考える波 第 64 回 / 第 XX 部・トンネルするものたち
名前は六つ、正体はひとつ
あの式の名前 ──
虚時間の古典軌道の作用だった
第 62 回の \(G=\frac{2}{\hbar}\int\sqrt{2m(V-E)}\,dr\) に名前はあるか ── 少なくとも六つ、140 年ぶんあります。
★★★ そして一番深い名前が正体を言い当てています:あの積分は虚時間における古典軌道の作用 \(S_E\) で、\(G=2S_E/\hbar\)。時間を 90 度 回すと、障壁は谷になり、粒子は普通に転がります。本回はそれを数値で確かめました(比 1.000000)。
★★ さらに ── アレニウスとガモフは同じ式の両極限で、境目は \(T_c=\hbar\omega_b/2\pi k_B\)。その \(2\pi\) はウンルー温度の \(2\pi\) と同じものでした。
「あの式、名前ついてないの?」── ついています。多すぎるくらいに。
★ そして名前をたどると、あの積分が何なのかが分かります。
01名前は 六つ ある
| 呼び名 | 誰 | 年 | 文脈 |
|---|---|---|---|
| リウヴィル=グリーン近似 | Liouville, Green | 1837 | 数学(2 階 ODE の漸近解) |
| (ジェフリーズも) | Jeffreys | 1923 | → WKBJ と呼ぶ流儀も |
| WKB 近似 | Wentzel / Kramers / Brillouin | 1926 | 量子力学 |
| ガモフ因子 | Gamow | 1928 | クーロン障壁(第 62 回) |
| ケンブルの公式 | Kemble | 1935 | 一様に正しい \(1/(1+e^G)\) |
| インスタントン/バウンス | Coleman | 1977 | 場の理論・虚時間 |
01節の中心
★ 同じ積分に 140 年 かけて 六つの名前がつきました。量子力学より 89 年 早く、リウヴィルとグリーンが「2 階の微分方程式の漸近解」として書いています。
★★★ そして一番深い名前は最後のもの ── 積分そのものが虚時間における古典軌道の作用 \(S_E\) で、トンネル振幅が \(e^{-S_E/\hbar}\)。これをインスタントンと呼びます。
★★ つまりトンネル効果とは「虚時間の古典運動」でした。
02なぜ \(2/\hbar\) なのか
★ 第 62 回の「\(2/\hbar\)」の 2 は、振幅を 2 乗して確率にしたからです。桁で言えば、振幅は \(G/(2\ln10)\) 桁、確率は \(G/\ln10\) 桁 抑えられます。
★★ 第 58 回のボゴリューボフ係数 \(|\beta|\) も振幅 ── だからあちらは半分でした。指数が半分ずれているのは、見ている量が振幅か確率かの違いだけ。
03★★★ 虚時間にすると、障壁が 谷になる
符号が変わります。虚時間では、粒子は \(-V\)(上下ひっくり返したポテンシャル)の中を動きます ── そこでは障壁は谷で、禁止領域を古典的に通り抜けられます。
その軌道のユークリッド作用は、エネルギー保存 \(\frac{m}{2}(dx/d\tau)^2=V-E\) を使うと
★ 本当にそうなるか、反転ポテンシャルの運動方程式を実際に解いて確かめます(\(V=V_0\,\mathrm{sech}^2(x/a)\)、\(\hbar=m=1\)、\(V_0=1\)、\(a=3\))。
| \(E\) | 転回点 \(\pm x_t\) | ★ 虚時間の作用 \(S_E\) | WKB 積分 | 比 |
|---|---|---|---|---|
| 0.2 | 4.3309 | 7.367896 | 7.367896 | 1.000000 |
| 0.4 | 3.0952 | 4.898871 | 4.898871 | 1.000000 |
| 0.6 | 2.2365 | 3.004322 | 3.004322 | 1.000000 |
| 0.8 | 1.4436 | 1.407143 | 1.407143 | 1.000000 |
03節の中心 ── これが 本回の 山
★★★ 小数 6 桁 まで一致しました。これは代数の書き換えではなく、反転ポテンシャルの中を RK4 で実際に走らせて作用を積んだ結果です。
★★ 「古典的に通れない」は実時間の話でした。時間を 90 度 回すと障壁は谷になり、粒子は普通に転がります。
★ その軌道は出発点に戻ってくるので「バウンス(跳ね返り)」と呼ばれます。★★★ トンネル効果に「通り抜けの瞬間」を探しても見つからないのは、それが実時間の出来事ではないからです。
04厳密解と比べる ── 桁は当たる、係数は外す
\(V=V_0\,\mathrm{sech}^2(x/a)\)(エッカート障壁)は厳密に解けます。WKB と突き合わせます。
| \(E/V_0\) | \(G\) | \(e^{-G}\) | 厳密 | ★ 厳密 / \(e^{-G}\) |
|---|---|---|---|---|
| 0.10 | 18.2275 | 1.213e−8 | 1.460e−8 | 1.2036 |
| 0.20 | 14.7358 | 3.984e−7 | 4.797e−7 | 1.2041 |
| 0.30 | 12.0565 | 5.807e−6 | 6.992e−6 | 1.2041 |
| 0.50 | 7.8077 | 4.066e−4 | 4.893e−4 | 1.2036 |
| 0.70 | 4.3542 | 1.285e−2 | 1.524e−2 | 1.1858 |
04節の中心
★★★ 透過率が 8 桁 変わるあいだ、比は 1.20 のまま動きません(相対ばらつき 1.5 %)。
★★ しかもその 1.2041 は解析値 \(\exp\!\bigl(\pi[2a\sqrt{2V_0}-\sqrt{8V_0a^2-1}]\bigr)\) と一致します ── \(\sqrt{\lambda-1}\) の「\(-1\)」から来る、次の次数の補正です。
★★★ つまり WKB の誤差は「指数の中」ではなく「前の定数」にあります。第 62 回で「桁数は当たる」と言えたのは、まさにこれが理由でした。
★ 逆に、前置因子まで欲しいなら WKB では足りません。第 62 回の \(\alpha\) 崩壊が絶対値で数桁ずれていたのも、同じ性質です。
05★★ 障壁の頭では \(e^{-G}\) が壊れる ── ケンブルの形
| \(E/V_0\) | \(G\) | \(e^{-G}\) | ★ \(1/(1+e^G)\) | 厳密 |
|---|---|---|---|---|
| 0.90 | 1.3329 | 2.637e−1 | 0.208686 | 0.234657 |
| 1.00 | 0.0000 | 1.000e+0 | 0.500000 | 0.546309 |
| 1.05 | −0.6664 | 1.947e+0 | 0.660704 | 0.699322 |
| 1.50 | −6.6643 | 7.839e+2 | 0.998726 | 0.997927 |
05節の中心 ── 第 62 回の計算機を 直すべき所
★★★ \(E=V_0\) で \(e^{-G}=1\)(全部通る)は明らかに間違い。厳密解は 0.546、ケンブルは 0.500。
★★ \(E>V_0\) では \(e^{-G}\) が 784 などになります ── 確率が 1 を超える。
★ ケンブル \(1/(1+e^G)\) はどこでも 0〜1 に収まり、放物線障壁なら厳密解そのものです。
★★★ なぜ頭で壊れるか:二つの転回点が合体するから。第 57 回の「端」── 展開が効く範囲の外に出ています。あのときは「端で \(\varepsilon\) の \(1/n\) 乗で桁を失う」と数えましたが、ここでは端に近づくと近似そのものが破綻します。
06★★★ アレニウスとガモフは、同じ式の両極限
温度 \(T\) では、エネルギー \(E\) の粒子がボルツマン因子でいて、それぞれ透過率で抜けます。
被積分関数の指数は \(-E/k_BT+2\pi E/(\hbar\omega_b)+\text{定数}\)。\(E\) の係数が符号を変える所が境目です:
実験で測れるのは見かけの活性化エネルギー \(E_{\text{eff}}=-d(\ln\Gamma)/d(1/T)\) です。
| \(T/T_c\) | ★ \(E_{\text{eff}}\) | \(E_{\text{eff}}/V_0\) | 高温の予言 \(V_0+k_BT\) | 振る舞い |
|---|---|---|---|---|
| 0.3 | 0.0322 | 3.2 % | 1.0225 | トンネル |
| 0.5 | 0.0750 | 7.5 % | 1.0375 | トンネル |
| 0.8 | 0.2614 | 26 % | 1.0600 | トンネル |
| 1.0 | 0.5091 | 51 % | 1.0750 | ★ 交差 |
| 2.0 | 1.0009 | 100 % | 1.1501 | アレニウス |
| 5.0 | 1.3234 | 132 % | 1.3751 | アレニウス |
交差温度 計算機
06節の中心 ── 実験でのトンネルの印
★★★ 低温側では \(E_{\text{eff}}\) が真の障壁の 3 % しかありません。温度を下げても速さが落ちなくなる ── これがトンネルが効いている印です。
★★ アレニウス図(\(\ln\Gamma\) 対 \(1/T\))が低温側で寝る。見かけの活性化エネルギーが真の障壁より小さく出たら、その差はトンネルのぶん。
★ 高温側では \(E_{\text{eff}}\to V_0+k_BT\) ── 前置因子 \(k_BT\) のぶん、真の障壁をわずかに超えます(\(T=5T_c\) で 1.323 対 予言 1.375)。
★★★ 第 56 回で「\(\tau=\tau_0e^{E/kT}\) の活性化」を論じましたが、その \(E\) は見かけの活性化エネルギーでした。温度を振って折れ曲がりを見れば \(T_c\) が出て、そこから \(\omega_b\) が読めます。
07その \(2\pi\) は、ウンルー温度の \(2\pi\) と同じ
★ 温度 \(T\) の系では、虚時間 \(\tau\) は周期 \(\hbar/k_BT\) の円になっています。これが温度と虚時間の対応(第 45 回のウンルー効果と同じ枠組み)。
★★ 放物線の頂上付近でのバウンスの周期は \(2\pi/\omega_b\)。バウンスがその円に収まる条件が \(\hbar/k_BT\ge2\pi/\omega_b\)、すなわち \(T\le T_c\) です。
| 場面 | 式 | \(2\pi\) の出どころ |
|---|---|---|
| 交差温度(本回) | \(T_c=\hbar\omega_b/2\pi k_B\) | 虚時間の円周 |
| ウンルー(第 45 回) | \(T=\hbar a/2\pi ck_B\) | 虚時間の円周 |
| ホーキング | \(T=\hbar\kappa/2\pi ck_B\) | 虚時間の円周 |
★★★ 第 45 回で「加速した人が真空を熱く見る」のと、本回で「ある温度から上は古典的に越える」のは、同じ虚時間の幾何の二つの顔です。
★ ただし同じ形なのは \(2\pi\) の出どころだけで、物理は別 ── 第 63 回の「同じ統計は同じ物理ではない」と同じ注意が要ります。
08★★★ 摂動論は \(e^{-S/\hbar}\) を知らない。が、発散の速さが知っている
非調和振動子 \(H=\frac{p^2}{2}+\frac{x^2}{2}+gx^4\)。\(g<0\) にすると準安定になり、バウンス作用は \(S=1/(3|g|)\)(数値で確認:\(g=0.05\) で \(S=6.666667\)、解析 6.666667)。
そのうえで摂動級数 \(E(g)=\sum a_ng^n\) の係数を 40 次 まで計算します。
| \(n\) | \(a_n\) | \(a_n/a_{n-1}\) | ★ 比 \(/(-3)\) | 予言 \(n-\frac12\) |
|---|---|---|---|---|
| 2 | −2.6250e+0 | −3.5000 | 1.1667 | 1.5 |
| 5 | 3.5810e+3 | −14.8410 | 4.9470 | 4.5 |
| 10 | −2.4479e+10 | −29.3674 | 9.7891 | 9.5 |
| 20 | −7.6940e+26 | −58.7709 | 19.5903 | 19.5 |
| 40 | −6.6419e+65 | −118.6129 | 39.5376 | 39.5 |
08節の中心 ── 本回いちばん深いところ
★ 級数は収束しません。\(a_n\sim3^n\,\Gamma(n+\tfrac12)\) で階乗的に発散します。
★★ だから摂動論は \(e^{-1/(3g)}\) を決して作れません ── \(g\) のどの冪でも、テイラー展開すると 0 だから。すべての次数で 0 の関数です。★ これがトンネル効果が「非摂動的」と呼ばれる意味。
★★★ ところが発散の速さ \(3^n\) の「3」が、バウンス作用 \(S=1/(3g)\) の \(1/S\) にぴったり一致します。
★★★ 「摂動論はトンネルを知らない。が、発散の仕方が知っている。」ダイソンの議論(1952)の定量版で、Bender–Wu(1969)が計算した形です。
★★ これがあの積分に名前が六つついた一番の理由 ── 摂動論の外にあるものを数える、ほとんど唯一の道具だから。
練習問題
- 03 節で「トンネルは虚時間の古典運動」と出た。では「通り抜けにかかる時間」はいくらか。
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問い自体が実時間の枠にあり、そのままでは答えがありません。
★ 虚時間での「所要時間」\(\tau\) は計算できます(本稿のコードも出しています)が、それは実時間の秒ではありません。
★★ 実時間のトンネル時間は、いまだに定義が複数あって決着していません(ヴィグナー時間、ラーモア時間、ビュティカー=ランダウアー時間…)。「粒子が障壁の中にいる時間」という問いが、そもそも観測量に翻訳しにくい。
★★★ 本シリーズの言い方をすれば:これは第 60 回の「トレンドか信号かは系ではなく記録が決める」と同じ型の問題です。「障壁の中にいた時間」は、測り方を宣言しないと決まりません。
★ 本稿が主張しているのは「作用が一致する」ことだけで、時間については何も言っていません。 - 05 節でケンブルの形が出た。第 62 回の計算機は直すべきか。
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使い方によります。
★ 第 62 回の用途では直す必要がありません。核融合も常温核融合も \(\alpha\) 崩壊も STM も、\(G\gg1\) の領域だけを扱っていました。\(G=10\) なら \(e^{-G}\) と \(1/(1+e^G)\) の差は \(10^{-4}\) 以下。
★★ 直すべきは「障壁の頭に近い」場合:第 62 回の表でいえば d+t の 20 keV(\(G=7.7\))が一番危なく、差は 0.05 % 程度。まだ問題ありません。
★★★ 本当に効くのは化学反応です ── 室温の反応では \(G\sim1\) が普通で、そこでは \(e^{-G}\) は 2 倍 以上 間違えます。★ 手引きに足すなら:\(G<5\) ならケンブルを使う。ただ書き換えるのではなく、いつ差が出るかを数えてから決める ── 第 55 回の作法です。 - 08 節で「摂動論の発散が作用を知っている」と出た。これは偶然か。
答えを見る
偶然ではなく、同じ積分の二つの見方です。
★ ダイソンの議論(1952):\(g<0\) にすると系は不安定になるので、\(E(g)\) は \(g=0\) で解析的になれない。だから収束半径は 0、級数は発散する。
★★ その「不安定さの度合い」=崩壊率 \(\sim e^{-S/g}\) が、そのまま発散の速さを決めます。ボレル変換で見ると、\(e^{-S/g}\) は複素 \(g\) 平面の特異点(ボレル特異点)に対応し、その位置が \(S\)。級数の \(n!/S^n\) 発散は、その特異点までの距離そのもの。
★★★ つまり「摂動級数がどう壊れるか」と「非摂動効果がいくらか」は同じ情報です ── これを組織化したのが「レザージェンス(復活理論)」。
★ 本シリーズの言葉にすると:第 57 回で「端は最低次の補正項で決まる」と書きました。ここでは級数の端(\(n\to\infty\))が、実空間の障壁の作用を教えている。級数の端と、ポテンシャルの端が、同じ数を指しています。
まとめ 名前は六つ、正体はひとつ
「あの式、名前ついてないの?」── 少なくとも六つ、140 年ぶん。リウヴィル=グリーン(1837)、ジェフリーズ(1923)、WKB(1926)、ガモフ因子(1928)、ケンブル(1935)、インスタントン/バウンス(1977)。
★★★ そして正体は ──
虚時間における古典軌道の作用 \(S_E\)。\(G=2S_E/\hbar\)。
★ 時間を 90 度 回すとポテンシャルが反転し、障壁は谷になります。反転ポテンシャルの中を RK4 で実際に走らせて作用を積むと、WKB 積分と小数 6 桁 一致しました。★★ 「古典的に通れない」は実時間の話でした。
★★ 厳密解(エッカート障壁)と比べると、WKB の誤差は指数の中ではなく前の定数にあります ── 透過率が 8 桁 変わるあいだ比は 1.20 のまま(相対ばらつき 1.5 %)で、解析値 \(\exp(\pi[2a\sqrt{2V_0}-\sqrt{8V_0a^2-1}])=1.2041\) と一致。第 62 回で「桁数は当たる」と言えた理由が、これで分かりました。
★ 障壁の頭では \(e^{-G}\) が壊れます(\(E=V_0\) で 1、\(E=1.5V_0\) で 784)。ケンブル \(1/(1+e^G)\) は一様に正しく、放物線障壁なら厳密解そのもの。壊れる理由は二つの転回点の合体 ── 第 57 回の「端」です。
★★★ アレニウスとガモフは同じ式の両極限でした。境目は \(T_c=\hbar\omega_b/2\pi k_B\)。見かけの活性化エネルギーは、\(T=5T_c\) で \(V_0+k_BT\)、\(T=0.3T_c\) で真の障壁の 3 % まで落ちます。★★ アレニウス図が低温側で寝るのが、実験でのトンネルの印です。
★★ その \(2\pi\) はウンルー温度の \(2\pi\) と同じもの ── どちらも「虚時間を円にしたときの一周」。第 45 回とここが、同じ幾何の二つの顔でした。★ ただし同じなのは \(2\pi\) の出どころだけで、物理は別(第 63 回と同じ注意)。
★★★ そして一番深いところ:摂動級数 \(E(g)=\sum a_ng^n\) は \(a_n\sim3^n\Gamma(n+\frac12)\) で発散し、収束しません。摂動論は \(e^{-1/(3g)}\) を決して作れない ── すべての次数で 0 だから。ところが発散の速さ \(3^n\) の「3」が、バウンス作用 \(S=1/(3g)\) の \(1/S\) に一致します(\(n=40\) で比 \(/(-3)=39.5376\) 対 予言 39.5)。摂動論はトンネルを知らない。が、発散の仕方が知っている。
★ 第 57 回で「端は最低次の補正項で決まる」と数え、本回で「級数の端が非摂動効果を知っている」と分かった。
★★ 次回はこの二つをつなぎます ── 漸近級数は、どこで切るのがいちばん良いのか。★ 最適打ち切りと、そこに残る誤差が \(e^{-S/\hbar}\) になること(超漸近性)。「桁をどこまで買えるか」という本シリーズの問いの、最後の形かもしれません。
この文書は「考える波」シリーズ第 64 回です。計算は kenshou/namae.js で行っています(依存ライブラリ 0、検算 14 件すべて合格)。本稿の発見ではないもの:WKB/リウヴィル=グリーン近似、ガモフ因子、ケンブルの一様公式、エッカート(ポッシェル=テラー)障壁の厳密解、虚時間形式とインスタントン/バウンス(Coleman 1977)、交差温度 \(T_c=\hbar\omega_b/2\pi k_B\)(Affleck 1981)、温度と虚時間の周期性、ウンルー/ホーキング温度、ダイソンの議論(1952)、Bender–Wu の大次数漸近(1969)、レザージェンス ── いずれもよく知られた結果で、本稿はその数値確認です。本稿がしたのは、① 反転ポテンシャルの古典運動を実際に数値積分して \(S_E\) が WKB 積分に一致することを 6 桁 で確かめたこと、② エッカート障壁の厳密解と比べて WKB の誤差が「指数ではなく前置因子」に局在することを示し、その前置因子の解析形と照合したこと、③ 見かけの活性化エネルギー \(E_{\text{eff}}(T)\) を計算して \(T_c\) での折れ曲がりを数値で出したこと、④ 摂動係数を 40 次 まで計算して \(a_n/a_{n-1}\to-3(n-\frac12)\) を確かめ、バウンス作用と突き合わせたことです。限界:03 節の数値積分は \(d\tau=10^{-5}\)、転回点から \(10^{-7}\) 内側を出発点とする粗いもので、一致は 6 桁 までです。04 節の「1.20」はこの障壁(\(V_0=1, a=3\))固有の値で、一般の障壁では別の定数になります。06 節は放物線近似での透過率を用いた模型計算で、実在の系では \(\omega_b\) の定義自体が近似です。08 節の摂動係数は調和振動子基底 260 での数値計算で、40 次 を超えると基底の切断が効きます。本稿も解析式と数値計算のみで、実測データには当てていません。 ── 印刷する場合はブラウザの「印刷」から「PDF に保存」を。