番外編③④は「α を守る」話だった。今回は逆に、α を動かすと決めたとき、ほかに何を固定できるかを数える
ここまでの番外編は「α は守るべきもの」という側から書いてきました。③ではVSLが α を守り損ねて失敗し、④では α 不変こそが等価条件の芯だと見た。今回は視点をひっくり返します ── もし本当に α を動かすと決めたら、私たちに残された「固定する自由」は、どこまであるのか。答えは意外なほどきっちり数えられて、しかもそれが「c=一定 と c·t=一定 は固定するものが違うだけで同じ」という、このシリーズの合言葉の一段下での再現になっています。三部作の一本目です。
微細構造定数を、第2回の形で書きます。
中身は \(c,\ e,\ \varepsilon_0,\ \hbar\) の4つ。ところが、この4つを組み合わせて作れる「単位の消えた数」は \(\alpha\) ただ1つしかありません。これは偶然ではなく、深い意味があります ── 長さ・時間・質量・電荷という4種類の単位に対して、この4定数は3種類ぶんの独立な情報しか持っていない。だから残り1本ぶんが「単位の消えた関係」= \(\alpha\) として余る。
ここから、固定の鉄則が出ます。
\(c,e,\varepsilon_0,\hbar\) のうち、便宜(単位・ゲージ)で自由に固定できるのは最大3つ。残る1つは必ず \(\alpha\) に引きずられて動く。
だから「\(\alpha\) を動かす」と決めた以上、この“動く1つ”は絶対に消せない。
このシリーズは、はじめから \(c=\text{一定}\) の座標系で語ってきました。つまり固定枠を1つ、c で使い切っている。すると鉄則から、追加で固定できるのは \(\{e,\varepsilon_0,\hbar\}\) のうち2つまで。3つ目は必ず動き、その“動く1つ”こそが「\(\alpha\) が変化する」の帳簿上の姿です。誰を動かす係にするかで、同じ物理が三通りに書けます。
| 固定するもの(=ものさし) | 動く係 | その中身 |
|---|---|---|
| c, ε₀, ħ | e(∝√α) | 「電荷が時代とともに変わる」理論。ベケンシュタイン型の varying-e はこれ。 |
| c, e, ħ | ε₀(∝1/α) | 「真空の応答(電気の通しにくさ)が変わる」描像。 |
| c, e, ε₀ | ħ(∝1/α) | 「量子の刻みが変わる」描像。 |
どれを選んでも、原子の色も時計のリズムも ── つまり観測は完全に同一。違うのは「どれを動かす係にするか」という帳簿のつけ方だけです。下の図で、\(\alpha\) が少し育つとき、三つの係がそれぞれどう動くか(なのに \(\alpha\) は同じ)を動かして見てください。
ここで気づいてほしいのは、いま起きたことが番外編③④で見た構図のそっくりな縮小コピーだということです。あのときは「\(c\) を固定するか、\(c\cdot t\) を固定するか ── 固定するものが違うだけで、同じ物理」でした。今回は一段下りて「\(e\) を固定するか、\(\hbar\) を固定するか、\(\varepsilon_0\) を固定するか ── 固定するものが違うだけで、同じ物理」。“どれを動かす係にするかはゲージ(帳簿の付け替え)、観測に出るのは無次元の \(\alpha\) だけ”という、同じ一つの原理が、階層を変えて何度も顔を出しているのです。
ここが、③④との決定的な違いであり、いちばん外してはいけない点です。番外編④の \(c\cdot t=\text{一定}\) では、\(\alpha\) は不変でした。だからあれは完全なゲージ(見方の自由)で、観測差はゼロ ── 「同じ物理」だった。ところが今回は、\(\alpha\) 自身が動く。\(\alpha\) が動くことは、単位やゲージでは消せない、本物の物理変化です。観測に痕跡が残る ── 原子時計は「\(\alpha\) は1年あたり \(10^{-17}\) より小さくしか動いていない」と告げ、遠い宇宙のクエーサー吸収線でも \(\dot\alpha/\alpha\) が探され続けている。
「\(\alpha\) が変化する座標系を考える」は、正確には ──
「新しい物理を1つ入れて(=α を動かすと仮定して)、それをどの定数のせいにするかを選ぶ」。
座標系=ゲージの自由が残っているのは“どの定数のせいにするか”だけで、「α が動く」という事実そのものは、どんな座標系でも消えません。
まず、\(\{c,e,\varepsilon_0,\hbar\}\) の4つ全部は固定できません。全部止めれば \(\alpha=\text{一定}\) を強制することになり、「α を動かす」という前提と矛盾する。固定できるのは、あくまで3つまで。
また、\(\alpha\) は無次元数の一つにすぎません。ほかにも陽子・電子の質量比 \(m_p/m_e\)、強い力の結合、重力の \(\alpha_G=Gm^2/\hbar c\) …と、単位の消えた数はいくつもある。今回は「動くのは \(\alpha\) だけ、ほかの比は固定」という仮定を置きましたが、無次元数を1つ余分に動かすたびに、独立した新しい物理を1つ足すことになり、それぞれに別個の観測制約がかかります。ただではもらえません。
\(\alpha\) を作る4定数 \(c,e,\varepsilon_0,\hbar\) は、次元の上では「3人分」しか独立でない(縛りが1本=それが α)。だから便宜で固定できるのは最大3つ、残る1つは必ず α に連れて動く。c を固定済みの本シリーズでは、追加で固定できるのは \(\{e,\varepsilon_0,\hbar\}\) のうち2つまで。どれを動かす係にするかはゲージ(帳簿)で、varying-e・varying-ε₀・varying-ħ はすべて同じ物理の言い換え ── これは「c=一定 と c·t=一定」の一段下の再現でした。
ただし④と決定的に違うのは、\(\alpha\) 自身が動くこと。それはゲージでは消せない本物の物理で、観測に出る。だから「α が動く座標系」ではなく「α を動かす物理を、どの定数のせいにするか選ぶ」が正しい。固定できる自由は3つ、でも α が動く事実は、どの座標系でも消せない ── これが三部作の出発点です。
印刷 / PDF 化:⌘+P(Windows は Ctrl+P)。画面ではスライダーで、同じ α を三つの帳簿で書けることが見えます。「答えを見る」で解答が開きます。