わかる c·t=一定 第 38 回 / 第 V 部・道具が壊れる場所
ゴーストは消えず、置き場所が移るだけでした
符号が逆の、
運動項
アインシュタイン作用から共形因子を取り出すと、その運動項だけ符号が逆になります。
ユークリッド経路積分に、底がありません。
前回は、量子が \(D=4\) から出ざるを得ないせいで破れが出ました。今回はもっと悪いことを見ます ── アインシュタイン作用から共形因子を取り出すと、その運動項だけ符号が逆になります。エネルギーに下限が無く、ユークリッド経路積分が発散する。第34回で二度出会ったゴーストの、源です。そして分かるのは ── ゴーストは消えず、置き場所が移るだけだった。
01共形因子を取り出すと、運動項が出てくる
部分積分でまとめると、\(\Omega\) の運動項の係数は \((D-1)(D-2)\) ── 符号が、普通のスカラー場と逆
| \(D\) | \((D-1)(D-2)\) | 意味 |
|---|---|---|
| 1 | \(0\) | ちょうどゼロ |
| 2 | \(0\) | ちょうどゼロ ── 2 次元では共形因子に運動項が無い |
| 3 | \(2\) | |
| 4 | \(6\) | 私たちの次元 |
| 5 | \(12\) | |
| 6 | \(20\) | |
| 10 | \(72\) |
01節の結論
\(D=4\) では係数 6。ゼロにできるのは \(D=1\) と \(D=2\) だけです。
── 私たちの次元では、逃げ道が無い。
02共形因子は「符号が逆の、共形結合スカラー」だった
| \(D\) | \(\xi\) | |
|---|---|---|
| 3 | \(0.1250\) | |
| 4 | \(0.1667\) | 私たちの次元:\(1/6\) |
| 5 | \(0.1875\) | |
| 6 | \(0.2000\) | |
| 100 | \(0.2475\) | \(D\to\infty\) で \(1/4\) に近づく |
\(\Omega\) を場と見ると、アインシュタイン作用は、共形結合スカラーの作用に全体のマイナスを掛けたものになっています。だから運動項の符号が逆 ── これが共形因子問題(Gibbons–Hawking–Perry 1978)です。
03核心 ── 皺を細かくするだけで、発散する
重み \(e^{-S}=e^{+|S|}\) をビットで測ると \(|S|/\ln2\)(\(L=10\,\ell_P\)、\(a=0.1\))
| \(n\)(皺の数) | \(|S|\) | 重み [bit] |
|---|---|---|
| 1 | \(2.36\) | \(3.4\) |
| 2 | \(9.42\) | \(13.6\) |
| 5 | \(58.9\) | \(85.0\) |
| 10 | \(235.6\) | \(339.9\) |
| 20 | \(942.5\) | \(1359.7\) |
| 50 | \(5890.5\) | \(8498.2\) |
今回いちばん言いたいこと
\(n^2\) で伸び続け、上限がありません。
皺を細かくするだけで経路積分の重みがいくらでも大きくなる ── \(e^{-S}\) が発散します。
第19回の目盛りで言えば、「驚き」が無限大の方向があるということです。
図:共形因子に皺を入れたときの、ユークリッド作用と経路積分の重み。普通のスカラー場なら上に伸びて重みが小さくなるのに、共形因子は逆向きに落ちて重みが増えます。ツマミで皺の数を動かしてください ── どこにも底がありません
04発散する方向は、いくつあるか
共形因子は各点に 1 個の自由度を持つので、\(5.2\times10^{182}\) 個の方向すべてで、作用が下に非有界です。対数で言えば 607 ビットぶんの方向の数。
04節の結論
第24回で数えた「宇宙が処理してきた情報」\(3\times10^{122}\) ビットと同じ通貨ですが、
こちらは情報ではなく、壊れている方向の個数です。
05直し方 ── 積分路を回す
これは第32回のコスモンや第29回の MOND と同じ形の帳簿です ── 手で足した規則には、必ず値段が付きます。
06ゴーストの置き場所 ── 第34回との取引
| 理論 | スピン 2 | 共形因子 | 処方 |
|---|---|---|---|
| アインシュタイン重力 | 健全(正しい符号) | ゴースト | 積分路を回す |
| 共形重力(第34回) | ゴースト(4 階微分) | ゲージで消える | 未解決 |
06節の結論
ゴーストを共形因子に置くか、スピン 2 に置くかの取引でした。
どちらにも置かない選択肢は、まだ見つかっていません。
── これが第 V 部の主題そのものです:道具が壊れる場所は、消えずに移動する。
07\(D=2\) だけは別 ── 第37回とつながる
第38回・07節:量子が「0 の係数」に運動項を書き込んだ(2 次元のリウヴィル)。
── 古典でゼロだったものが量子で生える、というのは一度きりの偶然ではありません。
① 03節の発散は、古典的な不安定性ではありません。 古典の一般相対論では共形モードはハミルトニアン拘束で決まってしまい、伝播する自由度ではありません(4 次元で伝播するのはスピン 2 の 2 成分だけ)。壊れているのはユークリッド経路積分の定義であって、天体や時空の安定性ではありません。
② 03節の数値は、平坦トーラス上の 1 モードという玩具模型です。 \(L=10\,\ell_P\)、\(a=0.1\) という値に物理的な意味はなく、「\(n^2\) で伸びて上限が無い」という振る舞いを見せるための例です。ビット数の絶対値を真に受けないでください。
③ 04節の「\(5.2\times10^{182}\) 個の方向」は、プランク長で切ったときのモードの数え上げです。 実際には切断の取り方に完全に依存し、切断を取り払えば無限個です ── 「有限の大きな数」に見えるのは切断を入れたからで、問題の深刻さを表す指標ではなく、規模感を示すためだけの数です。
④ 01節の符号は、計量の符号規約と作用の全体符号の取り方に依存します。 文献によって \(\pm6\) の書き方が変わります ── 規約に依らないのは「共形因子の運動項は、物質スカラーと逆符号である」という関係と、係数の大きさ \((D-1)(D-2)\) です。
⑤ 05節の積分路回転は、いまも議論が続いている論点です。 一般の場合にどの積分路を取るべきかは決着しておらず(近年は Picard–Lefschetz 理論を使った処方が議論されています)、「1 ループでうまくいく」以上のことは本稿では主張しません。
⑥ 06節の「取引」は本シリーズの読み方です。 「どちらにも置かない理論は存在しない」ことが証明されているわけではありません ── 知られている枠組みではまだ見つかっていない、というのが正確な言い方です。
練習問題
- 共形因子の運動項の係数は、次元 \(D\) でどう書けるか。ゼロになる次元は。
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\((D-1)(D-2)\)。ゼロになるのは \(D=1\) と \(D=2\) だけで、\(D=4\) では 6 です ── 私たちの次元では逃げ道がありません。 - 「共形因子は符号が逆の共形結合スカラー」とはどういう意味か。
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\(\Omega\) を場と見ると、アインシュタイン作用が共形結合スカラー(\(\xi=(D-2)/4(D-1)\)、4 次元で \(1/6\))の作用に全体のマイナスを掛けた形になっている、ということです。だから運動項の符号が逆になり、エネルギーに下限がなくなります。 - 皺の数 \(n\) を 2 倍にすると、経路積分の重みは何倍のビットになるか。
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4 倍(\(n^2\) に比例)。表のとおり \(n=10\) で 339.9 ビット、\(n=20\) で 1359.7 ビット ── 上限がありません。ただし②のとおり、これは玩具模型の数値です。 - この発散は、天体が不安定になるという意味か。
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違います。古典の一般相対論では共形モードはハミルトニアン拘束で決まり、伝播する自由度ではありません。壊れているのはユークリッド経路積分の定義であって、時空の安定性ではありません。 - (やや難)第34回と今回を合わせると、ゴーストについて何が言えるか。
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置き場所が移るだけで、消えないということです。アインシュタイン重力はスピン 2 が健全で共形因子がゴースト、共形重力は共形因子がゲージで消える代わりにスピン 2 がゴースト。どちらにも置かない選択肢は、知られている枠組みではまだ見つかっていません(⑥)。
まとめ ゴーストは消えず、置き場所が移る
\(g=\Omega^2\hat g\) と書いてアインシュタイン作用を書き直すと、共形因子 \(\Omega\) の運動項が出てきます。係数は \((D-1)(D-2)\) で、符号が普通のスカラー場と逆。ゼロにできるのは \(D=1\) と \(D=2\) だけで、\(D=4\) では 6 ── 私たちの次元に逃げ道はありません。\(\Omega\) を場と見れば、アインシュタイン作用は共形結合スカラー(\(\xi=1/6\))に全体のマイナスを掛けたものです。
どれくらい悪いか。平坦トーラスに \(\Omega=a\sin(2\pi nx/L)\) の皺を入れると、ユークリッド作用は \(|S|=2.357a^2n^2L^2\) で、重み \(e^{+|S|}\) は \(n^2\) で伸び続けます ── \(n=10\) で 340 ビット、\(n=50\) で 8498 ビット、上限なし。皺を細かくするだけで経路積分が発散します。ハッブル半径のなかのプランク体積は \(5.2\times10^{182}\) 個で、そのすべてが下に非有界な方向です。
直し方は、共形因子だけ \(\Omega\to i\Omega\) と積分路を回すこと(Gibbons–Hawking–Perry)。1 ループでは実際にうまくいきますが、第一原理からの導出はありません ── 第32回のコスモンや第29回の MOND と同じ帳簿で、手で足した規則には値段が付きます。
そして今回いちばん大事なこと。ゴーストを共形因子に置くか、スピン 2 に置くかの取引でした。 アインシュタイン重力はスピン 2 が健全で共形因子がゴースト。共形重力(第34回)は共形因子がゲージで消える代わりに、スピン 2 がゴースト。どちらにも置かない選択肢は、まだ見つかっていません ── これが第 V 部の主題そのものです:道具が壊れる場所は、消えずに移動する。
最後に \(D=2\)。運動項の係数はゼロなのに、2 次元重力にはリウヴィル作用が現れます ── アノマリーから生えてくるのです(第37回)。前回は量子が「0 の列」に数字を書き込みました。今回は「0 の係数」に運動項を書き込んでいます ── 古典でゼロだったものが量子で生えるのは、一度きりの偶然ではありません。
この文書は「わかる c·t=一定」シリーズ第38回(第 V 部の 2 回目)、物理好きの高校生・大学生向け読み物です。共形因子問題は Gibbons, Hawking & Perry (1978, Nucl. Phys. B138, 141) 以来よく知られた標準的な論点で、本稿に新しい主張はありません ── 数値は kenshou/calc42.py で計算しています。03節の発散は古典的な不安定性ではありません ── 古典の一般相対論では共形モードはハミルトニアン拘束で決まり伝播する自由度ではなく(4 次元で伝播するのはスピン 2 の 2 成分だけ)、壊れているのはユークリッド経路積分の定義であって時空の安定性ではありません。03節の数値は平坦トーラス上の 1 モードという玩具模型で、\(L=10\,\ell_P\)、\(a=0.1\) に物理的な意味はありません ── 「\(n^2\) で伸びて上限が無い」という振る舞いを見せるための例で、ビット数の絶対値を真に受けないでください。04節の \(5.2\times10^{182}\) はプランク長で切ったときのモードの数え上げで切断の取り方に完全に依存し、切断を取り払えば無限個です ── 規模感を示すためだけの数です。01節の符号は計量の符号規約と作用の全体符号に依存し文献で書き方が変わります ── 規約に依らないのは「物質スカラーと逆符号」という関係と、係数の大きさ \((D-1)(D-2)\) です。05節の積分路回転はいまも議論が続いている論点で、一般の場合にどの積分路を取るべきかは決着しておらず(近年は Picard–Lefschetz 理論による処方が議論されています)、「1 ループでうまくいく」以上のことは主張しません。06節の「取引」は本シリーズの読み方で、「どちらにもゴーストを置かない理論は存在しない」ことが証明されているわけではありません ── 知られている枠組みではまだ見つかっていない、が正確な言い方です。 ── 印刷する場合はブラウザの「印刷」から「PDF に保存」を(印刷版ではスライダーと解答は静止・非表示になります)。