わかる力第 5 回 / 力の正体を、一枚ずつ剥がす

第4回:座標が生む見かけの力があった → 第5回:重力も、その仲間かもしれない

重力は、力なのか 重さは確かに感じる。なのに自由落下すると、ふっと消える。
慣性質量と重力質量がぴったり一致する謎 ── そこから、重力=力ではなく“幾何”が見えてくる。

必要な道具:第1回の質量、第4回の見かけの力、\(F=ma\) 重さ=床が押し上げる力。重力は座標で消せる

第4回で、遠心力のような「座標が生む見かけの力」を見ました。その最後に、不穏な伏線を置いた ── 見かけの力は質量に比例して、皆に同じ加速を与える。そして重力もまた、そうなのです(羽と鉄球は同時に落ちる)。ならば ── 重力も、座標で消せる見かけの力なのでは? この問いを本気で追ったのがアインシュタインでした。重さは確かに感じるのに、自由落下では消える。この一点を突くと、重力は「力」ではなく、自由落下こそが真っ直ぐで、床が我々を押し上げているだけだ、と見えてきます。

01二つの「質量」が、なぜか一致する

第1回で質量は「加速のしにくさ」\(m=F/a\)(慣性質量)でした。いっぽう重力の強さも質量で決まる ── \(F=\dfrac{GMm}{r^2}\) の \(m\)(重力質量)。この二つ、定義がまるで違うのに、あらゆる実験で厳密に一致します。落下の加速度を書くと、なぜ一致が効くかが見える。

落下加速度から質量が消える

重力による運動(慣性質量 mᵢ、重力質量 m_g)

$$m_i\,a = \frac{G M m_g}{r^2}\quad\Rightarrow\quad a=\frac{m_g}{m_i}\cdot\frac{GM}{r^2}$$

もし \(m_g=m_i\) なら、\(a=\dfrac{GM}{r^2}\) ── 質量が消える。だから重い物も軽い物も同じ加速で落ちる(ガリレオ)。電気力ではこうならない(加速は電荷/質量比しだい)。重力だけが、皆に同じ加速を与える ── 第4回の見かけの力の“しっぽ”と、そっくり同じです。

02エレベーターの中では、区別がつかない

アインシュタインの思考実験。窓のない箱(エレベーター)の中にいるとします。床から体重を感じる。この「重さ」は、地球の重力のせいなのか、それとも箱が上向きに加速しているせいなのか ── 箱の中では区別できません。逆に、ケーブルが切れて自由落下すれば、重力があるのに無重量になる(宇宙飛行士と同じ)。下の図で、箱の加速度を変えて、体重計の表示がどう化けるか見てください。

図:エレベーターの中の体重計。箱の加速度を変えると「見かけの体重」が変わる。自由落下(a=−g)で無重量、上向き加速で重く。重力ありの静止と、重力なしのロケット加速が、区別できない
等価原理 ── 重力と加速は、区別できない

「重力の中で静止」と「重力なしで加速」は、箱の中の実験では見分けられない。
だから逆に、自由落下する箱の中では重力が消える(無重量)。重力は、正しい座標(自由落下系)を選べば局所的に消せる ── 第4回の見かけの力と、まったく同じふるまい。

03剥がして見えたもの ── 重力は“力”ではなく、幾何

ここでアインシュタインは大胆に読み替えます。重力が座標で消せるなら、それは電磁気のような実在の力とは違う。真実はこうだ ── 自由落下こそが「真っ直ぐ進む」(何の力も受けていない自然な運動)。地面に立つあなたが重さを感じるのは、重力に引かれているからではなく、床(の電子雲)があなたを押し上げて、自然な自由落下から無理やり逸らしているから。あなたが感じる「重さ」の実体は、第2回の電磁気の垂直抗力だったのです。

置き換えの三歩目 ── 重力=時空の幾何

「重力があなたを下へ引く」 → 実体は「自由落下が真っ直ぐ(測地線)で、床が電磁気であなたを上へ押している」。
物体は、質量エネルギーで曲がった時空の中を“真っ直ぐ”進んでいるだけ。重力は物体間の力ではなく、時空の幾何。だから質量が消え、皆が同じ加速で落ちた。

第4回の慣性力が「座標を回した帳尻」だったように、重力は「時空という座標そのものが曲がっている帳尻」。両者は同じ穴のむじな ── これが等価原理の意味です。剥がすと、重力という“力”は消え、幾何と、床が押す電磁気だけが残りました。あなたを椅子に留めているのは重力ではなく、椅子の電子雲の反発です。

つなぐ声 ── 力の地図が塗り変わる 第4回で「実在の力は座標で消えない、見かけの力は消える」と線を引きました。重力は、その線をまたいでしまう。座標(自由落下)で局所的に消せる点では見かけの力の親戚。でも完全には消せない残り(次の“正直な線”)があり、そこに幾何=時空の曲がりの本体がある。姉妹編「わかる宇宙論」の最終回「重力をこの絵に入れられるか」は、まさにこの続きです。
◇ ◇ ◇
正直な線 ── 「重力は消せる」は“局所的に”だけ

自由落下で消えるのは、狭い範囲(局所)でだけです。広い箱で落下すると、地球中心へ向かう重力の向きがわずかに違うため、中の二つの物体は近づいたり伸ばされたりする ── これが潮汐力で、どんな座標を選んでも消えません。この「消せない残り」こそが時空の曲率=重力の本体。だから「重力は完全な見かけの力」ではなく、正しくは「局所的には座標で消せるが、曲率としては実在する」。慣性力と重力の、似て非なる点はここです。

図は「見かけの体重=\(m(g+a)\)」という初等的な関係を示す模式で、一般相対論の時空の曲がりそのものを描いたものではありません。等価原理も、厳密には局所的な主張です。

練習問題
  1. 羽と鉄球が(空気を除けば)同時に落ちるのは、二つの質量のどんな性質のためか。
    答えを見る
    慣性質量と重力質量が一致するため。落下加速度 \(a=(m_g/m_i)\,GM/r^2\) で \(m_g=m_i\) なら質量が消え、\(a=GM/r^2\) が物体によらず同じになる。
  2. 地面に立って感じる「重さ」の実体は、四つの力のどれか。
    答えを見る
    電磁気力。床(の電子雲)があなたを上へ押す垂直抗力(第2回)。自由落下という自然な運動から逸らされているのを「重さ」と感じている。重力そのものは力ではなく幾何。
  3. 「自由落下で重力が消える」は、どの範囲での話か。消えない残りを何と呼ぶか。
    答えを見る
    狭い局所でだけ。広い範囲では重力の向きの差で潮汐力が残り、これはどんな座標でも消せない。この消せない残り=時空の曲率が重力の本体。

まとめ重さの正体は、床が押す電磁気だった

慣性質量と重力質量が厳密に一致するため、重力は皆に同じ加速を与え、落下から質量が消える ── 第4回の見かけの力の“しっぽ”とそっくり。エレベーターの思考実験では、重力での静止と加速が区別できず(等価原理)、自由落下では重力が消えて無重量になる。だから重力は、正しい座標(自由落下系)で局所的に消せる。

剥がして見えたのは ── 重力は物体を引く“力”ではなく、時空の幾何。自由落下こそが真っ直ぐで、あなたが感じる重さは、床の電子雲が押し上げる電磁気の抗力だった。ただし完全には消えない残り(潮汐力=曲率)があり、そこに重力の本体がある。慣性力(第4回)と重力は同じ穴のむじな ── 力を「座標・幾何の帳尻」へ置き換える流れが、ここで頂点に達しました。次回からは、残った“本物の力”たちの正体(やりとり・四つの力)へ向かいます。

この文書は「わかる力」シリーズ第5回、物理好きの高校生・大学生向け読み物です。慣性質量と重力質量の等価(弱い等価原理)は高精度で検証され(現代の実験で \(10^{-13}\) 以上)、これを出発点とする等価原理と一般相対論(重力=時空の曲率、自由落下=測地線)は確立した物理です。自由落下系で重力が消えるのは局所的な話で、潮汐力(曲率)は座標変換で消せません。地面上で感じる重さは垂直抗力(電磁気)に由来します。図の「見かけの体重 \(=m(g+a)\)」は初等力学の関係を示す模式で、時空の曲率そのものの描像ではありません。姉妹編「わかる宇宙論」最終回の重力の扱いに接続します。 ── 印刷する場合はブラウザの「印刷」から「PDF に保存」を(印刷版ではスライダーと解答は静止・非表示になります)。

印刷 / PDF 化:⌘+P(Windows は Ctrl+P)。画面ではスライダーで、加速度を変えると見かけの体重が化ける様子(自由落下で無重量)が見えます。「答えを見る」で解答が開きます。