わかる c·t=一定 第 46 回 / 第 VI 部・手続きを検査する
もっともらしさの出所が分かりました
12 の言い方は、
3 個の入力だった
\(a\propto t\) の言い方を全部集めて、独立なものを数えます。
そして、なぜ \(c\cdot t=\)一定 がもっともらしく見えたのかが分かります。
第 VI 部は、手続きそのものを検査する部です。最初は、このシリーズが 45 回かけて扱ってきた \(a\propto t\) を正面から見ます ── いったい何通りの言い方があるのか。全部集めて数え、そのうち独立なのはいくつかを数えます。そして分かるのは ── なぜ \(c\cdot t=\)一定 が、これほどもっともらしく見えたのかです。
01\(a\propto t\) の言い方を、全部集める
| 番号 | 言い方 | 何が要るか | 種類 |
|---|---|---|---|
| A1 | \(a(t)\propto t\) | 定義そのもの | 運動学 |
| A2 | \(\ddot a=0\) | 2 回微分してゼロ | 運動学 |
| A3 | 減速パラメータ \(q=-\ddot aa/\dot a^2=0\) | A2 の書き換え | 運動学 |
| A4 | \(H=\dot a/a=1/t\) | 1 回微分 | 運動学 |
| A5 | \(H\cdot t=1\) | A4 の書き換え(無次元) | 運動学 |
| A6 | 共動ハッブル半径 \((aH)^{-1}=\)一定 | \(aH=1\) だから | 運動学 |
| A7 | 共形時間 \(\eta=\int dt/a=\ln t\) | 積分するだけ | 運動学 |
| A8 | ハッブル半径 \(c/H=c\,t\) ちょうど | A4 の書き換え | 運動学 |
| A9 | 粒子的地平面が発散する | \(\int dt/t\) が発散 | 運動学 |
| B1 | 状態方程式 \(w=-1/3\) | フリードマン方程式が要る | 力学 |
| C1 | \(R=6(1+k)/t^2\)(第33回) | さらに \(k\) が要る | 幾何 |
| C2 | \(k=-1\) なら \(R=0\)(ミルン) | C1 の特別な場合 | 幾何 |
01節の結論
全部で 12 個。うち 9 個(A1〜A9)は運動学だけで互いに同値です ── 微分と積分の書き換えにすぎません。
── 第19回の分類では、A1〜A9 は互いに 0 ビット(恒等式)。
02独立な入力は、いくつか
第26回(24 → 12)、第40回(三つの \(10^{122}\) → 一つ)、第41回(四つ → 一つ)に続いて、四度目の圧縮です ── 今度はシリーズ自身の主題に当てました。
03二つの \(a\propto t\) は、別物
| どちらの \(a\propto t\) か | \(R\) | リーマン | 第33回では |
|---|---|---|---|
| ミルン(\(k=-1\)、\(\rho=0\)) | \(0\) | ゼロ | 第 1 段:ミンコフスキーの変装 |
| \(k=0\)、\(w=-1/3\) の物質 | \(6/t^2\ne0\) | \(\ne0\) | 第 2 段:本物の曲がった時空 |
「\(a\propto t\)」は一つの条件ですが、それを満たす時空は一つではありません。 中身が空なら平坦、中身があれば曲がっている ── 同じ膨張則でも別物です。
04核心 ── どれが観測で試せて、どれくらい外れているか
| 特徴づけ | 予言 | 観測 | 何 \(\sigma\) | ビット |
|---|---|---|---|---|
| \(q=0\)(A3) | \(0\) | \(-0.53\pm0.04\) | \(13.2\) | \(130\) |
| \(w=-1/3\)(B1) | \(-0.333\) | \(-1.03\pm0.03\) | \(23.2\) | \(395\) |
| \(H_0t_0=1\)(A5、Planck) | \(1\) | \(0.951\pm0.007\) | \(6.8\) | \(36\) |
| \(H_0t_0=1\)(A5、局所測定) | \(1\) | \(1.030\pm0.014\) | \(2.1\) | \(4.9\) |
今回いちばん言いたいこと
ハッブル定数の食い違いが、ちょうど \(H_0t_0=1\) をまたいでいます。
Planck の値なら 0.951(下)、局所測定なら 1.030(上)。
── そして \(q=0\) は 13\(\sigma\)、\(w=-1/3\) は 23\(\sigma\) で桁で外れています。
05なぜ \(H_0t_0=1\) だけが惜しいのか
\(a\propto t\) の予言は 1 ── ずれは 4.9 パーセントしかない
図:\(\Lambda\)CDM の \(a(t)\) と、\(a\propto t\) の直線。いま(右端)で高さも傾きも合わせると、途中がずれます ── ところが面積(=積分)で見るとほとんど同じ。ツマミで見る時刻を動かしてください ── \(q\) は瞬間の曲がり、\(H_0t_0\) は履歴ぜんぶ
06帳簿
| 向き | 中身 | 量 |
|---|---|---|
| 買う | 地平線問題が消える(A6:共動ハッブル半径が一定、A9:粒子的地平面が発散) | ── |
| 買う | パラメータが 1 個減る | 第25回の \(-148.3\) の一部 |
| 払う | \(q=0\) が外れる | \(130\) ビット |
| 払う | \(w=-1/3\) が外れる | \(395\) ビット |
払う側が桁違いに大きい ── 第25回の帳簿と同じ結論に、別の道から着きました。
① 04節の「局所測定なら 1.030」は、整合的なモデルの中の計算ではありません。 \(t_0=13.797\) Gyr は Planck の \(\Lambda\)CDM から出た値で、局所測定の \(H_0\) にその \(t_0\) を掛けるのは筋が通っていません(\(H_0\) を変えれば \(t_0\) も変わります)── 「\(H_0\) を大きくすれば \(H_0t_0\) は 1 を超えうる」という目安として読んでください。
② 04節の \(\sigma\) とビットは、引いた誤差をそのまま合成したものです。 \(q_0\) の \(\pm0.04\) や \(w\) の \(\pm0.03\) は解析の仕方に依存し、系統誤差の扱いで動きます ── 130 ビット・395 ビットという値の桁は動きませんが、有効数字は信用しないでください。また \(q_0\) の値そのものが \(\Lambda\)CDM の枠内で求めたものです。
③ 02節の「圧縮率 4.0 倍」は、言い方を 12 個数えた結果です。 言い方は数え方次第でいくらでも増減します ── 本質は「9 個が互いに恒等式で、独立な入力は 3 個」という構造のほうで、4.0 という数字そのものに意味はありません(第26回②と同じ注意)。
④ 05節の「積分か瞬間か」は、なぜそう見えるかの説明であって、\(a\propto t\) を擁護するものではありません。 「もっともらしく見える理由」を説明することは、「正しい」ことの根拠になりません ── むしろ逆で、もっともらしさの出所が分かったぶん、判定は前より明確になります。
⑤ 本シリーズの判決は第3回以来変わっていません。 \(c\cdot t=\)一定 は記法であって新しい物理ではなく、初期宇宙まで額面で外挿すれば元素合成と矛盾します(前シリーズ)。学術的な標準は \(\Lambda\)CDM モデルです。
練習問題
- \(a\propto t\) の言い方 12 個のうち、互いに恒等式なのは何個か。
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9 個(A1〜A9)です ── \(\ddot a=0\)、\(q=0\)、\(H=1/t\)、\(Ht=1\)、\((aH)^{-1}=\)一定、\(\eta=\ln t\)、\(c/H=ct\)、粒子的地平面の発散。微分と積分の書き換えにすぎず、第19回の分類では互いに 0 ビットです。 - 独立な入力はいくつか。
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3 個:①膨張則 \(a\propto t\)(A1〜A9 が出る)、②アインシュタイン方程式(B1 が出る)、③空間曲率 \(k\)(C1・C2 が出る)。12 の言い方は 3 個から出ていました ── 四度目の圧縮です。 - ミルンと「\(k=0\)、\(w=-1/3\)」は同じ時空か。
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違います。 ミルン(\(k=-1\)、\(\rho=0\))は \(R=0\) でリーマンもゼロ ── ミンコフスキーの変装(第33回の第 1 段)。\(k=0\) で \(w=-1/3\) の物質があれば \(R=6/t^2\ne0\) で本物の曲がった時空(第 2 段)です。 - \(q=0\)、\(w=-1/3\)、\(H_0t_0=1\) のうち、いちばん惜しいのはどれか。
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\(H_0t_0=1\)。Planck の値でも 0.951(ずれ 4.9 パーセント)で、局所測定を使えば 1.030 と 1 をまたぎます。一方 \(q=0\) は 13\(\sigma\)、\(w=-1/3\) は 23\(\sigma\) ── 桁で外れています。 - (やや難)なぜ \(H_0t_0\) だけが惜しいのか。
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積分量だからです。\(H_0t_0\) は宇宙の歴史ぜんぶを積分した量で、減速期と加速期が打ち消し合います。\(q\) と \(w\) はいまこの瞬間の量で、打ち消し合いようがありません ── だから \(c\cdot t=\)一定 はもっともらしく見えたのです。 ただし④のとおり、これは擁護ではありません。
まとめ もっともらしさの出所が分かった
\(a\propto t\) の言い方を全部集めると 12 個ありました。うち 9 個(A1〜A9)は互いに恒等式 ── \(\ddot a=0\)、\(q=0\)、\(H=1/t\)、\(Ht=1\)、共動ハッブル半径が一定、\(\eta=\ln t\)、\(c/H=ct\)、粒子的地平面の発散。微分と積分の書き換えにすぎません。残りは力学(\(w=-1/3\))と幾何(\(R=6(1+k)/t^2\))で、独立な入力は 3 個でした ── 第26回・第40回・第41回に続く四度目の圧縮です。
そして同じ \(a\propto t\) でも、ミルン(\(k=-1\)、空)は平坦でミンコフスキーの変装、\(k=0\) で物質があれば本物の曲がった時空 ── 一つの条件が一つの時空を決めるわけではありません。
観測で試せるのは、無次元量に置かれたものだけです。\(q=0\) は 13\(\sigma\)、130 ビット、\(w=-1/3\) は 23\(\sigma\)、395 ビット ── 桁で外れています。ところが \(H_0t_0=1\) だけは違いました ── Planck の値で 0.951(ずれ 4.9 パーセント)、局所測定を使えば 1.030。ハッブル定数の食い違いが、ちょうど 1 をまたいでいます。
なぜ一つだけ惜しいのか。\(H_0t_0\) は積分量だからです ── 宇宙の歴史ぜんぶを積分するので、減速期と加速期が打ち消し合います。\(q\) と \(w\) はいまこの瞬間の量で、打ち消し合いようがありません。
だから \(c\cdot t=\)一定 は、もっともらしく見えたのです。 積分した観測量ではほぼ合い、瞬間の観測量では桁で外れる ── 前シリーズの判決(元素合成と矛盾)は、その「瞬間の側」の話でした。もっともらしさの出所が分かったぶん、判定は前より明確になります。
この文書は「わかる c·t=一定」シリーズ第46回(第 VI 部の 1 回目)、物理好きの高校生・大学生向け読み物です。\(a\propto t\) の各特徴づけ、ミルン宇宙、\(\Lambda\)CDM の \(H_0t_0\) はいずれも標準的な内容で、本稿に新しい主張はありません ── 数値は kenshou/calc50.py で計算しています。04節の「局所測定なら 1.030」は整合的なモデルの中の計算ではありません ── \(t_0=13.797\) Gyr は Planck の \(\Lambda\)CDM から出た値で、局所測定の \(H_0\) にそれを掛けるのは筋が通っておらず(\(H_0\) を変えれば \(t_0\) も変わります)、「\(H_0\) を大きくすれば \(H_0t_0\) は 1 を超えうる」という目安として読んでください。04節の \(\sigma\) とビットは引いた誤差をそのまま合成したもので、\(q_0\) の \(\pm0.04\) や \(w\) の \(\pm0.03\) は解析の仕方に依存します ── 桁は動きませんが有効数字は信用しないでください(\(q_0\) 自体も \(\Lambda\)CDM の枠内の値です)。02節の「圧縮率 4.0 倍」は言い方を 12 個数えた結果で、言い方は数え方次第で増減します ── 本質は「9 個が互いに恒等式で独立な入力は 3 個」という構造のほうです。05節の「積分か瞬間か」は、なぜそう見えるかの説明であって \(a\propto t\) を擁護するものではありません ── もっともらしさの出所が分かったぶん、判定はむしろ明確になります。本シリーズの判決は第3回以来変わっていません:\(c\cdot t=\)一定 は記法であって新しい物理ではなく、初期宇宙まで額面で外挿すれば元素合成と矛盾します。学術的な標準は \(\Lambda\)CDM モデルです。 ── 印刷する場合はブラウザの「印刷」から「PDF に保存」を(印刷版ではスライダーと解答は静止・非表示になります)。