考える波 第 2 回 / 第 I 部・道具をつくる
微分と積分のあいだを、連続にする
半分だけ微分する ──
そして、それは実在した
微分が \(\times(i\omega)^1\)、積分が \(\times(i\omega)^{-1}\) なら、指数を整数に限る理由がありません。
\(\alpha\) を連続に動かすと dB/oct \(=6\alpha\)、位相 \(=90\alpha\) 度 ── きれいに繋がります。
そして \(\alpha=-1/2\) は、電池の研究室で毎日 測られている量でした。
前回、微分と積分がフーリエ上での掛け算だと分かりました。ならば、その中間はあるのか。
あります。しかも数学の遊びではなく、測定される物理量です。
01指数を連続にする
実際に \(\alpha\) を動かして測ります。前回と同じ信号で、2 オクターブ差の 2 音を比べます。
| \(\alpha\) | 振幅比(2 oct) | dB/oct | 位相の進み | |
|---|---|---|---|---|
| \(-1.00\) | 0.2500 | \(-6.02\) | \(-90.0°\) | 積分 |
| \(-0.50\) | 0.5000 | \(-3.01\) | \(-45.0°\) | ★ 半積分 |
| \(0.00\) | 1.0000 | \(0.00\) | \(0.0°\) | そのまま |
| \(+0.25\) | 1.4142 | \(+1.51\) | \(+22.5°\) | |
| \(+0.50\) | 2.0000 | \(+3.01\) | \(+45.0°\) | ★ 半微分 |
| \(+1.00\) | 4.0000 | \(+6.02\) | \(+90.0°\) | 微分 |
| \(+2.00\) | 16.0000 | \(+12.04\) | \(180.0°\) | 二階微分 |
01節の結論
$$\text{dB/oct}=6\alpha,\qquad \text{位相の進み}=90\alpha\ \text{度}$$
整数の間が、まったく滑らかに繋がっています。
\(\alpha=1/2\) なら \(+3\) dB/oct、位相 \(+45°\)。
02半微分は実在する ── 毎日 測られています
「半分だけ微分する」は抽象的に見えますが、電気化学の実験室では日常です。
半無限の媒質に物質が拡散するときの、境界でのインピーダンス
これは「半積分」そのもの
電池・燃料電池・腐食の測定で必ず出てきます。ナイキスト線図に 45° の直線として現れるのが、この \(\alpha=-1/2\) です(位相 \(-45°\)、前節の表のとおり)。
| 現象 | 階数 \(\alpha\) | 内容 | 状況 |
|---|---|---|---|
| ワールブルグ拡散 | \(-1/2\) | 半無限拡散の境界条件 | ★ 日常的に測定される |
| 異常拡散 | 可変 | \(\langle x^2\rangle\propto t^\alpha\)、\(\alpha\ne1\) | 生体内・多孔質媒体 |
| 粘弾性(スプリングポット) | \(0\sim1\) | 応力 \(\propto D^\alpha(\text{ひずみ})\) | ゴム・生体組織・アスファルト |
| コール=コール緩和 | \(0\sim1\) | \(\varepsilon(\omega)=\varepsilon_\infty+\dfrac{\Delta\varepsilon}{1+(i\omega\tau)^\alpha}\) | 液体・高分子の誘電測定 |
共通点があります
分数階が出るのは、どれも「境界」か「乱れた媒質」です。
ワールブルグは媒質全体の拡散を境界の 1 点に押し込めた結果。粘弾性は高分子の内部自由度を消した結果。
── この観察が、次節の仮説につながります。
03なぜ物理は、ふつう整数階なのか
ここが深いところです。分数階微分を時間領域で書き下すと、正体が見えます。
★ 積分が入っている ── 過去 全部を見ている
| 階数 | 性質 | 意味 | 記憶核 |
|---|---|---|---|
| 整数階(\(\alpha=0,1,2\dots\)) | 局所 | その瞬間の値だけで決まる | なし(マルコフ的) |
| 分数階(非整数) | 非局所 | 過去の重み付き和 | \((t-\tau)^{-\alpha}\)(べき乗) |
【仮説】03節
物理法則がほぼ整数階なのは、自然が局所的(記憶を持たない)だからではないか。
逆に言えば ── 分数階が現れる場所は、必ず「自由度を積分で消した後」です。
ワールブルグなら媒質全体の拡散を境界に押し込めた結果、粘弾性なら高分子の内部自由度を消した結果。
※ これは本稿の推測です。ただし検証可能な形にはなっています ──
「分数階の系は、必ず隠れた自由度の粗視化で説明できるはず」。
04雑音のスペクトル ── 自然はどの階数を使っているか
白色雑音を作り、階数 \(\alpha\) で積分して、スペクトル指数 \(\beta\)(\(S(f)\propto f^{-\beta}\))を測ります。
| \(\alpha\) | 測定した \(\beta\) | 名前 |
|---|---|---|
| \(0\) | \(-0.032\) | 白色雑音 |
| \(-0.25\) | \(0.467\) | |
| \(-0.50\) | \(0.966\) | ★ ピンク雑音(1/f)= 半積分 |
| \(-0.75\) | \(1.466\) | |
| \(-1.00\) | \(1.965\) | ブラウン雑音(1/f²) |
| \(-1.50\) | \(2.965\) | 黒色雑音(1/f³) |
整数階の積分は \(\beta\) を 2 ずつ動かす
★ \(\beta=1\)(1/f 雑音)には、整数階では到達できない
05【仮説】1/f 雑音は、自然の半積分ではないか
1/f 雑音は、あらゆる場所に現れます。
そして 1/f 雑音の起源には、いまだに統一的な説明がありません。白色(\(\beta=0\))とブラウン(\(\beta=2\))は素直に説明できるのに、ちょうど真ん中の \(\beta=1\) だけが謎として残っている。
【仮説】05節
\(\beta=1\) が特別なのは、それが「半積分」だからではないか。
現在の標準的な説明は「緩和時間の広い分布の重ね合わせ」です。時定数 \(\tau\) が \(1/\tau\) の密度で分布していれば、確かに 1/f が出ます ── 実際に検算しました:
| 周波数 [Hz] | 重ね合わせた \(S(f)\) | \(f\cdot S(f)\)(一定なら 1/f) |
|---|---|---|
| 0.01 | \(1.567\times10^{2}\) | \(1.567\) |
| 0.1 | \(1.567\times10^{1}\) | \(1.567\) |
| 1 | \(1.567\) | \(1.567\) |
| 10 | \(1.566\times10^{-1}\) | \(1.566\) |
| 100 | \(1.531\times10^{-2}\) | \(1.531\) |
正直に書きます
\(f\cdot S(f)\) はほぼ一定 ── 「時定数が対数一様に分布していれば 1/f」は正しい。
しかしそれは「なぜ \(1/\tau\) 分布なのか」を問い直しただけです。
本稿の立場は「半積分という見方を加えると、少なくとも問いの形が変わる」という程度のものです。解決したとは主張しません。
06【仮説】微分階数には、上限がある
力学の量を、位置からの微分階数で並べます。
| 階数 \(\alpha\) | 名前 | 備考 |
|---|---|---|
| \(-1\) | absement | 名前はあるが、ほぼ使われない |
| \(0\) | 位置 \(x\) | |
| \(1\) | 速度 \(v\) | |
| \(2\) | 加速度 \(a\) | ★ ニュートンの法則はここ |
| \(3\) | 躍度(ジャーク) | 乗り心地の指標。実用はされる |
| \(4\) | スナップ | ほぼ使われない |
物理が実際に使うのは \(\alpha=0,1,2\) にほぼ限られます。なぜ 2 で止まるのか ── これには答えがあります。
06節の中心
「なぜ \(F=ma\) なのか(\(F=m\cdot\text{躍度}\) ではないのか)」の答えは、3 階以上は不安定で存在できないからでした。
微分階数のスペクトルには、上限があるのです。
※ オストログラツキーの定理は厳密な結果です。ただし「だから自然は 2 階まで」という推論は本稿の整理であり、高階理論を退ける議論には他の形もあります(縮退した高階理論には抜け道があることが知られています)。
練習問題
- 半積分の位相が \(-45°\) になる理由を、1 行で。
答えを見る
\((i\omega)^{-1/2}\) の偏角は \(-\frac12\cdot90°=\mathbf{-45°}\)。
ナイキスト線図で 45° の直線に見えるのは、まさにこれです。 - \(\beta=-2\alpha\) を導け。
答えを見る
振幅が \(|\omega|^\alpha\) 倍になるので、パワー(振幅の 2 乗)は \(|\omega|^{2\alpha}\) 倍。
白色雑音は \(S\propto f^0\) なので、積分後は \(S\propto f^{2\alpha}\)。\(\beta\) は \(S\propto f^{-\beta}\) の指数だから \(\beta=-2\alpha\)。
\(\alpha=-1/2\) で \(\beta=1\) ── ちょうど 1/f です。 - 「分数階は記憶を持つ」ことが、なぜ物理でめったに出ないのか。
答えを見る
基本法則が局所的だから。場の理論も、ラグランジアンはその点の場と、その点での微分だけで書かれます(局所性)。
記憶が現れるのは自由度を消したあと── 媒質を境界に押し込む、内部構造を粗視化する、といった操作の後です。
だから分数階を見たら「何を消したのか」を探すのが筋、というのが本回の仮説です。
まとめ 微分階数という、もう一つの軸
\(\alpha\) を連続に動かすと dB/oct \(=6\alpha\)、位相 \(=90\alpha\) 度 ── 実測できれいに繋がりました。
そして \(\alpha=-1/2\)(半積分)は実在します ── ワールブルグ・インピーダンス \(Z\propto(i\omega)^{-1/2}\)。電池の研究室で毎日 測られ、ナイキスト線図の 45° 直線として見えている量です。
分数階が現れるのは、どれも境界か乱れた媒質でした。時間領域で書くと積分核が入る ── 分数階には「記憶」がある。逆に整数階は局所的です。【仮説】物理がほぼ整数階なのは、自然が局所的だから。
雑音では \(\beta=-2\alpha\) が厳密に成り立ち、\(\beta=1\)(1/f 雑音)は整数階では到達できないことが分かります。【仮説】1/f が謎として残り続けているのは、それが半積分だからではないか── ただし標準的な説明(時定数の対数一様分布)も検算して成立することを確認しており、本稿は解決を主張しません。
微分階数の下限は \(-1/2\)(拡散の境界)、上限は \(2\)(オストログラツキー)。
物理は、その帯域の中で書かれている。
第 1 回のコードにあった一行 ──
if (ω === 0) { 出力 = 0; } ── を思い出してください。積分は \(\omega=0\) の成分を決められない。それは「積分定数」と呼ばれています。そして物理定数も、そこに住んでいるのではないか。
この文書は「考える波」シリーズ第 2 回です。計算は kenshou/bunsuu.js で行っています。本回の数値について:分数階微分は FFT で \((i\omega)^\alpha\) を掛ける「スペクトル法」で実装しており、周期境界を仮定しています。時間領域のリーマン=リウヴィル定義とは、初期条件の扱いが異なります(有限区間では端の効果が出ます)。雑音のスペクトル指数は線形合同法による擬似乱数 16384 点を対数ビンで平均して最小二乗で求めたもので、試行ごとに ±0.05 程度ばらつきます。ワールブルグ・インピーダンス、コール=コール緩和、オストログラツキー不安定性はいずれも確立した結果で、本稿で導出したものではありません。第 03・05 節の「仮説」は本稿の推測であり、文献の主張ではありません ── とくに 1/f 雑音の起源は未解決問題で、本稿は新しい説明を与えていません。 ── 印刷する場合はブラウザの「印刷」から「PDF に保存」を。