わかる c·t=一定 第 43 回 / 第 V 部・道具が壊れる場所

最小長は、共形不変性とそもそも両立しません

プランク長は、
帳簿の列にいた \(\ell_P\) はウェイト \(+1\) ── ただの長さです。
そして「最小の長さがある」理論は、仮定からして共形不変ではありえません。

必要な道具:第2回の対数ステップ、第3回の判定、第16回のウェイト表、第18回、第35回LHC からプランク長まで、50 倍化

第18回で「1 ビット \(\leftrightarrow\) 1.96 fm」を出しました。ではプランク長そのものは、ウェイト表のどこにいるのでしょうか。答えは意外です ── \(\ell_P\) はウェイト \(+1\)、ただの長さ、帳簿の列。そして「長さに最小単位がある」という主張は、共形不変性とそもそも両立しません。第 V 部でいちばんはっきりした、道具の効く範囲の端です。

01プランク長は、ウェイト表のどこにいるか

\(\hbar\) と \(c\) はウェイト 0、\(G\) はウェイト \(+2\)(第35回①) $$\ell_P=\sqrt{\frac{\hbar G}{c^3}}\qquad\Longrightarrow\qquad \text{ウェイト}=\frac{+2}{2}=\mathbf{+1}$$
ウェイト分類
\(\ell_P=1.616\times10^{-35}\) m\(+1\)長さ = 帳簿
\(t_P=5.391\times10^{-44}\) s\(+1\)時間 = 帳簿
\(m_P=2.176\times10^{-8}\) kg\(-1\)質量 = 帳簿
\(E_P=1.221\times10^{19}\) GeV\(-1\)エネルギー = 帳簿
\(L/\ell_P\)(長さの比)\(0\)無次元 = 物理

01節の結論

プランク量はどれも帳簿の列にいます。 物理の列にいるのは比だけ
── 「最小の長さは \(\ell_P\)」は、そのままでは第3回の意味でまだ文になっていません
文にするなら \(L/\ell_P\ge1\)

◇ ◇ ◇

02核心 ── ここで、道具が本当に壊れる

問題は「\(G\) は共形変換で動くのか」です ── 第36回の (A)/(B) が、そのまま \(G\) に当たります。

読み方\(\ell_P\)\(L/\ell_P\)帰結
(A) \(G\) も動く(\(G\to\Omega^2G\))一緒に動くウェイト \(0\)最小長は保たれる → 記法
(B) \(G\) は固定動かないウェイト \(+1\)最小長を割り込ませられる → 主張

今回いちばん言いたいこと

「最小の長さがある」理論は、そもそも共形不変ではありえません。
共形不変性はスケールが無いことを要求し、最小長はスケールそのものだからです。
── 第 V 部でここまで「壊れる/届かない」を見てきましたが、ここは違います。
仮定からして排除されている ── 道具の効く範囲の、はっきりした端です。

03では、プランクスケールとは結局何か

指させる長さではなく、指させる二つの長さの比が 1 になる場所 $$\lambda_C=\frac{\hbar}{mc}\quad(\text{量子の広がり})\qquad r_s=\frac{2Gm}{c^2}\quad(\text{重力の広がり})$$ $$\lambda_C=r_s\ \Longleftrightarrow\ m=\sqrt{\frac{\hbar c}{2G}}=1.539\times10^{-8}\ \text{kg}=\frac{m_P}{\sqrt2}$$
質量 [kg]\(\lambda_C\) [m]\(r_s\) [m]\(\lambda_C/r_s\)
電子 \(9.11\times10^{-31}\)\(3.86\times10^{-13}\)\(1.35\times10^{-57}\)\(2.9\times10^{44}\)
陽子 \(1.67\times10^{-27}\)\(2.10\times10^{-16}\)\(2.49\times10^{-54}\)\(8.5\times10^{37}\)
\(m_P/\sqrt2=1.54\times10^{-8}\)\(2.286\times10^{-35}\)\(2.286\times10^{-35}\)\(1.000\)
1 g\(3.52\times10^{-40}\)\(1.49\times10^{-30}\)\(2.4\times10^{-10}\)
1 kg\(3.52\times10^{-43}\)\(1.49\times10^{-27}\)\(2.4\times10^{-16}\)

03節の結論

交点は無次元の言明です。 だからプランクスケールという概念は生き残ります ──
「長さ」としてではなく、「二つの効果が並ぶ場所」として。

図:質量を動かしたときのコンプトン波長シュヴァルツシルト半径。片方は \(1/m\)、もう片方は \(m\) に比例するので、必ずどこかで交わります。その交点がプランクスケール ── 指させる長さではなく、比が 1 になる場所です

-8.0
コンプトン波長 λ_C = ħ/mc シュヴァルツシルト半径 r_s = 2Gm/c² プランク長 ℓ_P

04私たちは、そこからどれだけ遠いか

LHC の重心系 13.6 TeV で見えている長さ $$\frac{\hbar c}{E}=1.45\times10^{-20}\ \text{m}\qquad \frac{1.45\times10^{-20}}{\ell_P}=9.0\times10^{14}=2^{\,49.7}$$

50 回の倍化ぶん遠い ── 加速器のエネルギーを 2 倍にするたびに 1 歩です。

第2回の目盛りとの一致 \(\ln(R_H/\ell_P)=140.29\)、\(\ln(t_0/t_P)=140.24\) ── 第2回の「140.24 対数ステップ」は、空間で数えても同じでした。
1 次元の位置をプランク精度で指定するには \(\log_2(R_H/\ell_P)=202.4\) ビット、3 次元なら 607 ビット(第38回④と同じ数)。

05観測は何か言っているか

測定\(E_{\rm QG}/E_P\)意味
Fermi GRB 090510(1 次の効果)\(>7.6\)プランクエネルギーを超えて排除
同(2 次の効果)\(>1.3\times10^{-8}\)\(E_P\) の \(10^{-8}\) 倍までしか縛れない

最小長があると、光の速さがエネルギーにわずかに依存しうる(分散)── ガンマ線バーストの到着時間差で縛れます。1 次の効果は排除されましたローレンツ不変性を素朴に破る形の最小長は苦しい。一方 2 次の効果は 8 桁ぶん手つかずで、ここはまだ空白です。ただし、最小長のあるすべての理論がローレンツ不変性を破るわけではありません(破らない定式化もあります)── この制限が効くのは破る形のものだけです。

06第18回の 1.96 fm との関係

第18回:1 ビットに対応する長さ $$\left(\frac{\ln2}{\pi}R_H\,\ell_P^2\right)^{1/3}=1.96\ \text{fm}\qquad\text{ウェイト}=\frac{(+1)+(+2)}{3}=\mathbf{+1}$$

これも帳簿の列でした。物理は \(\ell_P\) との比のほうにあります ── \(1.96\ \text{fm}/\ell_P=1.21\times10^{20}=2^{66.7}\)。つまり「1 ビットの長さ」は、プランク長から 67 倍化ぶん上にあります。

07ウェイト表の総点検 ── 第 V 部を並べる

ウェイト理由
\(\alpha\) の走り(第37回)\(0\)無次元
\((D-1)(D-2)\)(第38回)\(0\)ただの数
カーのスピン \(\chi\)(第39回)\(0\)無次元
ホログラフィック限界(第40回)\(0\)面積 ÷ 面積
初期状態の特別さ(第41回)\(0\)ビット数
事象の地平面(第42回)\(0\)因果構造
見かけの地平面(第42回)\(\ne0\)局所量
プランク長(第43回)\(+1\)ただの長さ

07節の結論

第 V 部で 0 の列に入らなかったのは二つだけ ── 見かけの地平面とプランク長。
── どちらも「局所的な尺度を持ち込む」量でした。

正直な線

① 02節の (A)/(B) は、規約の選択の問題です。 「\(G\) を動かすかどうか」は物理が決めることではなく、どういう変換を考えるかの定義です ── (A) を採れば共形変換は単位の取り替えになり、(B) を採れば物理的な主張になります。本稿の主張は「どちらかが正しい」ではなく、「どちらかを言わないと文にならない」という第3回の繰り返しです。

② 「最小長は共形不変性と両立しない」は、大域的な共形不変性についての言い方です。 局所的な Weyl 変換をゲージ対称性として持つ理論(第34回の共形重力など)では、スケールを固定するゲージ選択があってよい ので、話はもう少し込み入ります ── 02節は「スケールを持つ理論はスケール不変ではない」という、ほとんど同語反復に近い言明で、それゆえ強いのです。

③ 「プランク長が最小長である」こと自体、確立した事実ではありません。 プランク長は三つの定数から次元だけで作れる長さであって、そこで何かが起きるという証拠はまだありません ── 03節の交点は「量子と重力が同じ大きさになる」という目安であって、そこに最小単位があるという主張ではありません。

④ 05節の \(E_{\rm QG}\) の制限は、特定の分散関係の形を仮定したものです。 Fermi の値は GRB 090510 の解析によるもので、光子の放出時刻に関する仮定に依存します。また注記のとおり、最小長を持つ理論がすべてローレンツ不変性を破るわけではありません(ループ量子重力や非可換幾何にも破らない定式化があります)。

⑤ 06節の 1.96 fm は第18回の値をそのまま使っており、\(R_H=1.3\times10^{26}\) m を採ったときの数字です(\(1.3725\times10^{26}\) なら 1.99 fm)── 倍化の回数 66.7 はその程度の精度です。

練習問題

  1. プランク長の共形ウェイトはいくつか。
    答えを見る
    \(+1\)。\(\ell_P=\sqrt{\hbar G/c^3}\) で \(\hbar,c\) はウェイト 0、\(G\) は \(+2\) なので \((+2)/2=+1\) ── ただの長さ、帳簿の列です。物理の列にいるのは \(L/\ell_P\) のほうだけ。
  2. 「最小の長さは \(\ell_P\)」は、第3回の意味で文になっているか。
    答えを見る
    なっていません ── 次元付きの量に主張を置いているからです。文にするなら \(L/\ell_P\ge1\)「比較相手を言わなければ、まだ文になっていない」がここでも効きます。
  3. 最小長のある理論は共形不変でありうるか。
    答えを見る
    ありえません。共形不変性はスケールが無いことを要求し、最小長はスケールそのものだからです ── 第 V 部でここまでの「壊れる/届かない」と違って、ここは仮定からして排除されています(ただし②の但し書き)。
  4. プランクスケールを、無次元の言明として述べよ。
    答えを見る
    コンプトン波長とシュヴァルツシルト半径の比が 1 になる場所です ── \(\lambda_C/r_s=1\) は \(m=\sqrt{\hbar c/2G}=m_P/\sqrt2\)。「長さ」としてではなく「二つの効果が並ぶ場所」として、概念は生き残ります。
  5. (やや難)LHC からプランク長まで、倍化で何回か。
    答えを見る
    約 50 回(\(9.0\times10^{14}=2^{49.7}\))。13.6 TeV で見えている長さは \(1.45\times10^{-20}\) m です ── 加速器のエネルギーを 2 倍にするたびに 1 歩。ちなみに第2回の「140.24 対数ステップ」は空間で数えても同じ値でした(\(\ln(R_H/\ell_P)=140.29\))。

まとめ 道具の効く範囲の、はっきりした端

プランク長は \(\sqrt{\hbar G/c^3}\)、\(G\) がウェイト \(+2\) なので \(\ell_P\) はウェイト \(+1\) ── ただの長さ、帳簿の列です。\(t_P\)、\(m_P\)、\(E_P\) も同じ。物理の列にいるのは \(L/\ell_P\) のような比だけで、だから「最小の長さは \(\ell_P\)」は、そのままでは第3回の意味でまだ文になっていません

そしてここで道具が本当に壊れます。「最小の長さがある」理論は、そもそも共形不変ではありえない ── 共形不変性はスケールが無いことを要求し、最小長はスケールそのものだからです。第 V 部でここまで見てきた「壊れる/届かない」と違って、ここは仮定からして排除されています

ではプランクスケールという概念は無意味なのか。そうではありません ── コンプトン波長 \(\hbar/mc\) とシュヴァルツシルト半径 \(2Gm/c^2\) の比が 1 になる場所として述べれば、それは無次元の言明です(\(m=m_P/\sqrt2=1.54\times10^{-8}\) kg)。「長さ」としてではなく「二つの効果が並ぶ場所」として、概念は生き残ります。

私たちはそこから 約 50 回の倍化ぶん離れています(LHC の \(1.45\times10^{-20}\) m から \(\ell_P\) まで \(2^{49.7}\))。観測では、ローレンツ不変性を素朴に破る形の 1 次の効果はプランクエネルギーを超えて排除されましたが、2 次の効果は 8 桁ぶん手つかずです。

第 V 部を並べ直すと、ウェイト 0 の列に入らなかったのは二つだけ ── 見かけの地平面(第42回)とプランク長(今回)。どちらも「局所的な尺度を持ち込む」量でした。

この文書は「わかる c·t=一定」シリーズ第43回(第 V 部の 7 回目)、物理好きの高校生・大学生向け読み物です。プランク単位、コンプトン波長とシュヴァルツシルト半径の交点、量子重力現象論のローレンツ不変性検証はいずれも標準的な内容で、本稿に新しい主張はありません ── 数値は kenshou/calc47.py で計算しています。02節の (A)/(B) は規約の選択の問題で、「\(G\) を動かすかどうか」は物理が決めることではなく変換の定義です ── 本稿の主張は「どちらかが正しい」ではなく「どちらかを言わないと文にならない」という第3回の繰り返しです。「最小長は共形不変性と両立しない」は大域的な共形不変性についての言い方で、局所的な Weyl 変換をゲージ対称性として持つ理論(第34回の共形重力など)では話はもう少し込み入ります ── 02節は「スケールを持つ理論はスケール不変ではない」というほとんど同語反復に近い言明で、それゆえ強いのです。「プランク長が最小長である」こと自体、確立した事実ではありません ── プランク長は三つの定数から次元だけで作れる長さであって、そこで何かが起きるという証拠はまだなく、03節の交点は「量子と重力が同じ大きさになる」という目安です。05節の \(E_{\rm QG}\) の制限は特定の分散関係の形を仮定したもので、Fermi の値は GRB 090510 の解析により光子の放出時刻に関する仮定に依存します ── また最小長を持つ理論がすべてローレンツ不変性を破るわけではありません。06節の 1.96 fm は第18回の値(\(R_H=1.3\times10^{26}\) m)をそのまま使っており、\(1.3725\times10^{26}\) なら 1.99 fm です。 ── 印刷する場合はブラウザの「印刷」から「PDF に保存」を(印刷版ではスライダーと解答は静止・非表示になります)。

印刷 / PDF 化:⌘+P(Windows は Ctrl+P)。画面ではツマミで質量を動かすと、二つの長さが必ず交わることが見えます。「答えを見る」で解答が開きます。