第7回:四つの力を無次元で並べた → 第8回:その“強さ”は固定値ではなかった
第7回で四つの力を結合定数(無次元の強さ)で並べました。\(\alpha\approx1/137\)、\(\alpha_s\sim1\)…。でもこれらの数字には、大きな但し書きがあります ── 固定値ではない。近づいて(高エネルギーで)見るほど、力の強さは変わっていく。物理では、これを走る結合定数(running coupling)と呼びます。姉妹編「わかる宇宙論」第6回で \(\alpha\) が \(1/137\to1/128\) と育つのを見た、あの現象を、今度は四つの力の側から。そして走らせていくと ── ばらばらだった三つの力の強さが、はるか高エネルギーで一点に集まりかける。力が「もともと一つ」だったかもしれない、という気配です。
なぜ強さが見る細かさで変わるのか。鍵は第2回でも顔を出した真空のゆらぎです。電子のまわりには、真空から生まれては消える電子・陽電子のペアが漂い、電子の電気を薄く隠して(遮蔽して)います。遠くから(粗く=低エネルギーで)見ると衣の外側なので電気は弱く見え、近づいて(細かく=高エネルギーで)見ると衣の内側に入り、隠されていない本当の強い電気が見えてくる。
電磁気:真空の衣が電気を隠す → 近づく(高エネルギー)ほど強く見える(\(\alpha:1/137\to1/128\)…)。
強い力:衣のでき方が逆向きに効き → 近づくほど弱くなる(漸近的自由・第11回)。
どちらも「真空という媒質の遮蔽」の帰結。力の“強さ”は、見る細かさの関数だった。
ここが今回のクライマックス。電磁気は近づくと強く、強い力は近づくと弱くなる。逆向きに走る。ということは、うんと高エネルギーへ目を移すと、ばらばらだった強さがだんだん近づく。下の図は、三つの力の「強さの逆数 \(1/\alpha_i\)」(上ほど弱い)を、エネルギー(対数)に対して描いたもの。低エネルギー(左)では三本がばらばら。右へ ── 高エネルギーへ ── 進むと、三本が一点に寄っていきます。
一点に集まるなら、そこでは三つの力が「同じ一つの強さ」=区別のないひとつの力だったことになる。私たちの三つは、そこから枝分かれした姿にすぎない ── これが大統一の発想です。第12回で正面から扱いますが、その入口は「力の強さが走る」という、この一点にありました。
第8回の結論。力の「強さ」は、その力が持つ固定の属性ではなく、どれくらい細かく見るか(エネルギー)で決まる、走る量でした。真空という媒質の遮蔽がそれを生む。そして逆向きに走る三つが高エネルギーで寄り集まる事実は、四つ(三つ)の力が、もとは一つだったかもしれないという、統一への最も強い状況証拠になっています。
標準模型のままだと、三本は近づくが、完全な一点では交わりません(わずかに外す)。超対称性という未発見の対称性を加えると、走り方が変わって \(\sim10^{16}\) GeV でぐっと一点に近づく、というのが有名な状況証拠。ただし「超対称なら数学的にちょうど一致」も厳密には正しくなく、大統一・超対称はいずれも有力だが未確立の仮説です(姉妹編・第6回後編と同じ正直な線)。
図の三本の傾き・交点は概念を示す模式で、実測の値を厳密に再現したものではありません。重力の“走り”は繰り込みの問題があり、この図には含めていません(最終回の話)。
第7回で並べた結合定数は固定値ではなく、真空の遮蔽のせいで見る細かさ(エネルギー)で走る。電磁気は近づくと強く、強い力は近づくと弱くなる(漸近的自由)。逆向きに走るので、高エネルギーへ目を移すと三つの強さが近づき、\(\sim10^{16}\) GeV あたりで一点に集まりかける ── 力がもとは一つだったかもしれない、という統一の気配。
姉妹編の「値は動く、深いのは走り方」が、力の強さでもそのまま効いた。ただし「ぴったり一点」は言い過ぎで、大統一・超対称は有力だが未確立。── ここまでで、力の強さ・射程・担い手・走り方まで剥がした。次回はいよいよ核心へ:そもそも力は、どこから来るのか。対称性を局所化すると力が生まれる、というゲージ原理です。
印刷 / PDF 化:⌘+P(Windows は Ctrl+P)。画面ではスライダーでエネルギーを上げると、三本の力が寄り集まる様子が見えます。「答えを見る」で解答が開きます。