考える波 第 40 回 / 第 XIII 部・最先端を波として見る

揺すった周期の、半分で答える

時間結晶を波として見る ──
大事なのは「半分」ではなく、ずらしても戻ってくること 分数調波を出すだけならマシュー方程式で足ります(成長率 \(h\omega_0/4\) を 5 桁で実測)。
★★ 時間結晶が新しい相と呼ばれるのは ── 蹴り角を 15 % ずらしても、応答がきっかり \(1/2\) に居座るから
★ そして相互作用を切ると、その居座りは消えます(ピークが \((1-\varepsilon)/2\) へ素直にずれる)。

必要な道具:第 1, 17, 18, 23, 32, 36 回計算:kenshou/jikan2.js

第 36 回で、周期的に揺すられた波のフロケ乗数を見ました ── \(\det M=1\)。
★ この回は、その \(\mu\) が \(-1\) を通るときの話です。一周期で符号が反転し、二周期で元に戻る ── 周期が倍になります。

01まず、どこには居ないかを確かめる

線形で時不変(LTI)な系に \(f_0\) を入れて、\(f_0/2\) が出るか測ります。

成分振幅dB(\(f_0\) 比)
\(f_0\)(入力)8.4064e−20.0
\(f_0/2\)(分数調波)4.9078e−17−304.7
\(2f_0\)(高調波)3.5688e−17−307.4

01節の中心

窓を周期の整数倍に取ると、丸め誤差の底(\(10^{-17}\))まで落ちます
★ 第 1 回の「線形時不変な系は新しい周波数を作れない」── 時間結晶はここには居ません。
これは当たり前ではなく、出発点です ── 分数調波が出た時点で、系は「線形かつ時不変」のどちらかを捨てている。

02係数の側を揺らすと、半分が出る

マシュー方程式 ── 係数そのものが時間の関数 $$\ddot x+\omega_0^2\bigl(1+h\cos\omega t\bigr)x=0,\qquad \omega=2\omega_0\ \text{が最強の不安定舌}$$
\(h\)成長率(実測)\(h\omega_0/4\)
0.020.004999940.005000000.99999
0.050.012499080.012500000.99993
0.100.024992680.025000000.99971
0.200.049941570.050000000.99883
0.400.099536440.100000000.99536

02節の中心

揺すりは \(\omega=2\)、答えは \(\omega_0=1\) ── ちょうど半分。成長率は \(h\omega_0/4\) と5 桁一致。
ブランコと同じ仕組みです。腰を「一往復に二回」上下させると、揺れが育つ。入力は 2 倍の周波数、答えは半分。
★★ ここで「線形」を捨てていない点が大事です ── 方程式は \(x\) について線形。捨てたのは「時不変」のほう。

03フロケ乗数で見る ── 周期倍は \(\mu=-1\) を通る

\(h\)\(\omega\)\(\det M\)\(\mathrm{tr}\,M\)\(|\mu|_{\max}\)判定
0.11.61.000000000−1.423851.00000安定
0.11.91.000000000−1.979701.00000安定
0.12.01.000000000−2.006171.08168★ 周期倍
0.12.11.000000000−1.983101.00000安定
0.32.01.000000000−2.055481.26491★ 周期倍

03節の中心

\(\det M=1.000000000\) ── 第 36 回と同じ(ハミルトン系なので位相空間の面積が保存)。
\(\mathrm{tr}\,M\) が \(-2\) を下回る所で \(\mu=-1\) を通ります\(\mu=-1\) は「一周期で符号が反転」── だから二周期で元に戻る。
★★ 第 36 回で「\(\det M=1\) だから増幅と減衰は必ず対で出る」と見ましたが、その対が負の実軸の上で生まれるのが周期倍です。

04破れた対称性は、二つの状態として見える

散逸を入れる(現実の系はこちら) $$\ddot x+\gamma\dot x+\omega_0^2(1+h\cos2\omega_0t)\,x+\beta x^3=0,\qquad h_{\rm th}=\frac{2\gamma}{\omega_0}$$
\(h\)\(x_0=+0.01\) の終状態\(x_0=-0.01\) の終状態位相差
0.05x=−0.00000x=+0.00000立たない
0.15x=−0.27149x=+0.27149★ 3.141593 rad
0.30x=−0.42198x=+0.421983.141593 rad

04節の中心

\(h>h_{\rm th}=2\gamma/\omega_0=0.1\) で振動が立ち、位相は \(\pi\) 違う二つのどちらかに落ちます(測定値 3.141593 rad)。
「二つある」ことが対称性の破れです ── 揺すりの周期だけ時間をずらすと、一方がもう一方に移る。系はその \(\mathbb Z_2\) を自分で選んでいる。
★★ そして立ち上がるには散逸を越えなければならない ── 第 32 回の「対称性の破れには散逸が要る」が、時間方向で繰り返されました。

05★★ 剛性 ── ずらしても、戻ってくるか

ここからが本題です。半分が出るだけなら、02 節で済んでいます。時間結晶が「相」と呼ばれるのは、揺すり方を少しずらしても半分が保たれるから。

古典スピン鎖で試します。各周期 ── (a) 乱れたイジング結合で \(z\) 軸回りに歳差、(b) \(x\) 軸回りに角 \(\pi(1-\varepsilon)\) の蹴り。相互作用がなければ、応答は素直に \((1-\varepsilon)/2\) へずれるはずです。

\(\varepsilon\)\(J=0\)(相互作用なし)\(J=0.6\)(あり)予言 \((1-\varepsilon)/2\)
0.000.5000000.5000000.500
0.020.490000★ 0.5000000.490
0.050.475000★ 0.5000000.475
0.100.450000★ 0.5000000.450
0.150.425000★ 0.5000000.425
0.250.3750000.4377140.375

05節の中心 ── ★★★ 本回の要

相互作用がないと、ピークは \((1-\varepsilon)/2\) へ素直にずれる。
相互作用があると、\(\varepsilon=0.15\) まできっかり 0.500000 に居座る。

これが「剛性」です。蹴り角を 15 % 間違えても、系は自分で誤差を打ち消して半分に戻ってくる。
★★ そして相互作用を切ると消える ── つまり剛性は一個の振動子の性質ではなく、多体の性質です。第 23 回の分数調波(一個の非線形振動子)とは、ここが違う。

06剛性の幅を測る ── どこで壊れるか

\(\varepsilon\)ピーク位置\(|f-1/2|\)1/2 の振幅判定
0.000.50000000.992634ロック
0.050.50000000.969319ロック
0.120.50000000.845628ロック
0.180.4988111.2e−3★ 0.021244★ 崩れる途中
0.250.4332346.7e−20.000711外れ
0.500.2500000.250.000004外れ

06節の中心 ── ★ 正直に

周波数だけ見ると \(\varepsilon=0.18\) でもまだ 0.4988 ですが、振幅が 0.846 → 0.021 と 40 分の 1 に落ちています
つまり「いつ壊れるか」は、見る量で答えが変わります ── 周波数はぎりぎりまで粘り、振幅が先に死ぬ。
★★ 本稿の計算では、はっきりロックしているのは \(\varepsilon\lesssim0.12\)、完全に外れるのは \(\varepsilon\gtrsim0.25\)。その間は「壊れかけ」であって、単一のしきい値ではありません。
この幅が、非線形振動子でいうアーノルドの舌の幅にあたります(第 23 回)。

07なぜ平衡では作れないのか ── 受動性の言葉で

第 17・18 回の言葉に直す $$\text{受動的}\ \Longleftrightarrow\ \mathrm{Re}\,Z\ge0\ \Longrightarrow\ \text{自分からエネルギーを出せない}$$

自発的に振動が立つには、どこかに \(\mathrm{Re}\,Z<0\)(負性抵抗)が要ります。負性抵抗は、外からエネルギーを入れないと作れません。

減衰 \(\gamma\)しきい値 \(h_{\rm th}=2\gamma/\omega_0\)意味
0.010.02これ以下では立たない
0.050.10これ以下では立たない
0.300.60★ 散逸が大きいほど強く揺する必要

07節の中心

★★★ 「揺すり(外部)」と「散逸」が両方要る ── だから平衡状態の時間結晶は作れません
平衡とは「外から何も入れず、正味の散逸もない」状態のこと。そこには \(h\) も \(\gamma\) も無く、しきい値を越えようがない。
★★ 第 32 回で「対称性の破れには散逸が要る」と分かったことが、時間方向でそのまま繰り返されました。

08周波数を作れるのは誰か ── 四段の整理

出る周波数
線形・時不変(LTI)入力の周波数のみ第 1 回
非線形・時不変\(n\omega\)(整数倍)と混変調第 23 回
線形・時間周期(パラメトリック)\(\omega/2\)、\(\omega\) の有理数倍第 36 回・本回
★ 非線形+時間周期+散逸+多体★ \(\omega/n\) が「剛く」立つ★ 本回

08節の中心

時間結晶が「新しい相」と呼ばれるのは、最下段だけが「ずらしても戻ってくる」からです。
★★ 上の三段は「半分が出る」だけで、揺すりをずらせば素直について行きます。05 節の \(J=0\) の列が、まさにそれでした。

09波として言えること・言えないこと

項目判定根拠
LTI から分数調波は出ない◎ 数値−305 dB(丸め誤差の底)
パラメトリックなら出る◎ 数値成長率 \(h\omega_0/4\) と 5 桁一致
\(\det M=1\)、周期倍は \(\mu=-1\)◎ 数値第 36 回の続き
破れた対称性 = 二つの状態◎ 数値位相差ちょうど \(\pi\)
★ 剛性(ずらしても 1/2)◎ 数値★ 相互作用がある時だけ
剛性の幅△ 数値★ 単一のしきい値ではない
平衡では不可能◎ 解析\(\mathrm{Re}\,Z\ge0\)(第 17・18 回)
★ 量子の時間結晶そのもの× 扱えない★ 本稿は古典のみ
★ 無限に持つかどうか× 扱えない★ 有限時間しか見ていない

09節の中心 ── ★ 正直に

本稿は古典のスピン鎖しか計算していません。実際の時間結晶の議論は量子多体局在(第 37 回の局在の量子版)が中心で、そこは本稿の道具の外です。
★ また4096 周期しか見ていません ── 「無限に続くか」は原理的に数値では決められない(第 5 回の「宇宙年齢より長いものは定数と区別がつかない」と同じ)。
★★ 言えるのは「剛性という現象が、相互作用があるときだけ現れる」という一点です。

練習問題

  1. 02 節のマシュー方程式は \(x\) について線形なのに分数調波が出た。第 1 回の「線形は周波数を作れない」と矛盾しないか。
    答えを見る
    矛盾しません。第 1 回の主張は「線形かつ時不変」についてのものだからです。
    ★ マシュー方程式は線形ですが係数が時間の関数── 時不変を捨てています
    ★★ 「新しい周波数を作る」には、線形性か時不変性のどちらかを捨てればよいという整理になります。非線形(第 23 回)は前者、パラメトリックは後者。そして時間結晶は両方捨てたうえで、さらに多体でなければならない。
  2. 05 節で相互作用が誤差を打ち消した。どういう仕組みか。
    答えを見る
    蹴りの誤差が、二周期でちょうど帳消しになるからです。蹴りが \(\pi(1-\varepsilon)\) だと、一周期で角度が \(\pi\varepsilon\) だけ足りない。
    ★ ところが隣のスピンの \(z\) 成分も一周期ごとに符号を変えているので、歳差の向きも一周期ごとに反転します ── その結果、足りなかった分が次の周期で逆向きに現れ、二周期でならされる。
    ★★ これは自己修正する帰還回路そのものです(第 18 回の負帰還)。だから「相互作用を切ると消える」── 帰還の経路が無くなるから。★ ただし \(\varepsilon\) が大きすぎると帰還が追いつかず、06 節のように崩れます。
  3. 07 節で「平衡では不可能」と言った。では 05 節の計算は平衡ではないのか。
    答えを見る
    平衡ではありません。05 節のスピン鎖は毎周期きっちり蹴られている── つまり外から周期的に仕事をされています。
    ★ 実際、蹴られ続ける系はふつう無限温度へ加熱していき、そこでは何の秩序も残りません。時間結晶の議論で「局在」が要るのは、この加熱を止めるためです。
    ★★ 本稿の古典計算では、乱れた結合がその役を部分的に果たしていますが、本当に加熱が止まっているかまでは確かめていません(4096 周期しか見ていないので)。★ ここは保留です ── 第 29・30 回の作法どおり、確かめていないことは主張にしません。

まとめ 大事なのは「半分」ではなく、ずらしても戻ってくること

まずどこには居ないかを確かめました ── 線形かつ時不変な系に \(f_0\) を入れても、\(f_0/2\) は −305 dB(丸め誤差の底)。第 1 回のとおり、LTI は新しい周波数を作れません。

係数の側を揺らすと出ます ── マシュー方程式 \(\ddot x+\omega_0^2(1+h\cos2\omega_0t)x=0\) の成長率は \(h\omega_0/4\) と5 桁一致。フロケ乗数で見ると \(\det M=1.000000000\) で、\(\mathrm{tr}\,M\) が \(-2\) を下回る所で \(\mu=-1\) を通る ── 一周期で符号が反転し、二周期で元に戻る(第 36 回の続き)。

散逸を入れるとしきい値 \(h_{\rm th}=2\gamma/\omega_0\) が出て、その上では位相が \(\pi\) 違う二つの状態に落ちます(測定 3.141593 rad)── 「二つある」ことが対称性の破れ。第 32 回が時間方向で繰り返されました。

★★★ 本回の要 ── 半分が出るだけなら、マシュー方程式で足ります。
時間結晶が「相」と呼ばれるのは、蹴り角を 15 % ずらしても
応答がきっかり 0.500000 に居座るから。

そして相互作用を切ると、その居座りは消えます ── \(J=0\) ではピークが素直に \((1-\varepsilon)/2\) へずれる(0.490, 0.475, 0.450, 0.425 と予言どおり)。★ 剛性は一個の振動子の性質ではなく、多体の性質でした。仕組みは二周期で誤差を帳消しにする負帰還(第 18 回)です。

幅は単一のしきい値ではありません ── 周波数は \(\varepsilon=0.18\) でも 0.4988 と粘りますが、振幅は 0.846 → 0.021 と先に死にます。はっきりロックは \(\varepsilon\lesssim0.12\)、完全な離脱は \(\varepsilon\gtrsim0.25\)。

そして平衡では作れません ── 受動的な系は \(\mathrm{Re}\,Z\ge0\) で自分からエネルギーを出せず(第 17・18 回)、立ち上がるには揺すりと散逸が両方要るからです。

正直に:本稿は古典のみで、量子多体局在は扱っていません。4096 周期しか見ておらず、「無限に続くか」は数値では決められません(第 5 回と同じ限界)。

この文書は「考える波」シリーズ第 40 回です。計算は kenshou/jikan2.js で行っています。本回の数値について:LTI の分数調波の測定、マシュー方程式の成長率、単値行列の \(\det M\) と \(\mathrm{tr}\,M\)、散逸つきパラメトリック発振の二つの終状態、蹴られたスピン鎖のピーク位置と剛性の幅は、すべて本稿で計算したものです。マシュー方程式の不安定舌と成長率 \(h\omega_0/4\)、フロケ理論、パラメトリック発振のしきい値 \(2\gamma/\omega_0\)、時間結晶における剛性の役割、平衡時間結晶の不可能性(ワタナベ=オオシカワの定理など)、離散時間結晶が相互作用と局在を要すること ── これらはいずれもよく知られた結果で本稿の発見ではありません ── 本稿がしたのは、これらを「線形性と時不変性のどちらを捨てたか」という一本の軸で並べ直し、剛性の有無を同じ模型の中で相互作用を切って比べたことだけです。05・06 節の古典スピン鎖は、実際の量子時間結晶の模型ではなく、剛性という現象を古典的に見るための最小の模型です。加熱が止まっているかどうかは確かめていません。06 節の「剛性の幅」は本稿の模型・パラメータ・観測時間(4096 周期)に固有の値で、普遍的な数値ではありません。04 節のしきい値は減衰が小さい極限の式です。 ── 印刷する場合はブラウザの「印刷」から「PDF に保存」を。

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