| 線 | 格付け | この日の検証 |
|---|---|---|
| 地平面 ÷ コンプトン波長 ≈ 3×10³⁸、ln ≈ 88 が赤外と紫外の間のくりこみ群の時間 | 教科書(数えるだけ) | — |
| 確率的インフレーション = e-fold を時計にした拡散(Starobinsky 1986) | 教科書 | 熱核 CNN で厳密解と 1% |
| e-fold 数の分布の裾は指数(PBH の生成率を決める) | Pattison ら 2017、Ezquiaga ら 2020 | 減衰率 0.529 vs 厳密 0.500 |
| 箱の大きさで結合定数が走る(step scaling、Lüscher–Weisz–Wolff 1991) | 教科書(格子場の理論) | L ≤ 16 で 1 ループの 1.5〜1.8 倍の速さ |
| c·t=const は「粗視化なしの再スケール」の段 | この地図の語り | — |
| 「Λ で地平面が止まる」と「L > ξ で結合定数が止まる」は同じ構造 | この地図の語り | 後者のみ数値で確認 |
見える一番長い波長は地平面の大きさ c·t で、宇宙年齢に比例して伸びる。短い側の端(原子、コンプトン波長 λ_C = ħ/mc)は動かない。だから見えるスケールの幅は
$$\ln\frac{c\,t_0}{\lambda_C} \;=\; \ln\frac{4.4\times10^{17}\ \text{s}}{1.3\times10^{-21}\ \text{s}} \;\approx\; \ln(3\times10^{38}) \;\approx\; 88$$と、対数で広がる。くりこみ群の言葉では、赤外のカットオフ(地平面)と紫外のカットオフ(原子)のあいだの「くりこみ群の時間」が、宇宙年齢の対数とともに増えていく。第1回の三つ目の換算 ln x ∝ t が、宇宙そのものに当てはまっている。
物差しを地平面に固定して書き直すと(第1回で触れた c·t=const の座標)、長い側は動かず、原子が 1/t で縮んでいく。同じ 88 目盛りである。くりこみ群の一歩は「粗視化」と「再スケール」の合成で、地平面を物差しに取り直し続けるのは再スケールの段だけを粗視化なしで連続的にやることにあたる。再スケールだけでは物理は流れない ── これが「c·t=const は何も言わない」のくりこみ群での言い方で、流れるのは粗視化を伴ったときの無次元量だけである。以下の二つの計算は、その「粗視化を伴う」側を扱う。
インフレーション中、地平面より長い波長の場 φ は、e-fold 数 N = ln a を時間として、古典的なドリフトと量子ゆらぎによる拡散で動く(Starobinsky 1986)。
$$\frac{d\phi}{dN} = -\frac{V'}{3H^2} + \frac{H}{2\pi}\,\xi(N)$$これは第1回の「二次の換算(拡散)」が「対数の時計」の上で走る形で、第2回の熱核 CNN がそのまま使える。深さ = e-fold 数、カーネル = 拡散 (H/2π)² とドリフト、境界 = インフレーションの終わり。境界から出ていく確率の流束が「終わるまでの N の分布」で、それが曲率ゆらぎ ζ = N − ⟨N⟩ の分布である(δN 形式)。
| N | 熱核 CNN | 厳密解 | 同じ平均・分散のガウス |
|---|---|---|---|
| 3 | 0.102 | 0.103 | 0.077 |
| 6 | 0.161 | 0.163 | 0.163 |
| 12 | 1.27×10⁻² | 1.29×10⁻² | 8.1×10⁻³ |
| 16 | 1.63×10⁻³ | 1.64×10⁻³ | 3.9×10⁻⁵ |
| 20 | 1.97×10⁻⁴ | 1.99×10⁻⁴ | 1.3×10⁻⁸ |
| 25 | 1.39×10⁻⁵ | 1.40×10⁻⁵ | 1.4×10⁻¹⁴ |
平均 ⟨N⟩:CNN 5.94、厳密 6.00、ランジュバン 40 万本 6.02(残り 1% は N > 30 で打ち切った裾)。裾の減衰率:CNN 0.529、厳密 v²/2σ² = 0.500。
裾はガウスではなく指数。 N = 25 でガウスの予想より 10⁹ 倍多い。原始ブラックホールの生成率はこの裾で決まるので、ガウス近似では桁で間違える ── これが 2017〜2020 年に分かったことで、この表にそのまま出ている。「終わるまでの時間の分布」は初通過時間なので、第4回の脱出時間と同じ数学であり、裾が指数になる理由も同じである。
場の理論の結合定数は、見るスケールとともに走る。赤外側のスケールを「箱の大きさ L」で与え、箱の中で結合定数 ḡ²(L) = m(L)·L(m(L) は箱の中の質量ギャップ)を定義して、箱を倍にするごとの変化を測る ── これが Lüscher–Weisz–Wolff の step scaling で、「地平面が結合定数の時計を進める」を文字どおり計算する方法である。模型は漸近的自由な 2 次元 O(3) シグマ模型、1 ループの予言は 1/ḡ²(2L) = 1/ḡ²(L) − (ln 2)/2π。
| L → 2L | ḡ²(L) | ḡ²(2L) 測定 | 1 ループ | 2 ループ | Δ(1/ḡ²) 測定 / 1 ループ |
|---|---|---|---|---|---|
| 4 → 8 | 0.965 | 1.137 ± 0.010 | 1.080 | 1.106 | 0.157 / 0.110 |
| 8 → 16 | 1.137 | 1.457 ± 0.014 | 1.300 | 1.347 | 0.193 / 0.110 |
| 16 → 32 | 1.457 | 3.33 ± 0.28 | 1.736 | 1.862 | (箱 > 相関長) |
| 32 → 64 | 3.33 | (14.7、信用できない) | — | — | (箱 ≫ 相関長) |
地平面の時計は永遠には進まない。宇宙が Λ に支配されると地平面は c/H_Λ ≈ 160 億光年で頭打ちになり、見える最長波長はそこで止まる。それ以降は、どれだけ待っても新しいスケールは入ってこない。くりこみ群の言葉では、ド・ジッター空間はスケール不変な固定点で、時計が進まなくなる。
第3回 で L > ξ のとき結合定数が意味を失ったのは、同じことの格子版である。スケールが一つ固定された瞬間に、対数の時計は意味を失う。「観測できる波長はだんだん長くなる」は、いま私たちが固定点に落ちる途中にいるから言えることで、永遠の話ではない。
| 宇宙 | くりこみ群 / CNN | この回での役 |
|---|---|---|
| 地平面 c·t | 赤外カットオフ、箱の大きさ L | 01、03 |
| 原子 λ_C | 紫外カットオフ、格子間隔 a | 01 |
| e-fold 数 N = ln a | くりこみ群の時間、CNN の深さ | 02 |
| 量子ゆらぎ (H/2π)² | 拡散係数、熱核のカーネル | 02 |
| インフレーションの終わり | 吸収境界、初通過 | 02 |
| 結合定数の走り | step scaling σ(u) | 03 |
| Λ による地平面の頭打ち | 固定点、L > ξ | 04 |
| 不変な無次元量 | ln(ct/λ_C)、Péclet 数 φ₀v/σ²、ḡ²(L)、L/ξ | — |
scripts/stochastic_inflation.py、scripts/o3/o3_step.cpp(出力 g2_L*.txt)