)R\tilde R\) だから。\(\theta\) が場として空間依存していれば、奇関数どうしの積が偶関数になって残りえます。定数の \(\theta\) では消え、場の \(\theta\) では消えない ── これが 07節の「全微分か否か」の別の言い方です。
  5. (やや難)\(\Psi_2=-M/(r-ia\cos\theta)^3\) から、虚部が実部を追い越す条件を出せ。
    答えを見る
    \(\Psi_2^2\propto(r-ia\cos\theta)^{-6}=\rho^{-6}e^{6i\varphi}\)(\(\varphi=\arctan(a\cos\theta/r)\))。だから実部 \(\propto\cos6\varphi\)、虚部 \(\propto\sin6\varphi\) で、\(|\tan6\varphi|>1\)、つまり \(\varphi>7.5^\circ\) が条件。基準点 \(r=2M,\cos\theta=0.5\) なら \(\tan\varphi=a/4\) なので \(a/M>4\tan7.5^\circ=0.527\)。表の「0.53 で追い越す」はこれです。

まとめ位相は、回っている時空にだけ映る

まず \(G\) が帳簿でした。次元付きだからです。物理は \(\alpha_G=(m/M_{\rm Pl})^2\) で、これは粒子ごとに違い、ニュートリノからトップまで \(10^{25}\) 開いています。「重力は弱い」は粒子を指定しないと意味を持たない文だった。そして \(\alpha_G=\frac12(r_s/\lambda_C)\) ── \(\alpha_G\) はその粒子がどれだけブラックホールに近いかそのもので、\(\alpha_G=1\) の点がプランク質量です。

電子の \(\alpha_G=1.75\times10^{-45}\) は、\((y_e^2/2)\times(v/M_{\rm Pl})^2\) に厳密に割れます ── フレーバー問題(11.4桁)と階層問題(33.4桁)の積。番外編④とつなげば、左因子は「\(\delta\) がゼロ点まであと \(2.27^\circ\)」でした。\(\delta\) が \(1^\circ\) 動けば、電子に対する重力の強さは 6倍変わります。

肝心の位相は、古典重力にはまったく見えません。\(T_{\mu\nu}\) がカイラル回転で不変だからで、これは番外編④の結論の独立な二つ目の確認です。ところが量子にすると、そのカイラル回転がアノマリーを持つ ── ツケは \(R\tilde R\) の係数に回る。第8回(共形アノマリー)、強いCP(電磁カイラルアノマリー)に続く三枚目です。

そして \(R\tilde R\) が住んでいる場所を突き止めました。真空 type-D では \(R\tilde R\propto\mathrm{Im}(\Psi_2^2)\) で、カーの \(\Psi_2=-M/(r-ia\cos\theta)^3\) の虚部は \(a\cos\theta\) からしか来ない。膨張宇宙(共形平坦)でもシュヴァルツシルトでもゼロ、カーでだけ非ゼロ。しかも \(a/M\approx0.53\) で虚部が実部を追い越し、\(a/M=0.998\) では 9.6倍になります。── 質量に虚部があるかを問うと、それが映るのは重力場の虚部だけで、重力場に虚部があるのは時空が回っているときだけだった。ただし球面平均するとゼロで、\(\theta\) が定数なら全微分。効かせるには \(\theta\) が場でなければならず、そのときシュヴァルツシルトは生き残り、カーだけが解でなくなります。

この文書は「わかる共形変換」シリーズ番外編⑤、物理好きの高校生・大学生向け読み物です。\(\alpha_G=Gm^2/(\hbar c)=(m/M_{\rm Pl})^2\) が重力の無次元結合であること、\(r_s/\lambda_C=2\alpha_G\) であることはいずれも初等的な恒等式です。表の値は \(M_{\rm Pl}=1.2209\times10^{19}\) GeV、\(v=246.22\) GeV、PDG の質量を用いて本稿で計算しました。\(\alpha_G(e)=(y_e^2/2)(v/M_{\rm Pl})^2\) の分解も恒等式です。カイラル回転が \(T_{\mu\nu}\) を不変に保つこと、したがって古典重力が質量の位相を見ないことは標準的な帰結です。重力カイラルアノマリー \(\partial_\mu j_5^\mu\supset(1/384\pi^2)R\tilde R\) は Kimura (1969)、Delbourgo & Salam (1972) 以来知られていますが、係数はディラック/ワイルの別や \(R\tilde R\) の規格化の取り方に依存します。\(\int R\tilde R=32\pi^2\times\)(ポントリャーギン数)も標準的です。真空 type-D 解でクレッチマン不変量とポントリャーギン密度がそれぞれ \(\mathrm{Re}(\Psi_2^2)\)、\(\mathrm{Im}(\Psi_2^2)\) に比例すること、およびカー解で \(\Psi_2=-M/(r-ia\cos\theta)^3\) となることは標準的です(比例係数と符号は規約依存)。表と図の数値(\(a/M=0.53\) で虚部が実部を追い越す、\(a/M=0.998\) で 9.6倍、球面平均が \(10^{-17}\) でゼロ)は基準点 \(r=2M,\cos\theta=0.5\) における本稿の計算です。ダイナミカル・チャーン=サイモンズ重力は Jackiw & Pi (2003) に始まる修正重力の提案であり、確立した理論ではありません。その枠組みでシュヴァルツシルト解が保たれカー解が保たれないこと(緩慢回転解に補正が入ること)は同分野の標準的な結果ですが、観測的に確認されたものではありません。「ディラトンが \(\theta_{\rm grav}\) である」という 07節末の示唆は本稿による語りで、導出ではありません。\(\rho_\Lambda^{1/4}=2.24\) meV は \(h=0.674\)、\(\Omega_\Lambda=0.685\) から本稿で計算した値で、これがニュートリノ質量に近いことは説明のない数値的一致です。03節の \(\delta\) に関する記述は番外編④の小出の関係式(理論的導出を持たず、極質量でのみ成立する経験式)を前提にしています。図は模式図であり、ボイヤー=リンドクイスト座標をそのまま平面に描いたもので、固有距離を表しません。学術的な標準はインフレーションを含む \(\Lambda\)CDM モデルと、修正のない一般相対論です。 ── 印刷する場合はブラウザの「印刷」から「PDF に保存」を(印刷版ではスライダーと解答は静止・非表示になります)。

印刷 / PDF 化:⌘+P(Windows は Ctrl+P)。画面ではスライダーで回転パラメータを変え、右の絵(虚部)だけが無から生えてくるのが見えます。「答えを見る」で解答が開きます。