わかる c·t=一定 第 4 回 / 判定は終わり。ここからが本題
何も言わない書き換えを、なぜ使うのか ── 式が短くなるからです
全部が、
質量ひとつになる
共形変換をかけると、空間も、曲率も、温度も、光も、順に消えていきます。
最後に一つだけ残る。── 宇宙論が、単調な関数ひとつに潰れます。
第3回で、\(c\cdot t=\text{一定}\) はそれ自体では何も言わないと確定しました。どんな宇宙でも実現できてしまうからです。ではなぜ使うのか。答えは単純です ── 式が短くなるから。この回でやるのは、共形変換を宇宙論の式に片っ端から入れて、何が消えるかを最後まで数えることです。消し終わると、驚くほど少ないものしか残りません。
01順に、消していく
使う操作は一つだけです。前シリーズ第3回の \(\Omega=1/a\)。ウェイト表(長さ \(+1\)、質量・エネルギー・温度 \(-1\)、\(c,\hbar,e,\alpha\) は \(0\))に従って、宇宙論に出てくる量を順に変換します。
| 量 | 標準の絵 | 変換後 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 空間の膨張 | \(a(t)\) で伸びる | \(\tilde a=1\) | 消える |
| 時空の曲率 | \(R=6/c^2t^2\)(発散する) | \(\tilde R=0\) | 消える |
| 温度 | \(T\propto1/a\) で下がる | \(\tilde T=aT=\)一定 | 消える |
| 光(電磁場) | 波長が伸びる | ウェイト 0 | そもそも何も起きない |
| \(\alpha,\ \hbar,\ c,\ e\) | 一定 | ウェイト 0 | 動かない |
| 質量 | 一定 | \(\tilde m=a\,m\) | これだけが残る |
01節の結論
共形変換で消せるものを全部消すと、時間変化するものが一つしか残りません。
入れ物(ミンコフスキー時空)も、物差しの目盛り(\(\alpha\))も、光も、温度も、全部固定。
動いているのは 質量だけ。
02だから、宇宙論が一行になる
この絵では、宇宙で起きるあらゆる「できごと」が、同じ一つの形になります。
宇宙の歴史の、全部
育っていく質量が、固定された一本の物差し \(k_BT_0\) を追い越していく
標準の絵では「温度が下がって、あるエネルギー閾値を下回る」と言います。この絵では逆で、温度は 2.7255 K のまま動かず、閾値のほうが育ってきて温度を追い越す。前シリーズ第3回で一度だけ触れた言い方ですが、これを最後まで使うとこうなります。
育っていく閾値(今日の値 × \(t/t_0\))が、これを何倍か超えたときが「できごと」
| できごと | 閾値(今日の値) | 超える倍率 | \(t/t_0\) | \(1+z\) |
|---|---|---|---|---|
| 中性子・陽子比の凍結 | \(Q=1.293\) MeV | 1.616 | \(2.94\times10^{-10}\) | \(3.41\times10^{9}\) |
| 電子・陽電子の対消滅 | \(m_ec^2=0.511\) MeV | 1.000 | \(4.60\times10^{-10}\) | \(2.18\times10^{9}\) |
| 重水素ができる | 2.22 MeV | 22.2 | \(2.35\times10^{-9}\) | \(4.26\times10^{8}\) |
| 水素の再結合 | Ry \(=13.6\) eV | 52.6 | \(9.08\times10^{-4}\) | 1100.9 |
最後の行を見てください。1100.9 ── 標準宇宙論の「再結合は \(z=1100\)」と一致します。中性子凍結の行も、逆に温度に直すと \(1.293/1.616=0.800\) MeV でぴったり。この絵は、標準の絵と同じ数字を、違う順序で出しているだけです。
03\(a\propto t\) を入れると、直線一本になる
ここまでは \(a(t)\) を特定していません。どんな宇宙でも「質量だけが動く絵」は作れます(第3回でやったのと同じ事情です)。ただし \(\tilde m=a(t)\,m\) の \(a(t)\) は、ふつう積分でしか書けない関数です。
\(a\propto t\) を入れると ──
両対数で描くと
$$\log\tilde m=\log m+\log\frac{t}{t_0}\qquad\text{── 傾き 1 の、直線}$$この回の一行
宇宙の歴史とは、一本の直線が、四本の水平線を順に横切っていく話。
それ以外は、何も動いていない。
これが \(c\cdot t=\text{一定}\) が与えてくれるものです ── 新しい物理ではなく、いちばん短い書き方。第3回で「主張はゼロ」と結論したものが、ここでは最大限に働きます。主張がゼロだからこそ、どこにでも代入できる。
図:横軸は宇宙の年齢(\(t/t_0\)、対数)、縦軸はエネルギー(対数)。ツマミで語り方を切り替えます ── 左端は標準の絵(閾値が固定、温度が下がってくる)、右端は質量の絵(温度が固定、閾値が育ってくる)。交点だけが、まったく動きません
ツマミを左右に振ると、青緑の線と錆色の線が激しくシーソーします。左端では錆色が水平で青緑が急降下、右端では青緑が水平で錆色が上昇。それでも四つの交点は、縦の破線に釘付けのまま動きません。前シリーズ全体を通して何度も見た絵ですが、ここではそれが「宇宙論の圧縮率」の話になっています ── 右端がいちばん、動くものが少ない。
04実際に、式が短くなる
抽象論ではありません。宇宙論でいちばんよく使う量を並べます。左が標準(\(\Lambda\)CDM)、右が \(c\cdot t=\text{一定}\)。
| 量 | \(\Lambda\)CDM | \(c\cdot t=\)一定 |
|---|---|---|
| ハッブル率 | H₀ E(z), \(E=\sqrt{\Omega_r(1+z)^4+\Omega_m(1+z)^3+\Omega_\Lambda}\) | \(H_0(1+z)\) |
| 共動距離 | (c/H₀)∫dz′/E(z′) ── 数値積分 | \((c/H_0)\ln(1+z)\) |
| 光度距離 | (c/H₀)(1+z)∫dz′/E | \((c/H_0)(1+z)\ln(1+z)\) |
| 角径距離 | (c/H₀)∫dz′/E /(1+z) | \((c/H_0)\ln(1+z)/(1+z)\) |
| そのときの年齢 | ∫dz′/[(1+z′)E] | \(t_0/(1+z)\) |
| ルックバック時間 | ∫dz′/[(1+z′)E] | \(t_0\,z/(1+z)\) |
| 地平半径 | (c/H₀)/E(z) | \(c\,t_0/(1+z)\) |
右の列はすべて閉じた式で、しかも \(\ln\) と割り算しか出てきません。左の列は全部が数値積分です。宇宙論の教科書で最初に習う量が、ここまで短くなる。
05短さを、情報の言葉で測る
「式が短い」を主観で終わらせずに、数えます。モデルの記述長は、無次元パラメータの個数で測れます(次元付きの量は単位を決めているだけなので、数えません ── 前シリーズの合言葉どおり)。
| モデル | 無次元パラメータ | 個数 |
|---|---|---|
| \(\Lambda\)CDM | \(\Omega_bh^2,\ \Omega_ch^2,\ \theta_*,\ \tau,\ A_s,\ n_s\) | 6 |
| \(c\cdot t=\)一定 | なし(\(H_0\) は次元付き=単位を決めるだけ) | 0 |
だから 04節の右の列には、調整できる数字が一つも入っていません。\(H_0d_L/c=(1+z)\ln(1+z)\) ── これは定数を一つも含まない予言です。オッカムの剃刀の極限。
06種明かし ── なぜ「質量だけ」が残るのか
01節の表で消えたものと残ったものを、ウェイトで並べ直すと理由が見えます。
| ウェイト | 該当するもの | 共形変換で |
|---|---|---|
| 0 | \(c,\ \hbar,\ e,\ \alpha\)、4次元のマクスウェル作用、光円錐 | 動かない |
| \(+1\) | 長さ、時間、波長 | \(\div a\) |
| \(-1\) | 質量・エネルギー・温度・振動数 | \(\times a\) |
ウェイト 0 の行は、そもそも共形変換に反応しません。ウェイト \(+1\) の行(長さ)は、物差しごと動くので比を取ると消えます ── だから空間の膨張が消せた。残るのがウェイト \(-1\) の行で、その代表が質量です。
これは前シリーズ第7回の結論そのものです ── 「光は共形不変、質量はそうでない」。あちらはペンローズの CCC へ向かう話でしたが、こちらは実用です。共形変換にひっかかる唯一の相手が質量なら、共形変換で整理したあとに残るのも質量だけ。当然といえば当然ですが、当然が最後まで貫くと、宇宙論が一本の直線になります。
01節で「消える」と書いたのは、その絵で時間変化しなくなるという意味です。物理が消えたのではありません。膨張のぶんは質量の増加に、冷却のぶんも質量の増加に、まとめて押し込まれています。前シリーズ第4回の数え上げ(場+1、対称性−1、差引ゼロ)が効いていて、情報量は一切減っていません。減ったのは書き方の長さだけです。
02節の表の「超える倍率」(1.616、22.2、52.6 など)は、そのできごとが起きる条件の無次元比で、標準宇宙論から取ってきた値です。この絵が自分で予言した数ではありません。ここでやっているのは翻訳であって、導出ではない。再結合の 52.6 は前シリーズ第3回で両方の絵から計算して一致を確かめた値です。
「原子が縮む・質量が育つ」は共動座標の格子を基準にしたときの言い方です。あなたの部屋で原子が育っているわけではありません。局所的に測る質量も光速も \(\alpha\) も、どの絵でも同じです。
04節の右の列は \(a\propto t\)、空間平坦、そして \(z\) を \(1+z=t_0/t\) で定義した場合の厳密式です。左の列との差はモデルの差であって、書き方の差ではありません ── 短いから正しいのでも、長いから正しいのでもない。05節の 0.21 等はその差の実測での大きさです。
「無次元パラメータ 0 個」は \(R_h=ct\) の標準的な提示(Melia)に従った数え方です。この数え方には議論があり、\(R_h=ct\) を \(\Lambda\)CDM の特殊な場合と見るか独立なモデルと見るかで、パラメータの勘定も変わります。
練習問題(今回の式だけで解けます)
- この絵で、赤方偏移 \(z\) は何の比か。
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質量の比です。\(1+z=\tilde m_0/\tilde m_e=a_0/a_e\)。光は共形不変なので飛んでいるあいだ何も起きません ── 変わったのは受け取る側(実験室の水素原子が重くなった)。標準の絵の「波長が伸びた」と、同じ数字を別の言葉で言っています。 - 水素の再結合が \(1+z=1101\) で起きることを、この絵の言葉で説明せよ。
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リュードベリは今日 13.6 eV で、この絵では \(\propto t\) で育ちます。熱エネルギーは \(k_BT_0=2.3487\times10^{-4}\) eV で固定。再結合の条件は比が 52.6 なので、\(13.6\times(t/t_0)/2.3487\times10^{-4}=52.6\) より \(t/t_0=9.08\times10^{-4}\)、すなわち \(1+z=1101\)。温度は一度も下がっていません。 - \(c\cdot t=\text{一定}\) で、\(z=1\) の銀河までの光度距離を求めよ(\(c/H_0=1.30\times10^{26}\) m)。
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\(d_L=(c/H_0)(1+z)\ln(1+z)=1.30\times10^{26}\times2\times\ln2=1.80\times10^{26}\) m。積分は要りません。 \(\Lambda\)CDM だと \(H_0d_L/c=1.529\) で、\(1.386\) との差が 0.21 等になります。 - なぜウェイト \(+1\) の量(長さ)は「消える」のか。
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観測できるのは長さそのものではなく長さの比だから。物差しも測る対象も同じ \(1/a\) がかかるので、比では打ち消し合います。残るのは、物差しと違うウェイトを持つ相手 ── ウェイト \(-1\) の質量です。「銀河間距離 ÷ 原子半径」が動くのは、分子と分母のウェイトが違うから(前シリーズ第4回の図)。 - (やや難)この絵は、どんな \(a(t)\) でも作れる。では \(a\propto t\) は何が特別か。
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残った唯一の関数 \(\tilde m(t)=a(t)m\) が、いちばん簡単な形(比例)になることです。\(\Lambda\)CDM なら \(a(t)\) は積分でしか書けないので、この絵に移しても「質量が \(a(t)\) で育つ」としか言えません。\(a\propto t\) だと直線一本になり、04節の閉じた式が全部出てきます。圧縮率が最大になるのが \(a\propto t\) ── ただしそれは書き方の性質で、正しさとは別です(第3回)。
まとめ 消せるものを全部消すと、質量が残った
第3回で \(c\cdot t=\text{一定}\) は「それ自体では何も言わない」と確定しました。今回は、だからこそできることをやっています ── 宇宙論の式に片っ端から入れて、消せるものを全部消す。空間の膨張(\(\tilde a=1\))、曲率(\(\tilde R=0\))、温度(\(\tilde T=\)一定)、光(そもそもウェイト 0)。順に消えて、最後に一つだけ残ります ── \(\tilde m=a\,m\)。
だから宇宙の歴史は一行になります。固定された物差し \(k_BT_0=2.3487\times10^{-4}\) eV を、育っていく閾値が順に追い越していく。中性子凍結、対消滅、重水素、再結合 ── 全部この形で、再結合は \(1+z=1100.9\)、中性子凍結は \(0.800\) MeV と、標準の数字にぴったり戻ります。翻訳であって、別の物理ではない。
そして \(a\propto t\) を入れると、残った唯一の関数が傾き 1 の直線になります。宇宙の歴史は、一本の直線が四本の水平線を横切る話に潰れる。式も短くなり、\(H(z)=H_0(1+z)\)、\(d_C=(c/H_0)\ln(1+z)\)、\(t(z)=t_0/(1+z)\) ── 全部が閉じた式で、\(\Lambda\)CDM が数値積分を要求するところに \(\ln\) 一つしか出てきません。特殊関数も積分も出てこない唯一の膨張則です。
情報の言葉で測ると、\(\Lambda\)CDM の無次元パラメータ 6 個に対して \(c\cdot t=\text{一定}\) は 0 個。記述長ゼロ、オッカムの剃刀の極限です。ただし短さは説明できたうえでの話で、\(z\simeq1.1\) で 0.21 等ずれます。種明かしは前シリーズ第7回そのもの ── 共形変換にひっかかる唯一の相手が質量なら、整理したあとに残るのも質量だけ。当然を最後まで貫くと、宇宙論が直線一本になりました。
この文書は「わかる c·t=一定」シリーズ第4回、物理好きの高校生・大学生向け読み物です。共形変換 \(\tilde g=\Omega^2g\)(\(\Omega=1/a\))のもとで長さがウェイト \(+1\)、質量・エネルギー・温度がウェイト \(-1\)、\(c,\hbar,e,\alpha\) および 4 次元 Maxwell 作用がウェイト \(0\) であること、したがって \(\tilde m=am\)、\(\tilde T=aT\)、\(\tilde R=0\)(\(a\propto t\) のとき)となることは、いずれも標準的な結果です。質量が増大する描像で膨張を記述する宇宙論は Wetterich (2013, Phys. Dark Univ. 2, 184) によります。02節の表の「超える倍率」(中性子凍結 \(Q/k_BT_f=1.616\)、重水素 22.2、再結合 52.6)は標準宇宙論の値を用いた翻訳であり、本モデルの予言ではありません。再結合の \(1+z=1100.9\)、中性子凍結の \(0.800\) MeV は本稿での計算(\(k_BT_0=2.3487\times10^{-4}\) eV, \(T_0=2.7255\) K)。04節の閉じた式は \(a\propto t\)・空間平坦・\(1+z=t_0/t\) のもとでの厳密式で、\(H_0d_L/c=(1+z)\ln(1+z)\) を含みます。\(\Lambda\)CDM 側の値は \(\Omega_m=0.315\)、\(\Omega_r=9.2\times10^{-5}\) による本稿の数値積分で、両者の差は \(z=1.12\) で最大 0.214 等(\(\Lambda\)CDM のほうが遠い)となります。現代の Ia 型超新星の距離指標の統計誤差は 0.01〜0.02 等程度です。\(\Lambda\)CDM の 6 パラメータは Planck の標準的な基底、\(R_h=ct\) の「無次元パラメータ 0 個」は Melia による提示に従った数え方で、この数え方自体には議論があります。「原子が縮む・質量が育つ」は共動座標の格子を基準にした言い方であり、局所的に測る質量・光速・\(\alpha\) はいずれの絵でも不変です。本稿は書き換えの簡潔さを扱うものであって、\(a\propto t\) の正しさを主張するものではありません ── 初期宇宙まで外挿した場合の元素合成との不整合は Lewis, Barnes & Kaushik (2016, MNRAS 460, 291) を参照。学術的な標準はインフレーションを含む \(\Lambda\)CDM モデルです。 ── 印刷する場合はブラウザの「印刷」から「PDF に保存」を(印刷版ではスライダーと解答は静止・非表示になります)。