考える波 第 62 回 / 第 XX 部・トンネルするものたち

核融合も 超伝導も、同じ一本の積分だった

トンネルするものたち ──
桁数 \(=G/\ln 10\) で 全部 数える \(G=\frac{2}{\hbar}\int\sqrt{2m(V-E)}\,dr\) ── この一行で、核融合・常温核融合・超伝導接合・STM・\(\alpha\) 崩壊が 全部 計算できます。違うのは \(V(r)\) の形だけ。
★★ 本シリーズの癖どおり、「何桁 抑えられるか」で 数えます ── STM は 5 桁、炉は 3 桁、常温の \(\mathrm{D_2}\) は 83 桁
★★★ そして 「波だからコヒーレントに足せる」という 常温核融合の救済は、数を数えるだけで 否定できました ── 地球の海の重水素 全部でも 9 桁 足りない。

必要な道具:第 1, 5, 45, 53, 54, 57 回計算:kenshou/tunnel.js(検算 18 件)★ 本回は 動かせます

「超伝導も核融合もみんなトンネル効果じゃん」── そのとおりでした。
★ 第 XIX 部で「測定の限界は どこで切ったか で決まる」と分かりました。今回は切る場所ではなく障壁です。
★★ そして本回は、シリーズで初めて読者が動かせる計算機を置きます。

01たった一本の積分から、有名な公式が 3 つ 出る

これだけ $$G=\frac{2}{\hbar}\int_{r_1}^{r_2}\sqrt{2m\bigl(V(r)-E\bigr)}\,dr,\qquad P=e^{-G},\qquad \text{桁数}=\frac{G}{\ln 10}$$
障壁\(V\)\(G\)効くつまみ現れる場所
クーロン\(kZ_1Z_2/r\)\(\sqrt{E_G/E}\)\(E^{-1/2}\)核融合・\(\alpha\) 崩壊
角形\(V_0\)(幅 \(d\))\(\frac{2d}{\hbar}\sqrt{2m(V_0-E)}\)\(d\) に比例STM・ジョセフソン
三角\(\phi-eFx\)\(\frac{4\sqrt{2m}}{3\hbar eF}\phi^{3/2}\)\(F^{-1}\)電界放出

★ 数値エンジンと解析解を突き合わせると、クーロンは \(10^{-7}\)、角形と三角は \(10^{-9}\) で一致しました。ガモフ因子・角形障壁・ファウラー=ノルドハイム則が、同じ積分の三つの顔です。

★★ そしてガモフエネルギー \(E_G=2\mu c^2(\pi\alpha Z_1Z_2)^2\) は 質量と電荷だけで決まります ── 核物理の中身は一切 要りません。

反応\(\mu c^2\)[MeV]\(E_G\)[keV]本稿の \(B_G\)文献 \(B_G\)
p + p469.14493.122.206522.20
d + d937.81985.831.396931.3970
d + t1124.651182.234.382634.3827
d + ³He1124.564728.368.762668.7508

★★★ 4 桁 まで一致(文献は Bosch–Hale 1992)。核融合の「むずかしさ」は、この一つの数に全部 入っています。

02熱核融合 ── 動かしてみてください

熱核融合 計算機

10.0 keV

02節の中心

反応しているのは 平均の粒子ではありません。マクスウェル分布の尾(\(e^{-E/kT}\))と、\(E\) が上がると急に増えるトンネル確率(\(e^{-\sqrt{E_G/E}}\))の積が作るガモフピークだけが燃えています。
★★ 太陽の中心(1.35 keV = 1570 万 K)でもピークは 6.1 keV ── 平均の 4.5 倍 の尾 だけ。
★★★ 反応率は文献と 1 % 以内で一致しました:\(\langle\sigma v\rangle_{dt}\) が 10 keV で \(1.089\times10^{-22}\)(文献 \(1.1\times10^{-22}\))、20 keV で \(4.244\times10^{-22}\)(文献 \(4.3\times10^{-22}\))m³/s。ピークは 66.5 keV(文献 約 64)。

03同じクーロン障壁で、\(\alpha\) 崩壊も出る

アルファ崩壊 計算機

4.27 MeV

03節の中心 ── 指数の中の \(E^{-1/2}\) が すべてを決める

★ ²³⁸U(4.27 MeV)と ²¹²Po(8.95 MeV)はエネルギーが 2.1 倍 違うだけ
★★★ それで寿命は 24 桁 変わります ── 44.7 億年 と 0.3 マイクロ秒。
★★ 本稿の計算では ²³⁸U が \(\log_{10}(T/\mathrm{s})=17.16\)、実測 17.15試行頻度も核半径も 雑な見積もりなのに当たるのは、指数が全部を支配しているから ── 第 53 回の「対数でしか動かない量」の、いちばん極端な例です。

04固体のトンネル ── STM と 超伝導接合

角形障壁 計算機

4.50 eV
0.50 nm

04節の中心 ── なぜ 原子が 見えるのか

★ \(\phi=4.5\) eV(金属の仕事関数)で探針を 1 Å 近づけると電流は 8.8 倍 ── ちょうど 0.94 桁。
★★★ STM の経験則「1 Å で 1 桁」は この式そのもので、原子 1 個 の凹凸が見える理由です。
★★ ジョセフソン接合(AlOx, \(\phi\approx2\) eV)は 1 nm で 6.3 桁。厚さを 0.5 nm 増やすと さらに 3 桁 落ちる ── 超伝導量子ビットの製造が オングストローム精度を要求されるのは これが理由です。
クーロン障壁が \(E^{-1/2}\) なのに対し、角形は \(d\) に比例 ── だから STM は「距離を買えば 桁が線形に買える」。第 54 回の「範囲の買い方」でいえば、いちばん良心的な相手です。

05★★★ 常温核融合 ── 何桁 足りないのかを 数える

電子が障壁を下げる効果は、実験では遮蔽エネルギー \(U_e\) ひとつで表されます(\(\sigma_{\text{遮蔽}}(E)=\sigma_{\text{裸}}(E+U_e)\))。束縛した分子の中では \(E\approx0\) なので、実効的に \(E\to U_e\)。

常温核融合は この一行に 帰着する $$\lambda_{\text{対}}=\frac{A_{dd}}{V_{\text{分子}}}\exp\!\left(-\sqrt{\frac{E_G}{U_e}}\right),\qquad E_G(dd)=986\ \text{keV}$$

★★ この模型は \(\mathrm{D_2}\) の 1 点だけを合わせると(\(U_e=36\) eV で Koonin–Nauenberg の \(3\times10^{-64}\,\mathrm{s^{-1}}\) に一致)、ミューオン分子の融合速度を自動的に \(10^{9.7}\,\mathrm{s^{-1}}\) と出します(文献 約 \(10^9\))── 較正 1 点 で 73 桁 をまたいで 数倍 以内。だから使えます。

常温核融合 計算機 ── \(U_e\) を動かしてみてください

27 eV
0.741 Å
\(U_e\)[eV]出典\(G\)\(\lambda\)[/s/対]1 モルで[/s]
\(\mathrm{D_2}\) ガス標的(実測)25Raiola 2002198.6\(10^{-78.3}\)\(10^{-54.5}\)
理論の断熱極限27教科書191.1\(10^{-75.0}\)\(10^{-51.3}\)
重水素化 Ti36Raiola 2002165.5\(10^{-63.9}\)\(10^{-40.1}\)
重水素化 Pd250Raiola 200262.8\(10^{-19.3}\)\(10^{+4.5}\)
重水素化 Ta309Kasagi 200256.5\(10^{-16.6}\)\(10^{+7.2}\)
Au/Pd/PdO 多層601Raiola 200240.5\(10^{-9.6}\)\(10^{+14.1}\)

05節の中心 ── ここが 本当に 面白いところ

★ 実験の上限は 1 対あたり \(10^{-24}\sim10^{-23}\,\mathrm{s^{-1}}\)(Jones 1989 ほか)。それに対応する \(U_e\) は 194 eV
★★★ ところが重水素化 Pd で実測された \(U_e\) は 250 eV ── 上限を 超えています。
★★ この模型をそのまま信じれば「常温核融合は観測されるはず」という結論になります。実際には観測されない。
★★★ つまりこの計算の結論は「常温核融合は 無い」ではなく、「\(U_e\) を \(E\to0\) まで外挿する近似が 壊れている」 ── 第 55 回の言葉では、これは「仮定つきの値」を 仮定の外で 使っている状態です。

どこが壊れているか中身
① 外挿\(U_e\) は \(E=5\sim20\) keV のビーム実験で測った量。「\(E\to E+U_e\)」は \(U_e\ll E\) のときだけ正しく、\(E\to0\) は保証の外
② 電子密度250 eV を静的な遮蔽で作るには遮蔽長が 0.06 Å 程度 必要。金属の電子密度では桁が足りない
③ 距離金属中の d–d 距離は約 2.9 Å で、\(\mathrm{D_2}\) の 0.74 Å よりはるかに遠い。障壁は下がるどころか幅が広い

06★★★「波として見ると 何か出るか」── 正直に 3 つ 数えた

先に前提を。核融合を波として扱うのは ガモフ 1928 年 がやったことそのもので、それ自体は新しくありません。トンネル効果=古典的に入れない所へ波がしみ出すこと。その上で、波の言葉で数えられる形に落ちるものを 3 つ 出します。

(A) d+t が選ばれている理由は 障壁ではなく 共鳴

反応\(B_G\)\(E_{cm}\)ガモフ因子\(\sigma\)[mb]\(S(E)\)[keV·b]
d + t34.3850 keV7.73e−3397025675
d + d31.4050 keV1.18e−233.2141

\(B_G\) は d+t のほうが 2.99 大きい ── トンネルは d+t のほうが 1.53 倍 不利。
★★★ それなのに断面積は 120 倍。差は全部 \(S(E)\) の中(182 倍)。
★★ d+t の利点は 64 keV の ⁵He 共鳴 ── 核の側の「波の 定在状態」です。「炉が d+t を使うのは障壁が低いから」という説明は、正確にはでした。

(B) ミューオンは「たまたま」足りているのか

質量比 \(x\) の粒子で電子を置き換えると、分子は \(1/x\) に縮み、\(U_e\) は \(x\) 倍、\(G\) は \(1/\sqrt{x}\) 倍。

質量比 \(x\)分子の大きさ\(G\)\(\lambda\)[/s]
10.741 Å164.6\(10^{-63.5}\)電子(\(\mathrm{D_2}\))
300.0247 Å30.0\(10^{-0.7}\)遅すぎる
850.0087 Å17.9\(10^{6.0}\)★ 閾値
195.70.0038 Å11.8\(10^{9.7}\)ミューオン(\(\tau=2.2\,\mu\)s)
2730.0027 Å10.0\(10^{10.9}\)パイ中間子(\(\tau=26\) ns)

★★★ 触媒として使える閾値は 質量比 \(x\approx85\)。ミューオンは 195.7 で 2.3 倍 ── ぎりぎりではありません。
★★ ところが電子とミューオンの間に、荷電粒子は存在しません。閾値を超える荷電粒子はミューオンとパイ中間子だけで、パイは 26 ns で崩壊して触媒にならない。
★ つまりミューオン触媒核融合は「選択肢が 1 つしかない」 ── 質量と寿命の両方を満たす粒子が、自然界にミューオンしかないから。そしてその閾値を決めているのが \(x^{-1/2}\) というしみ出しの法則です。

(C) ★★★ 波なら コヒーレントに 足せるはず ── それで 埋まるか

これが本回でいちばん強く言えたことです。「常温核融合は波の集団効果で説明できる」という型の主張は、模型の中身を見ずに、数を数えるだけで判定できます。

理論(\(U_e=27\) eV、\(\mathrm{D_2}\) の幾何)\(10^{-75.0}\) /s/対
実験の上限(Jones 1989 ほか)\(10^{-23.0}\) /s/対
埋めるべき差52 桁
必要なコヒーレント数 \(N\)(\(N^2\) 超放射でも)\(10^{52}\)
1 モル\(10^{23.8}\) ── 28 桁 足りない
地球の海の重水素 全部\(\approx10^{43}\) ── 9 桁 足りない

06節の中心

★★★ 考えうる最大のコヒーレンス(完全な超放射)を、地球の海の重水素すべてにかけても、まだ 9 桁 足りません。
★★ したがって「波だからコヒーレントに足せる」という救済は、どんな具体的な模型であれ成立しません ── 数を数えるだけで否定できます。
ただしこれは「常温核融合が無い」の証明ではありません。「コヒーレンス機構では説明できない」という限定的な主張で、残る道は 05 節の ①(遮蔽の外挿)だけです。

つまみは 3 つ しかない必要な値実際にあるもの判定
① 遮蔽 \(U_e\) を上げる194 eV理論 27 eV / 金属 実測 250 eV
② 距離 \(R\) を縮める0.103 Å\(\mathrm{D_2}\) 0.741 Å / PdD 約 2.9 Å×
③ エネルギー \(E\) を上げる194 eV = 225 万 K常温 0.025 eV×

★★★ 残るのは ① だけ。だから常温核融合の議論は 必ず「\(U_e\) をどこまで信じるか」に収束します。
★★ そして ① は測れますエネルギーを下げながら \(U_e\) の見かけの値が一定かどうかを見ればよい。一定なら模型が正しく、ずれるなら外挿が壊れている ── 第 55 回の手引きが要求する形の問いです。

07全部を 1 枚に ── 桁数 \(=G/\ln 10\)

現象障壁\(G\)抑制の桁数効かせ方
d+t(20 keV・炉)クーロン7.73.3 桁温度
STM(0.5 nm 真空)角形 4.5 eV10.94.7 桁距離
dd-μ 分子クーロン+遮蔽11.85.1 桁ミューオンの重さ
ジョセフソン(1 nm)角形 2 eV14.56.3 桁酸化膜の厚さ
電界放出(3 GV/m)三角 4.5 eV21.79.4 桁電場
d+d(太陽 1.35 keV)クーロン27.011.7 桁温度
²³⁸U の \(\alpha\) 崩壊クーロン88.038.2 桁── 変えられない
\(\mathrm{D_2}\) 分子(常温)クーロン+遮蔽19183 桁── 手がない

07節の中心 ── この表が 全部

★★★ 上から下まで同じ一本の積分。違うのは \(V(r)\) の形だけ。
★★ 「使える」現象は 桁数が 10 前後、「使えない」現象は 80 桁。その間に つまみがあるかどうか ── それが全部の分かれ目です。
ミューオンは 実際に 桁数を 83 → 5 に落とします。だから 動く。(動くが、寿命 2.2 μs で 150 回 程度しか触媒できず採算に届かない ── これはトンネルではなく別の問題です。)

練習問題

  1. 04 節で「STM は距離を買えば桁が線形に買える」と書いた。第 53・54 回の言い方では何にあたるか。
    答えを見る
    いちばん良心的な「範囲の買い方」です。
    ★ 第 53 回:「範囲は対数でしか買えない」(観測時間 \(T\) を 10 倍 して 1 桁)。★★ ところが角形障壁は \(G\propto d\) なので、距離を線形に縮めれば 桁が線形に増えます ── 1 Å ごとに 1 桁。
    ★★★ クーロン障壁は \(G\propto E^{-1/2}\) なので、桁を 2 倍 買うにはエネルギーを 4 倍 に。こちらは第 53 回の「べきでしか買えない」側。
    ★★ つまり「何を買えば桁が来るか」は 障壁の形が決めています ── STM が原子分解能に届き、核融合が 1 億 K を要求するのは、同じ式の中の指数の違いだけ。
  2. 06 節 (C) で「数を数えるだけで否定できる」と書いた。これはなぜ強い論法なのか。
    答えを見る
    機構の中身に一切 依存しないからです。
    普通の反論は「その機構は成り立たない」と個別に潰していく形になり、新しい機構が出るたびにやり直しになります。
    ★★ ところがコヒーレンスによる増幅は、どんな機構でも上限が \(N\)(超放射でも \(N\) 倍)です。だから必要な \(N\) を数えて、手に入る \(N\) と比べれば それで終わる。
    ★★★ これは第 55 回の「仮定を数える」の一番強い形 ── 仮定の中身を問わず、仮定が使える上限だけで判定する。
    ただし限界もはっきりしていますコヒーレンス以外の機構(遮蔽そのものが違う、など)には この論法は効きません。★★ 「何を否定して、何を否定していないか」を書かないと、この論法は乱用されます。
  3. 05 節で「実測 \(U_e\) が上限を超えている」と出た。これは矛盾か。
    答えを見る
    矛盾ではなく、外挿の破れです。
    ★ \(U_e\) は \(E=5\sim20\) keV で「\(\sigma\) の増え方」を測って出した量。★★ そこでは \(U_e/E\sim0.02\) で、\(E\to E+U_e\) というずらしは 1 次の近似として正しい
    ★★★ ところが \(E\to0\) では \(U_e/E\to\infty\) ── 1 次の近似が使える範囲を、5 桁 ぶん 外れています。
    第 57 回の言い方ではこれは「端」です。展開の最低次だけを持って、その展開が効く範囲の外へ出た。
    ★★ 第 60 回の言い方では「どこで切ったか」を言わずに値を使った ── \(U_e\) は「\(E=5\sim20\) keV で測った \(U_e\)」であって、\(U_e\) という定数ではありません。

まとめ 同じ一本の積分で、83 桁 を 数える

「超伝導も核融合もみんなトンネル効果じゃん」── そのとおりでした。

★★★ \(G=\dfrac{2}{\hbar}\displaystyle\int\sqrt{2m(V-E)}\,dr\)、\(\;\)桁数 \(=G/\ln 10\)。
違うのは \(V(r)\) の形だけ。

検算 18 件 すべて合格\(B_G\) が文献と 4 桁一致、\(\langle\sigma v\rangle_{dt}\) が 1 % 以内、²³⁸U の \(\alpha\) 崩壊が \(\log_{10}(T/\mathrm{s})=17.16\) 対 実測 17.15、STM が「1 Å で 0.94 桁」、dd-μ が \(5.2\times10^9\) 対 文献 \(1.5\times10^9\)。

★★ 常温核融合は \(U_e\) ひとつの問題に帰着しました。\(\mathrm{D_2}\) の 1 点較正でミューオン分子まで 73 桁 を再現できる模型で数えると、実験上限に対応する \(U_e\) は 194 eV。ところが重水素化 Pd の実測は 250 eV。★★★ だから結論は「常温核融合は無い」ではなく、「\(U_e\) を \(E\to0\) へ外挿する近似が壊れている」 ── 測れる形の問いです。

★★★ そして波として見た収穫が 3 つ。(A) d+t の利点は障壁ではなく ⁵He 共鳴(\(B_G\) はむしろ 1.53 倍 不利で、差は全部 \(S(E)\))。(B) 触媒の閾値は質量比 85 で、それを超える荷電粒子はミューオンとパイ中間子だけ、パイは 26 ns で崩壊 ── だから選択肢が 1 つしかない。(C) コヒーレンス機構は、地球の海の重水素すべてを完全な超放射にしても 9 桁 足りない。

(C) が本回いちばん強い言明です ── 機構の中身を一切 見ずに、数を数えるだけで、ある型の説明を まとめて否定できました。★★ ただし否定できたのは「コヒーレンス機構」だけで、「常温核融合」ではありません。そこを書き分けないと、この論法は乱用されます(練習問題 2)。

この文書は「考える波」シリーズ第 62 回、第 XX 部の開始です。計算は kenshou/tunnel.js で行っています(依存ライブラリ 0、乱数なし、検算 18 件)。本回は シリーズで初めて、読者が動かせる計算機を置きました(02・03・04・05 節のスライダー)。表示される値は すべて同じスクリプトと同じ式から その場で計算しています。本稿の発見ではないもの:WKB 近似とガモフ因子(Gamow 1928)、ガモフピーク、ファウラー=ノルドハイム則、ガイガー=ヌッタル則、遮蔽エネルギー \(U_e\) の枠組み、ミューオン触媒核融合、Koonin–Nauenberg の \(\mathrm{D_2}\) 融合速度 \(3\times10^{-64}\,\mathrm{s^{-1}}\)、d+t の ⁵He 共鳴 ── いずれも標準的な既知の結果です。本稿がしたのは、それらを \(G/\ln10\)(=抑制の桁数)という一つの物差しに載せ直し、① \(\mathrm{D_2}\) の 1 点較正でミューオン分子まで 73 桁 を再現できることを確かめ、② 実験上限に対応する \(U_e\) を 194 eV と数え、③ コヒーレンス機構に必要な \(N\) を \(10^{52}\) と数えて地球の重水素全量でも 9 桁 不足することを示したことです。模型の限界:05・06 節の融合速度は \(\lambda=A_{dd}|\psi(0)|^2\)、\(|\psi(0)|^2\approx e^{-G}/V\) という粗い見積もりで、絶対値には数倍の不定性があります(\(\mathrm{D_2}\) の 1 点で較正)。桁数の議論はこの不定性に影響されませんが、「194 eV」のような境目の値は模型依存です。06 節 (B) の閾値 85 は \(\lambda>10^6\,\mathrm{s^{-1}}\) という便宜的な基準での値で、基準を変えれば動きます。03 節の \(\alpha\) 崩壊は試行頻度を \(v/2r_n\)、核半径を \(1.2(A^{1/3}+4^{1/3})\) fm とした粗い見積もりです。本稿も 合成・解析のみで、実測データには当てていません(すべて文献値と解析式からの計算です)。主な参照:Bosch & Hale, Nucl. Fusion 32, 611 (1992)/NRL Plasma Formulary/Kasagi et al., Eur. Phys. J. A (2002)/Raiola et al. (2002)/Koonin & Nauenberg, Nature 339, 690 (1989)/Jones et al., Nature 338, 737 (1989)/CODATA 2018。 ── 印刷する場合はブラウザの「印刷」から「PDF に保存」を。

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