考える波 第 12 回 / 第 V 部・いろいろな物理量を波として見る
空が青い理由は、階数にあった
放射は、二階微分から出る ──
だから空は青い
電荷が作る場を距離で展開すると、\(1/r\) の項だけが加速度に比例し、エネルギーを運びます。
だから放射には加速度が要る ── 階数の問題でした。
そして二階微分を二乗すると \(\omega^4\) ── 青は赤の 4.4 倍 散乱される。
前回の熱は「伝わらない」ものでした。今回は確実に伝わるもの ── 電磁波です。
そして問いはこれ:なぜ放射には加速度が要るのか。
01遠方場だけが、二階微分を拾う
| 項 | 距離依存 | 何に比例するか | 階数 | エネルギーを運ぶか |
|---|---|---|---|---|
| 静電場 | \(1/r^2\) | 電荷 \(q\) | 0 | × |
| 誘導場 | \(1/r^2\) | 電流 \(\dot q\) | 1 | × |
| 放射場 | \(1/r\) | 加速度 \(\ddot q\) | 2 | ★ ○ |
01節の結論
\(1/r\) より速く落ちる場は、無限遠に届きません。
そして \(1/r\) の項は、二階微分(加速度)にしか現れない ──
★ だから「放射には加速度が要る」のです。階数の問題でした。
02ラーモアの公式 ── 加速度の二乗
★ 二階微分を取って、二乗する
第 1 回の言葉では:スペクトルを \(+12\) dB/oct 傾けて、パワーにする
| 場面 | 加速度 [m/s²] | 放射パワー [W] |
|---|---|---|
| 重力加速度で落ちる電子 | 9.8 | \(5.5\times10^{-52}\) |
| 水素原子の電子 | \(9.0\times10^{22}\) | \(4.7\times10^{-8}\) |
| LHC の陽子(曲率 2.8 km) | \(3.2\times10^{13}\) | \(5.9\times10^{-33}\) |
加速度が 10 桁 違えば、放射は 20 桁 違う ── 二乗だから。
03古典原子は、なぜ潰れるのか
水素原子の電子は円運動しています。円運動は加速度運動 ── だから古典電磁気学によれば、放射してエネルギーを失うはずです。
ただし半径が縮むと加速度が上がり、放射が加速します。きちんと積分すると:
\(r_e=2.818\times10^{-15}\) m(古典電子半径)
| 経過時間 [s] | 半径 \(r/a_0\) | 加速度の比 | 放射パワーの比 |
|---|---|---|---|
| 0 | 1.0000 | 1 | 1 |
| \(7.8\times10^{-12}\) | 0.7937 | 1.59 | 2.52 |
| \(1.4\times10^{-11}\) | 0.4642 | 4.64 | 21.5 |
| \(1.555\times10^{-11}\) | 0.1000 | 100 | \(10^4\) |
03節の結論
約 16 ピコ秒で、電子は原子核に落ちます。
古典物理では、原子は存在できません。これが量子力学が必要になった理由の一つでした。
そして最後の 0.1 % の時間で、放射パワーが \(10^4\) 倍 に ── 崩壊は加速度的です。
04振動する電荷は \(\omega^4\) で放射する ── ここが効く
★ 二階微分で \(\omega^2\)、それを二乗して \(\omega^4\)
これがレイリー散乱です。散乱断面積が \(\omega^4\propto1/\lambda^4\) に比例する。
| 色 | 波長 [nm] | \(1/\lambda^4\) の比(赤を 1 として) |
|---|---|---|
| 紫 | 400 | 6.97 |
| 青 | 450 | 4.35 |
| 緑 | 550 | 1.95 |
| 赤 | 650 | 1.00 |
04節の中心
空が青いのは、二階微分を二乗したから。
大気の分子が光で揺さぶられ、加速度に比例して再放射する。その強さが \(\omega^4\) なので、短波長ほど強く散乱される ── 青は赤の 4.4 倍。
そして夕焼けが赤いのも同じ式の裏返しです。太陽が低いと大気を長く通るので、青が先に散らされ、赤だけが残る。
05放射のスペクトル = 加速度のスペクトル
★ 放射スペクトルは「軌道のスペクトルを \(+12\) dB/oct 傾けたもの」
| 加速度の形 | 放射スペクトル | 理由 |
|---|---|---|
| 単振動する電荷 | 線スペクトル | その振動数だけ。原子スペクトル |
| 制動放射 | 広いスペクトル | ★ 短いパルス = 広帯域(第 9 回の定理) |
| シンクロトロン放射 | 高調波の櫛 | 相対論的な円運動 |
| 熱運動(黒体放射) | 連続スペクトル | 乱雑な加速度の重ね合わせ |
X 線が出る理由も、帯域幅定理でした
電子が \(10^{-18}\) 秒 で止まるとすると、帯域は \(\Delta\omega\gtrsim1/(2\Delta t)=5\times10^{17}\) rad/s。
光子エネルギーに直すと \(\hbar\Delta\omega=329\) keV ── X 線の帯域が出ました。
★ 制動放射が X 線源になるのは、第 9 回の「短いパルスは広い帯域を持つ」の直接の帰結です。
06階数の梯子を、電磁気で並べ直す
| 階数 | 量 | 生じる場 | 名前 |
|---|---|---|---|
| 0 | \(q\)(電荷) | 静電場 \(\propto1/r^2\) | クーロン |
| 1 | \(\dot q\)(電流) | 磁場・誘導 \(\propto1/r^2\) | ビオ=サバール、ファラデー |
| 2 | \(\ddot q\)(加速度) | 放射 \(\propto1/r\) | ラーモア、レイリー、制動放射 |
| 3 | \(\dddot q\)(躍度) | 放射の反作用 | ★ アブラハム=ローレンツ力 |
06節 ── 三階まで行くと、因果律が壊れる
放射の反作用は \(F=\dfrac{q^2}{6\pi\varepsilon_0c^3}\dddot x\) ── 三階微分です。だから:
・第 2 回のオストログラツキー不安定性にかかる
・実際、力が加わる前に加速が始まる解が出る(前加速)
・★ 第 8 回の因果律を破る
前加速の時間尺度は \(\tau=2r_e/(3c)=6.3\times10^{-24}\) s ── 光が古典電子半径を横切る時間の程度。
★ 「階数を上げすぎると因果律が壊れる」が、古典電磁気学の中で実際に起きています。これは古典論の破綻であって、量子電磁力学では解消します。
練習問題
- 等速直線運動する電荷が放射しない理由を、この回の言葉で。
答えを見る
加速度がゼロだから \(1/r\) の項が立たない。静電場(\(1/r^2\))と誘導場(\(1/r^2\))しか無く、どちらも \(E^2r^2\to0\) なので無限遠にエネルギーが届きません。
(等速なら座標変換で静止系に移れる、という説明も同じことを言っています。) - 夕焼けが赤い理由を、\(\omega^4\) から説明せよ。
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散乱される確率が \(\omega^4\) に比例するので、大気を長く通るほど青が先に失われます。
太陽が低いと光路長が天頂時の数十倍になり、青の減衰が \(e^{-4.35\times}\) 相当になって、赤だけが透過してくる。
★ 空が青いのと夕焼けが赤いのは、同じ式の表と裏です── 散乱された光を見るか、散乱されずに残った光を見るかの違い。 - 放射の反作用が「前加速」を生むことの、この連載における位置づけは。
答えを見る
第 2 回(オストログラツキー、階数 3 以上は不安定)と第 8 回(因果律)が、同じ場所で同時に破れている実例です。
古典電磁気学は自分自身の中に、階数 3 の項を抱え込んでしまった ── そして予想どおり、不安定性と非因果性の両方が出た。
★ 「階数には上限がある」という第 2 回の仮説の、最も具体的な証拠になっています。
まとめ 放射とは、二階微分を二乗したもの
電荷が作る場を展開すると、\(1/r\) の項だけが加速度に比例し、エネルギーを運びます(\(E^2r^2\) が有限に残るのはこれだけ)。「放射には加速度が要る」は、階数の問題でした。
ラーモアの公式 \(P=q^2a^2/(6\pi\varepsilon_0c^3)\) から、古典水素原子は 16 ピコ秒で潰れます(\(t=a_0^3/4r_e^2c=1.556\times10^{-11}\) s)── 量子力学が必要になった理由の一つ。
そして二階微分を二乗すると \(\omega^4\) ── レイリー散乱。青は赤の 4.4 倍 散乱されます。空が青いのも、夕焼けが赤いのも、同じ式の表と裏。
放射スペクトルは「軌道のスペクトルを \(+12\) dB/oct 傾けたもの」で、制動放射が広帯域なのは第 9 回の帯域幅定理そのもの(\(10^{-18}\) 秒で止まれば 329 keV の帯域 ── X 線)。
そして三階まで行くと、前加速が出て因果律が壊れる。
── 第 2 回の「階数には上限がある」の、最も具体的な証拠。
\((i\omega)^{i\beta}\) を計算すると、振幅が \(\omega\) に依らない定数になり、位相だけが \(\ln\omega\) で回ります ── 全域通過フィルタ。
★ 実数階が時間並進の道具なら、虚数階はスケール変換の道具でした。そしてそれは、エフィモフ状態として実測されています。
この文書は「考える波」シリーズ第 12 回です。計算は kenshou/housha.js で行っています。本回の数値について:ラーモアの公式は非相対論的な形で、\(v\to c\) ではリエナールの相対論的な形に置き換える必要があります ── 表の LHC 陽子の値は、この非相対論的な式をそのまま使った参考値です(実際のシンクロトロン放射は \(\gamma^4\) 倍 大きく、陽子では \(\gamma\) が小さいため電子より遥かに弱い)。古典水素原子の落下時間 \(t=a_0^3/(4r_e^2c)\) は円軌道を保ちながら準静的に縮むという近似での標準的な結果です。レイリー散乱の \(1/\lambda^4\) は分子サイズが波長よりずっと小さい場合の話で、エアロゾルや水滴ではミー散乱になり波長依存が弱くなります(曇り空が白いのはこのため)。空の色には大気の吸収・オゾン・多重散乱も効いており、\(\omega^4\) だけで決まるわけではありません。アブラハム=ローレンツ力の前加速は古典論の既知の病理で、本稿が新たに見出したものではありません。 ── 印刷する場合はブラウザの「印刷」から「PDF に保存」を。