わかる c·t=一定 番外編 ③ / 本編完結後の深掘り
0 の列は一様ではなく、定数はほとんど残らなかった
定数は、
一つも無いのかもしれない
無次元量とは電波で送れる量でした。ただしその中身は四種類あり、群が違います。
そして「定数」と呼んできたものの大半は、走る関数でした。
50 回のあいだ、「無次元は物理、次元付きは帳簿」を背骨にしてきました。では、無次元量とはいったい何なのか。 そしてそれらは本当に定数なのか。 二つの問いを詰めたら ── 「0 の列」は一様ではなく、対数は発見ではなく、そして定数はほとんど一つも残りませんでした。
01無次元量とは、電波で送れるもの
01節の結論
無次元量とは、物を運ばずに伝えられる量です。
── それが「物理」の中身でした。
02ところが「0 の列」は、一様ではなかった
| 型 | 例 | 群 | 自然な測度(Haar) | 全測度 |
|---|---|---|---|---|
| 比(スケール的) | \(\alpha\)、\(m_p/m_e\)、\(\rho_\Lambda/\rho_P\) | 乗法群 \(\mathbb{R}_+\) | \(d(\ln x)\)=対数一様 | 発散する |
| 角度・位相 | \(\theta_{\rm QCD}\)、CKM/PMNS | コンパクト群 \(U(1)\) など | \(d\theta\)=一様 | 有限 |
| 個数 | 世代 3、色 3、次元 4 | 離散 | 数える | 有限 |
| 指数(対数微分) | \(n_s\)、\(\nu\)、\(\eta\)、\(\omega\) | 接空間 | 定めにくい | ── |
50 回のあいだ、これをひとつの列に入れて扱ってきました。 中身は少なくとも四種類あり、群が違います。
03「本当に対数なのか」── 対数は発見ではなく、同型
対数一様が「自然」なのは、それが乗法群の Haar 測度だから ── 発見ではなく、群の同型
03節の結論
ビットは、量そのものの対数ではありません。確率の対数です。
\(-\log_2(\text{確率})\) を測るには測度が要り、測度は群が決めます。
── 本シリーズが 50 回ぶんやってきたのは、ずっとこれでした。
04核心 ── これで第48回の基準が「定理」になる
今回いちばん言いたいこと(その一)
第48回の「角度には理由がある、質量比には無い」は ──
コンパクトか否かの言い換えでした。
── 基準ではなく、定理です。
05検証 ── コンパクト類のなかで、ビットは深刻さを予測するか
| 角度 | 値 [度] | 驚き [bit] | 実際の扱われ方 |
|---|---|---|---|
| PMNS \(\theta_{23}\) | \(49.0\) | \(0.88\) | 最大混合に近い(「小さい」とは別種) |
| PMNS \(\theta_{12}\) | \(33.4\) | \(1.43\) | とくに問題視されない |
| CKM \(\theta_{12}\)(カビボ角) | \(13.04\) | \(2.79\) | とくに問題視されない |
| PMNS \(\theta_{13}\) | \(8.57\) | \(3.39\) | 小さめ、議論はある |
| CKM \(\theta_{23}\) | \(2.38\) | \(5.24\) | フレーバー階層の一部 |
| CKM \(\theta_{13}\) | \(0.201\) | \(8.81\) | フレーバー puzzle の中心 |
| \(\theta_{\rm QCD}\) | \(<10^{-10}\) | \(35.87\) | 唯一の「危機」 |
05節の結論
コンパクト類の中では、ビット数と深刻さがきれいに単調です ── 0〜3 = 話題にならない/5〜9 = フレーバー puzzle/36 = 危機。
そして争いのない微調整問題は、唯一の角度(\(\theta_{\rm QCD}\))だけ。
── 論争中のもの(\(v/M_P\)、\(\rho_\Lambda\))はすべて非コンパクト類です。
論争しているのではありません。問いが well-posed でないから決まらないのです。
図:無次元量を二つの類に分けて並べたもの。左(コンパクト)ではビットが定義でき、深刻さと単調に対応します。右(非コンパクト)ではビット自体が事前分布次第で動きます。ツマミで事前範囲を動かしてください ── 左は動かず、右だけが動きます
06次の問い ── では、それらは「定数」なのか
| 種別 | 個数 | 何について定数か | 判定 |
|---|---|---|---|
| 走る結合定数(ゲージ 3、湯川 9、\(\lambda\)、混合角も弱く走る) | \(\approx24\) | スケールで変わる | 定数ではない |
| \(\Lambda\)CDM の基本 6 | \(6\) | この宇宙の状態の記述 | 法則の定数ではない |
| \(\theta_{\rm QCD}\) | \(1\) | RG 不変な角度 | 定数と呼べる |
「定数」と呼んできたものの大半は、走る関数でした。 第37回で見たとおり \(\alpha\) は \(0\) から \(M_Z\) で 7 パーセント動きます ── 私たちが「\(\alpha=1/137\)」と言うとき、それは\(M_Z\) を選んだという規約込みの数です。そして \(\Lambda\)CDM の 6 個はさらに違う ── あれは法則ではなく、この宇宙の初期条件。地球の公転半径を「自然定数」と呼ばないのと同じ理由で、定数ではありません。
07では、本当に不変なのは何か
| 量 | 何に依らないか |
|---|---|
| 臨界指数 \(\nu=0.6300\) | スケール・スキーム・微視的な中身(第44回) |
| 異常次元 \(\eta=0.0363\) | 同上(第14回) |
| 補正の指数 \(\omega=0.8303\) | 同上 |
| アノマリー係数 \(a\)、\(c\) | 場の中身だけで決まる(第37回) |
| \((D-1)(D-2)=6\) | 次元だけで決まる(第38回) |
07節の結論
ところが ── これらは「自然定数」ではなく、定理です。
\(\nu=0.6300\) は 3 次元イジング固定点についての数学的事実であって、測って決めた入力ではありません。
── 本当に不変なものは、定数ではなく定理でした。
08残るのは \(\theta_{\rm QCD}\) ただ一つ。そして
今回いちばん言いたいこと(その二)
「定数がいくつもあるのはおかしい、一つも無いのではないか」── かなりの精度で当たっています。
ただし正確には ── 独立な入力のうち、スケールに依らないものはほぼ無い。定数に見えるものは、出力(定理)か、この宇宙の状態か、走る関数の値である。
09ついでに、番外編②を訂正しておく
数字(\(408\to8.67\) ビット)は動きません。動くのは言明の主語です。 ── 第3回の作法そのもの:比較相手(ここでは事前分布)を言わなければ、まだ文になっていない。 番外編②はそこが甘かったので、消さずに印をつけて残します。
① 物理的な質量比は、本当に RG 不変です。 \(m_p/m_e\) は極質量の比なので走りません ── これは正真正銘の無次元定数です。だから「定数はゼロ」は言い過ぎで、08節のように「独立な入力のうち」と限定しなければなりません。\(m_p/m_e\) は入力ではなく出力(ラグランジアンから原理的には計算できる予言)だ、というのがこちらの応答ですが、これは弱い応答です ── 実際には計算できていないので、当面は入力と同じ扱いをせざるをえません。
② 「走る」ということ自体、半分は規約です。 \(\mu\) を選ぶのは人間で、RG 不変な組み合わせを取れば定数は作れます ── ただしそれは \(\Lambda_{\rm QCD}\) のように次元付きになりがちで、次元付きは帳簿(第3回)。この往復自体が、このシリーズの主題そのものです。
③ \(\Lambda\)CDM の 6 個を「状態」と切るのは、強すぎるかもしれません。 \(n_s\) は初期条件ですが、インフレーション模型の予言でもあります ── 「法則か状態か」の境界は分野の慣習に依り、鋭くは引けません。
④ 05節の「単調」は 7 例の観察です。 「実際の扱われ方」は文献の空気の要約で、私の偏りが入っています(第36回②と同じ但し書き)。PMNS \(\theta_{23}\) は「小さい」のではなく「最大混合に近い」ことが問題視されており、同じ物差しで測れていません。
⑤ 04節の Haar 測度の議論は、標準的な数学です。 ただし「だから微調整の議論が well-posed/ill-posed だ」という読み方は本シリーズのもので、統計学や科学哲学ではもっと精緻な議論があります(不変事前分布、Jeffreys 事前など)── ここで言えるのは「コンパクトなら正規化できる、非コンパクトならできない」という一点だけです。
練習問題
- 無次元量とは何か、作業的に言うと。
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電波で送れる量 ── 物を運ばずに伝えられるもの。「1 メートル」は送れませんが「\(\alpha=1/137.036\)」は送れます。第47回で SI が \(c\) を法令で決めて \(\alpha\) を決められなかったのも、同じことです。 - なぜ比には対数が自然で、角度には自然でないのか。
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比は乗法群 \(\mathbb{R}_+\) で、その Haar 測度が \(d(\ln x)\) だから ── 対数は発見ではなく、乗法群から加法群への同型です。角度はコンパクト群で Haar 測度は \(d\theta\)(一様)── log を取る意味がありません。 - 第48回の「事前分布に理由があるか」は、何の言い換えだったか。
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コンパクトか否かです。コンパクト → Haar 測度が有限 → 正規化できる → 事前分布が一意に決まる → 微調整の議論が well-posed。非コンパクト → 正規化できない → ill-posed。基準ではなく定理でした。 - 争いのない微調整問題が \(\theta_{\rm QCD}\) だけなのはなぜか。
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それが唯一のコンパクト類の問題だからです。\(v/M_P\) や \(\rho_\Lambda\) は非コンパクト類なので、ビット数そのものが事前分布次第で動きます ── 論争しているのではなく、問いが well-posed でないから決まらないのです。 - (やや難)「定数は一つも無いのでは」という見立ては、どこまで正しいか。
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かなりの精度で正しいです。32 個のうち約 24 は走る関数、6 個はこの宇宙の状態、本当に不変なもの(\(\nu\)、\(\eta\)、\(\omega\))は定数ではなく定理。残る \(\theta_{\rm QCD}\) は、まさにアクシオンが動的にしようとしている当のもの ── PQ が正しければ一つも残りません。ただし正直な線①のとおり、\(m_p/m_e\) は本当に RG 不変なので「ゼロ」は言い過ぎで、「独立な入力のうち」と限定が要ります。
まとめ 0 の列は一様ではなく、定数はほとんど残らなかった
無次元量とは、電波で送れる量でした ── 物を運ばずに伝えられるもの。それが「物理」の中身です。
ところが「0 の列」は一様ではありませんでした。比/角度/個数/指数の四型があり、群が違います。比は乗法群 \(\mathbb{R}_+\)、角度はコンパクト群。そして 対数は発見ではなく、乗法群から加法群への同型 ── \(\mathbb{R}_+\) の Haar 測度が \(d(\ln x)\) だから対数一様が自然になるのであって、角度には log を取る意味がありません。ビットは量の対数ではなく、確率の対数だったのです。
すると第48回の基準が定理になります ── コンパクトなら Haar 測度が有限で正規化でき、事前分布が一意に決まる(well-posed)。非コンパクトなら正規化できず、決まらない(ill-posed)。検証すると、コンパクト類の中ではビット数と深刻さが単調(PMNS \(\theta_{23}\) 0.88 → CKM \(\theta_{13}\) 8.81 → \(\theta_{\rm QCD}\) 35.87)で、争いのない微調整問題は唯一の角度である \(\theta_{\rm QCD}\) だけ。論争中のものはすべて非コンパクト類でした ── 論争しているのではなく、問いが well-posed でないのです。
そして「定数なのか」。32 個を分け直すと、約 24 は走る関数、6 個はこの宇宙の状態、残るのは \(\theta_{\rm QCD}\) ただ一つ。本当に不変なもの(\(\nu\)、\(\eta\)、\(\omega\)、\(a\)、\(c\))は 定数ではなく定理 ── \(\pi\) が円についての定理であるのと同じです。
そして最後に ── その \(\theta_{\rm QCD}\) こそ、アクシオンが場にして動かそうとしている当のもの。もしペッチェイ–クインが正しければ、定数は一つも残りません。 「定数がいくつもあるのはおかしい」という見立ては、かなりの精度で当たっていました。
番外編②:階層は自分の対数まで縮む(算術は正しい。ただし解釈は番外編③で訂正)。
番外編③:0 の列は一様ではなく、第48回の基準は定理だった。そして定数はほとんど残らない。
── 三つとも、本編第3回の一つの手続きの上に立っています。そして三つめでその手続き自身が、自分の作った基準を一つ削りました。道具は、まだ働いています。
この文書は「わかる c·t=一定」シリーズの番外編③(本編全50話の完結後に書いた深掘り)、物理好きの高校生・大学生向け読み物です。数値は kenshou/calc58.py と calc59.py で計算しています。Haar 測度、くりこみ群による結合定数の走り、臨界指数の普遍性、ペッチェイ–クイン機構はいずれも標準的な内容です。いちばん効く反論は正直な線①:\(m_p/m_e\) は極質量の比なので本当に RG 不変で、正真正銘の無次元定数です ── だから「定数はゼロ」は言い過ぎで、「独立な入力のうち」という限定が要ります(「出力だから」という応答は、実際には計算できていない以上、弱い応答です)。「走る」ということ自体、半分は規約で、RG 不変な組み合わせを取れば定数は作れますが、それは \(\Lambda_{\rm QCD}\) のように次元付きになりがちです。\(\Lambda\)CDM の 6 個を「状態」と切るのは強すぎるかもしれません ── \(n_s\) は初期条件であると同時にインフレーション模型の予言でもあり、境界は鋭く引けません。05節の「単調」は 7 例の観察で、「実際の扱われ方」は文献の空気の要約であり私の偏りが入っています(PMNS \(\theta_{23}\) は「小さい」のではなく「最大混合に近い」ことが問題視されており、同じ物差しでは測れていません)。04節の Haar 測度の議論は標準的な数学ですが、「だから微調整が well-posed/ill-posed だ」という読み方は本シリーズのもので、統計学には不変事前分布や Jeffreys 事前など、より精緻な議論があります。 ── 印刷する場合はブラウザの「印刷」から「PDF に保存」を(印刷版ではスライダーと解答は静止・非表示になります)。