わかる c·t=一定 番外編 ③ / 本編完結後の深掘り

0 の列は一様ではなく、定数はほとんど残らなかった

定数は、
一つも無いのかもしれない 無次元量とは電波で送れる量でした。ただしその中身は四種類あり、群が違います。
そして「定数」と呼んできたものの大半は、走る関数でした。

必要な道具:第3回の判定、第14・44回の臨界指数、第37回の走り、第47回の地図、第48回の事前分布残るのは \(\theta_{\rm QCD}\) ただ一つ ── そしてアクシオンがそれを消す

50 回のあいだ、「無次元は物理、次元付きは帳簿」を背骨にしてきました。では、無次元量とはいったい何なのか。 そしてそれらは本当に定数なのか。 二つの問いを詰めたら ── 「0 の列」は一様ではなく、対数は発見ではなく、そして定数はほとんど一つも残りませんでした。

01無次元量とは、電波で送れるもの

「1 メートル」は送れない受け取る側に物差しが要る ── 物を運ばないと伝わらない
「\(\alpha=1/137.036\)」は送れる受け取った側が自分の実験で確かめられる
47
SI が \(c\) を法令で決めて \(\alpha\) を決められなかったのも、これと同じこと第47回 ── 単位の定義は、送れる量には触れない

01節の結論

無次元量とは、物を運ばずに伝えられる量です。
── それが「物理」の中身でした。

02ところが「0 の列」は、一様ではなかった

自然な測度(Haar)全測度
比(スケール的)\(\alpha\)、\(m_p/m_e\)、\(\rho_\Lambda/\rho_P\)乗法群 \(\mathbb{R}_+\)\(d(\ln x)\)=対数一様発散する
角度・位相\(\theta_{\rm QCD}\)、CKM/PMNSコンパクト群 \(U(1)\) など\(d\theta\)=一様有限
個数世代 3、色 3、次元 4離散数える有限
指数(対数微分)\(n_s\)、\(\nu\)、\(\eta\)、\(\omega\)接空間定めにくい──

50 回のあいだ、これをひとつの列に入れて扱ってきました。 中身は少なくとも四種類あり、群が違います。

03「本当に対数なのか」── 対数は発見ではなく、同型

比は掛け算で合成する ── 乗法群 $$\log:\ \mathbb{R}_+\ \xrightarrow{\ \cong\ }\ \mathbb{R} \qquad\text{Haar 測度}\ \frac{dx}{x}=d(\ln x)$$

対数一様が「自然」なのは、それが乗法群の Haar 測度だから ── 発見ではなく、群の同型

角度は足し算で合成し、\(2\pi\) で戻る ── コンパクト群 $$\text{Haar 測度}\ d\theta\ \text{(一様)}\qquad\Longrightarrow\qquad \textbf{角度の }\log\textbf{ には意味が無い}$$

03節の結論

ビットは、量そのものの対数ではありません。確率の対数です。
\(-\log_2(\text{確率})\) を測るには測度が要り、測度は群が決めます
── 本シリーズが 50 回ぶんやってきたのは、ずっとこれでした。

◇ ◇ ◇

04核心 ── これで第48回の基準が「定理」になる

コンパクト群 → Haar 測度が有限 → 正規化できる事前分布が一意に決まる → 微調整の議論は well-posed
非コンパクト(\(\mathbb{R}_+\))→ Haar 測度が無限 → 正規化できない事前分布は決まらない(切断を入れるのは選択)→ 微調整の議論は ill-posed

今回いちばん言いたいこと(その一)

第48回の「角度には理由がある、質量比には無い」は ──
コンパクトか否かの言い換えでした。
── 基準ではなく、定理です。

05検証 ── コンパクト類のなかで、ビットは深刻さを予測するか

角度値 [度]驚き [bit]実際の扱われ方
PMNS \(\theta_{23}\)\(49.0\)\(0.88\)最大混合に近い(「小さい」とは別種)
PMNS \(\theta_{12}\)\(33.4\)\(1.43\)とくに問題視されない
CKM \(\theta_{12}\)(カビボ角)\(13.04\)\(2.79\)とくに問題視されない
PMNS \(\theta_{13}\)\(8.57\)\(3.39\)小さめ、議論はある
CKM \(\theta_{23}\)\(2.38\)\(5.24\)フレーバー階層の一部
CKM \(\theta_{13}\)\(0.201\)\(8.81\)フレーバー puzzle の中心
\(\theta_{\rm QCD}\)\(<10^{-10}\)\(35.87\)唯一の「危機」

05節の結論

コンパクト類の中では、ビット数と深刻さがきれいに単調です ── 0〜3 = 話題にならない/5〜9 = フレーバー puzzle/36 = 危機。
そして争いのない微調整問題は、唯一の角度(\(\theta_{\rm QCD}\))だけ
── 論争中のもの(\(v/M_P\)、\(\rho_\Lambda\))はすべて非コンパクト類です。
論争しているのではありません。問いが well-posed でないから決まらないのです。

図:無次元量を二つの類に分けて並べたもの。左(コンパクト)ではビットが定義でき、深刻さと単調に対応します。右(非コンパクト)ではビット自体が事前分布次第で動きます。ツマミで事前範囲を動かしてください ── 左は動かず、右だけが動きます

123 桁
コンパクト類(角度)── 動かない 非コンパクト類(比)── 事前次第で動く

06次の問い ── では、それらは「定数」なのか

種別個数何について定数か判定
走る結合定数(ゲージ 3、湯川 9、\(\lambda\)、混合角も弱く走る)\(\approx24\)スケールで変わる定数ではない
\(\Lambda\)CDM の基本 6\(6\)この宇宙の状態の記述法則の定数ではない
\(\theta_{\rm QCD}\)\(1\)RG 不変な角度定数と呼べる

「定数」と呼んできたものの大半は、走る関数でした。 第37回で見たとおり \(\alpha\) は \(0\) から \(M_Z\) で 7 パーセント動きます ── 私たちが「\(\alpha=1/137\)」と言うとき、それは\(M_Z\) を選んだという規約込みの数です。そして \(\Lambda\)CDM の 6 個はさらに違う ── あれは法則ではなく、この宇宙の初期条件。地球の公転半径を「自然定数」と呼ばないのと同じ理由で、定数ではありません。

07では、本当に不変なのは何か

何に依らないか
臨界指数 \(\nu=0.6300\)スケール・スキーム・微視的な中身(第44回)
異常次元 \(\eta=0.0363\)同上(第14回)
補正の指数 \(\omega=0.8303\)同上
アノマリー係数 \(a\)、\(c\)場の中身だけで決まる(第37回)
\((D-1)(D-2)=6\)次元だけで決まる(第38回)

07節の結論

ところが ── これらは「自然定数」ではなく、定理です。
\(\nu=0.6300\) は 3 次元イジング固定点についての数学的事実であって、測って決めた入力ではありません。
── 本当に不変なものは、定数ではなく定理でした。

08残るのは \(\theta_{\rm QCD}\) ただ一つ。そして

1
独立な入力のうち、定数と呼べるのは \(\theta_{\rm QCD}\) だけ走る結合は関数、\(\Lambda\)CDM は状態、臨界指数は定理
!
ところが、その \(\theta_{\rm QCD}\) こそ、アクシオンが「場にして動かそう」としている当のものペッチェイ–クイン機構が正しければ、\(\theta\) は動的に \(0\) へ緩和する
もし PQ が正しければ、定数は一つも残らない走る結合/この宇宙の状態/数学の定理/緩和する場 ── それだけになる

今回いちばん言いたいこと(その二)

「定数がいくつもあるのはおかしい、一つも無いのではないか」── かなりの精度で当たっています。
ただし正確には ── 独立な入力のうち、スケールに依らないものはほぼ無い。定数に見えるものは、出力(定理)か、この宇宙の状態か、走る関数の値である。

09ついでに、番外編②を訂正しておく

旧:「指数写像そのものが 47 倍の圧縮を生む」これは甘かった ── 写像が全単射で誘導事前を使うなら、圧縮は厳密にゼロ
新:圧縮の実体は「\(\alpha\) の事前範囲が \(O(1)\) に縛られている」こと結合定数が \(O(1)\) なのには理由がある(摂動性、無次元性)── スケールの比には無い
つまり第二の基準は、第一の基準に潰れる指数写像は「事前に理由がある量へ問いを運ぶ」道具にすぎなかった ── 五度目の圧縮

数字(\(408\to8.67\) ビット)は動きません。動くのは言明の主語です。 ── 第3回の作法そのもの:比較相手(ここでは事前分布)を言わなければ、まだ文になっていない。 番外編②はそこが甘かったので、消さずに印をつけて残します。

正直な線 ── いちばん効く反論から

① 物理的な質量比は、本当に RG 不変です。 \(m_p/m_e\) は極質量の比なので走りません ── これは正真正銘の無次元定数です。だから「定数はゼロ」は言い過ぎで、08節のように「独立な入力のうち」と限定しなければなりません。\(m_p/m_e\) は入力ではなく出力(ラグランジアンから原理的には計算できる予言)だ、というのがこちらの応答ですが、これは弱い応答です ── 実際には計算できていないので、当面は入力と同じ扱いをせざるをえません。

② 「走る」ということ自体、半分は規約です。 \(\mu\) を選ぶのは人間で、RG 不変な組み合わせを取れば定数は作れます ── ただしそれは \(\Lambda_{\rm QCD}\) のように次元付きになりがちで、次元付きは帳簿(第3回)。この往復自体が、このシリーズの主題そのものです。

③ \(\Lambda\)CDM の 6 個を「状態」と切るのは、強すぎるかもしれません。 \(n_s\) は初期条件ですが、インフレーション模型の予言でもあります ── 「法則か状態か」の境界は分野の慣習に依り、鋭くは引けません。

④ 05節の「単調」は 7 例の観察です。 「実際の扱われ方」は文献の空気の要約で、私の偏りが入っています(第36回②と同じ但し書き)。PMNS \(\theta_{23}\) は「小さい」のではなく「最大混合に近い」ことが問題視されており、同じ物差しで測れていません

⑤ 04節の Haar 測度の議論は、標準的な数学です。 ただし「だから微調整の議論が well-posed/ill-posed だ」という読み方は本シリーズのもので、統計学や科学哲学ではもっと精緻な議論があります(不変事前分布、Jeffreys 事前など)── ここで言えるのは「コンパクトなら正規化できる、非コンパクトならできない」という一点だけです。

練習問題

  1. 無次元量とは何か、作業的に言うと。
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    電波で送れる量 ── 物を運ばずに伝えられるもの。「1 メートル」は送れませんが「\(\alpha=1/137.036\)」は送れます。第47回で SI が \(c\) を法令で決めて \(\alpha\) を決められなかったのも、同じことです。
  2. なぜ比には対数が自然で、角度には自然でないのか。
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    比は乗法群 \(\mathbb{R}_+\) で、その Haar 測度が \(d(\ln x)\) だから ── 対数は発見ではなく、乗法群から加法群への同型です。角度はコンパクト群で Haar 測度は \(d\theta\)(一様)── log を取る意味がありません
  3. 第48回の「事前分布に理由があるか」は、何の言い換えだったか。
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    コンパクトか否かです。コンパクト → Haar 測度が有限 → 正規化できる → 事前分布が一意に決まる → 微調整の議論が well-posed。非コンパクト → 正規化できない → ill-posed基準ではなく定理でした。
  4. 争いのない微調整問題が \(\theta_{\rm QCD}\) だけなのはなぜか。
    答えを見る
    それが唯一のコンパクト類の問題だからです。\(v/M_P\) や \(\rho_\Lambda\) は非コンパクト類なので、ビット数そのものが事前分布次第で動きます ── 論争しているのではなく、問いが well-posed でないから決まらないのです。
  5. (やや難)「定数は一つも無いのでは」という見立ては、どこまで正しいか。
    答えを見る
    かなりの精度で正しいです。32 個のうち約 24 は走る関数、6 個はこの宇宙の状態、本当に不変なもの(\(\nu\)、\(\eta\)、\(\omega\))は定数ではなく定理。残る \(\theta_{\rm QCD}\) は、まさにアクシオンが動的にしようとしている当のもの ── PQ が正しければ一つも残りません。ただし正直な線①のとおり、\(m_p/m_e\) は本当に RG 不変なので「ゼロ」は言い過ぎで、「独立な入力のうち」と限定が要ります。

まとめ 0 の列は一様ではなく、定数はほとんど残らなかった

無次元量とは、電波で送れる量でした ── 物を運ばずに伝えられるもの。それが「物理」の中身です。

ところが「0 の列」は一様ではありませんでした。比/角度/個数/指数の四型があり、群が違います。比は乗法群 \(\mathbb{R}_+\)、角度はコンパクト群。そして 対数は発見ではなく、乗法群から加法群への同型 ── \(\mathbb{R}_+\) の Haar 測度が \(d(\ln x)\) だから対数一様が自然になるのであって、角度には log を取る意味がありません。ビットは量の対数ではなく、確率の対数だったのです。

すると第48回の基準が定理になります ── コンパクトなら Haar 測度が有限で正規化でき、事前分布が一意に決まる(well-posed)。非コンパクトなら正規化できず、決まらない(ill-posed)。検証すると、コンパクト類の中ではビット数と深刻さが単調(PMNS \(\theta_{23}\) 0.88 → CKM \(\theta_{13}\) 8.81 → \(\theta_{\rm QCD}\) 35.87)で、争いのない微調整問題は唯一の角度である \(\theta_{\rm QCD}\) だけ。論争中のものはすべて非コンパクト類でした ── 論争しているのではなく、問いが well-posed でないのです。

そして「定数なのか」。32 個を分け直すと、約 24 は走る関数、6 個はこの宇宙の状態、残るのは \(\theta_{\rm QCD}\) ただ一つ。本当に不変なもの(\(\nu\)、\(\eta\)、\(\omega\)、\(a\)、\(c\))は 定数ではなく定理 ── \(\pi\) が円についての定理であるのと同じです。

そして最後に ── その \(\theta_{\rm QCD}\) こそ、アクシオンが場にして動かそうとしている当のもの。もしペッチェイ–クインが正しければ、定数は一つも残りません。 「定数がいくつもあるのはおかしい」という見立ては、かなりの精度で当たっていました。

この文書は「わかる c·t=一定」シリーズの番外編③(本編全50話の完結後に書いた深掘り)、物理好きの高校生・大学生向け読み物です。数値は kenshou/calc58.py と calc59.py で計算しています。Haar 測度、くりこみ群による結合定数の走り、臨界指数の普遍性、ペッチェイ–クイン機構はいずれも標準的な内容です。いちばん効く反論は正直な線①:\(m_p/m_e\) は極質量の比なので本当に RG 不変で、正真正銘の無次元定数です ── だから「定数はゼロ」は言い過ぎで、「独立な入力のうち」という限定が要ります(「出力だから」という応答は、実際には計算できていない以上、弱い応答です)。「走る」ということ自体、半分は規約で、RG 不変な組み合わせを取れば定数は作れますが、それは \(\Lambda_{\rm QCD}\) のように次元付きになりがちです。\(\Lambda\)CDM の 6 個を「状態」と切るのは強すぎるかもしれません ── \(n_s\) は初期条件であると同時にインフレーション模型の予言でもあり、境界は鋭く引けません。05節の「単調」は 7 例の観察で、「実際の扱われ方」は文献の空気の要約であり私の偏りが入っています(PMNS \(\theta_{23}\) は「小さい」のではなく「最大混合に近い」ことが問題視されており、同じ物差しでは測れていません)。04節の Haar 測度の議論は標準的な数学ですが、「だから微調整が well-posed/ill-posed だ」という読み方は本シリーズのもので、統計学には不変事前分布や Jeffreys 事前など、より精緻な議論があります。 ── 印刷する場合はブラウザの「印刷」から「PDF に保存」を(印刷版ではスライダーと解答は静止・非表示になります)。

印刷 / PDF 化:⌘+P(Windows は Ctrl+P)。画面ではツマミで事前範囲を動かすと、左(角度)だけが動かないことが見えます。「答えを見る」で解答が開きます。