考える波 第 61 回 / 第 XIX 部・締め
四つの道すじが、同じ一つの数に乗る
\(\alpha\) は何回 顔を出したか ──
そして \(-1/12\) は、切り方に依らなかった
第 56〜60 回の数字 9 件 を計算しなおし(全件 一致)、そのうえで \(\text{dB/oct}=6\alpha\) を独立な 4 つの道すじで同時に測りました ── 微分・分数階の微分・窓の切り口・トレンドの引き算。
★★★ そして第 45 回が脚注に残した宿題を閉じました ── \(-1/12\) は 5 種類の切断で同じ値。発散項の係数は 0.443〜1.832 とばらばらなのに、定数項は動きません。
★★ そこが第 60 回の「走る分散」との分かれ目でした。
第 XIX 部は「第 XVIII 部の道具を持って物理へ戻る」として始まりました。★ 締めくくりに、出した数字を全部もう一度 計算し、背骨が何本 通っていたかを数えます。
01第 56〜60 回の数字を、もう一度 計算する
| 項目 | 今回の計算 | 公開した値 | 判定 |
|---|---|---|---|
| 第 56 回 傾き | 0.9915 | 0.9916 | OK |
| 第 56 回 切片 | −2.1690 | −2.1708 | OK |
| 第 57 回 端の代金[桁] | 2.2098 | 2.2098 | OK |
| 第 57 回 傾き(\(\gamma{=}0.6\)) | 2.3810 | 2.3810 | OK |
| 第 58 回 矩形窓 dB/oct | −5.9337 | −5.9340 | OK |
| 第 58 回 ハン窓 dB/oct | −17.8760 | −17.8760 | OK |
| 第 60 回 \(q{=}0\) dB/oct | 6.0141 | 6.0140 | OK |
| 第 60 回 \(q{=}2\) dB/oct | 18.0572 | 18.0570 | OK |
★ 全 9 件 一致。ただし「合っていても直すべき数字」が 1 件 見つかりました。
| 第 56 回 切片の出し方 | 値 |
|---|---|
| \(T=3,4,6,8,10,12\)(第 56 回が使った) | −2.1690 |
| \(T=4,6,8,10,12\)(\(T{=}3\) を外す) | −2.2395 |
| 第 57 回が導いた解析値 | −2.2098 |
01節の中心 ── また やっていた
★★ \(T=3\) は失う 2.2 桁 とほぼ同じ大きさで、まだ漸近形に入っていません。それを当てはめに入れたぶん、切片が浅く(−2.17)出ていました。外すと −2.24、解析値 −2.2098 はその間です。
★★★ つまり第 56 回の「−2.1708」は 4 桁 書きすぎでした ── 当てはめる \(T\) の範囲で ±0.04 動きます。正しくは「−2.2 程度」。
★★★ 第 55 回で「0.0812 は 2 桁 しか根拠が無い」と書いた、その 1 回あとで、また同じことをやっていました。手引きに書いても、やる。
02★★★ \(\text{dB/oct}=6\alpha\) を、独立な 4 つの道すじで測る
| 道すじ | \(\alpha\) | 実測 dB/oct | 予言 \(6\alpha\) | 差 | 出典 |
|---|---|---|---|---|---|
| ① 差分 1 回 | 1 | 6.016 | 6.021 | −0.005 | 第 1 回 |
| ① 差分 3 回 | 3 | 18.048 | 18.062 | −0.014 | 第 1 回 |
| ② 分数階 0.5 階 | 0.5 | 3.010 | 3.010 | −0.000 | 第 13・41 回 |
| ② 分数階 2.5 階 | 2.5 | 15.051 | 15.052 | −0.000 | 第 13・41 回 |
| ③ \(\cos^0\) 窓の裾 | 1 | 5.934 | 6.021 | −0.087 | 第 58 回 |
| ③ \(\cos^4\) 窓の裾 | 5 | 29.873 | 30.103 | −0.230 | 第 58 回 |
| ④ トレンド除去 \(q{=}0\) | 1 | 6.014 | 6.021 | −0.006 | 第 60 回 |
| ④ トレンド除去 \(q{=}3\) | 4 | 24.078 | 24.082 | −0.004 | 第 60 回 |
02節の中心
まったく別の 4 つの操作が、同じ \(6\alpha\) に乗る。
★★★ 微分(第 1 回)、分数階の微分(第 13・41 回)、窓の切り口(第 58 回)、トレンドの引き算(第 60 回)。入口はまったく違うのに、出口が同じです。
★★ しかも \(\alpha\) は整数である必要がありません(②の 0.5 階・2.5 階)。第 41〜42 回で「階数は整数を離れる」と書いたことが、ここでも効いています。
★ ③ の窓だけ差が大きい(−0.09〜−0.23)のは、サイドローブの包絡を拾う測り方が粗いためで、原理の問題ではありません。
★ 第 1 回の「音を微分すると高音になる」という一行から、ここまで来ました。
03★★★ 第 45 回の宿題を閉じる ── \(1+2+3+\cdots=-1/12\)
第 45 回はカシミール効果を扱い、指数的な切断で \(\sum n\,e^{-\delta n}=1/\delta^2-1/12+O(\delta^2)\) を出しました。そして脚注にこう書きました ── 「正則化の取り方に依らないことは本稿では確かめていません」。確かめます。
| 切断 \(f\) | \(A\) | \(\delta{=}0.02\) | \(\delta{=}0.01\) | \(\delta{=}0.005\) |
|---|---|---|---|---|
| \(e^{-x}\)(第 45 回) | 1.000000 | −0.083332 | −0.083333 | −0.083333 |
| \(e^{-x^2}\)(ガウス) | 0.500000 | −0.083337 | −0.083334 | −0.083334 |
| \(e^{-x^4}\) | 0.443113 | −0.083333 | −0.083333 | −0.083333 |
| \(\mathrm{sech}\,x\) | 1.831931 | −0.083335 | −0.083334 | −0.083335 |
| \(1/(1+x^2)^2\) | 0.500000 | −0.083340 | −0.083335 | −0.083334 |
03節の中心
★★★ 発散項の係数 \(A\) は 0.443 から 1.832 までばらばら。それなのに定数項はどれも \(-0.083333\)(\(-1/12\) からのずれ 最大 6.7e−6)。
★★ これで第 45 回の脚注を閉じられます。
★ そして言い方も正しておきます:\(-1/12\) は \(1+2+3+\cdots\) の「値」ではありません。\(1+2+3+\cdots\) は発散します。\(-1/12\) は「発散項を引いたあとに残るもの」です。★★★ 要点は、引くべき発散項が切り方に依存し、残りが依存しないこと。
★ 途中で二度つまずいたので、記録しておきます。
| つまずき | 症状 | 原因 |
|---|---|---|
| ① \(A\) を数値積分で出した | \(1/(1{+}x^2)^2\) が \(-0.25\) | \(A\) の誤差 4e−6 が \(1/\delta^2=4\times10^4\) 倍 に |
| ② 解析値 \(A\) に直した | まだ \(-0.0846\) | 和の打ち切りと \(A\) の積分範囲が不一致 |
★★★ どちらも「発散項を引く計算では、引く側の精度が \(1/\delta^2\) 倍 に効く」という同じ一つのこと。カシミールの計算が繊細なのは、これが理由です。
04★★ そこが、第 60 回の「走る分散」との分かれ目
| カシミール(第 45 回) | \(1/f^\beta\) の分散(第 60 回) | |
|---|---|---|
| 発散する項 | \(A/\delta^2\)(切り方に依存) | \(N^{\beta-1}\)(記録長に依存) |
| 有限な残り | \(-1/12\)(切り方に依らない) | 無い |
| 差を取ると | 消える(壁の有無で引ける) | 消えない |
| 結果 | 物理量が決まる | 記録長を言うしかない |
04節の中心
「走る量」に意味を持たせられるかどうかは、
切り方に依らない有限部分が残るかどうかで決まる。
★★ 第 60 回の練習問題 2 で「構造は同じだが、繰り込みはできない」と書いたのは、この違いのことでした ── いま数字で示せました。
★ 第 29 回の繰り込み、第 45 回のカシミール、第 60 回の走る分散 ── 三つとも「どこで切ったか」に依存する量ですが、切り方に依らない残りがあるのは前二つだけです。
05手引きは 7 → 10 → 14 手順に
| 手順 | 出どころ | 内容 |
|---|---|---|
| ①〜⑦ | 第 49 回 | 実測する/片対数で見る/傾きを測る 等 |
| ⑧〜⑩ | 第 55 回 | 誤差を分ける/範囲を買う/仮定を数える |
| ★⑪ | 第 59・60 回 | 周期図の前に 1〜2 次のトレンドを引く |
| ★⑫ | 第 60 回 | 二つの条件を別々に確かめる(\(\beta\le2q+3\) と \(\beta<2\alpha\)) |
| ★⑬ | 第 59 回 | 誤差の「大きさ」より先に「形」を測る(被覆率) |
| ★⑭ | 第 60 回 | 分散を書くときは、記録の長さも書く |
★ ⑪〜⑭ はどれも「切り方を宣言する」ことに帰着します。第 XIX 部で分かったのは、測定の限界がほとんど「どこで切ったか」で決まるということでした。
06まだ やっていないこと
| 項目 | 状況 |
|---|---|
| ★★★ 実データに当てる | 第 56〜60 回 すべて 合成データのみ |
| (済)\(-1/12\) の正則化非依存 | 第 45 回の脚注 → 本回 03 節で閉じた |
| \(D(E)\) の独立な測定 | 第 56 回の決着手。文献にあたっていない |
| 温度を変えた \(1/f\) の測定 | 第 56 回の提案。未検証 |
| 短い記録を多数集める手 | 第 60 回 練習問題 3。独立性が怪しい |
| 非ガウス過程での被覆率 | 第 59 回はガウス合成のみ |
| 窓の族を変えた場合 | 第 59 回は \(\cos^p\) のみ |
★★★ いちばん大きいのは一つ目です ── 本シリーズは、まだ一度も実測データに触れていません。そう書いておくことが、第 55 回の手引きの ⑩ にあたります。
練習問題
- 02 節で四つの道すじが同じ \(6\alpha\) に乗った。これは「深い」のか。
答えを見る
深くはありません ── 四つとも、根は一つのフーリエ変換だからです。
★ 微分は \(\times(i\omega)\)、分数階は \(\times(i\omega)^\alpha\)、窓の裾も トレンド除去の利得も、\(\omega\to0\) または \(\omega\to\infty\) での \(\omega^\alpha\) の振る舞い。どれも「フーリエ空間でべきを掛ける」に帰着します。
★★ それでも並べる価値はあります:並べてはじめて「この四つは同じものだ」と分かり、一方で得た結果を他方に移せるから。★ 実際、第 60 回の \(\beta\le2q+3\) は、第 58 回の窓の議論をトレンド除去に移して得たものでした。
★★★ 第 55 回の言い方では ── 類似は主張ではありません。「同じ \(6\alpha\) に乗る」は事実ですが、それ自体は新しい物理ではなく、道具の整理です。そう書くべきです。 - 03 節で \(-1/12\) が切り方に依らないと確かめた。では、なぜそう言えるのか。
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メリン変換で見ると、\(-1/12\) は \(\zeta(-1)\) の留数として出てくるからです。
★ \(\sum n f(\delta n)\) をメリン変換で書くと \(\frac{1}{2\pi i}\int\delta^{-s}\zeta(s-1)F(s)\,ds\)(\(F\) は \(f\) のメリン変換)。\(s=2\) の極が \(A/\delta^2\) を、\(s=0\) の極が定数項を与えます。
★★ \(s=0\) での留数は \(\zeta(-1)f(0)\) ── \(f(0)=1\) と規格化する限り、\(f\) の形にはまったく依りません。★ 依るのは \(A=F(2)\) のほうだけで、それが表の 0.443〜1.832 です。
★★★ 本稿が数値でしたのは、この解析の確認です ── 本稿は 5 種類でしか試しておらず、「すべての切断で」を示したわけではありません。示したのは「試した 5 種類では同じだった」までです。 - 01 節でまた桁を書きすぎていた。手引きに書いたのに、なぜ 防げなかったのか。
答えを見る
手引きの ⑩ が「仮定を数えろ」であって、「当てはめ範囲を振ってみろ」ではなかったからです。
★ 第 56 回の切片は、模型を仮定した値ではありません ── 純粋に計算した値です。だから「仮定を数える」を通ってしまう。
★★ 効いたのは、第 59 回で作った手続き ── 条件を振って、動くかどうかを見る。今回は \(T\) の範囲を振って ±0.04 を見つけました。
★★★ つまり ⑩ に足すべきは「条件を振って、動く幅を測る」。第 59 回の手続きは \(\beta\) の測定のために作りましたが、どんな数字にも使えるということです。★ 手引きに書いても やる、と 01 節に書きました。書くだけでは防げず、振ってみてはじめて分かる ── それが本回の実地の教訓です。
まとめ 第 XIX 部を閉じる
★ 第 56〜60 回の数字 9 件 を再計算し、全件 一致しました。ただし第 56 回の切片 −2.1708 は書きすぎで、\(T\) の範囲で ±0.04 動きます ── 正しくは「−2.2 程度」。第 55 回で同じ注意を書いた 1 回あとで、また やっていました。
★★★ \(\text{dB/oct}=6\alpha\) が、独立な 4 つの道すじで同じ値を返した ──
微分・分数階の微分・窓の切り口・トレンドの引き算。
★ しかも \(\alpha\) は整数である必要がありません(0.5 階で 3.010、予言 3.010)。★★ ただし四つは根が一つのフーリエ変換なので、これは新しい物理ではなく道具の整理です(練習問題 1)。
★★★ そして第 45 回の宿題を閉じました ── \(-1/12\) は 5 種類の切断で同じ値(ずれ 最大 6.7e−6)。発散項の係数 \(A\) は 0.443〜1.832 とばらばらなのに、定数項は動きません。★ \(-1/12\) は \(1+2+3+\cdots\) の「値」ではなく、「発散項を引いたあとに残るもの」です。
★★ そこが第 60 回の「走る分散」との分かれ目でした ── カシミールには切り方に依らない有限部分が残り、\(1/f^\beta\) の分散には残らない。だから前者は物理量が決まり、後者は記録長を言うしかない。「走る量」に意味を持たせられるかどうかは、切り方に依らない残りがあるかどうかで決まります。
★ 手引きは 7 → 10 → 14 手順になりました。⑪ トレンドを引く、⑫ 二つの条件を別々に確かめる、⑬ 誤差の形を先に測る、⑭ 分散には記録長を添える ── どれも「切り方の宣言」です。
★★★ 残る最大の宿題は変わりません ── 本シリーズは、まだ一度も実測データに触れていません。
★ 戻ってみて分かったのは、測定の限界がほとんど「どこで切ったか」で決まるということ ── 端(第 57 回)、窓(第 58 回)、記録の長さ(第 60 回)、そして発散の切断(第 45・61 回)。
★★ 第 1 回の一行「音を微分すると高音になる」から数えて、\(6\alpha\) は 4 本 の道すじで確かめられました。★ 次に進むとすれば、宿題の一つ目 ── 実測データです。
この文書は「考える波」シリーズ第 61 回、第 XIX 部の締めです。計算は kenshou/shime.js で行っています(FFT は自前、依存ライブラリ 0)。本回の数値について:第 56〜60 回の回帰試験、四つの道すじの \(6\alpha\)、5 種類の切断による \(-1/12\) の確認は、すべて本稿で計算したものです。ゼータ関数正則化と \(\zeta(-1)=-1/12\)、その正則化非依存性、分数階微分のフーリエ表現 ── これらはいずれもよく知られた結果で本稿の発見ではありません ── 本稿がしたのは、第 45 回が脚注で「確かめていない」と書いた点を 5 種類の切断で数値的に確かめ、第 56 回の切片が書きすぎだったことを見つけ、四つの操作が同じ \(6\alpha\) に乗ることを一つの表にまとめたことです。03 節は 5 種類の切断で試しただけで、「すべての切断で」を示したものではありません(解析的な理由は練習問題 2 に示しましたが、それも本稿の計算ではなく既知の議論です)。02 節 ③ の窓の差が大きいのは、サイドローブ包絡の測り方が粗いためです。本稿も、そして第 XIX 部のすべての回も、合成データのみで、実際の測定データには当てていません。 ── 印刷する場合はブラウザの「印刷」から「PDF に保存」を。