考える波 第 42 回 / 第 XIII 部・最先端を波として見る

階数が、ひとつの数ですらなくなる

乱流の間欠性 ──
階数は「分布」だった コルモゴロフの \(-5/3\) を本シリーズの言葉に直すと ── 乱流は「5/6 階」の波、dB/oct = 5、位相 75°。1/f(1/2 階)とブラウン運動(1 階)の ちょうど 間です。
★★ ところが実測は そこから系統的にずれます。ずれの正体は ── 階数が一つの数ではなく、幅 1.222 の分布になっていること。
★ そして平均だけは動きません ── \(\zeta_3=1\) はどんな間欠性があっても厳密に 1。

必要な道具:第 1, 2, 13, 14, 22, 30, 39 回計算:kenshou/ranryu.js

第 14 回で「階数が整数から外れる理由は三つ」と整理し、第 39 回で四つめ(バルクの質量)を足しました。
★ この回で五つめが出ます ── いちばん厄介なもの、「階数が一つに決まらない」

01\(-5/3\) を、階数として読む

使えるのは \(\varepsilon\)(単位質量あたりの散逸率)と \(k\) だけ $$E(k)\ [\mathrm{m^3/s^2}]=\varepsilon^a k^b\ \Longrightarrow\ \text{長さ}:2a-b=3,\ \ \text{時間}:-3a=-2\ \Longrightarrow\ a=\tfrac23,\ b=-\tfrac53$$
本シリーズの言葉
パワーの傾き \(\beta\)1.666667\(E(k)\propto k^{-\beta}\)
★ 階数 \(\alpha=\beta/2\)0.833333★ 振幅が \(k^{-\alpha}\)
dB/oct \(=6\alpha\)5.000000第 1 回
位相 \(=90\alpha\)[度]75.000000第 1 回
★ ハースト \(H=\alpha-1/2\)0.333333★ ちょうど \(1/3\)

01節の中心

乱流は「5/6 階」の波。
1/f(1/2 階、第 2 回)とブラウン運動(1 階)の ちょうど 間。

★ そして \(H=1/3\) は、K41 の \(\zeta_p=p/3\) の \(p=1\) そのものです ── 「階数」「dB/oct」「ハースト指数」「構造関数の指数」が、全部ひとつの数の言い換えだということ。
★★ ただしそれは「階数がひとつなら」の話です。

02階数がひとつなら、どの指数も一致する

\(f^{-\beta}\) の雑音を合成して、構造関数 \(S_p(r)=\langle|\delta u|^p\rangle\propto r^{\zeta_p}\) の指数を \(p\) ごとに測ります。単一の階数なら \(\zeta_p/p\) は \(p\) によらないはず。

\(\beta\)\(H=(\beta-1)/2\)\(\zeta_1\)\(\zeta_2/2\)\(\zeta_4/4\)\(\zeta_6/6\)
1.20.1000000.159060.159320.159280.15833
5/30.3333330.346390.346970.347320.34747
2.00.5000000.502600.502690.502770.50352
2.50.7500000.751380.749980.747980.74887

02節の中心

\(\zeta_p/p\) が \(p\) によらず一定 ── これが「階数がひとつ」ということです(単一フラクタル)。
★ \(\beta=1.2\) の行だけ 0.100 でなく 0.159 とずれています ── \(H<0.2\) では有限の刻み幅の影響が残るためで、本稿の合成法の限界です。他の三行は 0.3 % 以内。

03ところが実際の乱流は、掛け算で散逸を分ける

エネルギーは大きな渦から小さな渦へ渡されますが、均等には分かれません。各段で \(p\) と \(1-p\) に分ける模型(p 模型)で、測度の \(q\) 次モーメント \(Z(q,r)=\sum\mu_i^q\propto r^{\tau(q)}\) を測ります。

\(q\)\(\tau\)(実測)\(\tau\)(厳密 \(-\log_2(p^q+(1-p)^q)\))もし単一なら \(q-1\)
0−1.000000−1.0000000−1.000
1−0.0000000.0000001.7e−140.000
20.7858750.7858752.4e−141.000
42.0104252.0104254.4e−143.000
52.5521562.5521563.2e−144.000

03節の中心

実測は厳密解と \(10^{-14}\) で一致(\(p=0.7\)、18 段 = 262144 箱)。
そして \(\tau(q)\) は \(q\) の一次式ではありません ── \(q=4\) で 2.010 に対し、単一なら 3.000。この「曲がり」が間欠性そのもの。
★★ \(p=0.5\)(均等に分ける)なら \(\tau(q)=q-1\) の直線に戻ります(数値でも 0, 1.000000, 3.000000 と確認)。曲がりは「不均等に分けること」から来ている。

04★★ ルジャンドル変換すると、分布が見える

\(q\) はどの強さの領域を拾うかを選ぶつまみ $$\alpha(q)=\frac{d\tau}{dq}\quad(\text{その }q\text{ が拾う局所的な指数}),\qquad f(\alpha)=q\alpha-\tau(q)\quad(\text{その指数を持つ点の次元})$$
\(q\)\(\alpha\)(局所指数)\(f(\alpha)\)意味
−41.6970730.207439弱い領域を拾う
01.1257691.000000★ \(f=1\)=台の次元
10.8812910.881291★ ここが「代表値」
40.5544660.207439強い領域を拾う
80.5159630.012758いちばん強い所

04節の中心 ── ★★★ 本回の要

\(\alpha\) は 0.514573 から 1.736966 まで動く(幅 1.222392)。
一つの数ではなく、幅のある集合。

厳密には \(-\log_2 p=0.514573\) から \(-\log_2(1-p)=1.736966\) まで ── 幅は \(\log_2\frac{1-p}{p}\)。
\(p=0.5\) なら幅はゼロ(\(\alpha=1\) の一点)。不均等さが、そのまま分布の幅になります。
★★ 本シリーズの言葉では ── 場所ごとに違う階数を持つ波。第 22 回のウェーブレットで局所的に測れば、測る場所ごとに違う dB/oct が出るということです。

05速度の構造関数へ ── \(p/3\) から曲がる

箱の測度は \(\mu=\varepsilon_r\cdot r\) なので、散逸そのものの指数は \(\tau_\varepsilon(q)=1-q+\tau(q)\) $$\zeta_p=\frac p3+\tau_\varepsilon\!\left(\frac p3\right)\qquad(\text{精緻化された相似仮説})$$
\(p\)K41: \(p/3\)★ p 模型(\(p=0.7\))ずれ文献の実測値
10.3333330.360919+0.0275860.37
20.6666670.693721+0.0270550.70
31.0000001.000000★ 0.0000001.00
41.3333331.282153−0.0511801.28
51.6666671.543081−0.1235861.53
62.0000001.785875−0.2141251.78

05節の中心

★★ つまみ一つ(\(p=0.7\))だけで、\(\zeta_1\) から \(\zeta_6\) までの文献値を 1〜2 % で再現できます。
\(p\) が大きいほど下に曲がる ── 高次のモーメントは「いちばん強い渦」を拾うが、それはまれだから。
第 2 回で「1/f は多数の時定数の重ね合わせ」と見ました。ここは掛け算の重ね合わせです ── 足し算なら中心極限定理でガウス分布に、掛け算なら対数正規に近づく。間欠性は「掛け算だから」起きています。

06★ それでも \(\zeta_3=1\) は動かない

\(p\)★ \(\zeta_3\)\(\zeta_2\)\(\zeta_6\)\(\beta=1+\zeta_2\)dB/oct
0.51.000000000.6666672.0000001.6666675.0000
0.71.000000000.6937211.7858751.6937215.0812
0.81.000000000.7324411.5563931.7324415.1973
0.91.000000000.8013641.2863041.8013645.4041

06節の中心

\(\tau_\varepsilon(1)=1-1+\tau(1)=0\) は \(p\) に依りません(平均散逸は保存される)── だから \(\zeta_3=1\) はどんな \(p\) でも厳密に 1。これが「4/5 の法則」です。
★★★ そして肝心なこと ── \(p=0.7\) でも \(\beta\) は 1.6937、K41 の 1.6667 との差は 0.0271dB/oct にすると 0.081 dB/oct の差しかありません。
だからパワースペクトルだけ見ていると、間欠性はほとんど見えない。「−5/3 はよく合う」と言われるのは、2 次モーメントが たまたま鈍感だからでした。

07本シリーズの言葉に直すと ── 五つめの理由

階数が整数から外れる理由
① 多数の時定数の重ね合わせ第 2 回
② 次元(\(\alpha=(d-3)/2\))第 30 回
③ 臨界点での連続変化第 13 回
④ バルクの質量(\(\alpha=2\nu\))第 39 回
★ ⑤ 階数が一つの数ではない(分布になる)★ 本回
測り方得られる階数第 1 回の量
パワースペクトルの傾き\(\zeta_2\) から一つdB/oct
1 次の構造関数\(\zeta_1\) から一つ
★ 高次モーメント★ \(p\) ごとに違う値★ 一致しない
★ 局所的に測る★ 場所ごとに違う値★ 分布になる

07節の中心

★★★ 「dB/oct を測る」という操作そのものが、どのモーメントで測るかに依ります。
単一フラクタルなら、どれで測っても同じ値が出ます(02 節で確認)。乱流はそうではない。
★★ 第 1 回から続いてきた「階数」という一本の軸は、ここで一本ではなくなります

08波として言えること・言えないこと

項目判定根拠
\(-5/3\) は次元解析で一行◎ 解析階数 5/6、dB/oct 5、位相 75°
\(H=\alpha-1/2=1/3\)◎ 数値合成雑音で確認
単一階数なら \(\zeta_p/p\) 一定◎ 数値\(p=1,2,4,6\) で一致
★ \(\tau(q)\) が一次式でない◎ 数値★ 厳密解と \(10^{-14}\)
★ 階数が分布になる◎ 解析★ 幅 \(=\log_2\frac{1-p}{p}\)
\(\zeta_p\) が下に曲がる◎ 解析\(p=0.7\) で文献値を 1〜2 %
\(\zeta_3=1\) は \(p\) によらない◎ 解析4/5 の法則は生き残る
★ 実際の乱流の \(p\) の値× 決められない★ 模型の当てはめ
★ なぜカスケードが掛け算か× 扱えない★ 本稿は仮定した

練習問題

  1. 06 節で「\(-5/3\) はよく合う」の理由が分かった。これは K41 が正しいということか。
    答えを見る
    いいえ ── 「2 次モーメントが鈍感だった」ということです。\(\zeta_2\) のずれはたった 0.027、dB/oct では 0.081。測定誤差に埋もれます。
    K41 が間違っていた所は、6 次モーメントではっきり出ます ── 予言 2.000 に対し実測 1.78、11 % のずれ
    ★★ 教訓は「よく合う指数を一つ見ただけでは、理論を検証したことにならない」本シリーズが毎回「どのモーメントで測ったか」を書くのは、このためです。★ 第 5 回の「宇宙年齢より長いものは定数と区別がつかない」と同じ構図 ── 感度のない量で見ている限り、違いは無いのと同じ。
  2. 04 節で \(\alpha\) が 0.51 から 1.74 まで分布した。負の \(\alpha\) や 2 を超える \(\alpha\) はなぜ出ないのか。
    答えを見る
    各段の分け方が \(p\) と \(1-p\) の二通りしかないからです。いちばん強い所は毎回 \(p\) を引き当てた場所で \(\mu=p^n\)、つまり \(\alpha=-\log_2p\)。いちばん弱い所は \(\alpha=-\log_2(1-p)\)。
    つまり分布の端は「最も極端な経路」で決まります。模型を変えれば端も変わる── 対数正規カスケードなら形式的には端が無くなります。
    ★★ ただし現実の乱流では、粘性の効く長さ(コルモゴロフ長)で段数が止まるので、いくらでも極端にはなれません。★ 第 5 回・第 22 回と同じく ── 「どこまで細かく見るか」が答えを決めます。
  3. 第 2 回の 1/f も「重ね合わせ」だった。本回の間欠性とどう違うか。
    答えを見る
    足し算か、掛け算かの違いです。第 2 回は多数の緩和過程を足し合わせて \(1/f\) を作りました ── 足し算の重ね合わせは中心極限定理でガウス分布に向かい、階数は一つに決まります
    ★ 本回は各段で掛け算掛け算の重ね合わせは対数が足し算になるので、対数正規に向かう── 裾が重く、まれな大きい値が効く。だから高次モーメントが曲がる。
    ★★ 「階数が一つに決まるか、分布になるか」は、重ね合わせが足し算か掛け算かで決まっていました。★ 第 28 回で「指数関数が出る源は二つ」と整理しましたが、その一つ「足し算→掛け算」が、ここでも効いています。

まとめ 階数は「分布」だった

コルモゴロフの \(-5/3\) は次元解析で一行で出ます。本シリーズの言葉に直すと ── 乱流は「5/6 階」の波、dB/oct = 5、位相 75°、ハースト \(H=1/3\)。1/f(1/2 階)とブラウン運動(1 階)の ちょうど 間でした。

まず階数がひとつならどう見えるかを確かめました ── \(f^{-\beta}\) の合成雑音では \(\zeta_p/p\) が \(p\) によらず一定で、その値は \((\beta-1)/2\) に一致します。

ところが実際のカスケードは掛け算です。p 模型で測度の \(\tau(q)\) を測ると厳密解と \(10^{-14}\) で一致し、\(\tau(q)\) は \(q\) の一次式になりません(\(q=4\) で 2.010、単一なら 3.000)。\(p=0.5\) なら直線に戻ります ── 曲がりは「不均等に分けること」から来ている。

★★★ 本回の要 ── ルジャンドル変換すると \(\alpha\) は
0.514573 から 1.736966 まで分布する(幅 \(\log_2\frac{1-p}{p}=1.222\))。
階数は一つの数ではなく、幅のある集合だった。

速度の構造関数に直すと \(\zeta_p\) は \(p/3\) から下に曲がり ── つまみ一つ(\(p=0.7\))で \(\zeta_1\) から \(\zeta_6\) までの文献値を 1〜2 % で再現できます(0.361/0.37、0.694/0.70、1.000/1.00、1.282/1.28、1.543/1.53、1.786/1.78)。

それでも \(\zeta_3=1\) は動きません ── 平均散逸が保存されるので \(\tau_\varepsilon(1)=0\)、どんな \(p\) でも厳密に 1(4/5 の法則)。
★★★ そして肝心なこと:\(p=0.7\) でも \(\beta=1.6937\)、K41 との差は 0.081 dB/oct しかありません。「\(-5/3\) はよく合う」と言われるのは、2 次モーメントが たまたま鈍感だったからでした。

★ 第 14 回の三つ、第 39 回の四つめに続いて ── ⑤ 階数が一つの数ではない「dB/oct を測る」という操作そのものが、どのモーメントで測るかに依ります。第 1 回から続いてきた一本の軸は、ここで一本ではなくなりました。

この文書は「考える波」シリーズ第 42 回です。計算は kenshou/ranryu.js で行っています。本回の数値について:合成雑音の構造関数の指数、p 模型のカスケードと \(\tau(q)\) の実測、ルジャンドル変換、\(\zeta_p\) と \(\beta\) の計算は、すべて本稿で計算したものです。コルモゴロフの \(-5/3\) 則と \(\zeta_p=p/3\)、4/5 の法則(\(\zeta_3=1\))、マンデルブロの掛け算カスケードと p 模型、\(\tau(q)=-\log_2(p^q+(1-p)^q)\)、マルチフラクタル形式(ルジャンドル変換)、精緻化された相似仮説、そして \(\zeta_p\) の実測値(\(\zeta_6\approx1.78\) など)は、いずれもよく知られた結果で本稿の発見ではありません ── 本稿がしたのは、これらを「階数」という本シリーズの軸に載せ、「階数が分布になる」を第 14 回の一覧に五つめとして加え、間欠性が dB/oct では 0.081 しか動かないことを数字で示したことです。05 節で \(p=0.7\) が文献値をよく再現しますが、これは一つのパラメータを当てはめた結果であり、p 模型が正しい模型だということではありません。実際の乱流の間欠性の模型は複数あり(対数正規、She–Lévêque など)、本稿はいちばん単純なものを一つ選んだだけです。02 節の \(\beta=1.2\) の行は合成法の限界により 0.06 ずれています。文献の \(\zeta_p\) の実測値は測定条件やレイノルズ数に依存し、ここに挙げたのは代表的な値です。 ── 印刷する場合はブラウザの「印刷」から「PDF に保存」を。

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