わかる c·t=一定 第 34 回 / 第 IV 部・後付けでない共形対称性はありうるか
ゴーストを消したのではなく、別のゴーストと取り替えました
共形重力
(マンハイム)
作用をワイルテンソルの二乗にすると、理論全体が最初から共形不変になります。
宇宙定数問題は構造的に消え、回転曲線は暗黒物質なしで出る ── 代償つきで。
ここまで扱った理論はどれも、共形変換を後付けの書き換えとして使っていました。マンハイムは違います ── 共形対称性そのものを、重力の基本原理に据える。作用をアインシュタイン=ヒルベルトではなくワイルテンソルの二乗にすると、理論全体が最初から共形不変になります。すると宇宙定数問題が構造的に消え、暗黒物質なしで回転曲線が出ます。ただし、代償があります。
01作用を取り替える ── そして 4 次元だけが特別になる
第11回とまったく同じ手続きで、ウェイトを数えます。
| 次元 \(D\) | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 |
|---|---|---|---|---|---|
| 残る因子 | \(\Omega^{-2}\) | \(\Omega^{-1}\) | \(\Omega^{0}=1\) | \(\Omega^{+1}\) | \(\Omega^{+2}\) |
01節の結論
\(D=4\) でだけ共形不変 ── 第11回のマクスウェル作用と、まったく同じ構造です。
私たちが 4 次元に住んでいることが、ここでも効いています。
02結合定数が、無次元になる
| 理論 | 重力の結合 | 次元 | ウェイト | 第16回の地図で |
|---|---|---|---|---|
| アインシュタイン重力 | \(G\) | \(\mathrm{m^3kg^{-1}s^{-2}}\) | ── | 帳簿の側 |
| 共形重力 | \(\alpha_g\) | 無次元 | \(0\) | 物理の列 |
第7回で「\(G\) を本当に時間変化させても何も起きない」と数えました ── \(G\) が帳簿だったからです。\(\alpha_g\) にはその逃げ道がありません。 無次元なので、第16回の地図でいうゼロの列にいて、測れば決まる。
03宇宙定数項が、書けなくなる
今回いちばん言いたいこと
第12回で数えた \(\rho_\Lambda/M_{\rm Pl}^4=1.13\times10^{-123}\) の微調整 ── 第32回の言葉で 408 ビット。
共形重力ではこれが 構造的に消えます。パラメータを一つも増やさずに。
── 第32回のコスモンは 10.7 ビット払って買い戻そうとしました。こちらはただで。
ただし話はここで終わりません。粒子に質量を与えるには対称性を破る必要があり、そこで \(\Lambda\) が戻ってきます。 マンハイムは同じ破れが真空エネルギーを相殺すると主張していますが ── 論争中です。
04真空解に、線形項が出る
ニュートン項 \(-2\beta/r\) に加えて、遠方で効く線形項 \(+\gamma r\) がある
銀河ごとの線形項は \(\gamma=\gamma_*N_*+\gamma_0/2\) で、\(\gamma_*=5.42\times10^{-41}\ \mathrm{m^{-1}}\)(太陽質量あたり)、\(\gamma_0=3.06\times10^{-28}\ \mathrm{m^{-1}}\)(宇宙論的な項)。ニュートン項と線形項が入れ替わる半径を計算します。
| 銀河の星質量 | \(\beta\) [m] | \(\gamma\) [1/m] | 交差半径 \(r_*=\sqrt{2\beta/\gamma}\) |
|---|---|---|---|
| \(10^{9}\,M_\odot\) | \(1.5\times10^{12}\) | \(1.53\times10^{-28}\) | 4.5 kpc |
| \(10^{10}\,M_\odot\) | \(1.5\times10^{13}\) | \(1.54\times10^{-28}\) | 14.2 kpc |
| \(10^{11}\,M_\odot\) | \(1.5\times10^{14}\) | \(1.58\times10^{-28}\) | 44.2 kpc |
| \(10^{12}\,M_\odot\) | \(1.5\times10^{15}\) | \(2.07\times10^{-28}\) | 122.3 kpc |
交差半径が数 kpc から数十 kpc ── ちょうど回転曲線が平坦になるところです。暗黒物質を入れずに、この一つの項で説明しようという狙いです。
図:ニュートン項 \(2\beta/r\) と線形項 \(\gamma r\)。交わる半径から先は線形項が支配します。ツマミで銀河の質量を変えると、交差半径が動きます ── いつも銀河の外縁あたりに来ることが見えます
05\(\gamma_0\) も、宇宙論スケールにいる
線形項が与える加速度
$$\frac{c^2\gamma_0}{2}=1.38\times10^{-11}\ \mathrm{m/s^2}\qquad(\text{MOND の }a_0\text{ の }0.115\ \text{倍})$$| 一致 | 驚き | 分類(第19回) |
|---|---|---|
| \(\rho_\Lambda^{1/4}\) と \(m_\nu\) | 4.7 bit | 偶然 |
| \(\gamma_0\simeq1/(25R_H)\) | 5.4 bit | 偶然の帯 |
| \(a_0\simeq cH_0/2\pi\)(第29回) | 5.9 bit | 偶然の帯 |
| 1 ビット ↔ 1.96 fm | 7.4 bit | 偶然 |
第29回の MOND とほぼ同じ層です ── 銀河スケールの加速度が宇宙論スケールに一致するという、まったく同じ形の偶然。二つの独立な理論が、同じ場所で同じ偶然に出会っている。
06代償 ── ゴースト
第 2 項の符号が負 ── 負ノルム状態=ゴースト
面白い取引が起きている
前シリーズ第9回:アインシュタイン重力では共形因子がゴーストだった。
共形重力:共形因子はゲージ自由度なので、その問題は消える。
ところが微分 4 階が、質量を持つスピン 2 のゴーストを新しく連れてくる。
── ゴーストを消したのではなく、別のゴーストと取り替えた。
マンハイムとベンダーは反論しています ── 「ハミルトニアンはエルミートではないが PT 対称であり、適切な内積を取れば固有値は実で、負ノルム状態も現れない」。論文として出ている真面目な主張ですが、合意はありません。本稿は判定しません。
07手術 ── 切るものが無い
| 回 | 理論 | 共形変換の役割 | 手術は |
|---|---|---|---|
| 28 | VSL | 書き換え(名前に残った) | 切れる(失敗) |
| 31 | CCC | 道具として明示的に使う | 切れる(済んでいる) |
| 32 | コスモン | 絵の等価性として明示 | 切れる(済んでいる) |
| 34 | 共形重力 | ゲージ対称性そのもの | 切るものが無い |
07節の結論
共形重力では、共形変換は書き換えではなくゲージ対称性です。
(A) が「別の書き方」ではなく理論の定義の一部になっている ── だから手術に切るものがありません。
── 第16回の但し書き④で「変換そのものではなく、変換に対する不変性が働く分野もある」と書いた、その重力版です。
08帳簿
| 模型 | パラメータ | 記述長 | 内訳 |
|---|---|---|---|
| 共形重力 | 3 | 17.1 bit | \(\alpha_g,\ \gamma_*,\ \gamma_0\)(すべて全銀河共通) |
| MOND(第29回) | 4 | 22.8 bit | \(a_0\) + 内挿関数 |
| ハロー模型 | 350 | 1994 bit | 銀河ごとに 2 個 |
回転曲線に限れば、共形重力はMOND と同じ層(ハロー模型に対し約 1977 ビット勝ち)。買えないものも同じです ── CMB の音響ピーク、銀河団、構造成長。第29回の表と、そっくり同じ構図になります。
① 共形重力は少数派の理論です。 Mannheim & Kazanas (1989) 以来の一連の仕事で、広く受け入れられてはいません。本稿は支持も否定もせず、このシリーズの道具で測れるところだけを測っています。
② ゴーストの問題は未決着です。 4 階微分の理論が負ノルム状態を持つことは標準的な結果ですが、Mannheim & Bender の PT 対称性による反論も査読を経た主張です ── 合意はありません。本稿は判定しません。
③ 「宇宙定数問題が構造的に消える」は、対称性が破れる前の話です。 質量を与えるには破る必要があり、破れたあとに \(\Lambda\) が戻るかどうかが争点です ── 「ただで 408 ビット買い戻す」は、この争点が解決した場合の話と読んでください。
④ \(\gamma_*=5.42\times10^{-41}\ \mathrm{m^{-1}}\)、\(\gamma_0=3.06\times10^{-28}\ \mathrm{m^{-1}}\) はマンハイムらが回転曲線に当てて得た値です。 交差半径の計算は本稿によるもので、\(\kappa r^2\) 項と \(3\beta\gamma\) 項を落とした近似です ── 桁の議論として読んでください。
⑤ 08節の帳簿は第29回と同じ枠組みで、同じ限界を持ちます。 パラメータ数の見積もりは粗く、\(\Lambda\)CDM 側の事前分布を考慮していません ── 1977 ビットは上限側の見積もりです。
⑥ 共形重力の CMB 予言については、確立した結果がありません。 本稿が「買えない」に挙げたのはその意味で、「予言が観測と合わない」ことが示されたという意味ではありません。
練習問題(今回の式だけで解けます)
- Weyl² 作用が共形不変になる次元を求めよ。
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\(\sqrt{-g}\,d^Dx\to\Omega^D\)、\(C_{\mu\nu\rho\sigma}C^{\mu\nu\rho\sigma}\to\Omega^{-4}\) なので、作用は \(\Omega^{D-4}\) 倍。\(D=4\) でだけ不変です ── 第11回のマクスウェル作用と、まったく同じ構造。 - \(G\) と \(\alpha_g\) の、このシリーズにとっての違いは何か。
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\(G\) は次元付き=帳簿なので、動かしても何も起きません(第7回)。\(\alpha_g\) は無次元=ウェイト 0 で、第16回の地図では物理の列 ── 逃げ道が無く、測れば決まります。 - 宇宙定数項が書けなくなる理由と、その意味を述べよ。
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\(\int\sqrt{-g}\,\Lambda\,d^4x\) は \(\Omega^4\) 倍になるので共形不変でなく、対称性が禁じます。第12回・第32回で数えた 408 ビットの微調整が、パラメータを増やさずに構造的に消えることになります(ただし対称性の破れ後は争点)。 - \(10^{11}M_\odot\) の銀河で、ニュートン項と線形項が入れ替わる半径を求めよ。
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\(\beta=1.475\times10^3\times10^{11}=1.48\times10^{14}\) m、\(\gamma=\gamma_*N_*+\gamma_0/2=1.58\times10^{-28}\ \mathrm{m^{-1}}\)。\(r_*=\sqrt{2\beta/\gamma}=1.4\times10^{21}\) m = 44 kpc ── ちょうど回転曲線が平坦になるところです。 - (やや難)共形重力に対して、第3回の手術は何を切るか。
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切るものがありません。 第27〜33回の理論では共形変換が「別の書き方」(A)でしたが、共形重力ではゲージ対称性そのもの=理論の定義の一部です。第16回の但し書き④で「共形場理論のように、変換そのものではなく変換に対する不変性が働く分野もある」と書いた、その重力版 ── だから代償は別のところ(ゴースト)に出ます。
まとめ ゴーストを消したのではなく、取り替えた
マンハイムは共形対称性を後付けの書き換えではなく重力の基本原理に据えます。作用をワイルテンソルの二乗にすると \(S\to\Omega^{D-4}S\) で、\(D=4\) でだけ共形不変 ── 第11回のマクスウェル作用と、まったく同じ構造です。
すると三つのことが起きます。①重力の結合 \(\alpha_g\) が無次元になる ── \(G\) と違って帳簿ではなく、第16回の地図では物理の列にいて、測れば決まる。②宇宙定数項 \(\int\sqrt{-g}\Lambda\) が \(\Omega^4\) 倍になるので対称性が禁じ、第32回で数えた 408 ビットの微調整がパラメータを増やさずに構造的に消える(ただし対称性の破れ後は争点)。③真空解に線形項 \(\gamma r\) が出て、交差半径が \(10^{11}M_\odot\) の銀河で 44 kpc ── ちょうど回転曲線が平坦になるところです。
ただし \(\gamma_0\) もまた宇宙論スケールにいます(\(\gamma_0\simeq1/(25R_H)\)、驚き 5.4 ビット)── 第29回の MOND(5.9 ビット)とほぼ同じ層で、同じ形の偶然。そして帳簿でも MOND と同じ層に立ちます(回転曲線でハロー模型に約 1977 ビット勝ち、CMB と銀河団は買えない)。
代償はゴーストでした。微分 4 階なので伝播関数が \(1/k^2-1/(k^2+M^2)\) に割れ、第 2 項の符号が負になる。面白いのは取引の中身です ── 前シリーズ第9回で「アインシュタイン重力では共形因子がゴースト」と見ましたが、共形重力ではそれがゲージ自由度になって消え、代わりに質量を持つスピン 2 のゴーストが来る。ゴーストを消したのではなく、別のゴーストと取り替えた。そして手術については ── 共形変換がゲージ対称性そのものなので、切るものがありません。第 IV 部でただ一つ、手術台に載らなかった理論です。
この文書は「わかる c·t=一定」シリーズ第34回、物理好きの高校生・大学生向け読み物です。共形重力は Mannheim & Kazanas (1989, ApJ 342, 635) 以来の一連の仕事によります。Weyl² 作用が \(D=4\) でのみ共形不変であること、静的球対称解に線形項 \(\gamma r\) が現れること、および 4 階微分の理論が負ノルム状態(ゴースト)を持つことは、いずれも標準的な結果です。\(\gamma_*=5.42\times10^{-41}\ \mathrm{m^{-1}}\)、\(\gamma_0=3.06\times10^{-28}\ \mathrm{m^{-1}}\) はマンハイムらが回転曲線に当てて得た値です。本稿の交差半径 \(r_*=\sqrt{2\beta/\gamma}\)(\(10^{11}M_\odot\) で 44 kpc)、\(\gamma_0\simeq1/(25R_H)\)、加速度 \(c^2\gamma_0/2=1.38\times10^{-11}\ \mathrm{m/s^2}\)、驚き 5.4 ビット、および記述長の比較は本稿での計算です(kenshou/calc38.py)── 交差半径は \(\kappa r^2\) 項と \(3\beta\gamma\) 項を落とした近似で、桁の議論です。共形重力は少数派の理論であり、広く受け入れられてはいません ── 本稿は支持も否定もせず、このシリーズの道具で測れるところだけを測っています。ゴーストの問題は未決着です:4 階微分理論が負ノルム状態を持つことは標準的ですが、Mannheim & Bender による PT 対称性に基づく反論も査読を経た主張であり、合意はありません ── 本稿は判定しません。「宇宙定数問題が構造的に消える」は対称性が破れる前の話で、質量生成のために破れたあと \(\Lambda\) が戻るかどうかが争点です。08節の帳簿は第29回と同じ枠組みで同じ限界を持ち(パラメータ数の見積もりは粗く、\(\Lambda\)CDM 側の事前分布を考慮していない)、1977 ビットは上限側の見積もりです。共形重力の CMB 予言については確立した結果がなく、「買えない」に挙げたのはその意味であって、予言が観測と合わないことが示されたという意味ではありません。学術的な標準はインフレーションを含む \(\Lambda\)CDM モデルと、修正のない一般相対論です。 ── 印刷する場合はブラウザの「印刷」から「PDF に保存」を(印刷版ではスライダーと解答は静止・非表示になります)。