わかる c·t=一定 第 26 回 / 第 III 部・完

八つの物差しで測った数は、いくつあったのか

同じ数を、
八つの言語で \(1.5\times10^{-18}\) が三度、\(140\) が四度。
第19回の手続きを、シリーズ自身に当てます。

必要な道具:第 III 部の全回、引き算24 個 → 入力 12 個

第 III 部では八つの物差しで宇宙を測りました ── 分散合意、アドレス、驚き、光シート、時間の矢、命令セット、符号、帯域、そして記述長。並べてみると、同じ数が何度も出てきます。 \(1.5\times10^{-18}\) が三度、\(140\) が四度、\(0.035\) が二度。物差しが違うのに同じ数が出るとき、それは発見なのか、それとも最初から同じものを測っていたのか。 第19回の手続きを、シリーズ自身に当てます。

01\(1.5\times10^{-18}\) は三度出てきた

出どころ
第6回・使用率\((S/\ln2)/N\)\(1.5132\times10^{-18}\)
第6回・占有率\(\sum A_{BH}/A_H\)\(1.5132\times10^{-18}\)
第21回・時間の矢\(10^{-0.127\times140.24}\)\(1.55\times10^{-18}\)
正体 ── 一行で終わる

ホログラフィーの定義そのものから

$$N=\frac{A}{4\ell_P^2\ln2}\qquad\Longrightarrow\qquad \frac{S/\ln2}{N}=\frac{4\ell_P^2 S}{A}=\frac{\sum A_{BH}}{A_H}$$

比は 1.000000。ブラックホールが \(S\) を支配する限り、これは恒等式

三つ目も独立ではありません ── 第21回の \(0.127\) decade/step は、そもそも \(1.5\times10^{-18}\) に合うように差を取って出した数でした。三度出てきた \(1.5\times10^{-18}\) は、一つの数です。

02\(140\) は四度出てきた

第2回・時計 \(N_t\)\(\ln(t_0/t_P)=140.24\)
第20回・対数ステップ数同じ \(\ln(t_0/t_P)\)
第21回・「140 手のプログラム」同じ
第21回・\(0.127\) に掛けた 140.24同じ
独立なのは温度のほうだけ\(N_T=\ln(T_P/T_0)=73.03\)。比 \(N_T/N_t=0.5207\approx1/2\) ── 輻射期 \(T\propto t^{-1/2}\) が対数レンジの大半を占めることの反映
◇ ◇ ◇

03第 III 部の見出し数字を、全部並べる

由来
地平面の容量 \(N\)\(2.956\times10^{122}\) bit\(t_0,\ \ell_P\)
容量が増える速さ \(dN/dt\)\(1.358\times10^{105}\) bit/s\(t_0,\ \ell_P\)
1ビットあたり演算数 \(\Omega/N\)0.0351\(p\)
使用率\(1.513\times10^{-18}\)\(t_0,\ \ell_P,\ S\)
占有率\(1.513\times10^{-18}\)=使用率
時間の矢\(1.55\times10^{-18}\)=使用率
冗長度 \(n/k\)\(6.61\times10^{17}\)=1/使用率
対数ステップ数140.24\(t_0,\ \ell_P\)
温度ステップ数 \(N_T\)73.03\(T_0\)
通信路容量 \(C\)\(6.789\times10^{104}\) bit/s\(t_0,\ \ell_P\)
\(C\cdot t/N\)1.000000恒等式
\((dN/dt)/C\)2.000000恒等式
パラメータ 1 個の値段5.37 bit\(N_{\rm data}\)
当てはまりの損153.6 bit\(\Delta\chi^2\)
CMB モード数\(6.255\times10^{6}\)\(l_{\max}\)
1 ビット ↔ 長さ1.96 fm\(t_0,\ \ell_P\)
何もしない成分の取り分95.0 %\(\Omega_\Lambda,\ \Omega_{\rm dm}\)
地平線問題の情報量20 KBCMB パッチ数
20 KB の送信時間\(8.55\times10^{-96}\) s\(t_{\rm rec},\ \ell_P\)

今回いちばん言いたいこと

見出し数字 24 個。独立な入力 12 個(\(t_0,\ \ell_P,\ S,\ p,\ T_0,\ N_{\rm data},\ \Delta\chi^2,\ l_{\max},\ \Omega_\Lambda{+}\Omega_{\rm dm}\), CMB パッチ数, \(t_{\rm rec}\), ネット総量)。
第 III 部自身の圧縮率は 2.0 倍。第25回の物差しを自分に当てると、桁ではありませんでした

図:見出し数字と、その独立な入力。同じ色の点は、同じ入力から出た数です。ツマミで「恒等式で結ばれた数を畳む」と、24 個が何個まで縮むかが見えます

畳まない
\(t_0,\ell_P\) だけから出る数 観測をもう一つ使う数 畳まれて消えた数

04第19回の手続きを、シリーズ自身に当てる

一致正体驚き
使用率 = 占有率恒等式(\(N=A/4\ell_P^2\ln2\) から)0.0 bit
\(C\cdot t=N\)恒等式(\(E=c^4R/2G\) とホログラフィー)0.0 bit
\(dN/dt=2C\)恒等式(\(N\propto t^2\))0.0 bit
140 が四度全て \(\ln(t_0/t_P)\)0.0 bit
\(\Omega/N=p\ln2/2\pi^2\)状態方程式だけで決まる(導出)0.0 bit
\(N_T/N_t\approx1/2\)輻射期が対数レンジを支配1.0 bit
1 ビット ↔ 1.96 fm偶然(第18回で判定済み)7.4 bit

合計 8.4 ビット ── そのうち 7.4 は第18回で「偶然」と判定済みの一件です。第 III 部で出てきた一致のほとんどは、驚き 0 ビット、つまり恒等式でした。

05種明かし ── では第 III 部は何をしたのか

05節の結論

発見したのではありません。同じ数を、八つの言語で言い直しました。

これは自己批判ではなく、シリーズの主題そのものです。第25回の言葉で書き直すとこうなります ── やっていたのは L(法則) を短くする作業であり、記述言語に依存するから判定には使えない。ではなぜやるのか。

言い直さないと、どの二つが恒等式で結ばれているか見えない「使用率」と「ブラックホールの占有率」が同じ数だと気づくには、二つの言葉で書いてみるしかありません
恒等式が 5 本見つかったこれは構造の地図であって、新しい物理ではない
残った 1 本が本物の謎1.96 fm の 7.4 ビット。地図を描いたおかげで、説明できていない場所が 1 か所だけだと分かった

地図を描く前は、24 個の数字が並んでいるように見えました。描いたあとは、12 個の入力と、1 個の説明できない一致です。これが情報理論で物理を読むということの、正直な収穫です。

c·t=一定 の役割は、どこにあったか 第 III 部で \(c\cdot t=\)一定 が効いたのは一箇所だけ ── \(\Omega/N=p\ln2/2\pi^2\) の \(p=1\)、つまり 0.0351 です。それ以外の 23 個は、膨張則を仮定しなくても同じ数が出ます(\(R_H=ct_0\) という規約は使いますが、これは第2回で決めた記法です)。つまり第 III 部は、モデルの検証ではなく、記法の検証でした。 それでよいのです ── このシリーズの主題は判定ではなく圧縮だからです。判定は第3回で終わっています。
正直な線 ── この回が置いている前提

① 「独立な入力 12 個」の数え方は一意ではありません。 \(\ell_P\) を \(\hbar,G,c\) の三つと数えれば 14 個、\(N_{\rm data}\) と \(\Delta\chi^2\) を「Planck のデータ 1 個」とまとめれば 11 個になります。圧縮率 2.0 倍という数字も、第25回で崩したのと同じ理由で数え方に依存します ── だから桁の話としてだけ読んでください。

② 「使用率=占有率」が恒等式なのは、\(S\) をブラックホールが支配する限りです。 実際 CMB 光子の寄与は \(10^{-15}\) 倍以下ですが、これは観測に基づく事実であって恒等式ではありません。恒等式なのは \((S/\ln2)/N=4\ell_P^2S/A\) の部分だけです。

③ 第21回の \(0.127\) は逆算された数です。 本文でもそう書きましたが、あらためて ── あれは独立な確認ではなく、同じ \(1.5\times10^{-18}\) を対数ステップの言葉で書き直したものです。

④ 「驚き 0.0 bit」は第19回の手続きによる分類で、主観的な事前範囲に依存します。 恒等式に 0 を割り当てるのは定義に近く、7.4 bit のほうは事前範囲の取り方次第で数ビット動きます。

⑤ 第3回の判定は動かしていません。 05節は「第 III 部は判定をしていない」と言っているのであって、判定を撤回しているのではありません。

練習問題(今回の式だけで解けます)

  1. 使用率と占有率が同じ数になることを示せ。
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    \(N=A/(4\ell_P^2\ln2)\) を使うと \((S/\ln2)/N=(S/\ln2)\cdot4\ell_P^2\ln2/A=4\ell_P^2S/A\)。ブラックホールなら \(S=A_{BH}/(4\ell_P^2)\) なので、これは \(\sum A_{BH}/A_H\)。ホログラフィーの定義から一行です。
  2. \(N_T/N_t=0.52\) が \(1/2\) に近い理由を述べよ。
    答えを見る
    対数レンジの大半(プランク期から等密度期まで)が輻射優勢で、そこでは \(T\propto t^{-1/2}\)。つまり \(d\ln T/d\ln t=-1/2\) が 140 ステップのうち大部分を占めます。これは説明のある一致なので、驚きは 1 ビット程度です。
  3. 第 III 部の圧縮率を、\(\ell_P\) を \(\hbar,G,c\) の三つと数えて計算せよ。
    答えを見る
    入力が 14 個になるので \(24/14=1.7\) 倍。数え方で変わることが分かります ── 第25回で L(法則) について見たのと同じ現象です。
  4. 第 III 部で \(c\cdot t=\)一定 が本当に効いた数はどれか。
    答えを見る
    \(\Omega/N=p\ln2/2\pi^2\) の \(p=1\)、すなわち 0.0351 の一つだけ。残りは \(R_H=ct_0\) という記法だけを使っており、膨張則そのものには依存しません。
  5. (やや難)「同じ数を八つの言語で言い直した」ことに価値はあるか。
    答えを見る
    あります。言い直さなければ、どの二つが恒等式で結ばれているかが見えないからです。地図を描く前は 24 個の独立な発見に見えたものが、描いたあとは 12 個の入力と 1 個の説明できない一致になりました。「説明できていない場所が 1 か所だけ」と分かることが収穫です ── ただしこれは新しい物理ではなく、構造の地図です。

まとめ 同じ数を、八つの言語で

第 III 部で繰り返し出てきた数を追いかけました。\(1.5\times10^{-18}\) は三度出てきましたが、使用率と占有率は \(N=A/(4\ell_P^2\ln2)\) から一行で導ける恒等式で、第21回の時間の矢はその逆算でした ── 三度出てきた \(1.5\times10^{-18}\) は、一つの数です。140 も四度出てきて、全て \(\ln(t_0/t_P)\) でした。独立なのは温度の \(N_T=73.03\) だけで、比 0.52 は輻射期が対数レンジを支配することの反映です。

見出し数字 24 個に対して独立な入力は 12 個。第 III 部自身の圧縮率は 2.0 倍 ── 第25回の物差しを自分に当てると、桁ではありませんでした。第19回の手続きで一致を仕分けると、7 件のうち 5 件が驚き 0 ビット(恒等式)、1 件が 1 ビット(説明あり)、残る 1 件が 7.4 ビット ── 第18回の 1.96 fm です。

だから第 III 部がしたのは発見ではなく、同じ数を八つの言語で言い直すことでした。それでも価値はあります ── 言い直さなければ、どの二つが恒等式で結ばれているかは見えないからです。恒等式が 5 本見つかり、説明できていない場所が 1 か所だけだと分かりました。地図を描く前は 24 個の独立な数字に見えたものが、描いたあとは 12 個の入力と 1 個の謎です。

そして \(c\cdot t=\)一定 が本当に効いた数は、24 個のうち 1 個だけ(\(\Omega/N=0.0351\))でした。第 III 部はモデルの検証ではなく、記法の検証だったということです ── このシリーズの主題は判定ではなく圧縮なので、それでよいのです。

この文書は「わかる c·t=一定」シリーズ第26回(第 III 部・完)、物理好きの高校生・大学生向け読み物です。ホログラフィック境界 \(N=A/(4\ell_P^2\ln2)\)、ベケンシュタイン=ホーキングのエントロピー \(S_{BH}=A/(4\ell_P^2)\)、輻射優勢期の \(T\propto t^{-1/2}\) はいずれも標準的です。本稿の主張(使用率=占有率が恒等式であること、第 III 部の見出し数字 24 個が独立な入力 12 個に帰着すること、驚きの合計 8.4 ビット)は本稿での集計です(kenshou/calc30.py)。「独立な入力 12 個」の数え方は一意ではなく、\(\ell_P\) を \(\hbar,G,c\) の三つと数えれば 14 個、Planck のデータをまとめれば 11 個になります ── 圧縮率 2.0 倍という数字自体が、第25回で崩したのと同じ理由で数え方に依存します。「使用率=占有率」が恒等式なのは \(S\) をブラックホールが支配する限りで、その支配は観測に基づく事実であって恒等式ではありません。「驚き 0.0 bit」は第19回の手続きによる分類で、主観的な事前範囲に依存します。線形膨張(\(c\cdot t=\)一定)は検証途上の少数派モデルで、その判定は第3回で扱いました ── 本稿は判定を撤回するものではなく、第 III 部が判定ではなく記法を扱っていたことの確認です。\(R_H=ct_0\) はその記法上の規約です(\(\Lambda\)CDM では \(R_H=c/H_0\) と粒子的地平線が異なります)。学術的な標準はインフレーションを含む \(\Lambda\)CDM モデルです。 ── 印刷する場合はブラウザの「印刷」から「PDF に保存」を(印刷版ではスライダーと解答は静止・非表示になります)。

印刷 / PDF 化:⌘+P(Windows は Ctrl+P)。画面ではスライダーで恒等式を畳むと、24 個がどこまで縮むかが見えます。「答えを見る」で解答が開きます。