第6回:力は担い手のやりとり → 第7回:四つの力を、一枚の表に並べて比べる
第6回で、四つの力はどれも「担い手のやりとり」という同じ仕組みだと見ました。では、その強さはどう違うのか。ここで第1回の教訓が効きます ── 力の絶対値(ニュートン)は単位しだいで、そのままでは比べられない。公平に並べるには、単位の消えた数=結合定数で測るしかない。姉妹編「わかる宇宙論」の主役 \(\alpha\)(微細構造定数 ≈ 1/137)は、まさに電磁気力の“無次元の強さ”でした。四つを無次元で並べると、驚くほど桁が離れていて ── そしていちばん弱い重力が、なぜか宇宙を支配しているという謎が、くっきり浮かびます。
「電磁気と重力、どっちが強い?」に答えるには、両者を同じものさしに載せねばなりません。でも力の値はニュートン単位で、単位を変えれば数字も変わる(第1回・第2回)。そこで、各力について「二つの基本粒子の間で、その力がどれだけ効くか」を単位の消えた比にした結合定数を使う。電磁気なら、それが \(\alpha=e^2/4\pi\varepsilon_0\hbar c\approx 1/137\) です。
| 力 | 無次元の強さ(目安) | 担い手 | 到達距離 |
|---|---|---|---|
| 強い力 | \(\alpha_s \sim 1\) | グルーオン | 短い(閉じ込め) |
| 電磁気 | \(\alpha \approx 1/137 \sim 10^{-2}\) | 光子 | 無限(1/r²) |
| 弱い力 | \(\sim 10^{-6}\)(低エネルギーでの実効) | W・Z | 極短 |
| 重力 | \(\alpha_G=\dfrac{G m_p^2}{\hbar c}\sim 10^{-38}\) | 重力子(仮説) | 無限 |
この表の衝撃は、強さが約36桁もばらついていることです。強い力を1とすると、重力は \(10^{-38}\) ── 1 と、小数点以下38桁のゼロ。同じ「力」という言葉でくくるのがためらわれるほど違う。そして重力は、四つのうちダントツで最弱です。
ここが今回の急所。日常でも宇宙でも、私たちを地面に留め、月を回し、星を作り、銀河をまとめているのは重力です。いちばん弱いのに、大きなスケールでは独り勝ち。なぜか。理由は強さではなく、打ち消すか、積み上がるかにあります。
電磁気:電荷にプラスとマイナスがあり、物質は中性。集めるほど打ち消し合って、正味はほぼゼロ。桁違いに強いのに、大きな物体では顔を出せない。
重力:質量(エネルギー)は正だけ。打ち消しがなく、集めるほどひたすら積み上がる。おまけに無限遠まで届く。
だから、大きな中性の塊(惑星・星)では、弱くてもキャンセルしない重力が勝つ。
下の図で、物体を大きく(粒子数を多く)していくと、電磁気の正味の力は打ち消しで伸び悩む一方、重力がぐんぐん積み上がってある大きさで逆転する様子を見てください。per-粒子では \(10^{36}\) 倍も強い電磁気が、大きな物体では重力に負ける ── これが「最弱なのに支配的」の正体です。
第7回の結論。四つの力の「強さ」は、ニュートン単位では比べられず、単位の消えた結合定数でだけ意味を持つ。第1回「絶対値は約束、比が物理」が、力の比較でそのまま効いた。そして「重力は弱い」「強い力は強い」という言い方は、無次元の結合の大小を指していたのです。姉妹編の \(\alpha\) は、その電磁気版でした。
・強さは無次元(\(\alpha_s\sim1,\ \alpha\sim10^{-2},\ \text{弱}\sim10^{-6},\ \alpha_G\sim10^{-38}\))でだけ比べられる。
・「支配的かどうか」は強さだけでは決まらない ── 打ち消すか(電磁気)/積み上がるか(重力)と到達距離が効く。
・力ごとの個性(強さ・射程・担い手)は、次回の“走り”で、さらに一枚めくれる。
表の無次元の強さは桁の目安です。とくに弱い力の「\(\sim10^{-6}\)」は、担い手 W・Z が重いための低エネルギーでの実効的な弱さで、本来の結合は電磁気と同程度(電弱統一)。強い力の \(\alpha_s\sim1\) も、次回見るように見るエネルギーで大きく変わります。\(\alpha_G\) は「陽子質量どうし」を基準にした値で、基準粒子を変えれば数値も変わる(重力は質量に依るので無次元化に基準が要る)。
図は「打ち消す/積み上がる」の対比を示す模式で、粒子数と力の関係を単純化しています(重力 ∝ N²、電磁気の正味は中性度に依存)。逆転する粒子数の位置も概念的なものです。
四つの力の強さは、ニュートン単位では比べられず、単位の消えた結合定数でだけ並ぶ ── 強い力 \(\sim1\)、電磁気 \(\alpha\sim10^{-2}\)、弱い力 \(\sim10^{-6}\)、重力 \(\alpha_G\sim10^{-38}\)。約36桁のばらつき。第1回「比が物理」が、力の比較の土台だった。姉妹編の \(\alpha\) は、この電磁気版。
そして最弱の重力が宇宙を支配するのは、強さではなく打ち消さずに積み上がるから。電磁気は桁違いに強くても、正負が中性で打ち消して大きな物体では消える。重力は質量で積み上がり、無限遠まで届く。── 次回は、この「強さ」が固定値ではなく見るエネルギーで走ることを見ます。姉妹編・第6回の running を、力の側から。
印刷 / PDF 化:⌘+P(Windows は Ctrl+P)。画面ではスライダーで、物体を大きくすると重力が電磁気を逆転する様子が見えます。「答えを見る」で解答が開きます。