わかる c·t=一定 番外編 ② / 本編完結後の深掘り
408 ビットの問題が、8.7 ビットになる
階層は、自分の
対数まで縮む
次元転移は圧縮器で、利得はちょうど階層の大きさでした。
そこから、微調整が「問題」かどうかの第二の基準が出てきます。
番外編①で、\(\Lambda_{\rm QCD}\) が次元転移で生まれることが増幅の源でした。今回はその指数写像そのものを、情報として測ります。出てくるのは短い法則です ── \(B\) ビットの階層は、記述長 \(\log_2 B\) ビットまで縮む。 そしてそこから、微調整が「問題」かどうかの第二の判定基準が出てきます。
01次元転移とは、指数写像である
両辺を \(\ln\alpha\) で微分すると \(d\ln\Lambda/d\ln\alpha=+H\) ── 利得は、ちょうど階層の大きさ
01節の結論
\(\alpha\) の 1 ビットが、\(\Lambda\) の \(H\) ビットになります。
── 階層が大きいほど、利得も大きい。
02核心 ── だから階層の値段は、階層の対数になる
今回いちばん言いたいこと
\(B\) ビットの階層は、指数写像を通せば \(\log_2 B\) ビットで買えます。
── 圧縮率 \(B/\log_2 B\)。これは厳密な結果で、近似も規約も入っていません。
第5回の MDL でいう記述長そのものの話です。
03実際の階層に当ててみる
| 階層 | 生の \(B\) | \(\log_2 B\) | 圧縮率 | 指数写像 |
|---|---|---|---|---|
| \(\Lambda_{\rm QCD}/M_{\rm Planck}\) | \(65.0\) | \(6.02\) | \(10.8\) | あり(QCD の走り) |
| \(v/M_{\rm Planck}\)(階層性問題) | \(55.5\) | \(5.79\) | \(9.6\) | なし |
| \(\Lambda_{\rm QCD}/v\) | \(9.5\) | \(3.25\) | \(2.9\) | あり |
| \(\rho_\Lambda/\rho_{\rm Planck}\)(宇宙定数問題) | \(408.4\) | \(8.67\) | \(47.1\) | なし |
\(408\) ビットの宇宙定数問題ですら、指数写像があれば \(8.7\) ビットで済みます(圧縮率 47 倍)── だから誰もが指数関数的な機構を探しにいくのです。
図:階層の大きさ \(B\) と、指数写像を通したあとの値段 \(\log_2 B\)。青は指数写像なし(対角線 = 生の値段)、赤は指数写像あり(\(\log_2 B\) に潰れる)。ツマミで階層の大きさを動かしてください ── どれだけ大きくしても、赤はほとんど上がりません
04すると、微調整の判定基準が二つになる
| 微調整 | 事前分布に理由(第48回) | 指数写像(今回) | 値段 [bit] | 実際の扱われ方 |
|---|---|---|---|---|
| 強い CP(\(\theta_{\rm QCD}\)) | ある(角度) | ない | \(35.9\) | 本物の問題 |
| \(\Lambda_{\rm QCD}/v\) | ない | ある | \(9.5\to3.2\) | 誰も問題視しない |
| \(v/M_{\rm Planck}\) | ない | ない | \(55.5\) | 論争中 |
| \(\rho_\Lambda/\rho_{\rm Planck}\) | ない | ない | \(408.4\) | 論争中 |
04節の結論
二つの基準だけで、物理学者が実際にどれを問題視しているかが再現されます。
── 判定を作ってから見に行ったら、社会の側がすでに同じ線を引いていた。
第47回で SI が第3回の線を引いていたのと、同じ形です。
05コスモンを、この物差しに当てる
超過はわずか \(2.06\) ビット(24 パーセント)
05節の結論
コスモンは、指数機構の情報理論的な下限から 2 ビットしか離れていませんでした。
第32回では「10.7 払って最大 408 買う」と書きましたが ──
いま分かるのは、10.7 という値段自体がほぼ最小だったということです。
※ これは「コスモンが正しい」という意味ではありません。指数機構であるかぎり、これ以上安くはならないという下限の話です。
06下限をパラメータの個数に直すと
| 問題 | \(B\) [bit] | 下限 \(\log_2B\) | = 何個ぶん | 実際の機構 |
|---|---|---|---|---|
| 強い CP | \(35.9\) | \(5.17\) | \(0.96\) | アクシオン = 1 個 |
| 階層性 | \(55.5\) | \(5.79\) | \(1.08\) | 次元転移 = 1 個 |
| 宇宙定数 | \(408.4\) | \(8.67\) | \(1.62\) | コスモン = 2 個 |
逆に、指数写像が無ければ \(B\) ビットをそのまま払います ── \(408\) ビットは第5回の値段で 76 個ぶん。だから解けていないのです。
① 強い(厳密):\(d\ln\Lambda/d\ln\alpha=H\) と、\(B\to\log_2B\)。 前者は 1 ループの次元転移から直接出ます。後者は「\(B\) ビットの階層を 1 ビット以内に決めるのに要る \(\alpha\) の精度が \(\log_2B\) ビット」という記述長についての言明で、近似も規約も入っていません ── 03節までは、この意味で強いです。
② 中くらい:04節の判定表。 「指数写像があるか」は模型を見れば分かるので客観的ですが、「実際の扱われ方」の欄は文献の空気を要約したものです ── 4 例しかなく、選び方にも私の偏りがあります。
③ 弱い(本稿のいちばん弱いところ):05・06節で \(\log_2B\) を第5回の 5.37 ビット/個 で割った部分。 5.37 は \(N=1701\) という特定のデータ点数から出たパラメータの値段で、記述長の精度ビットと同じ通貨だという保証はありません(第48回②と同じ弱点)。ここを認めないと 05・06節は成立しません。
④ 06節の一致(0.96 → アクシオン 1 個、1.61 → コスモン 2 個)は 2 例だけです。 第36回②の但し書きと同じで ── 目に付いたパターンの記録であって、結果ではありません。3 例目・4 例目を当てて外れたら、そこで終わりです。
⑤ 「指数写像がある/ない」は、いまのところ無いという意味です。 宇宙定数や階層性に指数機構が見つかっていないだけで、原理的に不可能だと示されたわけではありません ── むしろ 03節の 47 倍という圧縮率こそが、探し続ける理由になっています。
練習問題
- 次元転移の「利得」はいくつか。
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\(H=\ln(M/\Lambda)\)、つまり階層そのものです。\(\Lambda=M\exp(-2\pi/b_0\alpha)\) を \(\ln\alpha\) で微分すると \(d\ln\Lambda/d\ln\alpha=2\pi/(b_0\alpha)=H\)。\(\alpha\) の 1 ビットが \(\Lambda\) の \(H\) ビットになります。 - \(B\) ビットの階層を、指数写像を通すといくらで買えるか。
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\(\log_2 B\) ビット。\(\Lambda\) を 2 倍以内に決めるには \(\delta\alpha/\alpha=\ln2/H=1/B\) が要り、その精度を指定するのに \(\log_2B\) ビット。圧縮率 \(B/\log_2B\) で、これは厳密です。 - 宇宙定数問題の 408 ビットは、指数写像があるといくらになるか。
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\(\log_2(408.4)=8.67\) ビット ── 圧縮率 47 倍。だから誰もが指数関数的な機構を探しにいくのです。 - 微調整が「問題」かどうかの二つの基準は。
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①事前分布に理由があるか(第48回 ── 角度にはある、質量比にはない)、②指数写像が使えるか(今回)。強い CP は①があり②がないので本物、\(\Lambda_{\rm QCD}/v\) は②があるので問題ではない ── 実際の扱われ方が再現されます。 - (やや難)本稿でいちばん弱いのはどこか。
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\(\log_2B\) を 5.37 ビット/個 で割ってパラメータ数に直した部分(05・06節)です。5.37 は \(N=1701\) から出たパラメータの値段で、記述長の精度ビットと同じ通貨だという保証はありません。03節までは厳密ですが、そこから先は換算に寄りかかっています。
まとめ 階層は、自分の対数まで縮む
次元転移 \(\Lambda=M\exp(-2\pi/b_0\alpha)\) を \(\ln\alpha\) で微分すると \(d\ln\Lambda/d\ln\alpha=H\) ── 利得はちょうど階層の大きさです。\(\alpha\) の 1 ビットが \(\Lambda\) の \(H\) ビットになる。
だから \(B\) ビットの階層は、記述長 \(\log_2B\) ビットまで縮みます(圧縮率 \(B/\log_2B\)、厳密)。\(\Lambda_{\rm QCD}/M_P\) の 65 ビットは 6.0 に、\(v/M_P\) の 55.5 は 5.8 に、そして宇宙定数問題の 408 ビットは 8.7 に ── 圧縮率 47 倍。だから誰もが指数関数的な機構を探しにいくのです。
ここから、微調整の第二の判定基準が出ます ── 第48回の「事前分布に理由があるか」に加えて、「指数写像が使えるか」。強い CP は前者があり後者がないので本物の問題、\(\Lambda_{\rm QCD}/v\) は後者があるので問題ではなく、\(v/M_P\) と \(\rho_\Lambda\) はどちらも無いので論争中 ── 実際に物理学者が問題視している分布が、そのまま再現されました。
そして第32回のコスモン。指数機構の理論下限は \(\log_2(408.4)=8.67\) ビットで、コスモンが払ったのは \(10.73\) ビット ── 超過はわずか 2.06 ビット。「10.7 払って最大 408 買う」と書きましたが、その 10.7 という値段自体が、ほぼ最小だったのです。
最後に \(\log_2B\) の効き方。階層がどれだけ大きくても、下限は 1〜2 個ぶんで頭打ちです ── 408 ビットも 55 ビットも 36 ビットも、要るのは 1〜2 個。指数写像があるなら、階層の大きさはほとんど値段に効きません。 逆に指数写像が無ければ \(B\) をそのまま払う ── 408 ビットは 76 個ぶん。だから解けていないのです。
番外編②:階層は自分の対数まで縮む。だから微調整の値段は、指数写像があるかどうかでほぼ決まる。
── どちらも、本編第3回の一つの手続き(次元付きは帳簿、無次元が物理。比較相手を言え)の上に立っています。50 回で作った道具は、まだ使えました。
この文書は「わかる c·t=一定」シリーズの番外編②(本編全50話の完結後に書いた深掘り)、物理好きの高校生・大学生向け読み物です。数値は kenshou/calc57.py で計算しています。次元転移、走る結合定数、階層性問題、宇宙定数問題はいずれも標準的な内容です。強いのは 01〜03節:\(d\ln\Lambda/d\ln\alpha=H\) は 1 ループの次元転移から直接出て、\(B\to\log_2B\) は「\(B\) ビットの階層を 1 ビット以内に決めるのに要る \(\alpha\) の精度が \(\log_2B\) ビット」という記述長についての言明で、近似も規約も入っていません。04節の判定表は中くらい ── 「指数写像があるか」は客観的ですが「実際の扱われ方」は文献の空気の要約で、4 例しかなく選び方にも偏りがあります。05・06節がいちばん弱いところです:\(\log_2B\) を第5回の 5.37 ビット/個 で割った換算は、5.37 が \(N=1701\) から出たパラメータの値段である以上、記述長の精度ビットと同じ通貨だという保証がありません(第48回②と同じ弱点)。06節の一致(0.96→アクシオン 1 個、1.61→コスモン 2 個)は 2 例だけで、目に付いたパターンの記録であって結果ではありません。「指数写像がない」は「いまのところ見つかっていない」という意味で、原理的に不可能だと示されたわけではありません ── むしろ 47 倍という圧縮率こそが探し続ける理由になっています。 ── 印刷する場合はブラウザの「印刷」から「PDF に保存」を(印刷版ではスライダーと解答は静止・非表示になります)。