わかる共形変換第 4 回 / 計量から作用へ ── なぜあの書き換えが許されたのか

スケール因子は、時空の性質ではなく、時空の上に乗った「場」だった

重力は、スカラー1個になる 第3回では計量を書き換えました。でも「なぜそんな書き換えをしていいのか」は、
計量を眺めているだけでは分かりません。理由は、一段深いところ ── 作用にあります。

必要な道具:部分積分、指数と対数、それと「作用」という考え方(本文で用意します) \(\phi^2\tilde R + 6(\partial\phi)^2\)

第3回で、\(c\cdot t=\text{一定}\) の宇宙は共形変換でミンコフスキーになり、その同じ計量を宇宙時間で読むと「光速が遅くなる」になる、と分かりました。三つの絵が同じ物理だ、とも。でも なぜ、そんな都合のいい書き換えが許されるのでしょうか。 計量だけを見ていても、答えは出ません。物理法則そのもの ── 作用に共形変換をかけてみると、理由がはっきりします。そして途中で、少し驚くことが起こる。重力が、スカラー場ひとつに化けるのです。

01まず「作用」とは、何か

物理法則を書く方法は二つあります。ひとつは「この式に従って動け」という運動方程式。もうひとつが作用で、こちらは点数表です。考えうるすべての経路にあらかじめ点数をつけておき、自然は点数が極値になる経路を選ぶ ── そういう書き方。

点数表のほうが便利なのは、対称性がひと目で見えるからです。運動方程式を10本にらむより、点数表を1本見て「この操作で点数が変わらない」と言えるほうが早い。今回やりたいのはまさにそれです。

重力の点数表は、アインシュタイン・ヒルベルト作用と呼ばれます。

重力の点数表
$$S = \frac{c^4}{16\pi G}\int\! \sqrt{-g}\;R\;d^4x$$

読み方はこれだけで十分です。\(R\) は時空の曲がり具合(スカラー曲率)。\(\sqrt{-g}\) は体積の測り方で、計量が伸びれば体積も変わるぶんを補正する係数。合わせて「時空の曲がりを、時空全体で足し上げたもの」。この点数が極値になる、という条件からアインシュタイン方程式が出てきます。

記号の約束(読み飛ばし可) 符号は \((-,+,+,+)\)。\((\partial\phi)^2\) は \(g^{\mu\nu}\partial_\mu\phi\,\partial_\nu\phi\) の略、\(\Box\) は \(g^{\mu\nu}\nabla_\mu\nabla_\nu\)。チルダ付き(\(\tilde g,\tilde R,\tilde\Box\))は、共形変換したあとの量です。

02点数表に、共形変換を入れてみる

第3回でやったのと同じ置き換えをします。ただし今度は、計量ではなく作用のほうへ。

$$g_{\mu\nu} = \phi^2\,\tilde g_{\mu\nu}$$

ここで \(\phi\) は、第3回でスケール因子 \(a\) が担っていた役です(\(\phi=a\))。ただしこれから \(\phi\) を、時空の各点で値を持つ「場」として扱います。この一歩が、今回のすべてです。

必要な公式は二つ。体積のほうは素直で、4次元なので \(\phi\) が4つぶん出ます。曲率のほうは少し込み入っていますが、教科書に載っている標準的な結果です。

計算 ── 三行で終わります

① 二つの公式(\(\omega=\ln\phi\) と書きます)

$$\sqrt{-g}=\phi^4\sqrt{-\tilde g},\qquad R=\phi^{-2}\Big[\tilde R-6\tilde\Box\omega-6(\tilde\partial\omega)^2\Big]$$

② 掛け合わせて、\(\omega\) を \(\phi\) に戻す

$$\sqrt{-g}\,R=\sqrt{-\tilde g}\;\phi^2\Big[\tilde R-6\tilde\Box\omega-6(\tilde\partial\omega)^2\Big] =\sqrt{-\tilde g}\Big[\phi^2\tilde R-6\,\phi\,\tilde\Box\phi\Big]$$

(\(\Box\ln\phi=\Box\phi/\phi-(\partial\phi)^2/\phi^2\) を使うと、\((\partial\phi)^2\) の項がきれいに消え合います)

③ 部分積分すると、符号が反転して残る

$$\int\!\sqrt{-\tilde g}\,\big(-6\phi\tilde\Box\phi\big)=+6\int\!\sqrt{-\tilde g}\,(\tilde\partial\phi)^2$$

微分が片方から片方へ移り、マイナスがひとつ付いて、二つのマイナスが打ち消える。高校で習う部分積分と、やっていることは同じです。

共形変換した、重力の点数表
$$S = \frac{c^4}{16\pi G}\int\!\sqrt{-\tilde g}\;\Big[\;\phi^2\tilde R\;+\;6\,(\tilde\partial\phi)^2\;\Big]d^4x$$

もとの点数表には \(R\) しかありませんでした。いまは、曲率の項と、\(\phi\) が動くことに対する項の二つがある。重力が、幾何と場に分裂しました。

◇ ◇ ◇

03出てきた形の正体 ── 「1/6」は偶然ではない

この形、実は素粒子論の教科書に載っています。6でくくり出してみましょう。

$$S = \frac{6c^4}{16\pi G}\int\!\sqrt{-\tilde g}\;\Big[(\tilde\partial\phi)^2+\tfrac{1}{6}\,\phi^2\tilde R\Big]d^4x$$

角括弧の中は、共形結合したスカラー場そのものです。スカラー場を曲がった時空に置くとき、曲率との結合の強さ \(\xi\) は本来自由に選べます(\(\xi\phi^2R\) という項)。ところが

共形結合の値(\(D\) 次元)
$$\xi=\frac{D-2}{4(D-1)}\;\xrightarrow{\;D=4\;}\;\frac{2}{12}=\frac{1}{6}$$

この特別な値のときだけ、質量ゼロのスカラー場の理論は共形変換のもとで不変になります。そして重力を書き換えたら、その特別な値がひとりでに出てきた。偶然ではありません ── もともと \(\phi\) は共形変換の因子として持ち込んだのだから、共形変換と相性のいい結合になるのは当然です。でも、当然が式の上に現れると気持ちがいい。

04スケール因子は、場だった

ここが今回のいちばん大きな話です。

もとの描像で、\(a(t)\) は時空そのものの性質でした。「空間が伸びている」という、入れ物の側の事実。ところが書き換えたあとの \(\phi\) は、時空の上に乗って値を持つ場です。入れ物 \(\tilde g\) と、中身 \(\phi\) に分かれた。膨張は、幾何から場へ引っ越したのです。

この \(\phi\) には名前があります。ディラトン(dilaton、伸び縮みの場)。そして第3回で見た「質量が \(\phi\) 倍になる」を思い出すと、この場の役割がはっきりします ── ディラトンは、すべての質量の目盛りを決める場です。

't Hooft の提案 ゲラルト・'t Hooft は 2014–15 年に、まさにこの書き換えを出発点にした提案をしています ── 「アインシュタイン・ヒルベルト作用の計量にディラトン場の2乗を掛けることで、ディラトンが共形因子の役を引き受ける」。そのうえで、局所共形対称性を「近似的で汚く破れた対称性」ではなく 厳密だが自発的に破れた対称性とみなすべきだ、と主張しました。ヒッグス機構と同じ構図です。彼はこれをローレンツ不変性と同格の基本対称性かもしれない、とまで言っています。

05なぜ書き換えが許されたのか ── 対称性が1個増えている

やっと最初の問いに答えられます。新しい点数表を眺めてください。\(\tilde g\) と \(\phi\) は、いつも \(g=\phi^2\tilde g\) という組み合わせでしか現れません。ということは ──

新しく手に入った対称性
$$\tilde g_{\mu\nu}\to\Omega^2\tilde g_{\mu\nu},\qquad \phi\to\phi/\Omega \qquad\Longrightarrow\qquad S\ \text{は変わらない}$$

\(\tilde g\) を \(\Omega^2\) 倍しても、\(\phi\) を \(1/\Omega\) 倍すれば、積 \(\phi^2\tilde g\) は動かない。だから点数は1点も変わりません。共形変換が、この理論の対称性になったのです。

そして対称性があるということは、どう分けるかは自由だということ。膨張という一つの事実を、\(\tilde g\) に持たせるか \(\phi\) に持たせるかは、こちらが決めていい ── これが第3回の三つの絵の、正体でした。絵の違いは物理の違いではなく、ゲージの選び方だった。

図:ゲージのツマミ。膨張を「計量が持つぶん」と「場が持つぶん」にどう配分しても、観測される比だけは動かない
s = 0.00(標準の絵) t = 0.5t₀ で 空間 ã = 0.500 場 φ = 1.000 → 比 ã·φ = 0.500
計量が持つぶん ã(空間の伸び) 場が持つぶん φ(=質量 m̃/m) 観測される比 ã·φ(動かない)

青と緑はツマミに応じて激しく入れ替わるのに、紺の線はぴくりとも動きません。紺が表しているのは 「銀河間の固有距離 ÷ 原子の半径」 ── 望遠鏡と定規で実際に測れる、次元の消えた比です。原子半径は \(1/\tilde m\) に比例し、\(\tilde m=\phi m\) ですから、この比は \(\tilde a\cdot\phi\) に比例する。そして \(\tilde a\cdot\phi = a\) は、ゲージの選び方に依りません。

番外編⑧との握手(前シリーズ) 前シリーズ番外編⑧「固定しない、が最強だった」で、ヤン=ミルズが勝ったのは対称性を露わに保つ記述を選んだからだ、と書きました。今回やったのは、まったく同じ手口です。「膨張」という固定した事実を、場 \(\phi\) を1個持ち込むことで選び直せる自由に変え、対称性として露わにした。露わになった瞬間、第3回で並べた三つの絵が「同じ理論の三つのゲージ」として一列に並びます。

06数え上げ ── ただし、増えていない

ここで立ち止まる必要があります。場を1個増やしたのに、物理は増えていないのでしょうか。数えてみましょう。

+1
場が1個増えたスカラー場 \(\phi\)(ディラトン)
−1
対称性が1個増えた共形変換 \(\tilde g\to\Omega^2\tilde g,\ \phi\to\phi/\Omega\)。対称性は、自由度を1個食べる
=0
差し引き、物理の自由度はゼロだから書き換えは安全 ── 逆に言えば、何も新しいことは起きていない

これは物理を足す操作ではなく、帳簿を書き換える操作だ、ということです。前シリーズの背骨がそのまま出てきました。ただし帳簿を書き換えたおかげで、選択の自由が目に見えるようになった ── それがこの書き換えの、唯一にして最大の利益です。

07払う代償 ── 符号が、逆を向いている

最後に、気持ちの悪いものを一つ置いていきます。もう一度、出てきた点数表を見てください。

$$S \supset \frac{c^4}{16\pi G}\cdot 6\int\!\sqrt{-\tilde g}\,(\tilde\partial\phi)^2$$

健全なスカラー場なら、この項は \(-\tfrac12(\partial\phi)^2\) というマイナスで始まるはずです。ところがここは \(+6\)。符号が逆を向いている。こういう場をゴーストと呼びます ── 動けば動くほどエネルギーが下がるので、放っておくと際限なく暴走する。

いまは、まだ困りません。\(\phi\) は 05 節で見た通りまるごとゲージで、共形変換ひとつで好きな値に固定できてしまう。動く自由がないものは、暴走のしようもない。

困るのは、量子にしたときです。経路積分ではあらゆる場の値を足し上げるので、「ゲージだから見ないでおく」が通りません。1978年、ギボンズ・ホーキング・ペリーはこの符号のせいで重力の作用が下に非有界になることを指摘しました ── 共形因子問題。量子重力のいちばん古い泣きどころのひとつで、いまも完全には片付いていません。第9回で正面から扱います。

正直な線

今回やったのは Stückelberg 型の書き換えです ── 「共形不変な重力理論を新しく作った」のではありません。もとのアインシュタイン重力と、物理的な中身は完全に同じ。06節の数え上げがその証拠です。共形対称性は、こうやってなら「後付けで」いくらでも作れてしまう、という点は忘れないでください。

't Hooft の主張は、ここから先の仮説です ── 「後付けで作れる対称性」ではなく「自然が本当に持っている、自発的に破れた対称性」だと見なそう、という提案。魅力的ですが、まだ証拠のある話ではありません。今回の計算が保証しているのは、あくまで「書き換えは正しくできる」ところまでです。

練習問題(今回の式だけで解けます)
  1. \(\phi\) を定数(\(\phi=1\))に固定すると、新しい点数表はどうなるか。
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    \(\partial\phi=0\) なので第二項が消え、\(S=(c^4/16\pi G)\int\sqrt{-\tilde g}\,\tilde R\) ── もとのアインシュタイン・ヒルベルト作用に戻ります。これが「標準の絵(膨張を計量に持たせるゲージ)」です。
  2. 逆に \(\tilde g\) をミンコフスキーに固定すると(\(\tilde R=0\))、点数表には何が残るか。それは何の理論か。
    答えを見る
    \(S=(6c^4/16\pi G)\int(\tilde\partial\phi)^2\) だけ。平らな時空の上を動く、スカラー場ひとつの理論です。重力がまるごとディラトンに化けた ── 第3回の「質量が育つ絵」の、作用レベルの姿。
  3. 次元 \(D=2\) では共形結合 \(\xi\) はいくらか。そのとき \(\phi^2R\) の項はどうなるか。
    答えを見る
    \(\xi=(D-2)/4(D-1)=0\)。2次元では曲率との結合が消え、質量ゼロのスカラー場はそのままで共形不変になります。2次元の共形場理論が特別に強力なのは、この事情と地続きです。
  4. (やや難)図で、青と緑がどれだけ入れ替わっても紺が動かないのはなぜか。式で説明せよ。
    答えを見る
    ゲージ \(s\) を \(\tilde a=a^{1-s},\ \phi=a^{s}\) と取ると、いつでも \(\tilde a\cdot\phi=a^{1-s}\cdot a^{s}=a\)。原子半径 \(\propto 1/\tilde m=1/(\phi m)\)、固有距離 \(\propto\tilde a\) なので、比は \(\tilde a\phi\propto a\) で \(s\) に依らない。指数の足し算が 1 に揃うことが、ゲージ不変性の正体です。

まとめ膨張は、幾何から場へ引っ越した

重力の点数表 \(S=(c^4/16\pi G)\int\sqrt{-g}R\) に \(g=\phi^2\tilde g\) を入れ、部分積分すると \(\;\phi^2\tilde R+6(\tilde\partial\phi)^2\;\) が出る。角括弧を 6 でくくれば係数は \(1/6\) ── 4次元の共形結合そのもの。重力は、共形結合したスカラー場ひとつに化けた。この \(\phi\) がディラトンで、すべての質量の目盛りを決める場です('t Hooft)。

そしてこの点数表は \(\tilde g\to\Omega^2\tilde g,\ \phi\to\phi/\Omega\) で不変 ── 共形変換が対称性になった。第3回で並べた三つの絵は、この対称性の三つのゲージ選択でした。ただし場を1個増やして対称性を1個増やしただけなので、物理の自由度は差し引きゼロ。帳簿の書き換えであって、新しい物理ではない。 代償として \(\phi\) の運動項は符号が逆(ゴースト)── 古典では無害、量子では厄介。

この文書は「わかる共形変換」シリーズ第4回、物理好きの高校生・大学生向け読み物です。共形変換 \(g_{\mu\nu}=\phi^2\tilde g_{\mu\nu}\) のもとで \(\sqrt{-g}=\phi^4\sqrt{-\tilde g}\)、\(R=\phi^{-2}[\tilde R-6\tilde\Box\ln\phi-6(\tilde\partial\ln\phi)^2]\) となること、およびアインシュタイン・ヒルベルト作用が部分積分により \(\phi^2\tilde R+6(\tilde\partial\phi)^2\) の形になることは標準的な結果です(表面項は落としています)。4次元の共形結合 \(\xi=1/6\)、一般には \(\xi=(D-2)/4(D-1)\)。この書き換えは補償場(Stückelberg 場)の導入であり、物理的自由度を増やしません ── したがって「共形不変性を持つ重力理論」を新たに構成したことにはなりません。局所共形対称性を自発的に破れた厳密な対称性とみなす提案は 't Hooft (arXiv:1410.6675 ほか) によります。共形因子の運動項が逆符号であること、およびそれがユークリッド重力作用の下方非有界性を招くことは Gibbons, Hawking & Perry (1978, Nucl. Phys. B138, 141) 以来知られた問題です。図はゲージ選択 \(\tilde a=a^{1-s},\ \phi=a^{s}\) による配分の可視化で、\(a(t)=t/t_0\) を用いています。 ── 印刷する場合はブラウザの「印刷」から「PDF に保存」を(印刷版ではスライダーと解答は静止・非表示になります)。

印刷 / PDF 化:⌘+P(Windows は Ctrl+P)。画面ではスライダーで「膨張を計量と場にどう配分するか」を連続的に変えられます。「答えを見る」で解答が開きます。