わかる共形変換第 3 回 / 前シリーズ「わかる宇宙論」の合言葉を、変換の言葉で書き直す

「光速が遅くなる」は、いったい何をした結果なのか ── 正体を、一本の式で押さえる

「光が遅くなる」の正体 前シリーズが最初から最後まで使い倒した \(c\cdot t=\text{一定}\)。
あれに共形変換をかけると、「光速が遅くなる」がどこから来たのかが、はっきり見えます。

必要な道具:割り算、指数と対数、微分ひとつ \(d\tilde s^2=-c_B(t)^2dt^2+dx^2\)

前シリーズ「わかる宇宙論」は、第1回から最終回まで 「宇宙が膨張している」を「光速がゆっくり遅くなっている」と読み替える という一本の補助線で走りました。番外編④では、その読み替えが成り立つ条件を二つ挙げた ── \(c_B\cdot a=\text{一定}\) と \(\alpha\) 不変。正しい答えでしたが、なぜその二つなのかは、はっきりしないままでした。第1回・第2回で用意した共形変換を使うと、二つとも同じ一つの操作から出てきます。しかも「光速が遅くなる」の正体が、たった一行で言えるようになる。

01共形変換とは、物差しを場所ごとに変えること

第1回で見た通り、共形変換(Weyl 変換)は一行で書けます。時空の各点で、長さの物差しを \(\Omega\) 倍する ── それだけです。

この回でやる操作は、これ一つ
$$\tilde g_{\mu\nu} = \Omega^2\, g_{\mu\nu}\qquad(\Omega \text{ は場所と時刻の関数})$$

座標変換(同じ地図に別の目盛りを振る)とは違います。座標変換では時空の形は変わりませんが、共形変換は長さそのものを引き伸ばす。ただし各点で全方向いちように伸ばすので、角度は変わらない ── だから「共形(形を共にする)」と呼ばれます。

そして第1回で強調した通り、この操作は「時空を変えた」のではなく「物差しを取り替えた」と読むこともできます。単位系の変更を、場所ごとにやっているだけ。この二通りの読み方の間を行き来するのが、このシリーズ全体のテーマです。

02\(c\cdot t=\text{一定}\) の宇宙を、二手で平らにする

舞台を用意します。平らな膨張宇宙(FLRW)の計量は、伸びない格子(共動座標 \(x\))とスケール因子 \(a(t)\) を使って

$$ds^2 = -c_0^2\,dt^2 + a(t)^2\,dx^2$$

と書けます。前シリーズの \(c\cdot t=\text{一定}\) は、正体を明かせば \(a(t)=t/t_0\)(まっすぐ膨張)でした。これを共形変換で完全に平らな時空に持っていきます。二手で済みます。

第一手:時間の目盛りを取り替える(共形時間)

まず座標変換だけ。時間の刻みを \(a\) で割った新しい時間 \(\eta\) を使います。

共形時間 η を作る

定義

$$d\eta = \frac{dt}{a(t)} = \frac{t_0}{t}\,dt$$

積分すると

$$\eta = t_0\ln\!\frac{t}{t_0}\qquad\Longleftrightarrow\qquad t = t_0e^{\eta/t_0},\quad a(\eta)=e^{\eta/t_0}$$

面白いことが起きています。宇宙時間で「まっすぐ」だった膨張 \(a\propto t\) は、共形時間で見ると指数関数 \(a\propto e^{\eta/t_0}\) になる。そして計量は、全体をくくり出せる形になります。

$$ds^2 = e^{2\eta/t_0}\Big[-c_0^2\,d\eta^2 + dx^2\Big]$$

角括弧の中は、もう膨張していません。ただのミンコフスキー(平らな時空)です。膨張はぜんぶ、前についた一個の係数 \(e^{2\eta/t_0}\) に押し込まれました。

第二手:その係数を、共形変換で消す

係数が一個くくり出せたなら、共形変換の出番です。\(\Omega = 1/a = e^{-\eta/t_0}\) を選べば、きれいに割り切れます。

\(c\cdot t=\text{一定}\) の宇宙を、共形変換した姿
$$d\tilde s^2 = \Omega^2 ds^2 = -c_0^2\,d\eta^2 + dx^2$$

厳密なミンコフスキー時空です。膨張は、跡形もありません。ここまでは、共形変換の教科書に載っている標準的な手続き ── FLRW 宇宙が「共形平坦」であることの、いちばん素直な確認です。

ここで気づいてほしいこと 共形時間 \(\eta\) を使った瞬間、光は \(dx/d\eta = c_0\) で一定の速さになります。時空図の上で、光の道は 45 度のまっすぐな線。── つまり「共形時間に移る」と、光速は変わらなくなる。前シリーズの「光速が遅くなる」は、共形時間の話ではなかったのです。では、あれは何だったのか。
◇ ◇ ◇

03核心 ── 同じ計量を、宇宙時間で読み直す

いま作った \(\tilde g\) は、\(\eta\) という時間座標で書いてあります。でも計量は、どの座標で書いても同じ計量です。もとの宇宙時間 \(t\) に戻して書いてみましょう。\(d\eta = (t_0/t)\,dt\) を代入するだけです。

同じ \(\tilde g\) を、t で書く

代入

$$-c_0^2\,d\eta^2 = -c_0^2\Big(\frac{t_0}{t}\Big)^2 dt^2 = -\Big(\frac{c_0t_0}{t}\Big)^2 dt^2$$

つまり

$$d\tilde s^2 = -\Big(\frac{c_0t_0}{t}\Big)^2 dt^2 + dx^2$$

この係数、見覚えがあるはずです。前シリーズ第1回の、唯一のルールそのもの。

前シリーズ第1回のルール
$$c(t) = \frac{c_0t_0}{t}\qquad\Longleftrightarrow\qquad c\cdot t = c_0t_0 = \text{一定}$$

並べれば、答えが出ています。

この回の結論
$$d\tilde s^2 = -c_B(t)^2\,dt^2 + dx^2,\qquad c_B(t)=\frac{c_0t_0}{t}$$

「光速が遅くなる」とは、共形変換したあとの計量を、宇宙時間座標で読んだものだった。

同じ一つの \(\tilde g\) を、\(\eta\) で読めば光速は一定、\(t\) で読めば光速は \(c_0t_0/t\) で落ちていく。共形変換が「膨張を消す」仕事をし、時間座標の選び方が「その代償をどこに払うか」を決めている。前シリーズが「わかりやすい」と言って使い続けた見方は、この二段構えの産物でした。

図:時間座標のツマミを回す。同じ光の世界線が、宇宙時間 \(t\) では曲がり(=速さが変わる)、共形時間 \(\eta\) ではまっすぐになる(=速さが一定)
λ = 0.00(宇宙時間 t) 放出時 t=0.05t₀ の座標光速 = 20.00 c₀ → 世界線は大きく曲がる
光の世界線 等・宇宙時間の線(t = 一定) いま(t = t₀)

ツマミを右に回していくと、下のほう(宇宙の初期)の目盛りがどんどん引き伸ばされ、それにつれて光の道がまっすぐになっていくのが見えます。膨張を時間側に押し込むとは、文字どおりこの引き伸ばしのこと。そして引き伸ばしきった右端(共形時間)では、光は最初から最後まで同じ速さで進んでいます。

ツマミの中身(読み飛ばし可) 途中の目盛りも、ちゃんとした時間座標です。\(T_\lambda\) を \(dT_\lambda=\big[(1-\lambda)+\lambda\,t_0/t\big]dt\) で定めると、\(\lambda=0\) で宇宙時間、\(\lambda=1\) で共形時間。このとき座標光速は \(\;c_\lambda = c_0t_0/\big[(1-\lambda)t+\lambda t_0\big]\;\) で、両端がちょうど \(c_0t_0/t\) と \(c_0\) になります。図の数字はこの式そのものです。

04物質の側 ── 質量が育つ

ここまでは計量、つまり「入れ物」の話でした。共形変換は物質にも効きます。第2回で見た通り、\(\tilde g=\Omega^2g\) のもとで質量は

$$\tilde m = \Omega^{-1}m = a\,m$$

と変換します(質量項 \(\int\sqrt{-g}\,m\bar\psi\psi\) が形を保つには、こう動くしかない)。\(c\cdot t=\text{一定}\) では \(a=t/t_0\) ですから ──

変換後の世界で起きていること
$$\tilde m(t) = m\,\frac{t}{t_0}\qquad(\text{質量は、宇宙の年齢に比例して増える})$$

質量が増えるということは、ボーア半径 \(\hbar/(m c\alpha)\) は縮む ── 宇宙は膨張しておらず、原子のほうが縮んでいる。これが第2回で紹介した Wetterich の絵です。そして \(c\cdot t=\text{一定}\) では、その縮み方が「\(1/t\) に比例」という、いちばん簡単な形になります。

同じ変換を温度にかけると、もっと驚くことが起こります。温度もエネルギーなので \(\tilde T = aT\)。ところが膨張宇宙では \(T\propto 1/a\) ですから、

$$\tilde T = a\cdot\frac{{\rm const}}{a} = \text{一定}$$

変換後の宇宙は、冷えません。 宇宙マイクロ波背景放射は、いつの時代も 2.725 K。では前シリーズ第7回・第9回・第10回が全部使っていた「宇宙の冷却」はどこへ行ったのか ── 質量の増加のほうに移ったのです。温度が下がって束縛エネルギーに追い抜かれるのではなく、束縛エネルギーが育って温度を追い抜く。同じすれ違いを、逆から見ている。

検算 ── 水素の再結合(z = 1100)

「同じ物理」なら、無次元の比は一致するはずです。再結合が起きる条件は「リュードベリ \(\div\) 熱エネルギー」で決まるので、両方の絵で計算して比べます。

膨張の絵(標準)

$$\frac{13.6\ \mathrm{eV}}{k_B\!\cdot\!(2.725\times1101\,\mathrm{K})} = \frac{13.6}{0.2586\ \mathrm{eV}} = 52.6$$

共形変換した絵(温度一定・質量が育つ)

$$\frac{13.6/1101\ \mathrm{eV}}{k_B\!\cdot\!2.725\,\mathrm{K}} = \frac{0.01235}{2.348\times10^{-4}\ \mathrm{eV}} = 52.6$$

分子と分母が両方 1101 倍ずれて、比だけが残る。観測が変わらないとは、こういうことです。

05番外編④の回収 ── 「\(\alpha\) 不変」は条件ではなく、定理だった

前シリーズ番外編④は、等価が成り立つ条件を二つ挙げました。共形変換の言葉で見ると、二つとも別々の要請ではありません。

条件1(\(c_B\cdot a=\text{一定}\))は、\(\Omega=1/a\) を選んだこと、そのものです。変換の中身を書き下しただけ。

条件2(\(\alpha\) 不変)のほうが面白い。\(\alpha=e^2/4\pi\varepsilon_0\hbar c\) を作る \(e,\hbar,c\) は、共形変換のもとでどれも動きません。電磁場の作用 \(\int\sqrt{-g}\,F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}\) は 4 次元では共形不変で、\(\Omega\) が完全に打ち消し合うからです。だから

条件2の正体
$$e,\ \hbar,\ c\ \text{はウェイト }0\ \Longrightarrow\ \alpha\ \text{は自動的に不変}$$

つまり \(\alpha\) 不変は「守らなければいけない条件」ではなく、共形変換をきちんとやれば勝手に成り立つ定理だった。番外編④が二つの条件を並べたのは正しかったけれど、二つ目は一つ目の帰結だったわけです。

では VSL は何を間違えたのか 前シリーズ番外編③の光速可変理論(VSL)は、\(c\) だけを動かし \(e,\hbar\) を固定しました。共形変換の言葉で言うと ── \(c\) にウェイトを割り当て、\(e,\hbar\) には割り当てなかった。それは共形変換になっていない。だから「単なる書き換え」にならず、観測(原子時計)に衝突した。「守るべきは \(\alpha\)」という診断は、「その操作を共形変換にせよ」と言い換えられます。
 ① 空間が伸びる② 光が遅くなる③ 質量が育つ
計量もとの \(g\)共形変換した \(\tilde g=g/a^2\)(同じもの)
時間座標宇宙時間 \(t\)宇宙時間 \(t\)共形時間 \(\eta\)
光速\(c_0\) 一定\(c_0t_0/t\)\(c_0\) 一定
質量一定\(\propto t\)\(\propto t\)
温度\(\propto 1/t\)一定一定
赤方偏移の説明波長が伸びる昔の光は速かった昔の原子は軽かった
\(1+z\)\(a_0/a_e=t_0/t_e\)\(c(t_e)/c(t_0)=t_0/t_e\)\(\tilde m_0/\tilde m_e=t_0/t_e\)

三つとも、最後の行が同じです。②と③は同じ計量を違う時間座標で読んだ姉妹、①はそこから共形変換一つ分だけ離れた場所にいる。前シリーズが「レコードとCD」と呼んだ二枚の盤は、実は三枚あったのでした。

正直な線

共形変換は書き換えです。書き換えただけで新しい予言は生まれません。ですからこの回は「\(c\cdot t=\text{一定}\) が正しい」と主張してはいません ── もし \(a\propto t\) なら、その姿はこうなる、と言っているだけです。膨張のしかたが本当に \(a\propto t\) かどうかは、観測が決める別の問題。

そして、その別の問題の答えは、いまのところ厳しい。\(a\propto t\) を初期宇宙まで額面で走らせると、冷却が遅すぎて元素合成が壊れます(Lewis ら 2016:ヘリウムの質量分率が観測の 0.25 に対して \(10^{-3}\) オーダー)。番外編で正面から扱いますが、共形変換で見方が三つに増えても、判決は三つとも同じです。無次元の比は、どの絵でも同じ値になるのだから。

練習問題(今回の式だけで解けます)
  1. \(z=1\) の銀河(\(t_e=t_0/2\))について、上の表の三つの絵はそれぞれ「何が起きた」と言うか。数値もつけて答えよ。
    答えを見る
    ①空間が2倍に伸びて波長が2倍になった。②当時の光速は今の2倍(\(c_0t_0/t_e=2c_0\))で、その落ち幅がそのまま赤み。③当時の電子質量は今の半分で、原子の出す光の振動数が半分だった。三つとも \(1+z=2\)。
  2. 共形変換 \(\Omega=1/a\) のもとで、ボーア半径 \(a_B=\hbar/(m c\alpha)\) は何倍になるか。宇宙が若いほど大きいか、小さいか。
    答えを見る
    \(\hbar,c,\alpha\) は不変、\(\tilde m=am\) なので \(\tilde a_B=a_B/a\)。\(a\) が小さい(若い)ほど大きい ── 昔ほど原子が大きく、時代とともに縮んでいく。これが「膨張=原子が縮む」の中身です。
  3. 「共形時間で読むと光速が一定になる」のはなぜか、一行で説明せよ。
    答えを見る
    \(d\eta=dt/a\) と定義したので、光の条件 \(c_0dt=a\,dx\) が \(dx/d\eta=c_0\) になるから。\(a\) による目減りを、あらかじめ時間の目盛りのほうに吸わせてある。
  4. (やや難)変換後の宇宙は冷えない。では第7回で使った「ビッグバン元素合成は温度が下がって起きる」という話は、この絵でどう言い換わるか。
    答えを見る
    温度は 2.725 K で固定のまま、核子の質量差や束縛エネルギーが \(\propto t\) で育っていき、あるとき熱エネルギー \(k_BT\) を追い越す。「温度が閾値を下回る」ではなく「閾値が温度を追い越す」。すれ違う時刻も、そのときの無次元比も、標準の絵とまったく同じ。

まとめ正体は、二段構えだった

\(c\cdot t=\text{一定}\) の宇宙は、共形時間 \(\eta=t_0\ln(t/t_0)\) に移してから \(\Omega=1/a\) の共形変換をかけると、厳密なミンコフスキー時空になる。膨張は跡形もなく消える。そして同じ計量を宇宙時間 \(t\) で読み直すと \(d\tilde s^2=-c_B(t)^2dt^2+dx^2\)、\(c_B=c_0t_0/t\) ── これが「光速が遅くなる」の正体。共形変換が膨張を消し、時間座標の選択が代償の払い先を決めていた。

物質の側では質量が \(\propto t\) で育ち、温度は一定になる。冷却は質量の増加に化ける。そして \(e,\hbar,c\) がどれも共形変換で動かないおかげで、\(\alpha\) は条件を課すまでもなく不変 ── 前シリーズ番外編④の「条件2」は、実は「条件1」の帰結でした。VSL がつまずいたのは、その操作を共形変換にし損ねたから。

この文書は「わかる共形変換」シリーズ第3回、物理好きの高校生・大学生向け読み物です。FLRW 宇宙が共形平坦であること、共形時間 \(\eta=\int dt/a\) で光の世界線が直線になることは標準的な事実です。共形(Weyl)変換 \(\tilde g=\Omega^2g\) のもとで長さはウェイト \(+1\)、質量・エネルギー・温度はウェイト \(-1\)、\(e,\hbar,c\) および 4 次元の Maxwell 作用はウェイト \(0\) であり、したがって \(\alpha\) は不変です。共形変換を「座標に依存した単位の変換」と読む定式化は Dicke (1962) に、質量が増大する描像で膨張を記述する宇宙論は Wetterich (2013) によります。次元付き定数の時間変化が操作的意味を持たないことは Ellis & Uzan (2005) を参照。局所的に測る光速は、どの記述でも常に \(c_0\) です。本稿の「同じ物理」は語り方(座標・単位の選択)どうしの等価であり、\(a\propto t\)(\(R_h=ct\)、線形膨張)というモデル自体の正当性を主張するものではありません ── 額面での元素合成との不整合は Lewis, Barnes & Kaushik (2016, MNRAS 460, 291) を参照。学術的な標準はインフレーションを含む \(\Lambda\)CDM モデルです。 ── 印刷する場合はブラウザの「印刷」から「PDF に保存」を(印刷版ではスライダーと解答は静止・非表示になります)。

印刷 / PDF 化:⌘+P(Windows は Ctrl+P)。画面ではスライダーで時間座標を宇宙時間から共形時間へ連続的に変えられます。「答えを見る」で解答が開きます。