わかる c·t=一定 第 47 回 / 第 VI 部・手続きを検査する
\(c\) は決められて、\(\alpha\) は決められない
世界の度量衡が、
同じ場所に線を引いていた
2019 年、SI は七つの定数を固定して単位を定義し直しました ── キログラム原器は廃止。
次元付きが帳簿であることの、国際的な公式宣言です。
前回、試せたのは無次元量に置かれた特徴づけだけでした。今回はその地図を描きます ── 物理に出てくる無次元量を並べ、何が物理で、何が帳簿かの境界線を一枚に。そして分かるのは ── 2019 年に、国際単位系がその線を同じ場所に引いていたことです。
012019 年、国際単位系が線を引き直した
| 定数 | 固定された値(厳密) | 定義される単位 |
|---|---|---|
| \(\Delta\nu_{\rm Cs}\) | 9 192 631 770 Hz | 秒 |
| \(c\) | 299 792 458 m/s | メートル |
| \(h\) | \(6.62607015\times10^{-34}\) J·s | キログラム |
| \(e\) | \(1.602176634\times10^{-19}\) C | アンペア |
| \(k_B\) | \(1.380649\times10^{-23}\) J/K | ケルビン |
| \(N_A\) | \(6.02214076\times10^{23}\) /mol | モル |
| \(K_{\rm cd}\) | 683 lm/W | カンデラ |
01節の結論
キログラム原器は廃止されました。 質量は \(h\) から作られます。
── これは、次元付きの量が帳簿であることの、国際的な公式宣言です。
第3回でこのシリーズが手で引いた線を、世界の度量衡が同じ場所に引いていました。
02核心 ── ところが \(\alpha\) は固定できなかった
\(\varepsilon_0\) が測定量になったから ── \(1/\alpha=137.035999177(21)\)、いまも測るしかない
今回いちばん言いたいこと
無次元だから、法令では決められないのです。
── \(c\) は決められて \(\alpha\) は決められない。
これが第3回の線の、いちばん鮮明な形です。
03単位を決めるのに、いくつ要るか
03節の結論
どの立場でも一致していること ── 物理の中身は、無次元量の側にある。
04無次元量の地図
| 量 | 値 | 説明はあるか |
|---|---|---|
| 宇宙が処理した情報 \(N\)(第24回) | \(3.1\times10^{122}\) | 第40・41回と同じ数 |
| 陽子と電子の質量比 \(m_p/m_e\) | \(1836.15\) | 説明されていない |
| \(1/\alpha\) | \(137.036\) | 説明されていない |
| スペクトル指数 \(n_s\) | \(0.9649\) | インフレーションが説明を主張 |
| \(\Omega_\Lambda\) | \(0.685\) | 説明されていない |
| \(v/M_P\) | \(2.0\times10^{-17}\) | 階層性問題 |
| \(\alpha_G=Gm_p^2/\hbar c\) | \(5.9\times10^{-39}\) | 説明されていない |
| \(\rho_\Lambda/\rho_{\rm Planck}\)(第32回) | \(1.13\times10^{-123}\) | 宇宙定数問題 |
いちばん大きい \(3.1\times10^{122}\) から いちばん小さい \(1.13\times10^{-123}\) まで ── 815 ビットの幅があります。そしてすべてが同じ列(ウェイト 0)にあり、共形変換はどれ一つ動かせません。
図:物理に出てくる無次元量を、対数の一本の軸に並べたもの。815 ビットの幅があります。ツマミで「窓」を動かすと、そこにいくつ入るかが読めます ── 大きい側にも小さい側にも、説明されていない数が並んでいます
05いくつあって、いくつ説明されているか
| 枠組み | 個数 | 内訳 |
|---|---|---|
| 標準模型(ニュートリノ質量を除く) | \(19\) | 次元を持つのは \(\mu^2\)(=ヒッグスの \(v\))1 個だけ |
| ニュートリノの質量と混合 | \(7\) | 3 質量 + 3 角 + 1 位相 |
| \(\Lambda\)CDM の基本パラメータ | \(6\) | 6 個すべてが無次元 |
| 合計 | \(32\) | \(\times5.37=\mathbf{171.7}\) ビット |
05節の結論
標準模型のラグランジアンで次元を持つ定数は \(\mu^2\) ただ一つです。残りは全部が無次元 ── そして \(\Lambda\)CDM の 6 個も全部が無次元。
── 現代物理はすでに、パラメータを物理の列に書いています。
そして第一原理から導かれているものはほぼゼロ ── 171.7 ビットが説明されていません。
06手続きを、自分に当てる
ここで一つ、やってみたくなることがあります。いま出した 171.7 ビットと、第2回の「宇宙の全歴史 \(=140.24\) 対数ステップ」── なんとなく似た桁に見えます。何か意味があるのでしょうか。
「一致した」と言うには ±5 パーセント以内が要る → 命中していない。驚きは 0 ビット
しかも仮に近かったとしても、驚きは小さいものでした ── パラメータの個数は 15〜30 個、1 個の値段は 5〜6 ビットがもっともらしいので、積の事前範囲は 75〜180(幅 105)。±5 パーセント(幅 14)に落ちる驚きは 2.9 ビット、偶然の帯の下端です。
06節の結論
これが、手続きを持っていることの値打ちです。
「似ている」という印象を、その場で数字にして棄却できる。
── 第36回で「偶然の帯は選択効果」と書きましたが、選択の網に掛からないものは、こうやって落ちていきます。
① 05節のパラメータの数え方には、複数の流儀があります。 標準模型の 19 個はニュートリノ質量を含めない標準的な数え方で、含めれば 26〜28 個(マヨラナ位相を数えるかで変わります)。\(\theta_{\rm QCD}\) を数えるかどうかでも変わります ── 「32」は一つの数え方の結果で、20 台後半から 30 台前半で動きます。
② 「171.7 ビットが説明されていない」の 5.37 ビットは、第5回の値段です。 あれは \(N=1701\) という特定のデータ点数から出た数で、パラメータ 1 個の「値段」に普遍的な値があるわけではありません ── 本質は「32 個がほぼ全部未説明」という構造のほうで、171.7 という数字の有効数字に意味はありません(第39回⑤と同じ注意)。
③ 02節の「\(\alpha\) は固定できない」は、SI の設計についての言い方です。 \(e\)、\(\hbar\)、\(c\) を固定すると \(\varepsilon_0\)(および \(\mu_0\))が測定量になり、その不確かさは \(\alpha\) の不確かさで決まります ── 「無次元量は法令で決められない」という言い方は本シリーズの表現で、より正確には「単位の定義は無次元量を決めない」です。
④ 03節の「基本定数はいくつか」は、いまも意見が分かれる問いです。 Duff、Okun、Veneziano がそれぞれ 0 個、3 個、2 個を主張した 2002 年の鼎談が有名で、決着はしていません ── 本稿が採ったのは「どの立場でも物理は無次元側にある」という、争点にならない部分だけです。
⑤ 04節の「説明されていない」は、第一原理からの導出が無いという意味です。 多くの量には部分的な理解や、模型の中での関係があります(たとえば \(m_p/m_e\) は QCD と電弱理論から原理的には計算できるはずの量です)── 「まったく何も分かっていない」という意味ではありません。
練習問題
- 2019 年の SI は、何を固定して単位を定義したか。
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七つの定数の値を厳密に固定しました ── \(\Delta\nu_{\rm Cs}\)、\(c\)、\(h\)、\(e\)、\(k_B\)、\(N_A\)、\(K_{\rm cd}\)。キログラム原器は廃止され、質量は \(h\) から作られます ── 次元付きの量が帳簿であることの、国際的な公式宣言です。 - \(e\)、\(\hbar\)、\(c\) が固定されたのに、なぜ \(\alpha\) は決まらないのか。
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\(\varepsilon_0\) が測定量になったからです。\(\alpha=e^2/4\pi\varepsilon_0\hbar c\) の不確かさは、そのまま \(\varepsilon_0\) の不確かさになります ── 単位の定義は、無次元量を決めません。\(c\) は決められて \(\alpha\) は決められない、これが第3回の線のいちばん鮮明な形です。 - 標準模型のラグランジアンで、次元を持つ定数はいくつか。
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\(\mu^2\) ただ一つ(ヒッグスの質量項、\(v\) を決めるもの)です。残りの結合定数と湯川結合はすべて無次元 ── 現代物理はすでに、パラメータを物理の列に書いています。\(\Lambda\)CDM の基本 6 個も全部が無次元です。 - 171.7 ビットと 140.24 対数ステップは一致しているか。
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していません ── 相対差 22 パーセント。「一致」と言うには ±5 パーセント以内が要るので、命中しておらず驚きは 0 ビットです。仮に近くても驚きは 2.9 ビットで、偶然の帯の下端でした ── 手続きがあると、印象をその場で棄却できます。 - (やや難)無次元量の地図の幅は何ビットか。
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\(3.1\times10^{122}\) から \(1.13\times10^{-123}\) まで、815 ビットです。そしてそのすべてが同じ列(ウェイト 0)にあり、共形変換はどれ一つ動かせません ── だからこそ、この列が判定の土俵になります。
まとめ 世界の度量衡が、同じ場所に線を引いていた
2019 年 5 月 20 日から、SI は七つの定数の値を厳密に固定して単位を定義しています ── \(\Delta\nu_{\rm Cs}\)、\(c\)、\(h\)、\(e\)、\(k_B\)、\(N_A\)、\(K_{\rm cd}\)。キログラム原器は廃止され、質量は \(h\) から作られます。これは次元付きの量が帳簿であることの、国際的な公式宣言でした ── 第3回でこのシリーズが手で引いた線を、世界の度量衡が同じ場所に引いていたのです。
ところが \(\alpha\) は固定できませんでした。\(e\)、\(\hbar\)、\(c\) を固定すると \(\varepsilon_0\) が測定量になり、\(1/\alpha=137.035999177(21)\) はいまも測るしかありません ── 無次元だから、法令では決められない。\(c\) は決められて \(\alpha\) は決められない ── これが第3回の線の、いちばん鮮明な形です。
無次元量の地図を描くと、\(3.1\times10^{122}\)(第24回の \(N\))から \(1.13\times10^{-123}\)(宇宙定数)まで 815 ビットの幅があり、そのすべてが同じ列にあります。数えると、標準模型 19 + ニュートリノ 7 + \(\Lambda\)CDM 6 で 32 個。うち次元を持つのは \(\mu^2\) ただ一つで、第一原理から導かれているものはほぼゼロ ── 171.7 ビットが説明されていません。
最後に、手続きを自分に当てました。171.7 ビットと第2回の 140.24 対数ステップが似た桁に見えますが、相対差は 22 パーセント。命中しておらず、驚きは 0 ビットです。仮に近くても 2.9 ビット、偶然の帯の下端でした ── 「似ている」という印象を、その場で数字にして棄却できる。これが手続きを持っていることの値打ちです。
この文書は「わかる c·t=一定」シリーズ第47回(第 VI 部の 2 回目)、物理好きの高校生・大学生向け読み物です。2019 年の SI 改定、標準模型と \(\Lambda\)CDM のパラメータの数え方、無次元量の一覧はいずれも標準的な内容で、本稿に新しい主張はありません ── 数値は kenshou/calc51.py で計算しています。05節のパラメータの数え方には複数の流儀があります ── 標準模型の 19 個はニュートリノ質量を含めない数え方で、含めれば 26〜28 個(マヨラナ位相を数えるかで変わります)、\(\theta_{\rm QCD}\) を数えるかでも変わります ── 「32」は一つの数え方の結果です。「171.7 ビット」の 5.37 ビットは第5回の値段(\(N=1701\) から出た数)で、パラメータ 1 個の値段に普遍的な値があるわけではありません ── 本質は「32 個がほぼ全部未説明」という構造で、有効数字に意味はありません。02節の「\(\alpha\) は固定できない」は SI の設計についての言い方で、より正確には「単位の定義は無次元量を決めない」です(\(e,\hbar,c\) の固定により \(\varepsilon_0\) が測定量になり、その不確かさが \(\alpha\) の不確かさで決まります)。03節の「基本定数はいくつか」はいまも意見が分かれる問いで(Duff・Okun・Veneziano が 0 個・3 個・2 個を主張した 2002 年の鼎談が有名)、本稿は争点にならない部分だけを採りました。04節の「説明されていない」は第一原理からの導出が無いという意味で、多くの量には部分的な理解や模型内での関係があります ── 「まったく何も分かっていない」という意味ではありません。 ── 印刷する場合はブラウザの「印刷」から「PDF に保存」を(印刷版ではスライダーと解答は静止・非表示になります)。