考える波 第 55 回 / 第 XVIII 部・誤差棒をつける
第 XVIII 部を締める ── 手引きの改訂と、自分の数字の洗い直し
手引きの改訂版と、「仮定つき」の洗い直し ──
桁を書きすぎていた
第 51〜54 回で分かったことを手引きに入れ、本シリーズが出した数字が何にどれだけ依るかを感度で測ります。
★ 手引きは 7 手順 → 10 手順に。⑧ 誤差を二つに分ける、⑨ 範囲を買う、⑩ 仮定を数える。
★★ そして正直な結論 ── 第 42 回の 0.0812 も第 47 回の \(-0.1053\) も、有効数字は 2 桁 でした。これまで桁を書きすぎていました。
第 51 回から 4 回、「どこまで言えるか」を数えてきました。
★ この回は、その成果を手引きに畳み、自分の出した数字に感度をつけます。
01手引きの改訂版(第 49 回 → 第 55 回)
| ステップ | 出どころ | 第 51〜55 回での追記 |
|---|---|---|
| ① 対数対数で描く | 第 1 回 | |
| ② 局所的な階数を測る | 第 48 回 | ★ 隣との差ではなく、窓での当てはめ(第 51 回) |
| ③ 何桁 一定か数える | 第 27・48 回 | ★ 報告できる上限は \(D-w\)(第 51 回) |
| ④ 曲がっている所を探す | 第 16 回 | ★ 窓は慣性領域の真ん中に(第 51 回) |
| ⑤ 位相も測る | 第 1・8 回 | 位相 \(=90\alpha\) 度 か |
| ⑥ モーメントを変える | 第 42 回 | ★ 先に \(q^*\) を測る(第 52 回) |
| ⑦ 系の大きさと比べる | 第 5・48 回 | |
| ★ ⑧ 誤差を二つに分ける | ★ 第 51 回 | ★ 統計 \(5.57/\sqrt K\) dB と 系統 |
| ★ ⑨ 範囲が足りないなら買う | ★ 第 54 回 | ★ 貼り合わせ/別の観測量/系を変える |
| ★ ⑩ 仮定を数える | ★ 本回 | ★ 出した数字ごとに感度を書く |
02★ 本シリーズの数字を、四つに分類する
| 回 | 数字 | 種別 | 注 |
|---|---|---|---|
| 第 1 回 | \(\text{dB/oct}=6\alpha\) | D 既存の式の翻訳 | 定義に近い恒等式 |
| 第 30 回 | \(\alpha=(d-3)/2\) | A 本稿の数値計算 | 自由場のグリーン関数 |
| 第 33 回 | 小出の \(K=0.666661\) | B 文献値 | ★ 質量は文献値 |
| 第 38 回 | \(d_s=1+3/z\) | ★ C 模型を仮定した値 | 時間方向は修正しないという模型 |
| 第 39 回 | \(\alpha=2\nu\) | ★ C 模型を仮定した値 | AdS/CFT 対応を仮定 |
| 第 42 回 | K41 との差 0.0812 dB/oct | ★ C 模型を仮定した値 | p 模型で \(p=0.7\) と置いた |
| 第 47 回 | \(n_s\to-0.1053\) dB/oct | B 文献値 | ★ \(n_s\) は観測値 |
| 第 51 回 | 周期図 1 本 5.57 dB | A 本稿の数値計算 | ★ 仮定がいちばん少ない |
| 第 52 回 | \(q^*\approx4\)(100 万箱) | ★ C 模型を仮定した値 | 判定基準 0.1 に依る |
02節の中心
16 件 を分類すると ── A(本稿の計算)6 件、B(文献値)3 件、C(模型を仮定)5 件、D(翻訳)2 件。
★★ 「模型を仮定した値」が 5 件 ── いちばん注意が要る分類です。
★ 本回は、その 5 件に感度をつけます。
03★★ 感度 ── 仮定を動かすと、数字はどれだけ動くか
(a) 第 42 回の 0.0812 dB/oct は、p 模型の \(p\) にどれだけ依るか
| \(p\) | \(\zeta_6\) | ★ dB/oct の差 | 文献値 1.78 との差 |
|---|---|---|---|
| 0.60 | 1.943416 | 0.019483 | +0.163 |
| 0.65 | 1.875672 | 0.044566 | +0.096 |
| 0.70 | 1.785875 | ★ 0.081164 | +0.006 |
| 0.75 | 1.678072 | 0.131091 | −0.102 |
| 0.80 | 1.556393 | 0.197324 | −0.224 |
03節 (a) ── ★★★ 本回の要
★ \(\zeta_6\) を文献値 1.78 に合わせると \(p\approx0.70\)、そのとき 0.0812。
★★ \(p\) を 0.65〜0.75 に振ると、0.0812 は 0.0446 〜 0.1311 に動きます。
★★★ つまり 0.0812 の有効数字は 2 桁 まで ── 「0.08 dB/oct 級」と書くべきでした。第 42・47・50・53 回で「0.0812」と 4 桁 書いてきたのは、書きすぎです。
(b) 第 47 回の \(-0.1053\) dB/oct は、観測の誤差でどれだけ動くか
| \(n_s\) | \(3(n_s-1)\)[dB/oct] |
|---|---|
| 0.9607 | −0.117900 |
| 0.9649 | −0.105300 |
| 0.9691 | −0.092700 |
★ \(-0.1053\pm0.0126\) ── やはり有効数字は 2 桁。「\(-0.11\) dB/oct 級」。
(c) 第 46 回の「1.5 ms」は、帯域の定義にどれだけ依るか
| 帯域の取り方 | \(e\) 倍の回数 | ★ 時間[ms] |
|---|---|---|
| 可視光 → 宇宙年齢の逆数 | 74.5 | 1.467 |
| 電波 → 宇宙年齢の逆数 | 61.3 | 1.209 |
| 可視光 → 1 mHz | 40.8 | 0.803 |
| 可視光 → 1 Hz | 33.8 | 0.667 |
03節 (c) ── ★ 対数の良い面
★★ 帯域の下端を 1 Hz に取っても 0.67 ms、宇宙年齢に取っても 1.47 ms ── 2 倍 しか動きません。
★★★ 対数だから、定義への感度が低いのです。
★ 第 53 回の「範囲は \(\log N\)」は悪い知らせでしたが、これは同じ性質の良い面 ── 対数は「増やしにくい」代わりに「定義で揺れにくい」。
(d) 第 51 回の最良誤差は、1 桁あたりの本数 \(n\) にどれだけ依るか
| 慣性領域 \(R\) | \(n=30\) | \(n=100\) | \(n=300\) | \(n=1000\) |
|---|---|---|---|---|
| 3 桁 | 0.2502 | 0.1793 | 0.1531 | ★ 0.1393 |
| 4 桁 | 0.1613 | 0.1155 | 0.0944 | 0.0730 |
| 6 桁 | 0.0853 | 0.0587 | 0.0410 | 0.0277 |
★ \(n\) を 30 倍 にしても、最良誤差は半分以下になりません(系統が残るから)── \(R=3\) 桁 では 0.13 dB/oct あたりで頭打ち。
04★★ 具体例 ── 小出の \(K\) は実験誤差の内か
| 量 | 値 |
|---|---|
| \(K\)(中心値) | 0.666660511 |
| \(2/3\) | 0.666666667 |
| ★ 差 | \(-6.155\times10^{-6}\) |
| ★ \(m_\tau\) の誤差 \(\pm0.12\) MeV から | \(\pm6.775\times10^{-6}\) |
| ★ 差 ÷ 誤差 | ★ 0.909 |
04節の中心
★★★ 差は誤差の 0.9 倍 ── つまり現在の測定では、\(K\) と \(2/3\) の区別がつきません。
★ 第 33 回は「\(K=2/3\iff A=\sqrt2\)」と書きましたが、「\(2/3\) ちょうど」かどうかは、この比較で判断すべきでした。
★★ そして \(m_\tau\) の誤差が縮めば、この判定は変わり得ます。いま効いているのは \(m_\tau\) の誤差だけで、\(m_e\)(相対 \(3\times10^{-10}\))と \(m_\mu\)(\(2\times10^{-8}\))は効きません。
★ つまり「小出の式が厳密か」は、\(\tau\) の質量測定が決める ── これは測れる問いです。
05確からしさの五段階
| 段 | 性質 | 例 |
|---|---|---|
| ① 恒等式・定義 | 動かない | \(\text{dB/oct}=6\alpha\)(第 1 回) |
| ② 本稿の数値計算 | 再現できる | ★ 周期図 5.57 dB(第 51 回) |
| ③ 文献値を使った計算 | 文献に依る | \(n_s\)(第 47 回)、レプトン質量(第 33 回) |
| ★ ④ 模型を仮定した値 | ★ 仮定に依る | ★ p 模型の 0.0812(第 42 回) |
| ★ ⑤ 対応を仮定した翻訳 | ★ 前提ごと仮定 | ★ AdS/CFT(第 39 回) |
05節の中心
★★ 本シリーズは ①〜③ を「◎」、④ を「△ 仮定つき」、⑤ を「翻訳」と書き分けてきました(第 43・50 回の方針)。
★★★ 本回で足したのは、④ と ⑤ に感度の数字をつけたことです。「仮定つき」と書くだけでは足りず、「どの仮定を どれだけ動かすと 答えがどれだけ動くか」まで書く。
06波として言えること・言えないこと
| 項目 | 判定 | 根拠 |
|---|---|---|
| 手引きが 7 → 10 手順に | ◎ 整理 | ⑧誤差の二分・⑨範囲を買う・⑩仮定を数える |
| 数字を四つに分類 | ◎ 整理 | ★ 模型を仮定した値が 5 件 |
| ★ 第 42 回 0.0812 の感度 | ◎ 数値 | ★ \(p=0.65\)〜0.75 で 0.04〜0.13 |
| 第 47 回 \(-0.1053\) の感度 | ◎ 数値 | ±0.0126 |
| ★ 第 46 回 1.5 ms の感度 | ◎ 数値 | ★ 定義を変えても 2 倍 以内 |
| ★ 小出の \(K\) と実験誤差 | ◎ 数値 | ★ 差 ÷ 誤差 = 0.909 |
| ★ 実データでの検証 | × 未着手 | ★ 第 XVIII 部 全体で 合成データのみ |
練習問題
- 03 節 (a) で「0.0812 は有効数字 2 桁」と分かった。では第 42 回の結論は変わるか。
答えを見る
結論は変わりませんが、書き方は変わります。第 42 回の主張は「間欠性は dB/oct をほとんど動かさない ── だからパワースペクトルでは見えない」で、それは 0.04 でも 0.13 でも成り立ちます。
★ 変わるのは「0.081」と 3 桁 書いたことです ── 正しくは「0.1 dB/oct 級」。
★★ そして第 47 回との比較(「宇宙も乱流も 0.1 dB/oct 級」)は、むしろ この書き方のほうが正確です ── どちらも 1 桁 の精度でしか言えないのだから。
★ 本シリーズが「同じ桁」と書いたのは結果的に正しく、「0.0812 対 0.1053」と並べたのが 精度を偽っていました。 - 03 節 (c) で「対数だから定義への感度が低い」と出た。これは第 53 回と矛盾しないか。
答えを見る
矛盾しません ── 同じ性質の 表と裏です。対数は入力を大きく変えても出力が少ししか動きません。
★ 第 53 回ではそれが悪い知らせでした(データを \(10^6\) 倍 にしても範囲は 3 倍)。
★★ ここでは良い知らせです(帯域の定義を \(10^{18}\) 倍 変えても答えは 2 倍)。
★★★ 「増やしにくい」と「揺れにくい」は同じことでした。だから「\(e\) 倍の回数」で語る量は、定義の細部を詰めなくても議論できます ── 第 46・47 回で 60〜75 回 という幅で足りたのは、そのおかげです。 - 04 節で小出の \(K\) が「区別がつかない」と出た。ではこの式は正しいのか。
答えを見る
「正しいと言えない」し「間違っているとも言えない」── それが現状です。差 ÷ 誤差 = 0.909 は、ずれが偶然の範囲内という意味しかありません。
★ 大事なのは、これが測れる問いだということです ── \(m_\tau\) の誤差が 10 分の 1 になれば、差 ÷ 誤差 は 9 になり、決着します。
★★ 第 15 回で「反証可能だと宣言した以上、反証を探す」と決めました。小出の式はまさにその形をしており、\(\tau\) の質量測定が進めば自動的に判定されます。
★ 逆に、第 33 回で本稿が出した「\(K=2/3\iff\) AC の実効値 \(=\) DC」という読み方は、式が正しいかどうかとは独立です ── それは翻訳であって、主張ではありません。
まとめ 桁を書きすぎていた
第 51〜54 回の成果を手引きに畳み、7 手順 → 10 手順にしました ── ⑧ 誤差を統計と系統に分ける、⑨ 範囲が足りないなら買う、⑩ 仮定を数える。
本シリーズの数字 16 件 を分類すると ── 本稿の計算 6 件、文献値 3 件、模型を仮定した値 5 件、翻訳 2 件。いちばん注意が要る「模型を仮定した値」5 件 に、感度をつけました。
★★★ 本回の要 ──
第 42 回の 0.0812 は、\(p\) を 0.65〜0.75 に振ると 0.0446 〜 0.1311 に動く。
第 47 回の \(-0.1053\) は、観測の誤差から \(\pm0.0126\)。
どちらも有効数字は 2 桁 でした。
★ 本シリーズはこれまで「0.0812」「\(-0.1053\)」と 4 桁 書いてきました ── 書きすぎです。正しくは「0.1 dB/oct 級」。★ ただし第 42・47 回の結論(間欠性は見えにくい、宇宙も乱流も同じ桁)は、この精度でも成り立ちます。
★ 対数の良い面も出ました ── 第 46 回の「1.5 ms」は、帯域の下端を \(10^{18}\) 倍 変えても 2 倍 しか動きません。第 53 回の「増やしにくい」と、この「揺れにくい」は同じ性質の表と裏です。
★★ 具体例として、小出の \(K\) ── \(2/3\) との差は \(-6.16\times10^{-6}\)、\(m_\tau\) の誤差から来る不確かさは \(\pm6.78\times10^{-6}\)。差 ÷ 誤差 = 0.909 で、現在の測定では区別がつきません。★ 大事なのは、これが測れる問いだということ ── \(\tau\) の質量測定が進めば自動的に決着します。
★ 正直に:第 XVIII 部(第 51〜55 回)は全編 合成データのみで、実際の測定データには一度も当てていません。
★ 次回からは、その道具を持って もう一度 物理へ戻ります ── 第 XIX 部。
★★ まず戻るのは、いちばん「桁」が長い所です ── 第 2 回の \(1/f\)。あれは本当に何桁 続いているのか、そしてどこで終わるのか。★ 第 27 回で立てた「\(\beta\) を決める比」を、第 51〜55 回の道具で 測り直します。
この文書は「考える波」シリーズ第 55 回です。計算は kenshou/kaitei.js で行っています。本回の数値について:感度の計算(p 模型の \(p\)、\(n_s\) の観測誤差、帯域の定義、1 桁あたりの本数)、および小出の \(K\) と実験誤差の比較は、すべて本稿で計算したものです。レプトン質量とその不確かさ、\(n_s=0.9649\pm0.0042\)、乱流の \(\zeta_6\approx1.78\) は文献値です。04 節の誤差伝播は \(m_\tau\) の不確かさのみを考慮しており、\(m_e\)・\(m_\mu\) の不確かさは相対精度が \(10^{-8}\) 以下で効きません。ただし用いた \(m_\tau=1776.86\pm0.12\) MeV は代表的な文献値で、採用する値によって「差 ÷ 誤差」は変わります ── 本稿の結論(現在の測定では区別がつかない)も、その範囲での話です。03 節 (a) の感度は「\(p\) 模型で \(\zeta_6\) を文献値に合わせる」という一つの合わせ方に基づくもので、別の模型(対数正規、She–Lévêque など)では感度も変わります。02 節の分類は本稿の自己評価であり、第三者の評価ではありません。第 XVIII 部(第 51〜55 回)は全編 合成データのみで、実際の測定データには当てていません。 ── 印刷する場合はブラウザの「印刷」から「PDF に保存」を。