ここまでの線を LLM に当てると、どれも既に名前が付いていた。新しい主張はしない。代わりに、四行のそれぞれを小さな計算で確かめて、どこまで厳密でどこから崩れるかを書いておく。
| 線 | 格付け | この日の検証 |
|---|---|---|
| 逆伝播 = 随伴方程式、H = a·f が保存 | 教科書(Pontryagin 1956、Linnainmaa 1970) | H の変動 10⁻⁴、勾配一致 7×10⁻⁴ |
| softmax の微分 = 共分散(揺動散逸) | 教科書 | 恒等式 10⁻¹¹、サンプリングで 10⁻⁴ |
| attention = 現代ホップフィールドの一更新 | Ramsauer ら 2020(定理つき) | エネルギー単調、β で記憶が溶ける |
| 深さとともにトークンが凝集 | Geshkovski ら 2023 | 64 → 1 クラスター、β で遅れる |
| 文脈内学習 = 勾配降下 1 歩 | von Oswald ら 2023 | 構成は厳密 10⁻¹⁶、学習でも GD 1 歩と同じ精度 |
| データ処理不等式、学習の熱力学 | 教科書 / Still ら 2012 | — (計算なし) |
| 「順伝播 = 冷却、逆伝播 = 時間反転、揺動散逸が両者をつなぐ」 | この地図の語り | 部品ごとには確認、全体としては未 |
層を時間とみなす(第2回)と、ネットワークは微分方程式 \(\dot x = f(x,\theta)\) で、損失は終端の \(L(x(T))\)。随伴変数 \(a = \partial L/\partial x\) は
$$\dot a = -\Big(\frac{\partial f}{\partial x}\Big)^{\!\top} a,\qquad a(T) = \nabla L,\qquad \frac{dL}{d\theta} = \int_0^T a^\top\frac{\partial f}{\partial \theta}\,dt$$に従い、これが逆伝播である。\(x\) と \(a\) はハミルトニアン \(H = a\cdot f(x,\theta)\) の正準方程式の組になり、\(\theta\) が時間によらなければ \(H\) は保存する。
H = a·f を t = 2.0 から 0 まで 6 点で:3.73533 → 3.73532 → 3.73528 → 3.73518 → 3.73501 → 3.73479(変動 1.5×10⁻⁴、離散化誤差の程度)。dL/dW を自動微分(離散の逆伝播)と随伴の積分で比べると相対差 7×10⁻⁴。
見た目は違っても、自動微分の逆伝播と、物理の随伴方程式は同じ計算である。最初に書いた版では随伴の時間の向きを間違え、H が 20% 流れた。符号ひとつで保存が壊れる、というのがこの定理の中身そのものだった。
温度 T の softmax \(p_i = e^{h_i/T}/Z\) について
$$\frac{\partial p_i}{\partial h_j} = \frac{1}{T}\,p_i(\delta_{ij} - p_j) = \frac{1}{T}\,\mathrm{Cov}(\mathbf 1_i, \mathbf 1_j)$$左辺は「ロジットを押したときの出力の応答」で、逆伝播が出力層で運ぶ量。右辺は「出力のゆらぎ」。これは揺動散逸定理の一番小さい形で、第3回の定理 1(対数微分の恒等式)の子どもである。
| T | max |応答 − Cov/T| | 応答の大きさ |
|---|---|---|
| 1.0 | 2.9×10⁻⁴ | 0.26 |
| 0.5 | 8.4×10⁻⁴ | 0.39 |
差はサンプリングの統計誤差の程度。恒等式そのものは 4×10⁻¹¹ で成立。
温度。 LLM の「温度」は比喩ではない。ロジットが −エネルギー、softmax がボルツマン分布、サンプリング温度が \(k_BT\) で、perplexity は \(e^{\text{エントロピー}}\)。第1回の「温度」の線は、LLM では最初から部品に入っている。
attention = ホップフィールド。 記憶パターン \(X\)(鍵 = 値)に対して、エネルギー \(E(\xi) = -\frac1\beta\ln\sum_i e^{\beta\, x_i\cdot\xi} + \frac12|\xi|^2\) を定めると、\(\xi \leftarrow X^\top\mathrm{softmax}(\beta X\xi)\) はその一更新で、E は単調に下がる(Ramsauer ら 2020)。これは attention の式そのものである。
| β | 収束まで | E 単調 | 最近接パターンとの重なり | 到達した固定点の数 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 9.7 | はい | 0.42 | 1 |
| 4 | 21.3 | はい | 0.45 | 1 |
| 16 | 6.0 | はい | 1.00 | 20 |
| 64 | 3.2 | はい | 1.00 | 20 |
β が小さい(高温)と全部の記憶が溶けて平均一つに落ちる。β が大きい(低温)と 20 個の記憶がそれぞれ取り出せる。相転移の境目は β ≈ 4〜16 の間。
深さ = 時間、トークン = 粒子。 自己注意だけの層を重ねると、トークンは互いに引き合って凝集する(Geshkovski ら 2023)。
| β | L=0 | 10 | 20 | 50 | 100 | 200 | 500 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 64 | 64 | 64 | 11 | 1 | 1 | 1 |
| 4 | 64 | 64 | 64 | 58 | 1 | 1 | 1 |
| 9 | 64 | 64 | 64 | 62 | 50 | 24 | 6 |
最後は一点に潰れる。β が大きいほど途中の準安定なクラスターが長持ちする ── 第1回のイジングの流れ、第4回の局所解と同じ構造。
文脈内学習 = 勾配降下。 線形 attention に特定の重みを入れると、文脈中の (x, y) に対する最小二乗の勾配降下を一歩、順伝播の中で実行する(von Oswald ら 2023)。
構成した重みでは attention の出力と GD 一歩の予測が一致(差 7×10⁻¹⁶)。重みをゼロから学習させた線形 attention の試験 MSE は 0.961、最適な歩幅の GD 一歩は 0.952、最小二乗の厳密解は 0.000、ゼロ予測は 4.08。学習した一層は、GD 一歩の精度に収束し、それを超えない。
層は \(X\to h_1\to h_2\to\cdots\) のマルコフ連鎖なので、\(I(X;h_{l+1})\le I(X;h_l)\)(データ処理不等式)。学習は情報を増やす操作ではなく、捨てる順番を選ぶ操作である。第1回のくりこみ群と同じ向きで、違うのは何を残すかの基準だけだった。
学習の熱力学(Still ら 2012)では、系が過去について抱えている情報 \(I_{\rm mem}\) のうち、未来の予測に効かない分 \(I_{\rm mem}-I_{\rm pred}\) が散逸の下限になる。LLM に当てると、文脈のうち次の単語に効かない部分を覚えておくことが、そのまま熱のコストになる。第4回の Landauer(1 ビット消すのに \(kT\ln2\))の、学習版である。ここは計算していない。
| LLM の部品 | 物理での名前 | 回 |
|---|---|---|
| ロジット / 温度 / perplexity | −エネルギー / \(k_BT\) / \(e^{S}\) | 1 |
| softmax の微分 | 共分散、感受率(揺動散逸) | 3, 5 |
| attention 一回 | ホップフィールドのエネルギー降下一歩 | 5 |
| 層 | 時間、虚時間 | 2 |
| トークン | 球面上の相互作用する粒子 | 5 |
| 順伝播 | 冷却、凝集 | 1, 5 |
| 逆伝播 | 随伴方程式、時間反転、運動量 | 5 |
| 文脈内学習 | 順伝播の中の勾配降下 | 5 |
| 学習率 / バッチ | 温度 η/N | 1 |
scripts/llm_lines.py、出力 scripts/llm_lines_out.txt