考える波 第 41 回 / 第 XIII 部・最先端を波として見る

後ろに進む道が無ければ、跳ね返れない

トポロジカルな波 ──
乱れても止まらないのは、強いからではなかった 第 37 回では「1 次元ではどんなに弱い乱れでも必ず止まる」と見ました。
★★ ところが止まらない波があります ── 理由は強さではなく、後方散乱する行き先が無いこと。
★ 数値で確かめました:ある端の枝の群速度は 42 点すべてが同じ符号。反対向きの状態が一つも存在しません

必要な道具:第 13, 16, 30, 35, 37 回計算:kenshou/topo.js

第 35 回で、光の軌道角運動量の巻き数が連続変形で変えられないことを見ました。
★ この回は、その「変えられない整数」が波の通り道の本数を数えているという話です。

01整数しか取れない量を、まず作る

SSH 模型 ── 交互に強さの違う結合が並んだ一次元の鎖 $$\mathbf h(k)=\bigl(v+w\cos k,\ \ w\sin k\bigr)\qquad\text{が原点の周りを何周するか}$$
\(v\)\(w\)巻き数(数値積分)ギャップ \(|v-w|\)
10.20.0000000008.0e−1自明
10.9990.0000000001.0e−3自明
11.001★ 1.0000000001.0e−3★ トポロジカル
151.0000000004.0e+0★ トポロジカル
110★ ギャップが閉じる(定義できない)

01節の中心

\(w\) を 0.999 から 1.001 へ 0.2 % 動かしただけで、巻き数は 0 から 1 へ跳びます
そしてその間の値は取りません。0.5 も 0.9 も無い ── 0 か 1 か。
★★ 跳べるのは \(v=w\) だけ、つまりギャップが閉じる所だけです。ギャップを閉じずに 0 から 1 へは行けない ── これが「連続変形で変えられない」の意味。
★ 第 35 回の光の渦の巻き数と同じ種類の量です(あちらは実空間、こちらは波数空間)。

02巻き数が 1 なら、端に状態が出る

有限の鎖(40 単位胞=80 サイト)を対角化して、\(E=0\) の近くを見ます。

\(v\)\(w\)\(|E|\) が最小の 4 個端状態
10.55.0e−1 5.0e−1 5.1e−1 5.1e−1なし
10.91.2e−1 1.2e−1 1.6e−1 1.6e−1なし
11.14.2e−3 4.2e−3 1.4e−1 1.4e−1★ 2 個
12.01.4e−12 1.4e−12 1.0e+0 1.0e+0★ 2 個

この端状態の局在長も測れます ── 理論は \(\xi=1/\ln(w/v)\)。

\(w/v\)実測 \(\xi\)\(1/\ln(w/v)\)
1.52.4663032.4663031.00000
2.01.4426951.4426951.00000
5.00.6213350.6213351.00000

02節の中心 ── バルク=端対応

内側(バルク)を見て計算した整数が、端に何個の状態があるかを言い当てます。
★★ これは驚くべきことです ── 巻き数は境界のない無限の系から計算した量なのに、境界を作ったとき何が起きるかを知っている
★ \(w=1.1\) では \(4.2\times10^{-3}\) とわずかに 0 からずれています。局在長 \(\xi=10.5\) に対して鎖が 40 単位胞しかないので、両端の状態が触れ合っているから── \(w=2\) では \(10^{-12}\) まで落ちます。

03★ では、何から守られているのか

「トポロジカルだから乱れに強い」とよく言われます。本当に何にでも強いのか、二種類の乱れを入れて試します(\(v=1,\ w=2\))。

乱れ\(|E|\) が最小の 2 個判定
乱れなし1.36e−12 1.36e−12\(E=0\) のまま
結合の強さに 30 %6.69e−12 6.69e−12★ \(E=0\) のまま
結合の強さに 60 %3.25e−11 3.25e−11★ \(E=0\) のまま
サイトに わずか 0.051.21e−2 2.80e−2★ 外れた
サイトに 0.37.23e−2 1.68e−1★ 大きく外れた

03節の中心 ── ★★★ 大事な但し書き

結合の強さを 60 % 乱しても \(E=0\) は動かない。
サイトを 0.05 乱しただけで動く。

守っているのは「対称性」です ── 結合だけの乱れは副格子対称性(カイラル対称性)を壊しませんが、サイトの乱れは壊します。
★★ つまり「トポロジカルだから何にでも強い」のではなく、何に強いかが決まっているその対称性を壊す乱れには、まったく強くありません。
第 15 回の採点表なら「◎ ただし前提つき」と書くところです。

04二次元では、球面を何回覆うか

二バンド模型 ── \(\mathbf d(k)\) が単位球面を覆う回数 $$\mathbf d(k)=\bigl(\sin k_x,\ \sin k_y,\ m+\cos k_x+\cos k_y\bigr),\qquad C=\frac1{4\pi}\iint \hat{\mathbf d}\cdot(\partial_x\hat{\mathbf d}\times\partial_y\hat{\mathbf d})\,dk_xdk_y$$
\(m\)チャーン数(数値積分)最小ギャップ
−3.00.0000001882.000000自明
−2.50.0000014191.000000自明
−2.00.000000★ ギャップが閉じる
−1.00.9999946182.000000★ \(C=+1\)
0.00.000000★ ギャップが閉じる
+1.0−0.9999946182.000000★ \(C=-1\)
+3.0−0.0000001882.000000自明

04節の中心

やはり整数しか取りません(\(10^{-7}\) の残差は格子の刻みのぶん)。
★★ 跳ぶのは \(m=-2,\ 0,\ +2\) の三点だけ ── そしてその三点は、ぴったりギャップが閉じる所です。
「整数はギャップが閉じないと変えられない」── 01 節と同じ規則が、次元を変えても成り立っています。第 30 回で「次元が階数を決める」と見ましたが、この整数のほうは次元によらず整数のままでした。

05端のバンド ── ギャップの中を横切る枝

\(y\) 方向を有限(24 段)に切り、\(x\) 方向は波数 \(k_x\) のまま。\(m=-1\)(\(C=+1\))でバンドを描くと ── バルクのバンドは \(|E|\ge1\) にあり、その隙間に枝が現れます

\(k_x/\pi\)左端の状態の \(E\)右端の状態の \(E\)
−0.333+0.866025−0.866025
−0.200+0.587785−0.587785
−0.067+0.207912−0.207912
+0.067−0.207912+0.207912
+0.200−0.587785+0.587785
+0.333−0.866025+0.866025

05節の中心

数値がそのまま \(E=-\sin k_x\) になっています ── ギャップの中を、下から上へ一本だけ通り抜ける枝
本数が 1 本なのは \(C=1\) だから(バルク=端対応の二次元版)。
★★ そして左端と右端で符号が逆 ── 同じエネルギーの状態が、左端と右端に一つずつある。

06★★ 同じ端には、一方向しか無い

枝の群速度 \(dE/dk_x\) の符号を、ギャップ内の全点で数えます。

群速度が正(右へ進む)群速度が負(左へ進む)
左端0★ 42
右端★ 420

06節の中心 ── ★★★ 本回の要

左端では 42 点すべてが負。逆向きの状態が一つも無い

後方散乱するには「同じ端・同じエネルギーで、逆向きに進む状態」が要ります。それが存在しなければ、どんな乱れがあっても跳ね返る先が無い
★★ 波が強いのではありません。行き先が無いのです。
反対向きの状態は反対側の端にあります ── そこへ移るには、系の幅を越えなければならない。幅が広いほど、その確率は指数的に小さい。

07第 37 回と、どう折り合うか

主張前提
第 37 回1 次元ではどんなに弱い乱れでも必ず局在★ 前にも後ろにも進める
本回端の枝は乱れても止まらない★ 後ろに進む状態が無い

07節の中心

矛盾しません。第 37 回の局在は前進波と後進波の干渉で起きるので、後進波が無ければ起きようがない。
★★ 第 37 回で「ポリアの再帰定理 ── 波が原点に戻ってこないと自分と干渉できない」と見ました。ここでは戻る道そのものが無いので、同じ理由でより強く言えます。
ただし 03 節の但し書きが効きます ── 反対側の端まで繋いでしまうほど強い乱れなら、やはり止まります。「無条件に止まらない」のではありません。

08波として言えること・言えないこと

項目判定根拠
巻き数は整数しか取らない◎ 数値0 か 1。\(v=w\) でしか変わらない
巻き数 1 → 端に \(E=0\) が 2 個◎ 数値バルク=端対応
端状態の局在長 \(1/\ln(w/v)\)◎ 数値比 1.00000
★ 守るのは対称性◎ 数値★ 結合の乱れ○、サイトの乱れ×
チャーン数も整数◎ 数値\(0,\pm1\)。\(m=-2,0,2\) で跳ぶ
★ 端の枝は一方向のみ◎ 数値★ 42 点すべて同じ符号
だから後方散乱できない◎ 論理第 37 回の前提が成り立たない
★ 実際の物質で何が起きるか× 扱えない★ 本稿は最小模型のみ
★ 相互作用が入るとどうか× 扱えない★ 一体問題しか解いていない

練習問題

  1. 01 節で「巻き数は 0.5 を取らない」と分かった。第 13 回では「階数は連続に変わる」と見た。どちらが正しいのか。
    答えを見る
    どちらも正しく、別々の量の話です。第 13 回の階数 \(s=\frac12\pm\sqrt{\frac14-\lambda}\) は連続変数 \(\lambda\) の連続関数。本回の巻き数は写像の次数で、定義上 整数しか取れません。
    違いは「局所的な量か、全体を回った量か」です ── 階数は一点での振る舞い、巻き数は一周した結果一周して戻ってくる以上、回った角度は \(2\pi\) の整数倍にしかなり得ない。
    ★★ そして両者は無関係ではありません ── 04 節で見たとおり、整数が跳ぶのはギャップが閉じる所、つまり臨界点。第 13 回で階数が複素になるのも臨界点でした。「臨界点でだけ何かが起きる」という点は共通です。
  2. 06 節で「逆向きの状態が無い」と言った。これは運動量保存則に反しないか。
    答えを見る
    反しません。乱れがある時点で並進対称性は無く、運動量は保存しないからです。
    ★ 波が跳ね返るとき、失われた運動量は乱れ(=媒質)が受け取ります。本回で言っているのは「運動量を渡せない」ではなく「渡した先に入る状態が無い」ということ。
    ★★ 入る状態が無ければ、遷移確率はゼロです(フェルミの黄金律の行列要素ではなく、終状態密度のほうがゼロ)。★ だから「反対側の端」という終状態を用意してやれば、跳ね返れます ── 07 節の但し書きはそれです。
  3. 03 節で「サイトの乱れには弱い」と分かった。それでも SSH 模型が「トポロジカル」と呼ばれる理由は。
    答えを見る
    守る対称性を最初に宣言してあるからです。トポロジカル相の分類は必ず「どの対称性を仮定するか」とセットで行われ、SSH はカイラル対称性のあるクラスに属します。
    そのクラスの中では、巻き数は整数で、連続変形で変えられない── これは本当です。クラスの外へ出れば、保証は消えます。
    ★★ 本シリーズの言葉に直すと ── 「無条件の頑丈さ」ではなく「前提つきの頑丈さ」★ 第 7・15 回で「何で割ったか確かめる」と決めたのと同じく、「どの対称性を仮定したか」を毎回 確かめる必要があります。

まとめ 止まらないのは、強いからではなく、行き先が無いから

まず整数しか取れない量を作りました ── SSH 模型の巻き数。\(w\) を 0.999 から 1.001 へ 0.2 % 動かすだけで 0 から 1 へ跳び、その間の値は取りません。跳べるのは \(v=w\)、つまりギャップが閉じる所だけです。

そしてその整数が、端に何個の状態があるかを言い当てます(バルク=端対応)── \(w>v\) でだけ \(E=0\) の状態が 2 個。局在長も \(\xi=1/\ln(w/v)\) と比 1.00000 で一致しました。

ただし大事な但し書きがあります ── 結合の強さを 60 % 乱しても \(E=0\) は動かないのに、サイトを 0.05 乱しただけで動きます守っているのは対称性(カイラル対称性)であって、「何にでも強い」わけではありません。

二次元でも同じでした ── チャーン数は \(0,\pm1\) の整数しか取らず、跳ぶのは \(m=-2,0,+2\)、つまりギャップが閉じる三点だけ

★★★ 本回の要 ── \(C=1\) のとき、ギャップの中を一本の枝が横切ります。
その枝の群速度の符号を数えると ── 左端は 42 点すべてが負、右端はすべてが正。
同じ端には、逆向きの状態が一つも存在しません

後方散乱するには「同じ端・同じエネルギーで逆向きの状態」が要ります。それが無ければ、乱れがあっても跳ね返る先が無い ── 波が強いのではなく、行き先が無いのです。

第 37 回と矛盾しません ── あちらの局在は前進波と後進波の干渉で起きるので、後進波が無ければ起きようがない。「戻ってこないと自分と干渉できない」(ポリアの再帰定理)を、より強い形で言っているだけです。ただし反対側の端まで繋ぐほど強い乱れなら、やはり止まります。

この文書は「考える波」シリーズ第 41 回です。計算は kenshou/topo.js で行っています。本回の数値について:巻き数の数値積分、有限鎖の対角化と端状態の局在長、乱れを入れたときの \(E=0\) のずれ、チャーン数の数値積分、ストリップのバンドと群速度の符号の数え上げは、すべて本稿で計算したものです。SSH 模型とその巻き数、バルク=端対応、端状態の局在長 \(1/\ln(w/v)\)、QWZ 模型のチャーン数と相図、カイラル対称性による保護、カイラル端状態と後方散乱の禁止 ── これらはいずれもよく知られた結果で本稿の発見ではありません ── 本稿がしたのは、これらを第 37 回(局在)と第 35 回(巻き数)の間に置き直し、「守られるのは何からか」を同じ模型の中で乱れの種類を変えて確かめたことだけです。03 節の結論(結合の乱れには強く、サイトの乱れには弱い)は、SSH 模型がカイラル対称性のクラスに属することの帰結であり、あらゆるトポロジカル相に一般化できるものではありません。05・06 節は一体問題(相互作用なし)の計算で、有限幅 24 段・121 個の \(k_x\) 点に基づきます。04 節のチャーン数の \(10^{-7}\) 程度の残差は格子の刻みによるもので、真の値は整数です。 ── 印刷する場合はブラウザの「印刷」から「PDF に保存」を。

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