考えるAIと物理 ── 第 12 回
AI・計算 × 物理の境界を、点でなく線で辿る

符号は転移するか 小さい系で学んだ節を、大きい系へ ── 入れてはいけない対称性

2026-10-27 / 第11回の続き。並進不変な畳み込み(第2回)で符号構造を学び、学んでいない大きさの系に当てる。検証は付録に
四行の要約
  1. 最初の版は学習の段階で失敗した。 並進不変な畳み込みは自分が偶数サイトか奇数サイトかを知らないので、副格子に依る Marshall の符号を原理的に書けない。第2回の「入れないと学べない対称性」の裏で、入れてはいけない対称性もある。
  2. 副格子のラベルを一本足すと、符号則は局所項の和で書ける。 12 サイトで学んだ同じ網を 16 サイトに当てると、符号の一致 100%、重なり 0.98、エネルギー誤差 0.4%。一度も見ていない大きさで当たる。
  3. 符号則が壊れる J₂ = 0.8 でも、部分的に転移する。 符号の一致は 90% → 86%、エネルギー誤差は 2.7% → 3.2%。
  4. しかもこの網は、第11回で 16 サイトを直接学んだ MLP(7.3%)より良い(3.2%)。 局所性と正しい対称性を入れた網は、大きい系を見ずに大きい系で勝つ。第2回の「構造が似ているから計算できる」の、学習側の実例である。

00先に仕分け表

線格付けこの日の検証
並進不変な網は副格子依存の符号を表現できない自明(局所性と対称性の帰結)N = 12 で重なり 0.40、転移で 0.11
副格子ラベルを足せば Marshall 則は局所項の和自明符号一致 100%、N = 16 で重なり 0.98
符号構造の汎化は NQS の課題Westerhout ら 2020J₂ = 0.8 で 90% → 86%
局所+対称な網は大きい系を見ずに大きい系で勝つ既知(CNN-NQS の系譜)3.2% vs MLP 直接 7.3%
「入れてはいけない対称性」という読みこの地図の語り—

01設計:並進不変な網で、大きさを跨ぐ

第11回の MLP は入力の長さが固定で、別の大きさの系には使えない。そこで第2回の畳み込みを使う:円環状の 1 次元畳み込み(カーネル 3、8 チャンネル)を二層、サイトごとの特徴を足し合わせて、対数振幅と位相の二つを出す。位相を局所項の和にしてあるのは、Marshall の符号 (−1)^{n_A} が「A 副格子のサイトごとに π を足す」で書けるからである。同じ重みが任意の N に使える。

J₁–J₂ 鎖の N = 12(S_z = 0、924 状態)で全状態の厳密なエネルギー最小化(第11回と同じ、サンプリングなし)で学習し、重みを固定したまま N = 16(12,870 状態)に当てて、厳密な基底状態と比べる。測るのは重なり |⟨ψ_exact|ψ_net⟩|² と、振幅で重み付けした符号の一致率(偶然なら 0.5)。

02失敗:入れてはいけない対称性

計算入力 = スピンだけ(並進不変)
J₂E 誤差(N = 12)重なり N = 12符号一致 N = 12重なり N = 16符号一致 N = 16
022%0.400.720.110.65
0.828%0.450.740.000.50

学習の段階で既に失敗している。理由は構造的で、Marshall の符号は「偶数サイトの上向きの数」の偶奇だが、並進不変な局所の畳み込みは、スピンの値だけからは自分のサイト番号の偶奇を知りえない。どれだけ層を重ねても表現できない。第2回の格子ゲージ理論では「対称性を入れないと学べない」だった。ここは逆で、系が持っていない対称性(1 サイトの並進)を網に入れると、系が持っている構造(副格子)が消える。

03副格子を一本足す

入力に (−1)^i のチャンネルを足す。網は 2 サイトの並進には不変のまま、副格子を見分けられる。

計算入力 = スピン + 副格子ラベル。N = 12 で学習、N = 16 と N = 20(184,756 状態)は一度も見ていない
J₂E 誤差(N = 12)重なり N = 12符号一致 N = 12重なり N = 16符号一致 N = 16E 誤差 N = 16重なり N = 20符号一致 N = 20E 誤差 N = 20
01.2×10⁻³0.9971.0000.9811.0003.6×10⁻³0.9521.0005.7×10⁻³
0.82.7%0.510.8950.470.8643.2%0.420.8163.4%

04線として

回対称性と学習
第2回ゲージ対称性を入れないと、普通の CNN は何も学べなかった(入れるべき対称性)
第5回attention はホップフィールド、層は時間:構造が同じだから計算できる
第11回符号は本体。教えれば一瞬、学ぶのは難しい
この回系にない対称性を入れると符号を表現できない(入れてはいけない対称性)。正しく入れれば、符号は大きさを跨いで転移する

対称性は「多いほど良い」のではなく「系と同じだけ」が正しい。くりこみ群(第1回)で relevant な結合を残し irrelevant を捨てるのと同じで、網に入れる対称性は、系の対称性の写しでなければならない。

05正直な線

どこで線が切れるか
まとめ
  1. Westerhout, Astrakhantsev, Tikhonov, Katsnelson, Bagrov (2020) Nat. Commun. 11, 1593(符号構造の汎化)
  2. Choo, Neupert, Carleo (2019) PRB 100, 125124(CNN-NQS と符号)/ Roth & MacDonald (2021)
  3. スクリプト:scripts/nqs_transfer.py(出力 nqs_transfer_out.txt;失敗した版は入力チャンネルを 1 本にすれば再現できる)