考える波 第 38 回 / 第 XIII 部・最先端を波として見る

舞台そのものを波として見る

量子重力を波として見る ──
次元が走るとは、階数が走ることだった プランク長は一行で出ます ── 波長が自分のシュヴァルツシルト半径に等しくなる所。
★★ そして多くの理論が言う「短距離で次元が 4 → 2 に走る」は、第 30 回の \(\alpha=(d-3)/2\) を通すと ── ★ 階数が \(+1/2\) から \(-1/2\) へ走る
★ 2 で止まる理由も出ます ── そこで重力の結合が無次元になるから。

必要な道具:第 6, 7, 15, 16, 24, 25, 30, 31, 37 回計算:kenshou/juryoku2.js

ここまで 37 回、時空は与えられた舞台でした。第 24 回で重力波を見たときも、平坦な背景の上のさざ波です。
★ 量子重力の問いは、そのさざ波が舞台を作っているときに何が起きるか。

01プランク長を、波の言葉で一行で出す

波長が自分のシュヴァルツシルト半径に等しくなる所 $$\lambda=\frac{2G}{c^2}\cdot\frac{\hbar}{\lambda c}=\frac{2G\hbar}{\lambda c^3}\qquad\Longrightarrow\qquad \lambda=\sqrt{\frac{2G\hbar}{c^3}}$$
上の見積もり \(\sqrt{2G\hbar/c^3}\)2.2854e−35 m
プランク長 \(\sqrt{G\hbar/c^3}\)1.6162e−35 m
プランク時間5.3912e−44 s
プランクエネルギー1.2209e+19 GeV

01節の中心

係数 \(\sqrt2\) を除けば一行で出ます。波の言葉で読むと ── プランク長とは「波を短くしていくと、自分のエネルギーで自分を閉じ込めてしまう長さ」。
第 6 回の「質量=遮断周波数」の極限です ── 遮断を上げようとエネルギーを入れると、重力が自分で遮断を作ってしまう。

電弱(246 GeV、\(8\times10^{-19}\) m)からプランクまで 17 桁 ── 第 15 回の階層問題がこの距離です。

02なぜ重力だけ「くりこめない」のか ── 結合が次元を持つ

結合次元
電磁気\(\alpha=1/137\)★ 無次元
強い力\(\alpha_s\approx0.12\)★ 無次元
★ 重力\(G/(\hbar c)=1/E_P^2\)★★ \([\text{エネルギー}]^{-2}\)

次元を持つ結合は、無次元にするためにエネルギーを掛けるしかありません ── 実効的な結合は \((E/E_P)^2\)。

エネルギー \(E\)\((E/E_P)^2\)中身
1 GeV6.7e−39陽子
246 GeV4.1e−34電弱
\(10^{16}\) GeV6.7e−7大統一
\(1.2\times10^{19}\) GeV1.0★ 摂動が破綻

02節の中心

★★★ これが「くりこめない」の正体です ── 結合がエネルギーとともに育ち、プランクで 1 を超える。
第 34 回のヤン=ミルズは逆で、高エネルギーで弱くなりました(漸近的自由)。
★ 波の言葉では ── 短い波ほど強く相互作用する媒質。第 16 回の「分散性の媒質」のいちばん極端な場合です。

03★★ 多くの理論が言う「次元が走る」

量子重力の候補は互いにかなり違いますが、一つだけ揃って言うことがあります ── 短い距離では「次元」が 4 から 2 へ減る(スペクトル次元の減少)。
スペクトル次元は拡散で測った次元です(第 37 回で使った量)── \(P(s)\propto s^{-d_s/2}\)。

分散関係が \(\omega\propto k^z\) のとき(\(z=1\) がふつうの波) $$d_s=1+\frac{\text{空間の次元}}{z}$$

言葉ではなく実際に測ります。\(P(s)=\int\frac{d^3k}{(2\pi)^3}e^{-s(k^2)^z}\) から空間のぶんを測り、修正されない時間方向を足します。

\(z\)空間 \(3/z\)(測定)★ \(d_s=1+3/z\)階数 \(\alpha=(d_s-3)/2\)
1.03.000004.00000+0.50000
1.52.000003.000000.00000
2.01.500002.50000−0.25000
3.01.000002.00000−0.50000

03節の中心 ── ★★★ 本回の要

第 30 回で \(\alpha=(d-3)/2\) と分かったので、
「次元が走る」とは「階数が走る」ということです。
\(d_s:4\to2\ \Longleftrightarrow\ \alpha:+1/2\to-1/2\)

\(d_s\)\(\alpha\)第 30 回での意味デジタル(第 31 回)
4+0.5尾を引く \(s^{-3/2}\)IIR(無限タップ)
30★ \(\delta\) そのもの(歪まない)FIR(1 タップ)
2−0.5★ 尾を引く \(s^{-1/2}\)、臨界 \(1/r^2\)IIR(\(k^{-1/2}\) で減る)

★ 慎重に書きます

\(d_s=2\) は、第 30 回で臨界 \(\lambda=1/4\) ちょうどだった次元です(第 13 回で「\(\lambda>1/4\) で指数が複素数になる」と書いたその境目)。
ただしこれは観察であって主張ではありません ── 第 30 回の \(\alpha\) は波動方程式のグリーン関数の階数、本節の \(d_s\) は拡散で測った実効次元別々に定義された量です。
★★ 同じ「次元」という語を使っているだけかもしれません(第 29・30 回の作法)。

04なぜ「2」で止まるのか ── 結合が無次元になる次元

\(d\) 次元時空での重力定数の次元 $$[G]=[\text{エネルギー}]^{2-d}$$
時空の次元 \(d\)\([G]\) の次元摂動として
2★ 無次元★★ くりこみ可能(の境目)
3\([E]^{-1}\)くりこめない
4\([E]^{-2}\)★ くりこめない(現実)

04節の中心

★★★ \(d=2\) で重力の結合がちょうど無次元になります。
★ だから「紫外で \(d_s\to2\)」という予想は ── 「紫外で重力の結合が無次元になってほしい」という要請の言い換えです。

★ 第 25 回の次元転移と並べると ── QCD は無次元の \(\alpha_s\) から次元を持つ \(\Lambda\) を作りました。量子重力は逆向きで、次元を持つ \(G\) を無次元にしたい。どちらも「無次元量だけが物理」(第 7・15 回)の要請です。

05★ 翻訳すると、何を測ればよいか見える

階数の言葉観測できる形
\(\alpha\) が変わるdB/oct が \(6\alpha\) で変わる第 1 回
\(\alpha\) が変わる位相が \(90\alpha\) 度 で変わる第 1 回
\(d_s\) が 3 からずれる伝播に尾が出る(FIR→IIR)第 30・31 回
★ \(z\ne1\)★ 群速度が周波数に依る第 16 回
いちばん測りやすいのは、高エネルギー光子の到着時間差 $$\Delta t\approx\frac{\text{距離}}{c}\cdot\frac{E}{E_P}\qquad(\text{一次の場合})$$
天体距離光子 \(E\)★ \(\Delta t\)
GRB(\(z\approx1\))\(10^{26}\) m10 GeV0.27 s
GRB(\(z\approx1\))\(10^{26}\) m100 GeV2.7 s
かに星雲\(6\times10^{19}\) m\(10^4\) GeV1.6e−4 s

05節の中心

ガンマ線バーストなら 0.3〜3 秒 ── 十分に測れる桁です。
★★★ そして実際に測られ、一次の効果はすでに棄却されています(フェルミ衛星などにより、プランクエネルギーと同程度かそれ以上のスケールまで)。
つまり「階数の走り」は、少なくとも一次ではプランクまで無い。二次の効果ならまだ余地があります。
★ 第 15 回の「開いたままの扉」に、これを一つ足しておきます。

06波として言えること・言えないこと

項目判定根拠
プランク長の見積もり◎ できる波長 = 自分の \(r_s\)。一行
重力がくりこめない理由◎ できる結合が \([E]^{-2}\)
\(d_s=1+3/z\)◎ 数値修正分散から直接 測れる
次元が走る = 階数が走る◎ 対応第 30 回の \(\alpha=(d-3)/2\) を使うだけ
★ どの理論が正しいか× できない波の言葉は理論を選ばない
★ 実際に \(z\) が 3 になるか× できない模型の仮定。観測はまだない
★ 時空が何でできているか× できない本稿は分散関係しか見ていない

06節の中心 ── ★ 正直に

本回がやったのは、既存の予想を別の言葉に翻訳しただけです。「階数が走る」と言い換えても、新しい予言は出ていません。
★ ただし翻訳すると、何を測ればよいかは はっきりします ── そして測った結果、一次の効果はもう棄却されているという事実は拾えました。

練習問題

  1. 「プランク長より短い長さは存在しない」とよく言われる。01 節の議論はそれを示しているか。
    答えを見る
    示していません。01 節が示したのは「その長さを波で測ろうとすると、測るための波自身がブラックホールを作ってしまう」ということだけ。
    「測れない」と「存在しない」は別です ── 第 5 回で「宇宙年齢より長い周期は定数と区別がつかない」と書いたのと同じ注意。区別がつかないことは、無いことの証明ではありません。
    ★★ ただし「測れないものを理論に書く意味はあるか」という問いは残り、そこは理論の立場によります。波の言葉で言えるのは「測定の限界」までです。
  2. 03 節で \(d_s=2\) が第 30 回の臨界と一致したが「保留」とした。どうすれば決着するか。
    答えを見る
    二つの \(\alpha\) を同じ量から定義し直すことです。第 30 回の \(\alpha\) はグリーン関数の特異性の次数、本回の \(d_s\) は拡散の戻り確率の指数
    ★ 決着させるには、修正した分散関係のグリーン関数を実際に作り、その前面の指数を測る必要があります ── そうすれば「同じ \(\alpha\) か」が数値で分かります。
    ★★ 本稿はそれをやっていませんので保留にしました。第 29・30 回で「同じ数字を見たら何で割ったか確かめる」と決めた以上、確かめていないものは主張にしないという作法です。
  3. 05 節で一次の効果が棄却された。これは「量子重力の効果は無い」という意味か。
    答えを見る
    いいえ ── 棄却されたのは特定の形だけです。測られたのは \(\Delta t\propto E/E_P\) という一次の依存で、\(\Delta t\propto(E/E_P)^2\) の二次なら効果は \(10^{19}\) 分の 1 になり、まったく届きません。
    そして多くの理論はもともと二次を予言します(一次はローレンツ不変性を強く破るので、他の実験からも厳しい)。
    ★★ つまりこの棄却は「いちばん測りやすい形が消えた」という意味で、探索の難度が上がっただけです。第 15 回の採点表なら「× 棄却(ただし最も緩い仮定のみ)」と書くところです。

まとめ 次元が走るとは、階数が走ることだった

プランク長は一行で出ます ── 波長が自分のシュヴァルツシルト半径に等しくなる所(\(1.616\times10^{-35}\) m)。第 6 回の「質量=遮断周波数」の極限で、遮断を上げようとすると重力が自分で遮断を作ってしまう。

重力だけがくりこめないのは、結合が \([E]^{-2}\) という次元を持つから。実効的な結合 \((E/E_P)^2\) がプランクで 1 を超えます ── 第 34 回のヤン=ミルズとは逆向きで、波の言葉では「短い波ほど強く相互作用する媒質」。

★★★ そして本回の要 ── 多くの理論が言う「短距離で \(d_s\) が 4 → 2」は、
第 30 回の \(\alpha=(d-3)/2\) を通すと
「階数が \(+1/2\) から \(-1/2\) へ走る」ことだった。

数値でも確かめました ── \(P(s)=\int d^3k\,e^{-s(k^2)^z}\) から空間のぶんがちょうど \(3/z\)、時間方向を足して \(d_s=1+3/z\)。\(z=1\to d_s=4\)、\(z=3\to d_s=2\)。

2 で止まる理由も出ます ── \([G]=[E]^{2-d}\) なので、\(d=2\) で重力の結合がちょうど無次元「紫外で \(d_s\to2\)」は「紫外で結合が無次元になってほしい」の言い換えでした。第 25 回の次元転移(QCD は無次元から次元を作る)とは逆向きで、どちらも「無次元量だけが物理」の要請です。

★ \(d_s=2\) が第 30 回の臨界 \(\lambda=1/4\) と一致するのは観察であって主張ではありません ── 別々に定義された量なので保留にしました(第 29・30 回の作法)。

最後に ── 翻訳すると何を測ればよいかが はっきりします。\(z\ne1\) なら群速度が周波数に依り、GRB の \(10\) GeV 光子で 0.3 秒 の到着差。★ そして実際に測られ、一次の効果はすでに棄却されています(プランクスケールまで)。本回は既存の予想を別の言葉にしただけで、新しい予言は出ていません。

この文書は「考える波」シリーズ第 38 回です。計算は kenshou/juryoku2.js で行っています。本回の数値について:プランク単位、実効結合、スペクトル次元の数値測定、到着時間差は、すべて本稿で計算したものです。プランク長の次元解析的な導出、重力がくりこみ不可能であること、スペクトル次元の減少(\(d_s=1+3/z\) を含む)、\([G]=[E]^{2-d}\)、そして GRB による時間差の観測制限は、いずれもよく知られた結果で本稿の発見ではありません ── 本稿がしたのは、これらを「階数」という一本の軸に載せ、「次元が走る」=「階数が走る」と翻訳したことだけです。新しい予言は出していません。03 節の \(d_s=1+3/z\) は「時間方向の分散は修正されない」という模型(ホジャヴァ型)の仮定に依存します。時間方向も修正する理論では別の値になります。また、この「次元の減少」自体、理論ごとに定義も値も一致しているわけではありません(本稿は代表的な形を一つ取っただけです)。05 節の \(\Delta t\) は一次の依存を仮定した見積もりで、実際の解析には宇宙論的な赤方偏移の効果と、天体固有の放出時間差が入ります。「一次の効果は棄却済み」はフェルミ衛星などの報告に基づく記述で、本稿が解析したものではありません。 ── 印刷する場合はブラウザの「印刷」から「PDF に保存」を。

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