考える波 第 20 回 / 第 VIII 部・実効定数を微分する
時間を対数目盛りで測ると、何が見えるか
\(c\cdot t=\) 一定 の座標系 ──
波動方程式が、第 13 回の臨界 \(1/r^2\) になった
\(c(t)=R/t\) と定義すれば、光速は微分できます(\(\dot c/c=-1/t=-H\))。
その座標系で波の式を書くと ── \(\ddot\psi+(A^2/t^2)\psi=0\)。
★ 第 13 回の「中心への落下」の方程式が、そっくりそのまま出てきました。
「\(c\) は定義値だから微分できない」── 第 4 回からずっと、この連載の前提でした。
でも \(c\cdot t\) を一定に保つ座標系を取れば、\(c\) は \(t\) の関数になります。やってみたら、思わぬところに着きました。
01座標系を定義して、光速を微分する
| 量 | 値 |
|---|---|
| \(R=c\cdot t\) | \(1.304\times10^{26}\) m |
| 現在の \(t\) | \(4.351\times10^{17}\) s(137.9 億年) |
| \(dc/dt\) | \(-6.89\times10^{-10}\) m/s² |
| \(\dot c/c\) | \(-2.30\times10^{-18}\) /s \(=-7.25\times10^{-11}\) /年 |
定義値のはずの光速が、微分できてしまいました。では、これは物理なのか、それとも単位の取り替えなのか。
02まず採点する ── 物理なら、もう否定されている
02節の結論
「\(c\propto1/t\)」を物理的な変化として読むなら、700 万倍 の余裕で否定されています。
成立するのは「ほかの定数も一斉に変わって \(\alpha\) を一定に保つ」場合だけ ── でもそれは、要するに単位の取り替えです。
★ ここまでは第 4 回・第 7 回の繰り返し。面白いのはここからです ── この座標系で「波」がどう見えるか。
03波の位相が、\(\ln t\) に比例する
03節の中心 ── 第 13 回とつながった
★ 位相が \(\ln t\) に比例する。
第 13 回で、虚数階微分の位相は \(\ln\omega\) に比例しました。ここでは \(\ln t\) ── 同じ形です(メリン変換の核)。
瞬時周波数は \(1/t\) に比例するので、これは双曲線チャープ。
★ 第 13 回で「クリックに虚数階微分をかけると双曲線チャープになる」と書きました ── \(c\propto1/t\) の宇宙では、あらゆる波が最初から双曲線チャープです。
★ だから自然な時間変数は \(t\) ではなく \(u=\ln t\)。
そこでの微分 \(d/du=t\,d/dt\) は、スケール変換の生成子です。
04★ 波動方程式が、第 13 回の臨界 \(1/r^2\) になる
★ 第 13 回の式と、見比べてください
第 13 回(引力 \(1/r^2\) ポテンシャル):\(\ \ s=\dfrac12\pm\sqrt{\dfrac14-\lambda}\)
本回(\(c\cdot t=\) 一定 の波):\(\qquad\qquad s=\dfrac12\pm\sqrt{\dfrac14-A^2}\)
まったく同じ式です。あちらの結合定数 \(\lambda\) が、こちらでは \(A^2=(k\cdot ct)^2\) ── 「地平線に何波長 入るか」の二乗。
\(\psi=\sqrt t\,f(\ln t)\) と置き直すと、もっとはっきりします。
| \(A=k(ct)\) | \(\sqrt{1/4-A^2}\) | \(s_0=\sqrt{A^2-1/4}\) | 振る舞い |
|---|---|---|---|
| 0 | 0.5000 | ── | べき乗(凍結) |
| 0.30 | 0.4000 | ── | べき乗(凍結) |
| 0.50 | 0 | ── | ★ ちょうど臨界 |
| 0.70 | 虚数 | 0.4899 | ★ \(\ln t\) について振動 |
| 2.00 | 虚数 | 1.9365 | \(\ln t\) について振動 |
| 20.0 | 虚数 | 19.9937 | \(\ln t\) について振動 |
04節の中心 ── 臨界は「地平線交差」だった
臨界は \(A=1/2\)、つまり \(k\cdot(ct)=1/2\) ── 波長と「地平線の大きさ \(c\cdot t\)」の比較です。
\(A>1/2\)(地平線の内側):振動する
\(A<1/2\)(地平線の外側):振動をやめて、べき乗になる = 凍る
\(A\to0\) で指数は \(s=1\) と \(s=0\) ── ★ 「成長モード」と「定数モード」。地平線の外で曲率ゆらぎが一定になる、という標準宇宙論の結果そのものです。
★★ 第 13 回の \(\lambda=1/4\) の臨界性が、
ここでは「地平線の内か外か」になっていました。
05数値で確かめる
\(\ddot\psi+(A^2/t^2)\psi=0\) をルンゲ=クッタ法で直接 解き、ゼロ点の間隔が \(\Delta(\ln t)=\pi/s_0\) で一定になるかを測りました。
| \(A\) | \(s_0\) | 理論 \(\pi/s_0\) | 実測の間隔 | 相対誤差 |
|---|---|---|---|---|
| 0.55 | 0.229129 | 13.711034 | 13.711034 | \(1.2\times10^{-12}\) |
| 1.00 | 0.866025 | 3.627599 | 3.627599 | \(3.3\times10^{-13}\) |
| 2.00 | 1.936492 | 1.622311 | 1.622311 | \(2.2\times10^{-15}\) |
| 10.0 | 9.987492 | 0.314553 | 0.314553 | \(2.8\times10^{-14}\) |
| 30.0 | 29.995833 | 0.104734 | 0.104734 | \(1.1\times10^{-15}\) |
12〜16 桁 一致。そして臨界以下(\(A=0.2\)、\(A=0.4\))では、6 桁 の時間範囲でゼロ点が一つも出ません ── 本当に凍っています。
06現在の宇宙では、どの波長が臨界か
| 波 | 波長 [m] | \(A=k(ct)\) | 状態 |
|---|---|---|---|
| 可視光(500 nm) | \(5\times10^{-7}\) | \(1.6\times10^{33}\) | 振動(地平線の内) |
| 銀河の大きさ | \(9.5\times10^{20}\) | \(8.6\times10^{5}\) | 振動 |
| 宇宙背景放射の非等方(1°) | \(2.3\times10^{24}\) | 360 | 振動 |
| 地平線の大きさ | \(1.3\times10^{26}\) | 6.28 | 振動 |
| ★ 臨界波長 | \(1.6\times10^{27}\) | 0.500 | ★ ちょうど臨界 |
| その 10 倍 | \(1.6\times10^{28}\) | 0.050 | 凍結(地平線の外) |
06節 ── 効くのは「波長が地平線と同じ」とき
観測できる波はすべて \(A\gg1/2\)、ずっと内側です(可視光なら \(A=10^{33}\))。そこでは \(s_0\approx A\) で、対数周期の効果は見えません。
★ 効くのは \(A\sim1\) のとき ── それが起きるのがインフレーション期の地平線交差です。
宇宙背景放射の模様は、この臨界を通り抜けた波の記録になっています。
07何が本当に不変か
| 量 | 判定 | 中身 |
|---|---|---|
| \(c(t)\) | × 座標依存 | \(R/t\)。単位の取り方で決まる |
| \(t\) | × 座標依存 | 同上 |
| \(R=c\cdot t\) | × 座標依存 | 定義したもの |
| \(A=k(ct)\) | ◎ 不変 | ★ 地平線に何波長 入るか。無次元 |
| \(s_0=\sqrt{A^2-1/4}\) | ◎ 不変 | ★ 対数時間での角振動数。無次元 |
| \(\Delta(\ln t)=\pi/s_0\) | ◎ 不変 | ゼロ点の間隔。無次元 |
07節 ── この回の結論
「\(c\cdot t=\) 一定 の座標系を取る」とは、
「時間を対数目盛りで測る」ことと同じだった。
\(u=\ln t\) を時間に使うと \(c\) は式から消え、残るのは \(f''+(A^2-1/4)f=0\) というただの単振動。
★ そこでの微積分 \(d/du=t\,d/dt\) は、第 13 回の虚数階微分の世界です。
そして残る観測量は \(A\) と \(s_0\) だけ ── どちらも無次元。第 7 回の結論が、ここでも一字一句 そのまま効いています。
08軸の地図に、もう一本 加わる
| 軸/操作 | 性質 | 内容 | 出たところ |
|---|---|---|---|
| 実軸の周波数 \(\omega\) | 振動 | 一周期 待つ必要がある | 第 3, 4 回 |
| 虚軸の周波数 \(i\lambda\) | 減衰 | 数えれば一瞬 | 第 19 回 |
| 実数階の微分 \(\alpha\) | スペクトルを傾ける | \(6\alpha\) dB/oct | 第 1, 2 回 |
| 虚数階の微分 \(i\beta\) | 位相を \(\ln\omega\) で回す | スケール変換 | 第 13 回 |
| ★ 対数時間 \(\ln t\) | 位相を \(\ln t\) で回す | \(c\cdot t=\) 一定 の座標系 | ★ 本回 |
08節 ── 一つのことの、違う言い方
第 13 回で「実数階は時間並進、虚数階はスケール変換の道具」と書きました。本回で分かったのは ──
\(c\cdot t=\) 一定 の宇宙とは、
「時間並進ではなくスケール変換が基本対称性である宇宙」のこと。
だから自然な道具が虚数階微分になり、自然な時間が \(\ln t\) になり、自然な保存量が \(s_0\) になる ── ★ すべて同じ一つのことの、違う言い方でした。
練習問題
- 「\(c\cdot t=\) 一定 の座標系では光速を微分できる」は、第 4 回の主張への反例か。
答えを見る
反例ではありません ── むしろ第 4 回の主張を、いちばんはっきり示す例です。
微分できたのは \(c\) そのものではなく、\(c\) を \(R/t\) と書く座標の取り方でした。そして観測にかかるのは \(A=k(ct)\) と \(s_0\) という無次元量だけ。
★ \(c\) を動かした分は、必ずどこかで打ち消されます ── 打ち消されなければ \(\alpha\) が動き、それは 700 万倍 の余裕で否定されています。 - \(A<1/2\) のモードが「凍る」ことを、第 6 回の言葉で説明せよ。
答えを見る
遮断周波数より下に落ちた、ということです。
第 6 回で、遮断以下の波は波数が虚数になり、伝播せず指数関数的に減衰しました(エバネッセント)。
ここでは時間軸の話になっていて、\(s_0\) が虚数になると \(\ln t\) について振動しなくなり、べき乗になる。
★ 同じ「平方根の中が負になる」という一つの現象が、空間では湯川ポテンシャル、時間では地平線凍結として現れています。 - この座標系で「エネルギー保存」はどうなるか。
答えを見る
成り立ちません ── そして、それが本質です。
エネルギー保存はネーターの定理により時間並進対称性から出ます。この座標系では \(c(t)=R/t\) なので時間並進対称性がなく(\(t\to t+a\) で式が変わる)、代わりにスケール変換対称性があります(\(t\to\mu t\) で \(A\) が変わらない)。
★ 保存するのは \(s_0\) ── エネルギーの代わりに「対数時間での振動数」が保存量になります。
★ これは第 13 回の「実数階=時間並進、虚数階=スケール変換」の、保存量版です。
まとめ 光速を微分したら、対数時間に着いた
\(c(t)=R/t\) と定義すれば光速は微分でき、\(\dot c/c=-1/t=-H\)。ただし物理的な変化として読むなら、\(\alpha\) の観測上限に 700 万倍 の余裕で棄却されます ── 成り立つのは単位の取り替えとしてだけ。
でも波として見ると、面白いことが起きます。位相が \(\ln t\) に比例し(=あらゆる波が双曲線チャープ)、モードの方程式が \(\ddot\psi+(A^2/t^2)\psi=0\) になります。
★ これは第 13 回の臨界 \(1/r^2\) 方程式と、一字一句 同じ形でした。あちらの \(\lambda\) が、こちらでは \(A^2=(k\cdot ct)^2\) ── 「地平線に何波長 入るか」の二乗。
対数時間 \(x=\ln t\) で書き直すと \(f''+(A^2-1/4)f=0\) ── ただの単振動です(数値で 12〜16 桁 確認)。そして臨界 \(A=1/2\) は地平線交差で、外側では \(s=0\) と \(s=1\)、つまり定数モードと成長モード ── 標準宇宙論の「地平線の外でゆらぎが凍る」そのもの。
★ \(c\cdot t=\) 一定 の座標系とは、時間を対数目盛りで測ることだった。
そこでの微積分は、第 13 回の虚数階微分の世界。
残る観測量は \(A\) と \(s_0\) だけ ── どちらも無次元。第 7 回の結論が、ここでもそのまま効いています。
★ そしてシャノンの公式は「帯域幅 × 時間」 ── 第 9 回の不確定性原理と、同じ形をしています。
ランダウアー限界、ブレーメルマン限界、ホログラフィック限界 ── 情報を波として数えると、物理の限界が全部つながります。
この文書は「考える波」シリーズ第 20 回です。計算は kenshou/cttei.js で行っています。本回について:「\(c\cdot t=\) 一定」は姉妹シリーズ「わかる c·t=一定」で詳しく扱われている記法で、本稿はそれを波の側から見直したものです。本回の \(c(t)=R/t\) は平坦時空に素朴に置いた模型で、一般相対論の解ではありません ── 実際の宇宙論では膨張因子 \(a(t)\) を使い、共形時間で書くと構造は似ますが、係数(\(a''/a\) 項)が入ります。したがって「臨界 \(A=1/2\)」という数値そのものは本模型固有で、標準宇宙論の地平線交差条件と構造は同じでも数値は一致しません。★ 本回が主張しているのは値ではなく形の一致です ── 実指数と複素指数の境目が「地平線の内か外か」に対応する、という点。\(\alpha\) の変化率の上限 \(10^{-17}\)/年 は第 4 回で扱った文献値です。ゼロ点間隔の数値は本稿の RK4 計算で、解析解と 12〜16 桁 一致しています(模型の中での整合)。 ── 印刷する場合はブラウザの「印刷」から「PDF に保存」を。