わかる力番外編・力と数学 ②(三部作その2)

数学①:作用が主役 → 数学②:その作用の対称性が、保存則を生む

ネーターの定理 エネルギー保存も運動量保存も、天下りの規則ではない。
作用に対称性があれば、必ず対応する保存量がある ── 20世紀物理で最も美しい定理の一つ。

必要な道具:数学①の作用、第9回の対称性 対称性 → 保存則

数学①で「自然は作用 \(S\) を停留させる」と見ました。今回は、その作用が主役だからこそ言える、驚くほど深い定理 ── エミー・ネーターの定理。エネルギーは保存する、運動量は保存する ── 学校で“規則”として習うこれらは、実は天下りではありません。作用が、ある変換で変わらない(対称性を持つ)とき、必ずそれに対応する「保存量」が存在する。しかもどの対称性がどの保存量に対応するかまで、きっちり決まっている。第9回で「対称性が力を生む」と見ましたが、その兄弟 ── 「対称性が保存則を生む」です。

01三つの対称性、三つの保存則

「対称性」とは、ある操作をしても物理(作用)が変わらないこと。ネーターの定理は、連続的な対称性のそれぞれに、保存量を一つずつ対応させます。目玉は次の三つ。

作用が変わらない操作(対称性)保存する量
時間をずらしても同じ(時間並進対称)エネルギー
場所をずらしても同じ(空間並進対称)運動量
向きを回しても同じ(回転対称)角運動量

読み替えると ── 「いつ実験しても結果が同じ」だからエネルギーが保存し、「どこで実験しても同じ」だから運動量が保存し、「どの向きでも同じ」だから角運動量が保存する。保存則は、宇宙が持つ「どこも・いつも・どの向きも同じ」という一様さ(対称性)の影だったのです。

02なぜ? ── 区別のない向きには、力がない

直感で掴みましょう。空間並進対称(場所をずらしても同じ)とは、その向きにどこも“区別がない”ということ。区別がなければ、その向きに位置エネルギーの坂がない ── つまり力がない(第6回 \(F=-\nabla V\)、坂がなければ力ゼロ)。力がなければ、その向きの運動量は変わらない = 保存。逆に、対称性を破って坂をつける(場所によって違う)と、力が生まれ、運動量は保存しなくなる。対称性の破れ=力=保存の破れ。下の図で確かめてください。

図:地形の対称性を破ると保存が破れる。平ら(並進対称・緑)なら運動量は一定。傾ける(対称性を破る・赤)と力が生じ、運動量が変化する
運動量(対称なら一定) 運動量(対称性が破れると変化)

03第9回との兄弟関係 ── 同じ対称性から、力と保存則

ここでシリーズが一つに束なります。第9回では「局所対称性(各点で自由に選び直す)を要求すると、力(ゲージ場)が生まれる」と見ました。今回のネーターは「(大域)対称性があると、保存則が生まれる」。同じ対称性という一つの発想から、力の“存在”(第9回)と、保存則(ネーター)の両方が出てくる。対称性は、力を生み、保存を生む ── このシリーズの背骨(力=関係・対称性)が、いちばん深いところで力学の骨組みそのものになっていた、ということです。

つなぐ声 ── 膨張宇宙では、エネルギーが保存しない? ネーターは強力な“正直さ”も持っています ── 対称性が破れれば、保存則も破れる。膨張する宇宙は「時間をずらしても同じ」ではありません(昔と今で宇宙の大きさが違う=時間並進対称が破れている)。するとネーターの定理から、宇宙全体ではエネルギー保存が素直には成り立たない。実際、遠くの銀河の光は宇宙膨張で赤方偏移し、エネルギーが“減る”ように見える ── 姉妹編「わかる宇宙論」の話が、ここでネーターの言葉で説明できます。保存則は絶対の掟ではなく、対称性しだいだったのです。

◇ ◇ ◇

04剥がして見えたもの ── 保存則は、対称性の影

力と数学②の結論。エネルギー・運動量・角運動量の保存は、天下りの規則ではなく、宇宙の対称性(いつも・どこも・どの向きも同じ)の影だった。対称性がある向きには区別がなく、力がなく、だからその量が保存する。対称性が破れれば、力が生まれ、保存も破れる。第9回「対称性→力」と合わせて、対称性こそが、力と保存則の共通の親だと見えました。

正直な線

ネーターの定理(1918年)が保存則を与えるのは、作用が持つ連続的な対称性に対してです(鏡映のような離散対称性は別扱い)。ここで扱ったのは大域的対称性の「第一定理」で、第9回のような局所対称性は「第二定理」に対応し、保存則というより場の間の拘束(恒等式)を与えます ── 両者は関係するが同じではありません。「区別がない向きに力がない」は直感的な言い換えで、厳密には作用の不変性からラグランジュ方程式を経て導かれます。

図は「対称(平ら)なら運動量一定/破れ(傾き)で運動量が変化」という要点の模式で、一定の傾き(一様な力)による運動量の直線的変化を示しています。

練習問題
  1. 「エネルギーが保存する」のは、どんな対称性の影か。
    答えを見る
    時間並進対称(いつ実験しても物理が同じ)。ネーターの定理で、時間をずらしても作用が変わらないことにエネルギー保存が対応する。
  2. 空間並進対称(場所をずらしても同じ)が運動量保存を生む理由を、力の言葉で。
    答えを見る
    場所に区別がない=位置エネルギーの坂がない=力ゼロ(F=−∇V)。力がなければその向きの運動量は変わらない=保存。対称性を破って坂をつけると力が生じ、保存が破れる。
  3. 膨張宇宙で(全体の)エネルギー保存が素直に成り立たないのはなぜか。
    答えを見る
    膨張で「時間をずらしても同じ」=時間並進対称が破れているから。ネーターの定理により、対称性が破れれば対応する保存則(エネルギー保存)も素直には成り立たない。光の赤方偏移がその現れ。

まとめ保存則は、対称性の影だった

ネーターの定理:作用がある連続変換で不変(対称)なら、必ず対応する保存量がある。時間並進対称→エネルギー、空間並進対称→運動量、回転対称→角運動量。保存則は天下りの規則ではなく、宇宙の「いつも・どこも・どの向きも同じ」という一様さの影。対称性のある向きには区別がなく力がなく、だからその量が保存する ── 対称性が破れれば力が生まれ、保存も破れる。

第9回「局所対称性→力の存在」と、ネーター「対称性→保存則」は兄弟。対称性こそが、力と保存則の共通の親だった。数学①の作用を土壌に、対称性が力学の骨組みを生んでいる ── 次回(数学③)は、その力を幾何として見る最終回。ゲージ=接続、重力=曲率、群が力を分類する。「力と数学」の締めです。

この文書は「わかる力」シリーズ番外編「力と数学」②、物理好きの高校生・大学生向け読み物です。ネーターの定理(E. Noether, 1918)が、作用の連続的大域対称性のそれぞれに保存量を対応させること(時間並進↔エネルギー、空間並進↔運動量、回転↔角運動量)は確立した内容です。局所(ゲージ)対称性はネーターの第二定理に対応し、保存則ではなく拘束・恒等式を与えます。膨張宇宙では時間並進対称の欠如により大域的エネルギー保存が一般には成り立たず、宇宙論的赤方偏移として現れます(一般相対論では局所的な保存は共変的に成り立ちます)。「区別のない向きに力がない」は直感的言い換えで、厳密には作用の不変性から導かれます。図は一様な力による運動量変化の模式です。 ── 印刷する場合はブラウザの「印刷」から「PDF に保存」を(印刷版ではスライダーと解答は静止・非表示になります)。

印刷 / PDF 化:⌘+P(Windows は Ctrl+P)。画面ではスライダーで、対称性を破ると運動量の保存が破れる様子が見えます。「答えを見る」で解答が開きます。