第1回 で二つの線を引いた。CNN の深さは熱方程式の時間で、熱方程式の時間を虚数にするとシュレディンガー方程式になる。この二本をつなぐと、「畳み込みを何層も重ねることでスペクトルが出る」はずである。やってみると、CNN の部品(カーネル・深さ・チャンネル・格子の対称性)は、どれも物理の言葉で名前が付いていた。
| 線 | 格付け | この日の検証 |
|---|---|---|
| カーネルのフーリエ変換 = 分散関係 | 教科書(固体物理) | 6 桁一致、2 チャンネルで 10⁻¹⁵ |
| 時間 1 階なら拡散(D)、2 階なら波(c)。どちらもカーネルの 2 次モーメント | 教科書 | D 1.0000、群速度 0.9891 vs 0.9888 |
| 深さ = 虚時間 → 準位(虚時間発展法) | 教科書(数値計算) | Morse 分子 4 桁、水素 n≤3 |
| 格子が SO(4) を壊す:2s と 2p が割れる | 教科書(離散化誤差) | 確認 |
| 立方格子で 3d が eg + t2g に割れる(結晶場分裂と同じ群論) | 教科書(群論) | 指標が整数で一致 |
| 2 次元 U(1) の面積則(閉じ込め) | 教科書(厳密解) | 5 種のループで一致 |
| ゲージ同変 CNN(L-CNN、Favoni ら 2022) | 実在、新しめ | 普通の CNN は学習できず |
| ニューラル試行関数で多電子系(FermiNet 系、2020〜) | 実在、新しめ | He で厳密値に一致 |
| VMC の勾配 = 共分散 = Price の式・ES と同じ形 | 語り(式は正しい) | — |
1 次元の 2 階微分カーネル \([1,-2,1]\) に平面波を通すと、固有値は \(-2(1-\cos ka)\) になる。これは原子が一列に並んだ結晶の格子振動 \(\omega^2 = \tfrac{2K}{m}(1-\cos ka)\) である。
| 回し方 | 方程式 | 測ったもの | 測定 | カーネルから |
|---|---|---|---|---|
| 時間 1 階 | \(u_t = \text{conv}(u)\):拡散 | \(\langle x^2\rangle/2t\) | 1.0000 | 1.0000 |
| 時間 2 階 | \(u_{tt} = \text{conv}(u)\):波 | 波束の速さ(k=0.3) | 0.9891 | 0.9888 |
拡散係数 D も音速 c も、カーネルの 2 次モーメントから出る換算係数である。二次の換算になるか一次の換算になるかは、時間微分の階数だけで決まる。
チャンネル = バンド。 質量 \(m_1, m_2\) が交互に並ぶ鎖は、2 チャンネルの畳み込みになる。カーネルは 2×2 の行列で、そのフーリエ変換の固有値が音響モードと光学モードの 2 本のバンドになる。格子を直接対角化した 128 モードとの差は最大 \(7\times10^{-15}\)。ギャップの端は \(\sqrt{2K/m_2}=0.8165\) と \(\sqrt{2K/m_1}=1.4142\) で、比は無次元量 \(\sqrt{m_2/m_1}\) だけで決まる。
シュレディンガー方程式を虚時間で書くと熱方程式になる。1 層を「虚時間を \(\delta\tau\) 進める」操作にすると
$$\psi \;\leftarrow\; \psi - \delta\tau\,\big(\underbrace{\text{conv}(\psi,\,[-\tfrac12,\,1,\,-\tfrac12]/h^2)}_{\text{運動エネルギー}} + \underbrace{V\cdot\psi}_{\text{点ごとの積}}\big)$$層を重ねるほど高い準位が \(e^{-E\tau}\) で速く消え、基底状態が残る。チャンネルを \(K\) 本にして互いに直交させれば、下から \(K\) 個の準位が同時に出る。
| 深さ | 虚時間 | E₀ | E₁ | E₂ | E₃ | E₄ |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 5,000 | 0.2 | 4.07 | 7.55 | 15.26 | 18.81 | 19.51 |
| 20,000 | 0.8 | 3.039 | 8.360 | 12.695 | 16.055 | 18.664 |
| 100,000 | 4.0 | 3.0372 | 8.3614 | 12.6857 | 16.0101 | 18.3347 |
| 厳密 | 3.0373 | 8.3618 | 12.6864 | 16.0109 | 18.3355 |
残る \(10^{-3}\) の差は格子幅による離散化誤差。上の準位ほど多くの層が要るのは、混ざった成分が \(e^{-(\text{準位差})\,\tau}\) でしか消えないから。必要な深さを決めるのは無次元量 準位差 × 虚時間。第1回 の「虚時間 = 逆温度」から見れば、深い CNN とは冷やしていく装置である。
3×3×3 の畳み込み(6 近傍のラプラシアン)と \(-1/r\) の積で、同じことを 3 次元でやる。格子は 128³、格子幅 0.5 bohr、15 チャンネル、12,000 層(虚時間 840)。原子核は立方体の中心に置き、格子の対称性(立方群 Oh)が原子核のまわりで厳密に保たれるようにした。
| 準位 (Ha) | 厳密 | 縮退 | 指標 (E, C₄, C₃, C₂, i) | 既約表現 | 中身 |
|---|---|---|---|---|---|
| −0.47386 | −0.5 | 1 | 1, 1, 1, 1, 1 | A1g | 1s |
| −0.12596 | −0.125 | 3 | 3, 1, 0, −1, −3 | T1u | 2p |
| −0.12266 | −0.125 | 1 | 1, 1, 1, 1, 1 | A1g | 2s |
| −0.055956 | −0.0556 | 3 | 3, 1, 0, −1, −3 | T1u | 3p |
| −0.055719 | 2 | 2, 0, −1, 2, 2 | Eg | 3d(eg) | |
| −0.055677 | 3 | 3, −1, 0, −1, 3 | T2g | 3d(t2g) | |
| −0.054954 | 1 | 1, 1, 1, 1, 1 | A1g | 3s |
本物の水素では、\(n\) が同じなら \(\ell\) によらず縮退する(2s と 2p、3s・3p・3d)。これは回転対称性 SO(3) より大きい、クーロン力に特有の隠れた対称性 SO(4) による「偶然」の縮退である。格子はそれを二段階で壊す。
素粒子の標準模型を計算機で解く格子 QCD は、格子の辺(リンク)に位相を置いた場の理論である。最小版の 2 次元 U(1)(格子 QED)では、ウィルソンループが厳密に解ける。
$$\langle W(R\times T)\rangle = \left(\frac{I_1(\beta)}{I_0(\beta)}\right)^{RT}\qquad\text{(面積則 = 閉じ込め、弦張力 } \sigma = -\ln\tfrac{I_1}{I_0}\text{)}$$| ループ | 1×1 | 1×2 | 2×2 | 2×3 | 3×3 |
|---|---|---|---|---|---|
| MC | 0.6979 | 0.4856 | 0.2374 | 0.1137 | 0.0391 |
| 厳密 | 0.6978 | 0.4869 | 0.2371 | 0.1154 | 0.0392 |
プラケット(1×1 のループ)は、リンクの場に固定のカーネル(離散的な回転 curl)を掛ける畳み込みそのものである。そこで、各点の 2×2 ウィルソンループを CNN に学習させた。
| 入力 | 試験 MSE | ゲージ変換後 |
|---|---|---|
| リンクの角度そのまま(普通の CNN) | 0.566 | 0.565 |
| プラケット(ゲージ不変な部品、L-CNN 風) | 0.0005 | 0.0005 |
普通の CNN は、ゲージ変換で壊れたのではなくそもそも何も学べなかった(平均値を答えた場合の 0.449 より悪い)。MC の配位はもともとランダムなゲージに散らばっていて、リンクを一本ずつ見ると一様な乱数にしか見えない。対称性を組み込むことは、壊れにくくするためというより、学習を成立させる前提である。
第1〜4回 の CNN は重みが固定で、中身は差分法だった。電子が 2 個以上になると、格子は次元の数だけ指数的に大きくなり、この方法は使えない。そこでネットワークを試行関数にして学習させる(変分モンテカルロ、FermiNet・PauliNet の系統)。
$$\ln\psi = -Z(r_1+r_2) + \frac{r_{12}}{2(1+b\,r_{12})} + \mathrm{NN}(r_1, r_2, r_{12})\quad\text{(電子の入れ替えで対称化)}$$| E (Ha) | |
|---|---|
| 出発点(Z=2、ネットワークの寄与ほぼ 0) | −2.855 |
| ハートリー・フォック近似の限界 | −2.8617 |
| ニューラル試行関数(最終評価) | −2.90369 ± 0.00009 |
| 厳密値 | −2.903724 |
学習中の表示は −2.9054 と厳密値より下に出たが、これは外れ値を切り詰めて平均したための偏り(変分法では厳密値より下は出ない)。切り詰めなしの最終評価は、誤差の範囲で厳密値と一致している。
| CNN の部品 | 物理での名前 | 不変な無次元量 | この回の節 |
|---|---|---|---|
| カーネル | ハミルトニアンの局所項、分散関係 \(\omega(k)\) | \(ka\)、\(\sqrt{m_2/m_1}\) | 01 |
| カーネルの 2 次モーメント | 拡散係数 D、音速 c | \(x^2/Dt\)、\(x/ct\) | 01 |
| 深さ | 虚時間 = 逆温度 | 準位差 × 虚時間 | 02 |
| チャンネル | 状態、バンド、既約表現 | 縮退度 | 01・03 |
| 点ごとの積 | ポテンシャル \(V(x)\) | 井戸の深さ / 振動の量子 | 02・03 |
| 格子の対称性 | 結晶場 | 分裂幅 / 準位 | 03 |
| ゲージ同変性 | 局所対称性(ゲージ原理) | β、弦張力 | 04 |
| 学習する非線形性 | 相互作用、多体の相関 | 相関エネルギー / 全エネルギー | 05 |
scripts/(dispersion / morse_cnn / hydrogen_cnn / u1_gauge / helium_vmc)、水素とヘリウムの出力は hydrogen_out.txt / helium_out.txt