波①力→波 / 波②力=波 → 波③波→力、そして「波に見える力」
波①「力から波が生まれる」、波②「力そのものが波だった」と来て、最後は波と力の関係をぐるっと閉じます。まず素朴な向き ── 波は、物を押す。光にも音にも圧力があり、太陽の光は帆を押して宇宙船を進めます(波②の逆向き)。そしてもっと深いところに、このシリーズでいちばん不思議な「力」があります ── 量子の世界では、粒子そのものが波で、力は「波の位相のズレ」として現れる。局所的にはどこにも力が働いていないのに、干渉縞がずれる。第9回のゲージ(位相のつなぎ)が、ここで目に見える波の模様として顔を出します。これが「波に見える力」の正体です。
波②で「揺らした場は波になって飛ぶ」と見ました。飛ぶ波は運動量を運びます。だから物に当たって吸収・反射されると、その運動量を渡して押す。光の輻射圧です。ふだんは小さすぎて感じませんが、太陽帆(日本の「IKAROS」など)は本当にこれで進むし、レーザーピンセットは光で微粒子をつまむ。音も同じ(音圧)。波②が「力→波」なら、こちらは「波→力」── 波と力は、行き来する。
ここから深くなります。量子力学では、電子のような粒子そのものが波として振る舞う(ド・ブロイ)。波である以上、二つの経路を通って干渉する(二重スリット)。そして波には位相(時計の針・第9回)があり、干渉縞は二つの経路の位相差で決まります。ここに力が効くと、どうなるか。
粒子=波なので、力(正確には第9回のゲージ場 \(A\))は、波の位相をずらす形で効く。
局所的にはどこにも力(押す・引く)が働いていなくても、経路にそって位相がずれれば ── 干渉縞が横に動く。力が、波の模様のズレとして目に見える。
これを鮮やかに見せるのがアハラノフ=ボーム効果。細いソレノイドの外側は磁場ゼロ(=局所的な力ゼロ)なのに、その周りを通る電子波の位相が、第9回の \(A\)(ベクトルポテンシャル=つなぎ)によってずれ、干渉縞が動く。古典的には「力が働いていないのに影響がある」という不思議。第9回で「力の本体はつなぎ \(A\)」と言ったことが、ここで波の干渉縞のズレという見える形になります。下の図で、位相のズレ(=ゲージ \(A\) の効果)を変えて、干渉縞が滑るのを見てください。
波の三部作の結論。力と波は、初めから同じものの表と裏でした。①復元力と慣性を並べると波が生まれ(力→波)、②その力を担う場は揺らせば波になり(力=波)、③波は運動量で物を押し(波→力)、量子では力が波の位相のズレとして現れる(力=位相)。第9回で「力=局所対称性のつなぎ(位相のつなぎ)」と見たものが、波の言葉では「干渉縞を動かす位相のズレ」として、目に見える形をとる。「波に見える力」とは、力が本来、波の位相に宿る関係だったということです。
アハラノフ=ボーム効果は実在で、外村彰らの精密実験で確認されています。ただし「局所的な力がゼロ」でも影響が出るのは、ゲージ場 \(A\)(つなぎ)が経路にそって効くためで、観測できるのは経路差=相対位相(一周の回り込み=第12回の曲率/磁束)です。位相の絶対値そのものは見えません(第9回・背骨のまま)。輻射圧は実在だが日常では極小で、太陽帆やレーザーピンセットのような工夫で顕在化します。
図は干渉縞が位相差で滑るという要点だけを再現した模式で、実際の二重スリット・AB配置の強度分布を厳密に計算したものではありません。
波は運動量を運ぶので物を押す(輻射圧・太陽帆・音圧)── これが「波→力」。さらに量子では粒子が波で、力(ゲージ場 \(A\))は波の位相をずらす形で効く。局所的な力がゼロでも位相がずれれば干渉縞が動く(アハラノフ=ボーム効果)。第9回「力=位相のつなぎ \(A\)」が、ここで目に見える波の模様のズレになった。
波の三部作を通して見えたのは ── 力と波は、初めから同じものの表と裏。力から波が生まれ(①)、力を担う場は波になり(②)、波は力を及ぼし、力は波の位相に宿る(③)。「波に見える力」とは、力が本来、波の位相という関係だったということ。本編の背骨「力は関係」が、波の言葉で、いちばん深いところまで届きました。次は番外クラスタ「力の速さ」へ ── そもそも、その力(や波)は、どれくらいの速さで伝わるのか。
印刷 / PDF 化:⌘+P(Windows は Ctrl+P)。画面ではスライダーで、位相のズレ(=つなぎ A)を変えると干渉縞が滑る様子が見えます。「答えを見る」で解答が開きます。