わかる c·t=一定 第 49 回 / 第 VI 部・手続きを検査する

4 割近くは、データでは閉じません

扉には、
四種類しかなかった 48 回で開けて閉じなかった問いを、全部並べます。
そして「どの種類の扉か」を見分けることが、すでに一つの結果でした。

必要な道具:第3回の判定、第19回の目盛り、第 IV・V 部の未解決、第48回16 個の扉、6 個は待っても閉じない

残り二回です。今回は開いたままの扉 ── 48 回で開けて、閉じなかった問いを全部並べます。そして並べると分かるのは ── 扉には四種類しかなく、そのうち 4 割近くはデータでは閉じないということです。どの種類の扉かを見分けることが、このシリーズがやってきたことでした。

01開けて、閉じなかった扉

問い何が閉じるか種類
181 ビット \(\leftrightarrow\) 1.96 fm は意味があるのか──偶然
29MOND は他のデータセットでも生き残るか銀河団・CMB の解析観測
34共形重力の CMB 予言は立つのか計算が未確立計算
36「偶然の帯」は本物か標本を増やす観測
38共形因子の積分路はどれが正しいか第一原理からの導出計算
38ゴーストを両方に置かない理論はあるか存在証明か不可能性証明計算
40地平面の無い重力場のエントロピーとは何か合意された定義定義
41初期の低エントロピーは何が説明するか原始重力波 \(r\) の測定観測
42情報はブラックホールから出てくるか機構の解明計算
43時空は離散かローレンツ不変性の 2 次の効果観測
43\(G\) は共形変換で動くのか──(規約の選択)定義
44\(^4\)He の \(\lambda\) 転移の \(6\sigma\) は何か実験の再現と系統誤差観測
46ハッブル定数の食い違いはどちらに落ちるか距離はしごと CMB の再検討観測
47基本定数はいくつあるか──(規約の選択)定義
48感覚的な美しさは測れるか──(この道具の外)測れない
48自然さの事前分布は何が決めるか──(事前の選択)定義
◇ ◇ ◇

02核心 ── 扉は、四種類しかなかった

種類個数性質
観測\(6\)データが決める。いつか閉じる
計算\(4\)証明か導出が決める。原理的には閉じる
定義\(4\)規約の選択。データでは閉じない
偶然/測れない\(2\)追う価値が無い/この道具の外。閉じられない

今回いちばん言いたいこと

16 個のうち 6 個(4 割近く)は、データでは閉じません。
「物理の未解決問題」と聞いて思い浮かぶのは観測待ちのものですが、
実際には規約と、道具の外にあるものが同じくらいの数あります
── 「どの種類の扉か」を見分けることが、すでに一つの結果です。

図:16 個の扉を種類別に並べたもの。観測で閉じるもの(左)は時期の見込みがあり、定義で決まるもの(右)は待っても閉じません。ツマミで「待つ年数」を動かすと、どれだけ待っても右側が残ることが見えます

0 年
観測で閉じる 計算で閉じる 定義で決まる(閉じない) 閉じたもの

03観測で閉じる扉は、いつ閉じるか

測るものいまの値装置時期
原始重力波 \(r\)\(<0.036\)LiteBIRD / CMB-S42030 年代
暗黒エネルギー \(w(z)\)\(-1.03\pm0.03\)Euclid / DESI / Rubin2020 年代後半
\(\alpha\) の時間変化\(|\Delta\alpha/\alpha|<1.4\times10^{-8}\)光格子時計・核時計2020 年代
ハッブル定数\(67.4\) 対 \(73.0\)JWST / 標準サイレン2020 年代後半
BH のスピンと合体モデル依存LISA / Einstein Telescope2030 年代
時空の離散性(2 次)\(E_{\rm QG,2}>10^{11}\) GeVCTA など2020 年代後半

観測で閉じる 6 つのうち、ほとんどが 2020〜2030 年代に決着する見込みです ── このシリーズの読者が、生きているうちに答えを見ます。

04定義で決まる扉は、閉じない

43
\(G\) は共形変換で動くのか規約の選択 ── 観測では決まらない
47
基本定数はいくつあるか同上
48
自然さの事前分布は何が決めるか同上 ── ただしこれは「どうでもよい」という意味ではない

04節の結論

規約を選ばないと、文が完成しません(第3回)。
── 選んでから測る。順序が逆になると、答えが規約に依存していることに気づけません。
第37回⑤(\(\alpha\) は一定か)、第43回②(最小長)は、まさにその実例でした。

05判定が変わらなかったもの

言明初出その後
\(c\cdot t=\)一定 は記法であって、新しい物理ではない第3回第46回で再確認
初期宇宙まで額面で外挿すると元素合成と矛盾する前シリーズ動かない
次元付きは帳簿、無次元が物理第3回第47回で SI が同じ線を引いていた
比較相手を言わなければ、まだ文になっていない第3回第37・43回で二度効いた

開いた扉の数だけ、閉じたままの扉もあります。

正直な線

① 01節の 16 個という数は、本シリーズが数えた結果です。 何を「一つの扉」と数えるかは恣意的で、細かく分ければもっと増え、まとめればもっと減ります ── 02節の割合(38 パーセント)も同じだけ動きます。要点は「四種類ある」という構造のほうで、個数ではありません(第46回③と同じ注意)。

② 03節の「時期」は、各計画が公表している目標に基づく見込みです。 計画は遅れることがあり、目標精度に届かないこともあります ── 装置名と時期は本稿執筆時点(2026 年)の見通しであって、約束ではありません。また「決着する」と書いた項目でも、結果が中間的で決着しない可能性は常にあります。

③ 「計算で閉じる」に入れた 4 個は、楽観的な分類かもしれません。 ブラックホールの情報問題(第42回)は半世紀にわたって「もうすぐ解ける」と言われ続けてきた問題で、「原理的には閉じる」という言い方が正しいかどうか自体、確かではありません。

④ 「定義で決まる」ものを軽く扱ってはいけません。 規約の選択はデータでは決まりませんが、選び方によって何が測れるかが変わります ── たとえば \(G\) を動かすかどうかで、最小長についての言明の意味がまるごと変わりました(第43回)。「観測で決まらない」は「重要でない」ではありません。

⑤ この一覧は、本シリーズが扱った範囲の扉だけです。 物理学の未解決問題はこれよりはるかに多く(量子重力、暗黒物質の正体、バリオン非対称性、測定問題……)、本稿はそれらを網羅していません ── 「48 回で開けて閉じなかったもの」という限定つきの一覧です。

練習問題

  1. 開いたままの扉は、何種類に分かれたか。
    答えを見る
    四種類 ── ①観測で閉じる(6 個)、②計算で閉じる(4 個)、③定義で決まる(4 個)、④偶然/測れない(2 個)。「どの種類の扉か」を見分けることが、すでに一つの結果です。
  2. データでは閉じない扉は、何割か。
    答えを見る
    4 割近く(6 個、38 パーセント)です ── 定義で決まるもの 4 個と、偶然/測れないもの 2 個。「物理の未解決問題」と聞いて思い浮かぶのは観測待ちのものですが、規約と道具の外にあるものが同じくらいあります。ただし①のとおり、数え方に依存します。
  3. 観測で閉じる扉のうち、いちばん早く閉じそうなのは。
    答えを見る
    \(\alpha\) の時間変化(光格子時計・核時計、2020 年代)と 暗黒エネルギー \(w(z)\)ハッブル定数(いずれも 2020 年代後半)です ── このシリーズの読者が、生きているうちに答えを見ます。ただし②のとおり、これは見通しであって約束ではありません。
  4. 「定義で決まる」扉は、どうでもよいのか。
    答えを見る
    違います。 規約を選ばないと文が完成しません(第3回)── 選んでから測る、という順序が要ります。逆にすると、答えが規約に依存していることに気づけません。「観測で決まらない」は「重要でない」ではありません(正直な線④)。
  5. (やや難)48 回で一度も動かなかった判定は何か。
    答えを見る
    四つ ── ①\(c\cdot t=\)一定 は記法であって新しい物理ではない(第3回、第46回で再確認)、②初期宇宙まで額面で外挿すると元素合成と矛盾する(前シリーズ)、③次元付きは帳簿・無次元が物理(第47回で SI が同じ線を引いていた)、④比較相手を言わなければまだ文になっていない(第37・43回で二度効いた)。開いた扉の数だけ、閉じたままの扉もあります。

まとめ 扉には、四種類しかなかった

48 回で開けて閉じなかった問いを並べると 16 個あり、それは四種類に分かれました ── 観測で閉じるもの 6 個、計算で閉じるもの 4 個、定義で決まるもの 4 個、偶然/測れないもの 2 個。

観測で閉じる 6 つは、ほとんどが 2020〜2030 年代に決着する見込みです ── 原始重力波 \(r\)(LiteBIRD / CMB-S4)、暗黒エネルギー \(w(z)\)(Euclid / DESI / Rubin)、\(\alpha\) の時間変化(光格子時計)、ハッブル定数(JWST / 標準サイレン)、BH のリングダウン(LISA / Einstein Telescope)、時空の離散性(CTA)。このシリーズの読者が、生きているうちに答えを見ます。

ところが 16 個のうち 6 個(4 割近く)は、データでは閉じません。「物理の未解決問題」と聞いて思い浮かぶのは観測待ちのものですが、実際には規約と、道具の外にあるものが同じくらいの数あります ── 「どの種類の扉か」を見分けることが、すでに一つの結果でした。

そして定義で決まる扉を、軽く扱ってはいけません。規約を選ばないと、文が完成しない(第3回)── 選んでから測る。順序が逆になると、答えが規約に依存していることに気づけません。第37回の「\(\alpha\) は一定か」も、第43回の「最小長」も、まさにその実例でした。

最後に、48 回で一度も動かなかったものも書いておきます ── \(c\cdot t=\)一定 は記法であって新しい物理ではないこと、初期宇宙まで外挿すれば元素合成と矛盾すること、次元付きは帳簿で無次元が物理であること、比較相手を言わなければまだ文になっていないこと。開いた扉の数だけ、閉じたままの扉もあります。

この文書は「わかる c·t=一定」シリーズ第49回(第 VI 部の 4 回目)、物理好きの高校生・大学生向け読み物です。本回は第1〜48回で「未解決」「未決着」「測れない」と書いた箇所を集めたもので、新しい計算はありません(集計は kenshou/calc53.py)── 各項目の詳細はそれぞれの回の巻末を参照してください。01節の 16 個という数は本シリーズが数えた結果で、何を「一つの扉」と数えるかは恣意的です ── 細かく分ければ増え、まとめれば減り、02節の割合も同じだけ動きます。要点は「四種類ある」という構造で、個数ではありません03節の「時期」は各計画が公表している目標に基づく見込みで、計画は遅れることがあり目標精度に届かないこともあります ── 装置名と時期は本稿執筆時点(2026 年)の見通しであって約束ではなく、「決着する」と書いた項目でも結果が中間的で決着しない可能性は常にあります。「計算で閉じる」に入れた 4 個は楽観的な分類かもしれません ── ブラックホールの情報問題は半世紀にわたって「もうすぐ解ける」と言われ続けてきた問題です。「定義で決まる」ものを軽く扱ってはいけません:規約の選択はデータでは決まりませんが、選び方によって何が測れるかが変わります(第43回で \(G\) を動かすかどうかが最小長の言明の意味を変えました)── 「観測で決まらない」は「重要でない」ではありませんこの一覧は本シリーズが扱った範囲の扉だけで、物理学の未解決問題はこれよりはるかに多く(量子重力、暗黒物質の正体、バリオン非対称性、測定問題……)、本稿はそれらを網羅していません。 ── 印刷する場合はブラウザの「印刷」から「PDF に保存」を(印刷版ではスライダーと解答は静止・非表示になります)。

印刷 / PDF 化:⌘+P(Windows は Ctrl+P)。画面ではツマミで年数を進めると、閉じない扉が残ることが見えます。「答えを見る」で解答が開きます。